うつ病

落ち込み等が続くこころの病

「落ち込み等の症状が2週以上続く」ほか、時に体や行動に変化が出ます。

 

治療法は、「休養」「薬物療法」「精神療法」が3本柱。必要時は休職しつつ治療します。

 

休職の場合、初期は休養に専念、その後段階的にリハビリを。早めの治療が重要です。

 

動画で見るうつ病

  • うつ病は落ち込み、意欲や集中の難しさが続くこころの病です。
  • 人によっては、「からだの症状」がメインの方もいます。
  • ストレスと離れても症状が続くのが「適応障害」との違いです。
  • 薬の治療、精神療法、休養が治療の3本柱です。
  • 働く人は「休職するか」「仕事しながら治療か」選びます。
  • いずれでも、「早めの診断」「早めの治療」が大事です。

もくじ

 
  1. はじめに
  2. うつ病の原因と似た病気について
  3. うつ病のおもな症状
  4. うつ病での生活・行動の変化
  5. うつ病の治療の3本柱
  6. 治療の柱①休養
  7. 治療の柱②薬物療法
  8. 治療の柱③精神療法
  9. 治療経過の3段階
  10. 休職するか?働きながら治療か?
  11. 休職する場合の治療経過
  12. ご家族の関わり方
  13. 職場の方の関わり方
  14. まとめ
  15. おもなご質問
  16. うつ病:動画での説明
  17.  
 

はじめに

落ち込みなどが目立つこころの病。早期治療が重要です。

落ち込みや気分の沈みが目立つ「うつ病」。ここ最近ではタブー視されることも減り、早めの治療で改善して仕事や社会生活の場に戻っていく方も多くいらっしゃる状況です。

一方で、体の病気のように「目に見えにくい」ものなのは確かであり、気づくことが遅れるなどして治療が遅くなった結果、長期間の休養を要することは今なおみられています。

うつ病の治療法は比較的確立されており、多くの場合、治療を開始、続けることで改善が見込めます。一方で、症状が重くなってからだと、やはり改善には時間がかかることが多くなります。

繰り返しになりますが、うつ病の治療は「早めに気づいて」「早めに治療する」ことが非常に大事です。もしあなたが「うつ」の兆しを感じているなら、このページが助けになると幸いです。

  • うつ病は最近よく知られ、以前より治療する人が増えている。
  • 一方症状は目に見えず、治療開始が遅れることは少なくない。
  • 治療法は比較的明確であり、特に早期なら改善が見込みやすい。
  • そのため、「早めに気づき」「早めに治す」ことが大事。

うつ病の原因と似た病気について

 

ここでは原因や似た病気をまとめています。

 

①うつ病の原因について

  

まだ完全には解明されていません。一方で、脳のレベルでは、脳内物質の「セロトニン」の不足が大きく影響するとされ、心理的なレベルでは「ストレスの蓄積」が引き金になるとされます。そのため、治療では、薬で「セロトニン不足の解消」を行い、生活面では「ストレス対策」を行うことが治療の方向性になります。

 

②うつ病と似た病気について

  

「うつ病」と似た症状が出る病気はいくつかあります。これらの可能性の有無は、診察の時にいっしょに見てまいります。代表的な例は以下の通りです。

 

<適応障害>

  

「ストレスの反応」による「うつ状態」です。典型的には、働く人の休日など、ストレスから離れた時にすぐ改善することがうつ病との違いですが、見分けにくい場合もあります。ただし、治療の方向は、大きくは変わりません。

 

<躁うつ病>

  

うつ病同様の「うつ状態」のほか、「元気すぎる」特徴の「そう状態」が交互に起きるこころの病です。「そう状態」があることが違いですが、それが軽い場合など、見分けにくいこともあります。有効な治療薬などが異なるため、疑わしい時は慎重に見極めていきます。

 

<からだの原因>

  

ホルモンを出す臓器「甲状腺」の機能の低下などの体の原因で、うつ病と似た症状が出る事があります。症状のみでは見分けにくいことも多い一方、血液検査で甲状腺ホルモン等を図ることで、除外することができます。

 

<発達障害の二次障害>

  

もとに発達障害があり、ストレスから二次的に「うつ状態」が続くことがあります。子供のころから「やりづらさ」が続く場合などに、この可能性を検討します。

  • うつ病の発症には、脳では「セロトニン不足」心理では「ストレス蓄積」が影響。
  • 甲状腺などからだの原因で、うつ病と似た症状が続きうるため、診察時の採血などで除外する。
  • 「適応障害」「躁うつ病」などで似た症状になるが、診察で見分ける。

うつ病のおもな症状

 

こころの症状のほか、体の症状が目立つ人もいます。

  

うつ病では、セロトニンの不足などを背景に、脳の働きがうまくいかなくなり、様々な「うつ症状」が出てきます。一般的には「やる気が出ない」「落ち込む」などのこころの症状ですが、人によっては「体の症状」が強く出る場合もあります。

 

①こころの症状

  

代表的には「落ち込み」や「やる気が出ない」症状ですが、人によっては不安や緊張が強く出る人もいます。代表的には、以下のような症状が出ます。

 

②体の症状

  

うつ病があると、二次的に自律神経のバランスが崩れることもあり、「自律神経失調症」と似た、さまざまな体の症状が出る事があります。代表的には、以下のような症状が出ます。

こころの症状

  • 気分が落ち込む
  • わけもなく悲しくなる
  • 夢も希望もないと考えるようになった
  • 頭が働かず、集中できない
  • 判断力・話の理解力が落ちている
  • 前楽しめた趣味が楽しめない
  • 何もする気がしない
  • 不安で落ち着かない
 

からだの症状

  • 寝付けない、眠りが浅い(不眠・浅眠)
  • 食欲が出ない、おいしくない
  • 体が重く、だるい
  • すぐに疲れてしまう
  • 頭痛・吐き気が続く
  • めまい・耳鳴りがする
  • 動悸が止まらない
 
  • うつ病の症状には「こころの症状」と「からだの症状」の2つがある。
  • 「こころの症状」は落ち込みや意欲の低下が主だが、人により不安が目立つ。
  • 「からだの症状」は不眠やだるさのほか、様々な不調が生じうる。

うつ病での生活・行動の変化

 

症状の結果、生活や行動にも影響が出ます

  

うつ病では、こころとからだの症状が続く結果、生活や行動にも、影響が出てきます。これらは、自分で気づくものもあれば、周りから気が付かれるものもあります。

 

①自分で気づく変化

  

ミスが増えるなど仕事がうまくいかないこと、仕事に行く前に反応が出ること、家のことができなくなるなど、生活全般が行いにくくなることがあります。

 

②周りが気づく変化

  

周囲から見ての変化が目立つことがあります。普段との行動・ふるまいが以前と変わることがあったり、仕事で以前なかったミスや遅刻・当日欠勤などが目立つことがあります。

自分で気づく変化

  • 仕事が手につかない
  • 会社に行きたくなくなる
  • 仕事に行こうとすると体の不調が出る
  • 休日はずっとぐったりしている
  • 電話の受け答えが苦手になる
  • 片付けや家事ができなくなる
 

周りが気づく変化

  • イライラしやすくなる
  • 表情が乏しく、暗くなる
  • 後ろ向きな発言が目立つようになる
  • 人を避けるようになる
  • 遅刻・当日欠勤が増える
  • ミスが増え、仕事の効率が落ちる
 
  • うつ病が続くと、生活や仕事でうまくいかない変化が出てくる。
  • 自分で気づく変化として、休日の不調、仕事前の不調などが目立つ。
  • 外からの変化として、表情や様子の変化、イライラ、ミス増加などがある。

うつ病の治療の3本柱

 

休養、薬物療法、精神療法が3本柱です。

  

うつ病の治療は、「休養」「薬物療法」「精神療法」が3本柱です。これらは、どれか一つのみを行うというよりは、組み合わせて行っていくイメージです。

  

その中で、その方のおかれた環境や薬の相性、性格傾向などを踏まえ、どの部分に重点を置くか、オーダーメイドに対応していきます。

  • うつ病の治療は、「休養」「薬物療法」「精神療法」が3本柱。
  • これらは単独でなく組み合わせる。状況等で、どれを重視するか、調整しつつ治療する。

治療の柱①休養

 

特に、「頭を休ませる」ことを重視します。

  

治療の柱の一つ目は「休養」です。これは文字通り「しっかり休む」ことで、特に「頭を休ませる」イメージを持っていただけると幸いです。

  

もし休職をして治療をする場合は、「なるべく何もせず休養に専念する」ことが重要です。とはいえ、つい「(職場などを)考えてしまう」ことがあり、そこで考えすぎると休養にならないため、その場合は趣味など「別のこと」に集中し、考え事の悪循環を断ち、再度休養します。

  

仕事等を続けながら治療する場合は、現実的には「休養に専念」することは難しいです。その中でも、「仕事等で無理をせず」「休めるときにしっかり休む」ことを重視し、できる範囲で休養を確保して、改善を図っていきます。

うつ病の休養の詳細ページ
  • 治療の柱の一つ目は「休養」できる範囲でしっかり頭を休ませることに専念する。
  • 特に休職できるなら休養に専念する。不安からの考えすぎをなるべく防ぐのが重要。
  • 仕事等を続けつつ治療する場合でも、できる範囲で、休養できる時間の確保を図る。

治療の柱②薬物療法

 

抗うつ薬を主体に、必要な時に他の薬を組み合わせます。

  

治療の柱の二つ目は「薬物療法」です。うつの症状を改善する「抗うつ薬」を主体として、必要に応じて睡眠薬など、他の薬を組み合わせて用いていきます。

 

(1)抗うつ薬

  

落ち込みを改善するための薬です。成人では、セロトニンを増やすSSRI/SNRIを一般的には第一に使いますが、副作用や効果は、人によっての相性が大きく、いくつかの中から合う薬を探していくことになります。どの薬も、効くまでは1-3週ほどかかり、続けて使うことが重要です。

 

(ⅰ)セロトニンを増やす薬(SSRI/SNRI)

 

正式には「セロトニン再取り込み阻害薬」といい、うつ病の原因とされる「セロトニンの減少」を改善し、うつ病の改善を図る薬です。

 

効果が出るまで2-4週かかる一方、開始初期に、吐き気・めまいなどの副作用が出る(一般に、数日以内に改善する)ため、初期は「副作用だけ出る」場合もありますが、辛抱して続けると多くの場合、副作用が目立たなくなり効果が出てきます。

 

少し細かい話になりますが、不安が強い方にはSSRIを、意欲低下が強い方にはSNRIを使うことが多いです。

 

(ⅱ)不眠にも効く抗うつ薬(NaSSA)

 

眠くなる作用が強いため、不眠が強いうつ病の方に使うことがあります。人によっては日中の眠気や食欲の増加が副作用として目立ち、続けることが難しい場合があります。

 

(ⅲ)スルピリド(効果の穏やかな抗うつ薬)

 

以前は胃薬としても使われていた抗うつ薬です。飲み始めの副作用が少なく続けやすいため、特に男性で副作用が出やすい方に使うことがあります。女性の場合、量が増えると、生理の遅れの副作用が出る事があります。

 

(ⅳ)アリピプラゾール(抗うつ薬を強める補助薬)

 

抗うつ薬と一緒に用いることで効果を強めるとされます。抗うつ薬のみでは効果が乏しい場合に、併用すると改善することがあります。副作用として、人によっては睡眠が浅くなることがあります。

 

(2)その他の薬

  

不眠や不安が強く、休養が難しい場合などに、その改善のための補助的な薬を使うことがあります。また、副作用が出やすい方に関して、漢方薬を使う場合があります。

 

(ⅰ)睡眠薬

 

眠りを助ける薬です。効果の長さにより、寝つきに効く薬、途中で覚めにくくする薬があり、不眠のタイプに合わせて使います。以前は依存の問題がありましたが、ここ最近では、依存がないタイプの睡眠薬も使うことができるようになりました。

 

また、アレルギーの薬や安定剤などを、睡眠薬代わりに用いる場合もあります。

 

(ⅱ)抗不安薬

 

日中不安が強いとなかなか休養がうまくいかないため、その場合抗不安薬を用いることがあります。依存の問題に注意が必要のため、慎重に適応を選び使います。依存のないもの(タンドスピロン)もありますが、効果が弱いのが難点です。

 

(ⅲ)漢方薬

 

主に不安や緊張を和らげる漢方を用いることがあります。効果は一般的に弱めですが、副作用の心配が少ないため、副作用の出やすい方、副作用への心配が強い方に対して使うことがあります。

うつ病の薬物療法の詳細ページ
  • 治療の柱の二つ目は「薬物療法」抗うつ薬を主体とした、くすりの治療を行う。
  • 抗うつ薬は原則SSRI/SNRIが第一選択。副作用、症状等で他の薬を使うことあり。
  • 不安・不眠が強い場合は睡眠薬等を、副作用出やすい時は漢方薬使うことあり。

治療の柱③精神療法

 

症状チェックのほか、様々な介入を適宜行います。

  

外来診察を通じて、いわゆる「精神療法」を提供します。症状や生活面のモニタリングのほか、精神状態の改善や、復帰後の再燃予防を目標とした、各種状態の確認と必要な時の介入を行っていきます。(じっくりと聞く「カウンセリング」よりも、改善のための「状態の分析と助言等の介入」が主体になります。ご理解のほどよろしくお願いいたします。)

  

具体例としては、主に以下のような介入などを、必要に応じ、徐々に行います。

 

(1)症状・副作用のモニタリング

  

落ち込みや不安などの「精神症状」や薬の副作用がどう出現・変化しているかをお聞きしていきます。症状が強い場合などは、「不安へのリラックス法の実践」など、必要に応じ助言を行っていきます。

 

(2)生活・活動面のモニタリング

  

睡眠・生活リズムや日中の活動の状況についてお聞きしていきます。復職を目指す中で、時期に応じて「活動を増やす(行動活性化)」「生活リズム改善」などに関して適宜助言を行うことを並行します。

 

(3)ストレスとその対処の振り返り

  

ストレスをどのような場面でどのくらい実感するか、およびその対処法を振り返ります。対処法が少ないなど、復職後の心配点がある場合は、「ストレス対処法の模索」などの助言を行っていきます。

 

(4)考えのくせの振り返り

  

「完全でないといけない」など、休養やストレス対策にとって逆効果になる考え方のくせがある場合があります。その点を見極め、必要な時は、「別の考え方を探す」など、考え方の柔軟性を高めるための助言を行います。

 

(5)対人交流のくせの振り返り

  

対人関係のくせ(我慢しすぎてストレスがたまる、言いすぎてトラブルになる等)の有無などを振り返ります。そのうえで、必要時は、程よい自己主張(アサーション)の助言などを行います。

 

(6)職場への「こころの葛藤」の振り返りと対策

  

状態が改善しても、「職場」への葛藤が強く、仕事を考えると症状がぶり返すことがあります。その葛藤の種類と強さを見極めたうえで、必要時は対応(慣らす、割り切る、もしくは異動を考えるなど)を助言します。

うつ病の精神療法の詳細ページ
  • 治療の柱の三つ目は「精神療法」症状や生活等の振り返りと助言を行っていきます。
  • 症状や生活・活動面につき観察を続け、時期に応じ、必要な助言を行っていきます。
  • ストレス対処や考え・対人面のくせを振り返り、必要時には助言を行っていきます。
  • 職場等の環境への葛藤を振り返り、必要な場合は、対策や環境調整の助言を行います。

治療経過の3段階

 

急性期、回復期、再燃予防期の3段階です。

  

うつ病の経過は、おおむね「急性期」「回復期」「再燃予防期」の3段階です。初期(急性期)では休養を重視し、その後回復期で徐々に活動を増やして慣らし、その後の再燃予防期では、生活・仕事で負荷がかかる中で再燃を予防することを目指します。

 

(1)急性期

 

落ち込みや不安などの「精神症状」が強い時期です。ストレスですぐ悪化するため、何よりも休養が重要な時期です。抗うつ薬を使うとともに、不眠・不安などで休養が難しければ睡眠薬などを併用します。しっかり休養できると、精神症状が徐々に改善し、個人差はありますが1-数か月で回復期に移ります。

 

(2)回復期

  

精神症状は収まっている一方、意欲や活動量などが戻っていない時期です。急に負荷を増やすと悪化するため、状態を見ながら、徐々に負荷を増やし、慣らしていき、本来の活動量に戻していきます。急性期同様、個人差はありますが1-数か月で、日常生活が以前のように行えるようになり、再燃予防期に移ります。

 

(3)再燃予防期

  

日常生活は支障がない一方でストレスでの再燃しやすさはしばらく残る、これが再燃予防期です。可能な限り段階的に負荷を増やし慣らすことを続けながら、もしぶり返しのサイン(不眠など)があれば、早めに休養などをして再燃を防ぎます。

  • うつ病の経過は「急性期」「回復期」「再燃予防期」の3段階です。
  • 急性期では何よりも休養が重要。必要なら睡眠薬なども使いつつ、休養に専念します。
  • 回復期では、徐々に負荷を増やしていき、意欲や活動量を本来に戻していきます。
  • 再燃予防期では社会復帰など徐々に負荷を増やしつつ、ストレス時に対応し再燃を防ぎます。

休職するか?働きながら治療か?

 

本来は休職が望ましいが、働きながらの場合も休養確保に努めます。

  

仕事をしている方にとって、治療のさい、休職するか、働きながら治療するかは、大事な問題です。

  

急性期は、何よりも休養が大事であり、仕事のストレスでの悪化リスクが高いため、治療的な側面では、多くの場合(おおむね3か月を目安とした)休職を勧めます。ただし、生活面や職場の状況など、治療以外の判断基準があることは否定できません。

  

症状が比較的軽く、かつ一定の業務負荷の軽減が行える場合などは、リスクを説明の上、まずは働きながら仕事をする場合があります。ただしその場合でも、治療上「休養」が大事なのは変わりないため、仕事後や休日など、休養できるときにしっかり休養することが必要です。また、症状が長く続いたり、悪化が続く場合は、休職に移行する場合があります。

  • 働く人にとって、休職するか、働きながら治療するかは大きな問題。
  • 治療の面からは休職してしっかり休養することが望まれるが、生活面など難しいこともある。
  • 軽度かつ負荷を減らせるなら「働きながら」も選択肢。ただしできる範囲で休養の確保を。

休職する場合の治療経過

 

3か月が目安。初期は休養に専念、その後段階的に負荷を増やします。

  

休職に必要な期間は、個人差が大きいですが、目安は「3か月」です。前期で休養に専念し、中期でリハビリを行い、後期(復帰準備期)で仕事に近い負荷をかけつつ復帰調整、心理面の整理などを行います。

 

(1)前期(急性期に対応、1か月)

 

経過の「急性期」にほぼ対応します。薬の治療を並行しつつ、休養に専念することが何よりも重要な時期です。はじめは強いだるさや過眠などが出る事がありますが、休養を続けると、それも含め回復してきます。期間は1か月が目安ですが個人差が大きいため、主治医と相談しながら休養してください。

 

(2)中期(回復期に対応、1か月)

  

経過の「回復期」にほぼ対応します。急性期の症状は改善の一方、活動しにくい状態のため、徐々に活動を増やすことを続けていきます。はじめは純粋に体を動かすことを行い、次第に動けるようになってから「頭を使う」ことも増やしていきます。

本来の7割ほどの活動ができるのが、次に移る目安です。1か月ほどが想定されますが、やはり個人差が大きく、その人の状態・ペースにあわせて行っていきます。

 

(3)後期(復帰準備期、1か月)

  

別名「復帰準備期」、経過の「再燃予防期」の前半にほぼ対応します。中期までで土台が整ったことを踏まえ、復帰に向けて、仕事を想定した負荷に慣らしつつ、復帰への具体的な調整や、こころの葛藤の整理などを行っていきます。

  

復帰の条件(フルタイムか、時短可能か)などでも個人差が大きいですが、葛藤が少ないなどスムーズにいけば1か月が目安です。ただし、仕事への葛藤が強い場合などは、時間をかける必要があったり、何らかの環境調整(異動、転職など)が必要になる場合があります。

 

(4)復帰後(再燃予防期後半)

  

経過の「再燃予防期」の後半にほぼ対応します。仕事復帰後は、徐々に負荷を増やしていきながら、再燃予防のための対策を続けていきます。

  

再燃予防の観点から、抗うつ薬は復帰後半年は同じ量で続けることがよいとされ、その後、経過などを見ながら慎重に減薬を相談します。

 

参考:働きながらの場合の治療経過

  

この場合は、できるだけ負荷を減らした状態で「急性期」「回復期」を乗り切り、「復帰準備期」になってきたら、「業務負荷を徐々に戻す」ことを再燃を防ぎながら行っていくことになります。

  • 期間は3か月が目安。「前期」「中期」「後期(復職準備期)」の3段階に分かれる。
  • 「前期」は急性期に相当。何よりも休養が重要。1か月が目安だが個人差が大きい。
  • 「中期」は回復期に相当。徐々に負荷を増やすことを継続する。1か月目安も個人差大きい。
  • 「後期(復帰準備期)」は、仕事に近い負荷をかけつつ心理・環境を整理、復帰につなげる。

ご家族の関わり方

 

基本は「温かく見守る環境づくり」です。

  

では、うつ病の治療中、ご家族はどうかかわればいいでしょうか?

 

(1)基本は「見守り」

 

特別なかかわりよりも、まずは「見守り」です。治療には休養が重要ですが、家が「ゆっくり休養できる環境」になっていれば、治療も非常にうまくいきやすくなります。もしそうでなければ、ご本人がゆっくり休めるように、環境を整えていただけると幸いです。そして、相談されたら、話をしっかり聞いていただけますと幸いです。

 

(2)圧力をかけてはいけない

  

うつ病の人に圧力をかけると、症状が悪化したり、なかなか良くならなくなる恐れがあります。「なんで休んでばかりなの」など、否定的な感情を入れた声掛けは、しないように努めていただけると幸いです。

 

(3)焦っていろいろしようとしない

  

ご本人以上に、ご家族が心配になってしまうことがあります。すると、「あれもしないと、これもしないと」と、色々動きすぎてしまうことがあります。これは治療にもあまり効果が見込めないばかりか、その「不安」がご本人に伝わり、逆効果になりかねません。不安は受け入れつつも、「いずれはよくなる」と根っこのところで信じて、どっしりと構えて、見守っていただけますと幸いです。

  • ご家族のかかわりの基本は「見守り」。ゆっくり休養できる環境づくりに努めていく。
  • たとえ不安でも、「否定的な感情」のこもった声かけはしない。
  • まずはご家族が、不安に飲まれず、ゆったりと構えていくことが重要。

職場のかたの関わり方

 

見守りを基本に、復帰前は条件やイメージの共有を。

  

職場のかたからも、「うつ病の人にどう接すればいいか」ご質問を受けることがあります。基本の方向性は以下のようになります。

 

(1)関わりすぎない(特に初期)

 

特に休職の場合、治療の基本は「仕事から離れて休養に専念すること」です。職場からの連絡が頻繁になってしまうと、そのたびに仕事を思い出し、休養に専念できなくなってしまいます。そのため、特に初期は、関わりはなるべく少なく、必要なことに絞っていただけますと幸いです。

 

(2)復帰前は、条件、枠組みを相談する

  

一方で復帰前、相談が必要なところでうまくいかず、復帰が長引く場合があります。また、会社によって復帰の条件はさまざまで、それにより「どこまでリハビリすればいいか」も変わってきます。

  

そのため、復帰予定の数週前には、会社での復帰の条件と「やっておいてほしいこと」、復帰後の職場(異動可能かなど)について相談、共有していただけますと幸いです。そうすると、治療側でも患者さんと相談し、その枠組みを目標に助言を行っていくことができます。

 

(3)否定的な感情を出さない

  

状態が改善しても、復帰前は会社・仕事に関しての不安を抱えた状態にあります。そこで否定的な感情、声掛けを受けると、不安・葛藤が強まり、復帰がうまくいきにくくなります。うつ病への意見・感覚は人により違うと思われますが、特に否定的な感情を表に出すことは、ご遠慮いただけますと幸いです。

  • 職場のかたのかかわりの基本も「見守り」。特に初期は、かかわりは最小限でお願いします。
  • 一方復帰前は、復帰の条件や復帰後の枠組みを、患者さんと共有してください。
  • 否定的な感情を含んだ声かけ、対応は、ご遠慮いただけますと幸いです。

まとめ

 

うつ病は早期発見、早期治療が大事です。

  

うつ病は薬の治療や休養が必要なことが多い一方で、早めに気づき、早めに治療を始めることで、より早い改善を見込むことができます。

  

ご自身で心や体の症状に気づいたり、周りから「いつもと違う」ご様子が見えた場合は、早めにご相談いただけますと幸いです。

  • うつ病は、落ち込み、意欲や集中の難しさが続くこころの病です。
  • 人によっては、「からだの症状」がメインの方もいます。
  • また、周りから見て「いつもと違う」ことで気づかれることもあります。
  • 薬の治療、精神療法、休養が治療の3本柱です。
  • 働く人は「休職するか」「仕事しながら治療か」選びつつ治療します。
  • いずれの場合でも、「早めの診断」「早めの治療」が大事です。
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おもなご質問

  
  

定義・診断など

体の症状はありますが、落ち込みなどはありません。うつ病ではないのでは?

うつ病は典型的には落ち込みなどのこころの症状が出ますが、人によっては、むしろ「体の症状」、いわゆる自律神経症状が目立つ場合があります。別名「仮面うつ病」とも言います。

典型的でない分、診断に難しさはあるのですが、経過や仕事との関連、生活への影響、体の原因の除外などから診断します。治療等の方向は、こころの症状が主体のうつ病と同様です。

どんな人がうつ病になりやすいのですか?

確定したものはない一方、「まじめで、自分を追い詰める人」に起こりやすいとの説はあります。背景としては、「ストレスをためてしまいやすい」とうつ病になりやすい、とは言えるのかと思われます。

それだけですべては防げませんが、ストレス対処法の見直し・考え方の工夫などを通じて「ストレスをためにくい状態」を作ることは、予防の助けになる事が期待されます。

周りから受診をすすめられましたが、自分では大丈夫だと思います。

本当に大丈夫な場合もあると思われますが、もう一つの可能性として、「無理をして、判断力が本来でなくなっている」こともあります。

うつ病において、自分では無理して何とかしていても、周りから見て、ミスが増える、様子が違う、目がうつろなどの異変があり、それで受診をすすめられる場合があります。

実際どちらが想定されるかは、受診・面接を通じて見えてくる部分は多いため、受診を通じて、今の状態はどうか、見極めていくのも一案です。

からだの病気とうつ病の関連はありますか?

しばしばあります。有名なのは甲状腺の不調で、意欲低下や倦怠感など、うつ病と似た症状が出ます。

また、リウマチなどの慢性疾患でのうつ合併率の高さが指摘されます。これは、病気自体や薬の影響のこともありますし、「慢性疾患」に伴うストレスが引き金になる事もあります。

うつ病は再発しやすいですか?

数字は諸説ありますが、うつ病になったことがない方と比べて再発しやすいと思われる点では共通しています。

原因は「ストレスのたまりやすさ」か「ストレスへの反応しやすさ」か、「脳のセロトニンの減りやすさ」か、など諸説ありますが、人により異なるのが実情と思われます。

対策としては、このことを前提に、予防としての「ストレス対処」に重点を置くことがまず重要と思われます。なお、再発をくり返す場合は、抗うつ薬を(症状が改善しても)継続し、再燃を防ぐことを目指す場合もあります。

  

治療・関わりなど

うつ病の治療では、くすりは絶対必要なのですか?

絶対ではありませんが、改善や再燃予防のために、原則としては使用をお勧めしています。

薬なしでも休養などで改善する場合はありますが、薬を用いた場合と比べ「期間がかかりすぎること」「ストレス時の再燃リスク」の2点が懸念されます。そのため、副作用で飲めない場合等やむない場合を除き、抗うつ薬をお勧めしています。

休職を勧められましたが、生活もあり仕事継続を希望します。どんなリスクがありますか?

休職を勧められたということは、治療において、休職を通じストレスを減らし、休養に専念する必要があるとの判断と思われます。仕事をつづけた場合には、主に2つのリスクが想定されます。

一つ目は「悪化のリスク」です。ストレスが続くことで悪化するため、たとえ薬を使っても、ストレスが勝り症状が悪化する恐れがあります。悪化すると、健康上の危険や、治療が長期化するなどにつながる場合があります。

二つ目は「症状が長引くリスク」です。薬の効果などもあり悪化を防げた場合でも、改善には至らず不調が月単位で持続することが少なくありません。結果的に一時期しっかり休んだ方が、回復が早いとなる事があります。

社会保険に加入していれば、休職の際に給与の約6割が保証される「傷病手当金制度」を使えると思われます。その点も含め、ご検討いただければと思います。

休職して、抗うつ薬を使い2週ほどしたら調子がよくなりました。抗うつ薬をやめてもいいですか?

原則お勧めしません。抗うつ薬は、続けることで効果が出るほか、再燃予防の役割もあります。そのため、短期でやめてしまうと、症状再燃のリスクが懸念されます。

ただし、ストレス反応の要素が大半(適応障害)の場合は選択肢になりうるとも思われます。その場合でも、まずは主治医とご相談いただければと思います。

休職中は、どのように過ごすといいですか?

休養→(身体面の)リハビリ→復帰への調整、の3段階で行っていただければと思います。

うつ病の場合、休養とリハビリに時間がかかることが多い傾向があります。

特にリハビリに関しては、意欲や活動の改善にかなり時間がかかる場合もあります。この場合は焦らず徐々に行うとともに、くすりの調整を主治医と相談するのも方法です。

しっかり休むように医師に言われましたが、どう休んでいいかわかりません。

骨折したときにその場所を安静にするように、うつ病治療においては「頭を休ませる」休養が特に初期は非常に重要です。

理想的には「何もしない」ことです。それで頭が休まり、徐々に改善します。ただし、考え事などで休めない場合もあります。

うつ病の休養で絶対に避けたいのがこの「考え事」です。なるべく受け流し休養に戻ること、それも難しければ、別の趣味などに集中して考え事を中断することが必要です。それでも不安で考え事が止めにくい場合は、くすりの調整を行うこともあります。

なお、不安が強い場合など、様々な方法を取っても休養が難しい場合があります。その場合外来での改善が望みにくいことがあるため、休養の場所を自宅から病院に変えること(休養入院)が必要になる事があります。

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著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)