ASD
自閉スペクトラム症
対人面・こだわりの発達障害
対人面の苦手さと、強いこだわりの2つが特徴的な発達障害です。子どもの時から症状が続くのが一般的です。
改善の薬はないため、生活での取り組みが大事です。最近では、「就労移行支援」でリハビリする場合もあります。
- 「子供のころから」対人面の苦手さと強いこだわりが続いている発達障害です。
- 症状は子供のころから続いても、「気づくのが」大人の場合もあります。
- 診断の基本は問診ですが、厳密には採血や心理検査等を組み合わせ診断します。
- 改善の薬はないため、対人面・こだわりへの対策・リハビリを継続します。
- 自分で行うほか、近年は「就労移行支援」で、集中的にリハビリできます。
- 治療を通じて二次障害を防ぎ、本来の「強み」を生かすことを目指します。
もくじ
はじめに
診断・治療等で改善を見込める発達障害です。
2021年、アメリカの有名企業「テスラ」の社長が、自閉症スペクトラム障害(ASD)があることを公表しました。別の発達障害ADHDと比べると、公表されることが少なかったASDですが、これは一つの大きな変化です。
一方で、ASDがあった結果、引きこもり生活など、生活に大きな障害を持つにいたる人も少なくありません。うまくいかないときに、二次障害から悪循環に陥りやすいのも、この障害の特徴です。
ASDは、幼少期からの対人面の苦手さ・強いこだわりの持続が特徴の発達障害です。治療薬はない一方で、近年では、「就労移行支援事業所」など、成人でもリハビリができる場所もできてきており、診断の意義は増してきています。
ここでは、ASD(自閉症スペクトラム障害)について、症状や治療・対応法などを見ていきます。
- ASDは、幼少期からの対人面の苦手さ・強いこだわりの持続が特徴的な発達障害。
- 薬はないため対策は地道なリハビリだが、近年は通所してリハビリできる施設もできてきた。
ASDの代表的な症状
対人面の苦手さ・強いこだわりの2つが主です。
ASDでは、対人面の苦手さ(社会性の障害)・強いこだわりの2つが主な症状になります。
そして、障害のために「不適応」が続く場合などに、「二次障害」として、落ち込みや不安などの「こころの不調」を合併する場合も少なくありません。
具体的には、以下のような症状が代表的です。
対人の苦手さ
- 相手の気持ちが想像できない
- 目が合わず、表情が硬い
- 場の空気を読むことが難しい
- あいまいな支持の理解が難しい
- 対人交流がうまくいかず孤立する
強いこだわり
- 一つの細部にこだわりすぎ全体が見えない
- 周囲より、「自分ルール」にこだわる
- 急な変化に対応できず混乱する
- 繰り返し細かく確認し相手に嫌われる
- 自分のやり方を無理強いし、トラブルになる
二次障害の例
- 落ち込み・うつ状態
- 対人不安
- 慢性的な体の症状
- 引きこもり
- イライラしやすくなる
「二次障害」を合併すると、「生きづらさ」が強くなり、慢性的な不適応や引きこもりの引き金にもなるため、これをいかに防ぐかが、取り組みの鍵になります。
- 対人面の苦手さ・強いこだわりの2つが主な症状だが、時にこころの不調「二次障害」を合併する。
ASDと似た病気
ADHDがしばしば合併します。
別の発達障害ADHDが、しばしば合併することがあり、診断の際には、その有無を見ることが重要です。
また、社会不安障害や、体の原因(主に甲状腺)による不調の可能性を除外することが、診断確定のために必要になります。
「別の病気」の例
- ADHD
- 社会不安障害
- 体の別の病気
鑑別:ADHD
- 「不注意」「多動」「衝動性」の3つが特徴的な発達障害。
- ASDとしばしば合併するため、合併の有無を確認することが大事。
- 幼少期から不注意等がなかったかの確認と、心理検査等で判別していく。
- 合併の場合は、特性の対策は、双方の特性に対して行うことになる。
鑑別:社会不安障害
- 特に、対人面において強い不安・緊張が起こるこころの不調。
- 強い対人不安での不自然さと、「対人面の苦手さ」が一見似てることから、時に見分けにくい。
- 見分けにくい場合は、周囲の情報などから、慎重に見分ける。
- ASDに二次障害で「社会不安障害」を合併することも多い。
鑑別:体の別の病気
- 主に、「甲状腺の機能異常」で似た症状が出る事がある。
- 時に、難聴が「対人面の苦手さ」と間違われることがある。
- てんかんの合併率が比較的高く、その点の鑑別も必要。
- ADHDが合併することが多く、その有無も併せて診断する。
- その他、社会不安障害や甲状腺の不調などを除外して、確定診断につなげる。
ASDの診断
問診・行動観察が基本ですが、厳密には採血と心理検査を組み合わせます。
ADHDの診断基準は、基本的には「対人面の苦手さ」「強いこだわり」の症状が長期間続いているかなので、その部分の問診をしっかり行いつつ、ご様子の観察から症状の有無・程度を見極めることが診断の基本です。
一方、それだけでは甲状腺などのからだの病気の除外はできず、また、自覚症状が「客観的にどうなのか」の裏付けが十分には取れません。そのため、厳密に診断する場合には、体の原因除外のための採血(血液検査)と、心理検査を組み合わせ、診断につなげます。なお、心理検査をすることで、もう一つの発達障害「ADHD」の有無も見極めていきます。
(心理検査は、提携している心理機関などに依頼し、行う形となります)
- ASDの診断の基本は、こだわりなどが続いているかを見極めるための問診・行動観察。
- より精密には、採血や心理検査を行い、組み合わせて確定診断を図る。
ASDの治療の方向
特性等への工夫・取り組みを続けることが大事です。
ASDには、今のところ特性の改善を図れる薬はありません。そのため、対策は、特性等に対しての工夫・取り組みを継続して行っていくことです。
地道な努力になりますが、主に行う内容・方向性をまとめると下のようになります。
取り組みの3段階
- ①ASDの一般論を学ぶ
- ②自分の特性・弱点がどうか、理解する
- ③弱点に対して取り組みを徐々に行う
改善に大事なこと
- 「意識的に」相手の視点、場の空気の理解を図る
- まずは「他者に提供できること」を探し、実行する
- こだわりを、プラスの面に生かす
- 合う環境を見つけていく
特性等への対策
- 対人面→理論的に「相手の視点」を探す練習等
- こだわり→「別の見方はないか」を探す練習等
- 二次障害→まずは相手にプラスになる事に集中
- ASD特性への薬はなく、特性等へのリハビリの取り組みの継続が大事になる。
- まずはASDの一般論を学び、自分の特性・弱点を知ってから、徐々に改善に取り組む。
- 社会性は、無意識が難しければ、意識的に考え・推測することでカバーしていく。
- 「求める」より「与える」。そうすれば感謝され、自信がつき二次障害の改善につながる。
各種特性等への工夫・取組み
弱点をカバーし、長所を生かす。
取組みの基本は、「弱点をカバーし、長所を生かす」ことにつきます。
①対人面の苦手さへの対策
「他者の視点」「全体の視点」を(無意識では難しいので)意識的に推測することが基本です。幸い、雑談などと違い、社会での会議・交渉などは理詰めで目的などが推測しやすいため、むしろ難易度が下がることが多いです。
その他、マナー、視線、表情なども、他者の真似(モデリング)、マニュアルの活用と練習で、ある程度(60点)までは持っていけることが多いです。「勝つ」必要まではなく「惨敗さえ防げれば」長所を生かす土台が整います。
②こだわりへの対策
こだわりとは、物事の見方が一つに固定してしまうこととも言いかえられます。対策としては、こだわりそうなときに「一歩引く練習」そして「別の見方はないか探す練習」、この2つをくり返していくことです。「こだわり」が他者への「しつこい」要求の形になると大抵トラブルになるため、まずは「こだわり」があっても、必要以上に他者を巻き込まないことが、第一段階の目標になります。
なお、「こだわり」は、その弱点さえカバーできれば、「継続的な努力」の長所につながります。
③二次障害への対策
二次障害の改善には「認められた」成功体験が一番です。ASDの場合、「こだわりからの要求」→「拒絶される」失敗の悪循環に注意です。
対策としては、「求める(要求)」から「与える(提供)」の切り替えが大事と考えます。多少不器用でも、人に何かを提供できれば、それで嫌がられることは少なく、一定割合では感謝されるでしょう。その積み重ねが、「人に認められた」成功体験となり、徐々にでも二次障害が改善に向かうことを期待します。
人に「提供」を続けるのは、エネルギーのいる作業です。しかし「こだわり」の力を生かせば、案外難しくない部分もあるでしょう。ただ一点、「悪意のある人」には注意して、距離を取るようにしていくといいと思われます。
対人面の対策
- 「他者の視点」を、理詰めで推測する練習
- 「場の要望」を、理詰めで推測する練習
- マナー等は、マニュアルをフルに活用
- 表情・話し方などは、得意な人を真似する
こだわり対策
- 「自分だけが正しい」との思い込みを捨てる
- こだわりそうなとき「まず一歩引き」やるべきか検討する
- こだわりそうなとき「別の見方」を探す練習
- 特に「他者への要求」は、すべきか慎重に考える
二次障害対策
- 「求める」→「与える」への切り替え
- 常に「与える」余裕を持つための日々の努力
- 「求める」必要ある場合は、慎重に適応や言い方を選ぶ
- 「悪意ある相手」を見きわめ、距離を取る
- 「弱点をカバーし、長所を生かす」ことが特性等改善の取り組みの基本。
- 対人面は、理詰めの推測、得意な人のまね、マニュアルの活用で補っていく。
- こだわりには「一歩引き」「別の見方を探す」練習を。それができればむしろ長所に。
- 二次障害対策は、「与える」→「感謝される」の好循環を作ること。
取組みの2つの枠組み
自分では難しい場合「就労移行支援」も選択肢です。
子どもの時にASDが見つかった場合は、周りが主導で、特性を改善するかかわりを続ける「療育」を長期間受け、改善を図ることが多いです。
一方大人になって診断を受けた場合、そのような「療育」を受けることは難しく、基本的には「自主的に」取り組むことになります。
もちろん子供の時よりは、自分が主体で取り組みやすい面はあるのですが、障害の重さ等によっては、それだけでは難しいこともあります。
ここ最近では、そうした場合に、特性に集中的に取り組むタイプの「就労移行支援」が提供されるようになりつつあります。期間はかかりますが、集中的に改善を図り、仕事につなげられる点では画期的です。
それぞれ一長一短あります。特徴を以下にまとめます。
自分での取り組み
- 自主的に、ASDについて学びながら改善に取り組む
- 仕事や生活を続けながら取り組むことができる
- 客観性を持ちにくく、成果を実感しにくい
- 比較的軽度の場合に有効
就労移行支援
- 最大2年「就労移行支援」に通い改善に取り組む
- 客観的な意見も聞きつつ、集中的に取り組める
- 最大2年、仕事がない「リハビリ期間」が続く
- 比較的重度の場合に有効
- 大人だと子供のように「療育」は受けられず、基本的には自主的な取り組みが必要。
- 近年、集中的にリハビリする「就労移行支援」の取り組みが増えてきている。
- 一長一短あるが、比較的軽度なら自分で、比較的重度なら就労移行支援が有効。
まとめ
薬はないですが、取り組みで徐々に改善を図ります。
ASDは、対人面の苦手さ・強いこだわりの2つが生来目立つ「発達障害」ですが、大人になり症状が目立つこともあります。
薬はないですが、継続しての地道な特性への取り組みで効果を見込みます。また、症状が重い場合にも、最近は「就労移行支援」などのリハビリの枠組みが充実しつつあります。弱点をカバーし、長所を生かして、社会とのつながり方を模索していただけますと幸いです。
- ASDには薬はないが、診断後は取り組みで改善を見込みつつサポートもあるため、診断には一定の意味がある。
- 診断後は特性への工夫の継続が大事。「弱点をカバーし、長所を生かす」ことが重要。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)