パニック障害
急なパニック発作をくり返す
急な緊張、吐き気などの「パニック発作」をくり返す不調です。
「また発作が起きたら」との予期不安を合併、発作が慢性化します。
抗うつ薬の治療を土台に、徐々に不安場面に慣らす「脱感作」を並行します。
- パニック障害は、急な緊張「パニック発作」が繰り返されるこころの不調です。
- その他、「また起きるのでは」との予期不安、回避での「行動範囲の狭まり」も出ます。
- 治療の柱は、「薬物療法」と、徐々に不安にならす「系統的脱感作法」の2つです。
- 薬は主に「抗うつ薬」を続けて使い、発作の時に頓服で「抗不安薬」を使います。
- 「脱感作法」では、不安な場面を回避せず、徐々に負荷を増やしつつ「慣らし」ます。
- 治療初期は薬主体、次第に「脱感作」を続けて、安定続けば薬を徐々に減らします。
もくじ
- はじめに
- パニック障害とは
- パニック発作とは
- 「パニック障害」になると
- パニック障害の治療の2つの柱
- 治療の柱①薬物療法
- 治療の柱②段階的に慣らす「脱感作法」
- 治療の3段階
- まとめ
- パニック障害:動画での説明
はじめに
急な緊張「パニック発作」をくり返すこころの不調です。
それまでは不調がないのに、急に緊張や体の不調をともなう「パニック発作」が発生し、それが繰り返されるのがパニック障害です。
他のこころの不調と比べ「急に」「強く」症状が出るのが特徴で、救急車で運ばれた方の話も少なからず聞くところです。
一方で、治療法は確立しており、他の不調と比べても治療で「明確に改善する」一面もあります。
この「パニック障害」も、早めに気づき、早めに対応することが大事です。ここでは、パニック障害について、原因、症状、対策などをまとめています。
- パニック障害とは、急な緊張「パニック発作」が繰り返されるこころの不調。
- 症状の強さの一方で、治療法は確立されており、早めの治療で改善が期待できある。
パニック障害とは
「パニック発作」の反復と、「予期不安」の2つが特徴です。
パニック障害の主な症状は、①パニック発作の「反復」、②また起きるのではないかとの「予期不安」、の2つです。
パニック障害の場合、発作が起きた後に、「また発作が起きるのではないか」との予期不安が目立つようになり、それによりかえってまた発作が繰り返しやすくなり、悪循環になります。
そして慢性化すると、「電車に乗れなくなる」など、生活範囲が狭まってしまい、より強い影響がでることになります。
- パニック障害の主症状は、「パニック発作の反復」と「予期不安」。
- パニック障害では、発作→予期不安→発作→さらに不安、の悪循環が起こり、悪化する。
- 慢性化すると、「電車に乗れない」など、行動範囲が狭まり、より強い影響が出る。
パニック発作とは
別名「自律神経発作」緊張の交感神経の急な興奮です。
では、この「パニック発作」とはどんなものなのでしょうか。
パニック発作は、別名「自律神経発作」とも言います。自律神経、その中でも緊張をつかさどる「交感神経」が急に興奮する発作です。
この結果、精神面としては「強い緊張」が、体としては「急な自律神経失調症」としての様々な体の症状が、発作的に出てきます。
具体的には、次のような症状が出現します。
精神面の症状
- 急に強く緊張する
- 「死ぬのでは」との強い恐怖感
- 「落ち着かない」強い不快感
- 「正気を失うのでは」との恐怖感
- 自分が自分でないような「離人感」
体の症状
- 息苦しさ、もしくは過呼吸
- 動悸、脈が速くなる
- めまい、ふらつき、浮遊感
- 手のふるえ、手のしびれ
- 吐き気、腹痛、急な下痢
- 急に汗が出る
これらの急な症状は、本来は、「死の危険がある」など、強く追い詰められた場面で起こる症状(反応)です。それが「誤作動」の形で出てしまっているのが「パニック発作」です。そのため、発作後は、まるで「死にそうな体験をした」ような印象が残ります。
- パニック発作は別名「自律神経発作」、緊張の「交感神経」の急な興奮で起こります。
- 発作が起こると、「急な強い緊張状態」となり、心身両面に強い症状が出現します。
- 本来は追い詰められたときの正常な反応だが、それが「誤作動」の形で出ている。
「パニック障害」になると
発作を「繰り返す」など、生活に大きな影響が出ます。
実は、1回だけ「パニック発作」が起こる方は少なくありません。そして、それらの人すべてが「パニック障害」ではありません。
パニック障害では、パニック発作が「繰り返され」、さらに生活に大きな影響が出ます。そのため、治療が必要になります。
具体的には、次の3段階で、不調が長引き、広がっていきます。
①「予期不安」の発生
パニック発作は、先ほどあったように「死にそうな体験をした」ような強い印象が残りえます。すると、「また発作が起きるのではないか」との不安・緊張が続く場合があります。これが「予期不安」です。予期不安は、発作が繰り返されるほど強まります。
②パニック発作の「反復」
予期不安が続くと、常に「緊張した」状態になります。そうすると緊張をつかさどる「交感神経」が活発になってしまい、発作が起こりやすくなります。そして再度発作が起きると、さらに予期不安が強まり、さらに発作が起きやすくなる、悪循環に至ります。
③生活範囲が狭まる
例えば電車で①②の悪循環が起こると、自己対処として「電車に乗らない」ことになります。このように、自己対処として、「発作の起こる場所を避ける(回避)」をすると、一見発作はなくなります。しかし、今後は似た場面(例だと「バス」等)も同様の悪循環になり、どんどん生活範囲が狭まっていきます。
その結果働く人では通勤できなくなったり、重症の場合は家から出られず引きこもり状態に至る場合もあります。
- 「パニック発作」=「パニック障害」ではない。1回だけの発作なら治療は不要。
- 「パニック障害」では発作が反復し、生活範囲も狭まるため、治療が必要になる。
- 発作後、「予期不安」→「発作の反復」→「生活範囲の狭まり」の順で進行する。
パニック障害の治療の2つの柱
「薬の治療」と、不安に慣らす「脱感作」の2本柱です。
パニック障害は放置すると悪化したり、生活の影響が強まるため、早めの治療が重要です。
では、どのように治療するのでしょうか?
治療の2つの柱は、「薬の治療」と、不安に段階的にならす「(系統的)脱感作法」です。
薬でもとの不安・緊張をやわらげていき、その土台の下で、徐々に慣らす治療(脱感作)を並行していきます。
- パニック障害の治療は、「薬の治療」と、不安にならす「脱感作」が2本柱。
治療の柱①薬物療法
定期的には「抗うつ薬」を、つらい時に「抗不安薬」を使います。
薬の治療(薬物療法)では、定期的には「抗うつ薬」を、発作の時のとんぷく薬として「抗不安薬」を使うことが一般的です。
①抗うつ薬(SSRI)
パニック障害も、うつ病同様、脳の物質「セロトニン」の不足が影響するとされます。それを補正するのが抗うつ薬(SSRI)です。
効果が出るまで2-4週かかりますが、徐々に予期不安などの不安・緊張が和らぎ、発作が起こりにくくなります。
副作用など、相性が悪い場合は、他の抗うつ薬や漢方薬などが候補になります。
②抗不安薬(頓服)
飲むと15-30分ほどで効果が出て、緊張・不安を和らげる薬です。種類にもよりますが、4-6時間ほど効果が続きます。
「発作が起こりそう」な時に飲むと有効です。一種の「お守り」として持っておく方法もあります。ただし、安易に使いすぎると「依存」の問題があるため、「必要な時だけ使う」ことが大事です。
- 定期的にはSSRIなどの「抗うつ薬」を続けて、不安と発作の改善を図る。
- 発作が起こりそうなときに、頓服の「抗不安薬」を用いて発作を防ぐ。
治療の柱②段階的に慣らす「脱感作法」
苦手な場面を回避せず「徐々に」慣らしていきます。
もう一つの治療の柱が、苦手な場面に「徐々に」ならす「脱感作法」です。
たとえば電車で発作があった場合、その場面を避けると一見発作はなくなりますが、何かの偶然で乗ってしまうと、また発作が出ます。
脱感作法では、その逆をします。苦手な場面を「避ける」代わりに、あえて「体験して、慣らす」ことをします。
「苦手だが、発作までは起きない」レベルで、徐々に慣らすことで、「予期不安」を減らしていき、慣れてきたら徐々に「強度」を上げていきます。
電車の例で行けば、初めは「空いている電車1駅」で始め、慣れたら「空いている10分」「少し混んだ10分」などと、段階的に強度を上げていきます。
この方法は薬と並んで強力ですが、もし「強い発作」が起きるとかえって逆効果になるため、原則は薬(抗うつ薬)を土台として、主治医と相談しながら行ってください。
- パニック障害の第2の治療は、段階的に苦手場面に慣らす「脱感作法」
- 「苦手だが、発作までは出ない」レベルで緊張に慣らすことを反復していく。
- 一歩間違えると発作になるため、薬と並行し、主治医と相談して行っていく。
治療の3段階
はじめは薬主体、その後は「脱感作」を並行します。
治療の経過は、大まかに、以下のような3段階に分かれます。はじめは薬の治療を重視し、改善してきたら、苦手に慣らす「脱感作」を重視していきます。
①治療初期
初期は、まず「発作を減らす・なくす」ことが何より大事です。
そのために、抗うつ薬を始めて、量を調整しながら効果を見ます。効くまで時間差があるため、それまでは、必要な時に「抗不安薬」を使います。
この段階では、まずリラックスを図るため、休養を確保するのが第一で、まだあまり「脱感作法」は行いません。
発作が目立たなくなり、普段の生活は問題なくできるようになったら、「治療中期」に進みます。
②治療中期
中期では、抗うつ薬は続けながら、苦手な場面への「脱感作法」を徐々に行っていきます。
パニック障害になると、どうしても「生活範囲」が以前より狭まってしまいますが、脱感作法をくり返すことで、「パニック障害以前」の生活範囲に戻していきます。
薬を使う中で「以前の生活範囲」まで戻ったら、「治療後期」に進みます。
③治療後期
後期では、再燃を防ぎながら、徐々に抗うつ薬を減らしていき、最終的には中止を目指します。
抗うつ薬を減薬すると、効果が弱まるため、いったん不安がややぶり返します。この不安を、再度「脱感作法」を行うことで、「生活範囲を狭めずに減薬できている」状態に持っていきます。
うまくいったら、再度減薬し、脱感作で不安を抑えることをくり返していき、最終的には中止を目指します。
理想的には薬を中止して普段の生活に戻ることが望まれます。ただし、中止までするとぶり返してしまうこともあり、その場合は「少量の抗うつ薬を続けて」再燃予防しながら、生活を続ける場合もあります。
治療前期
- 目標:発作をなくす
- 抗うつ薬開始
- 必要時抗不安薬を使う
- 休養を第一に
治療中期
- 目標:生活範囲を戻す
- 抗うつ薬は継続
- 徐々に「脱感作」をくり返す
- 徐々に生活範囲を戻す
治療後期
- 目標:抗うつ薬中止(減薬)
- 徐々に抗うつ薬を減らす
- 不安には「脱感作法」で対応
- 生活範囲を狭めず薬を減らす
- 治療初期は「発作をなくす」が目標。抗うつ薬開始しつつ休養を確保する。
- 治療中期は「生活範囲を戻す」が目標。徐々に「脱感作法」を継続する。
- 治療後期は「減薬・中止」が目標。脱感作法を合わせつつ、徐々に減薬する。
まとめ
発作はつらいですが、治療法は確立されています。
パニック障害は、強い緊張の「パニック発作」の反復と、「また起こるのでは」との「予期不安」が特徴で、その結果生活範囲が狭まり、強い影響が出ます。
抗うつ薬を主体とした「薬物療法」と、徐々に不安にならす「脱感作法」が治療の2本柱です。早い段階で治療を行うことで、早期の改善が期待できます。
- パニック障害は、パニック発作反復と予期不安が特徴、生活範囲も狭まってしまう。
- 治療法は抗うつ薬等の「薬物療法」と、徐々に不安にならす「脱感作法」が2本柱。
- 初期は薬主体、中期から脱感作を継続し、後期で、薬を徐々に減らすことを目指す。
パニック障害:動画での説明
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)