ADHD
注意欠陥多動性障害
不注意・多動・衝動の発達障害
不注意症状と、多動・衝動性の2つが特徴的な発達障害です。子どもの時から症状が続くのが一般的です。
症状改善のための薬があります。それと生活面の工夫を組み合わせ、生活の改善を目指します。
- 「子供のころから」不注意・多動・衝動性が続いている発達障害です。
- 症状は子供のころから続いても、「気づくのが」大人の場合もあります。
- 診断の基本は問診ですが、厳密には採血や心理検査を組み合わせ診断します。
- ADHDの症状を抑える薬が複数あり、相性が合えばそれを継続します。
- 並行して、不注意・衝動などへの生活レベルでの練習を続けて行います。
- 治療を通じて二次障害を防ぎ、本来の「強み」を生かすことを目指します。
もくじ
はじめに
診断・治療等で改善を見込める発達障害です。
ADHDは、幼少期からの不注意・多動・衝動の持続が特徴の発達障害です。最近では、複数の有名人が、このADHDがあることを告白しています。
発達障害でありながら、改善のための「治療薬」があるのがこの障害の特徴です。診断を受けた後は、薬の治療を行いつつ、生活面での特性への工夫を行っていくことで、「生きづらさ」を減らし、本来の長所を生かすことが期待されます。
ここでは、ADHD(注意欠陥多動性障害)について、症状や治療・対応法などを見ていきます。
(当院では、治療薬の一つ「メチルフェニデート徐放剤」は処方できません。ご理解のほどよろしくお願いいたします。)
- ADHDは、幼少期からの不注意・多動・衝動性の持続が特徴的な発達障害。
- 改善を図るための治療薬あり、生活の工夫を合わせることで「生きづらさ」改善を目指す。
ADHDの代表的な症状
不注意・多動・衝動性の3つが主です。
ADHDでは、その名の通り、不注意・多動・衝動性の3つが主な症状になります。ただし、成人の場合は、多動・衝動が目立たない「不注意優勢」の場合も少なくありません。
また、障害のために「不適応」が続く場合などに、「二次障害」として、落ち込みや不安などの「こころの不調」を合併する場合も少なくありません。
具体的には、以下のような症状が代表的です。
不注意症状の例
- すぐに注意がそれてしまう
- 不注意によるミスが繰り返される
- 片付け、整理ができない
- 忘れ物、なくしものが非常に多い
- 宿題・課題などを先送りしてしまう
多動症状の例
- 落ち着かずじっとしていられない
- しゃべりだすと止まらない
- 休もうと思っても頭が休まらない
- 会話の話題があれこれ飛ぶ
- 疲れていても活動しすぎてしまう
衝動性の例
- 人の話を最後まで聞かずさえぎる
- 思ったことを(一歩待たず)すぐ言ってしまう
- かっとなって相手を罵倒してしまう
- 順番を待つことができない
- 「衝動買い」をくり返してしまう
二次障害の例
- 落ち込み・うつ状態
- 対人不安
- 慢性的な体の症状
- 引きこもり
- イライラしやすくなる
「二次障害」を合併すると、「生きづらさ」が強くなるため、これをいかに防ぐかが、取り組みの鍵になります。
- 不注意・多動・衝動の3つが主な症状だが、時にこころの不調「二次障害」を合併する。
ADHDと似た病気
「自閉症スペクトラム」がしばしば合併します。
別の発達障害「自閉症スペクトラム」が、しばしば合併することがあり、診断の際には、その有無を見ることが重要です。
また、躁うつ病や、体の原因(主に甲状腺)による不調の可能性を除外することが、診断確定のために必要になります。
「別の病気」の例
- 自閉症スペクトラム
- 躁うつ病
- 体の別の病気
鑑別:自閉症スペクトラム
- 「対人面の苦手」「こだわり」の2つが特徴的な発達障害。
- ADHDとしばしば合併するため、合併の有無を確認することが大事。
- こだわり等がなかったかの確認と、心理検査等で判別していく。
- 合併の場合は、特性の対策は、双方の特性に対して行うことになる。
鑑別:躁うつ病
- 落ち込み(うつ状態)と、高揚(そう状態)をくり返すこころの不調。
- 衝動性からの気分変動、および多動・衝動性が「そう症状」と一見似てることから、時に見分けにくい。
- 治療法が異なるため、慎重に見極めることが必要。
- ただし、合併することも少なくないとの説もあり、共通点は多い。
鑑別:体の別の病気
- 主に、「甲状腺の機能異常」で似た症状が出る事がある。
- 甲状腺機能低下症→不注意症状などが目立つことあり。
- 甲状腺機能亢進症→多動・衝動性などが目立つことあり。
- 「自閉症スペクトラム」が合併することが多く、その有無も併せて診断する。
- その他、躁うつ病や甲状腺の不調などを除外して、確定診断につなげる。
ADHDの診断
問診が基本ですが、厳密には採血と心理検査を組み合わせます。
ADHDの診断基準は、基本的には「不注意・多動・衝動」の症状が長期間続いているかなので、その部分の問診をしっかり行うことが診断の基本です。
一方、それだけでは甲状腺などのからだの病気の除外はできず、また、自覚症状が、「客観的にどうなのか」の裏付けが取れません。そのため、厳密に診断する場合には、体の原因除外のための採血(血液検査)と、心理検査を組み合わせ、診断につなげます。なお、心理検査をすることで、もう一つの発達障害「自閉症スペクトラム」の有無も見極めていきます。
(心理検査は、提携している心理機関などに依頼し、行う形となります)
- ADHDの診断の基本は、不注意などが続いているかを見極めるための問診。
- より精密には、採血や心理検査を行い、組み合わせて確定診断を図る。
ADHDの治療の方向
薬の治療と特性等への工夫・取り組みを組み合わせて行います。
ADHDには、改善を図れる薬が複数出ており、必要に応じ、それを用いていきます。ただしそれだけでは特性自体は残っているため、特性等に対しての工夫・取り組みを同時に行っていきます。
主に行う内容をまとめると下のようになります。
ADHD:薬の治療
- ADHDの特性を「和らげる」薬が複数あり、必要に応じてそれを用いる。
- 代表的な薬は、効くまで1か月ほどかかり、効果を出すには続ける必要がある。
- あくまで、「特性を和らげる」効果。特性等への工夫は一緒に行うことが必要。
- 程度が軽い場合、副作用強い場合は、薬を使わない選択肢もある。
ADHD:生活面の対策
- 不注意に対しては、「メモを取る」「集中を戻す」などの練習を繰り返す。
- 多動・衝動性に対しては、「まず一呼吸置く」等の練習を行っていく。
- 工夫と薬の治療を通じて弱点をカバー、二次障害を減らし自信を取り戻す。
- そのうえで、創造性など、「長所」の部分を生かしていくことを目指す。
(なお、当院では、メチルフェニデート徐放剤の処方は行っていません。)
- ADHDの特性を和らげる薬があるため、相性を見つつ、必要時は続けて使っていく。
- 特性等への工夫・取り組みを並行し、二次障害を減らし、本来の「長所」を生かす。
治療①薬の治療
まずは「アトモキセチン」の相性を見るのが一般的です。
副作用・効果の面からは、特に成人の場合は、「アトモキセチン」から、相性を見ていくことが一般的と思われます。
それが副作用等で難しい場合に、「グアンファシン」を用いる場合があります。「メチルフェニデート徐放剤」は、依存性などの面から、慎重な判断が求められ、当院では処方はできません。
各薬剤の特徴は、以下のようになります。
アトモキセチン
- 安全性が高く、まずはこの薬を使うのが一般的。
- 不注意、多動・衝動の双方に効果が強いとされる。
- 効果が出るまで1-2か月。初期に吐き気など出るが、多くは慣れる。
- 効果がすぐには分かりにくいが継続が大事。時に周りが効果に気づく。
グアンファシン
- アトモキセチンが合わない、衝動が強い場合などに用いる。
- 多動・衝動に強いとされるが、不注意に聞く人もいる。
- 効果まで2-4週。副作用を防ぐため、徐々に増やす使い方。
- 眠気、だるさが副作用で出る事があるが、個人差が大きい。
メチルフェニデート徐放剤
- 即効性はあるとされるが、依存・副作用が強く出やすい。
- 「成人での診断」の場合は、副作用等が勝ることが経験上多い。
- 依存・食欲低下・不眠などの副作用がみられる。
- 当院では処方不可。
- 代表薬は「アトモキセチン」相性あり、効果まで時間かかるが、安全に使いやすい。
- 第2には、眠気等に注意しつつ、「グアンファシン」を用いる場合がある。
治療②特性等への工夫・取組み
特性への取り組みを並行、成功体験から二次障害の改善を図ります。
薬の治療はあくまで「特性を和らげる」ものであり、特性自体は薬を飲んでも残ります。そのため、継続しての「特性(弱点)ををカバーする取り組み」を並行して行うことが重要です。体のリハビリ同様、すぐには結果は出ませんが、繰り返し練習することで、徐々に、しかし確実に改善することを期待します。
必要時の薬の治療と特性への工夫を続けることで、特性が和らいでくると、「特性での生きづらさ」が減り、「うまくいった」経験が増えてきます。そうすることで、自己肯定感を高め、「二次障害」の改善を図っていきます。
そして最終的には、本来持っている「長所」を、生かしていける状態になる事を目指します。
主に行う工夫・練習の例をまとめると下のようになります。
不注意への工夫の例
- 注意がそれたら戻す練習(注意持続訓練)
- メモ・リマインダーの活用
- アラームを使っての時間対策
- 読み上げる習慣での確認、ミス予防
- 問題を分けて考える事の練習
多動・衝動への工夫の例
- 動きそうなとき「まず一歩引いて考える」練習の繰り返し
- 自分の状態に気づく「マインドフルネス」の練習
- 自分の「支え」「動機づけ」の確認
- アンガーマネジメントの習得
- 「何も考えず・ゆっくりする」ことの練習
二次障害への対策の例
- 薬の治療と、特性への工夫を通じて「弱点を減らす」
- 少しでも「うまくいった経験」を大事にする
- やることの難易度を調整し、「うまくいきやすく」する
- 「自分を責める」思考と「別の考えを探す」反復練習
長所を生かす
- 本来は、衝動性→行動力など、ADHD特性は長所になりえる。
- ただし弱点が強いとそれを生かせず、二次障害があるとさらに生かせない。
- 特性の弱点は薬と工夫でカバーしつつ、二次障害を減らすと、だいぶ減ってくる。
- 弱点があっても「弱まれば」、本来の長所を生かせる場面が増えてくる。
- 薬はあくまで特性を「和らげる」効果のため、特性への工夫を並行して行う。
- 薬+工夫で特性が弱まれば、二次障害の緩和、本来の長所を生かすことにつながる。
治療の3段階(薬を使う場合)
はじめは薬主体、その後は「特性の工夫」を並行します。
治療の経過は、理想的には、以下のような3段階に分かれます。はじめは薬の治療を重視し、改善してきたら、特性の工夫を重視し、二次障害の改善を図っていきます。工夫と二次障害の緩和が図れてきたら、可能な範囲で薬の減薬を模索します。
①治療初期
初期は、まず「あう薬を探す」ことが大事です。
一般的には、まずは「アトモキセチン」を使っていき、副作用や効果を見て、量を調整し、「適量」を模索します。
もしアトモキセチンが副作用で使えない、もしくは効果が出ない場合は、「グアンファシン」を用いて、同じく適量を模索します。
この段階から特性への工夫ははじめていきますが、薬の効果が出た後の方が、より強く取り組むことができます。
薬の適量が見えてきたら、治療中期に進みます。
②治療中期
中期では、アトモキセチン等は続けながら、その効果を土台として、「特性への工夫」を徐々に、反復して行っていきます。
そして徐々に効果が出てきたら、生活や仕事で、徐々に「うまくいった」場面を増やし、「できた」実感を大事にすることで、二次障害の緩和を図ります。
薬を使う中で工夫が十分習慣になり、二次障害も目立たなくなったら、治療後期に進みます。
③治療後期
後期では、特性からの生きづらさの再燃を防ぎながら、徐々にアトモキセチン等を減らしていき、状況が許せば中止も検討します。
アトモキセチン等を減薬すると、効果が弱まるため、いったん特性がややぶり返します。ここで再度「特性への工夫」を繰り返し行うことで、「特性からの生きづらさを防ぎつつ減薬できている」状態に持っていきます。
うまくいったら、再度減薬しつつ特性への対策をくり返していき、最終的には中止を目指します。
理想的には薬を中止して普段の生活に戻ることが望まれます。ただし、工夫だけでは特性の強さに対処しにくい場合もあり、その場合は「適量のアトモキセチン等を続けて」悪化予防しながら、生活を続ける場合もあります。
治療前期
- 目標:薬の適量を探す
- アトモキセチン等開始
- 効果・副作用から量を調整
- 特性への工夫はこの段階で始める
治療中期
- 目標:特性改善・二次障害緩和
- アトモキセチン等は適量で継続
- 徐々に「特性の工夫」をくり返す
- 成功体験から二次障害を緩和する
治療後期
- 目標:アトモキセチン等減薬(中止)
- 徐々にアトモキセチン等を減らす
- 特性ぶりかえしには「工夫の継続」で対応
- 「生きづらさ」再燃を防ぎつつ減薬を図る
- 治療初期は「合う薬の適量を探すこと」が目標。アトモキセチン等開始し、量を調整する。
- 治療中期は「特性改善・二次障害緩和」が目標。特性の工夫を続けつつ、成功体験から二次障害緩和を図る。
- 治療後期は「減薬・中止」が目標。特性への工夫は継続しつつ、徐々に減薬する。
まとめ
診断後、薬+工夫で特性と二次障害の緩和を図ります。
ADHDは、不注意等が生来目立つ「発達障害」ですが、大人になり症状が目立つこともあり、かつ特性を緩和する薬もあるため、成人になり気づき、診断を受ける事にも意味があると思われます。
診断がつけば、薬と特性への工夫を合わせて治療していきます。そして、「うまくいった」経験からうつ等の二次障害の改善を図り、最終的には本来持っている長所を存分に生かせる状態を目指していきます。
- ADHDは発達障害だが、成人でわかることもあり薬もあるため、大人での診断にも意味がある。
- 診断後は薬と特性への工夫の継続が大事。その効果を二次障害の緩和と長所を生かすことにつなげていく。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)