適応障害
落ち込み等の「ストレス反応」
ストレスに反応して起こる、うつ病と似た症状の不調です。
休日など、ストレスと離れると改善するのが、うつ病との大きな違いです。
環境調整、対処法などの「ストレス対策」が治療で重要です。
- 適応障害は、主に「ストレスに反応してのうつ状態」です。
- うつ病との違いは、「ストレスから離れると速やかに改善する」こと。
- 治療は「うつ病」と近いが、「ストレス対策」の比重が大きい。
- 環境のストレスが大きければ、環境調整を第一に行っていきます。
- 「考えのくせ」等大きければ、自分のくせの見直しを徐々に行う。
- 休職の際も、より「環境調整」「くせの振り返り」を重視していきます。
もくじ
- はじめに
- うつ状態と適応障害、うつ病
- 正常なストレス反応との違い
- うつ病との違い
- 治療の方向性
- 治療の方法①環境調整
- 治療の方法②ストレス対処法の見直し
- 治療の方法③薬物療法
- 適応障害と休職
- まとめ
- おもなご質問
- 適応障害:動画での説明
はじめに
働く人など、うつ病と並んで多いこころの不調です。
適応障害とは、「ストレスに反応してのこころの不調(主にうつ状態)」です。こころの健康の啓発が進むにつれ、以前はまとめて「うつ病」とされていた状態がより深く理解されるようになり、この「適応障害」の診断が一般にも知られるようになってきたように思われます。
適応障害というと、主に「会社への不適応」がイメージされますが、学校・家庭・介護・子育てなど、幅広いストレスに対して発生します。
症状、大まかな治療とも「うつ病」と似ているのですが、より「ストレスへの反応」の要素が大きいため、治療でも「ストレスへの対応」に重点が置かれることになります。
ここでは適応障害について、「うつ病」との違いをふまえつつ、見ていきます。
- 「うつ」において、最近うつ病と並び「適応障害」が広く知られるようになった。
- 適応障害は「ストレスに反応してのうつ等の不調」様々なストレスが引き金になる。
- うつ病と比べストレスの関与が強く、ストレスへの対応が、治療の重点になる。
うつ状態と適応障害、うつ病
幅広い「うつ状態」の中での「ストレス反応」が適応障害です。
心療内科では、「うつ病」「うつ状態」「適応障害」など、似た状態にいくつかの用語が使われます。この点をここで整理します。
①うつ状態→「落ち込み」の状態全般
「うつ状態」というと、「落ち込み」などの症状がある状態全般を指します。これが一番幅は広く、「うつ病」も、「適応障害」も、ほかにも「躁うつ病のうつ状態」や「甲状腺の不調によるうつ状態」も「うつ状態」に含まれます。
②適応障害→ストレス反応による「うつ状態」
幅広い「うつ状態」の中で、「ストレスへの反応によるもの」が適応障害に当てはまります。
③うつ病→セロトニン不足など「脳の不調」
「うつ状態」の中で、脳内のセロトニンの不足などの「脳の不調」によるものが「うつ病」と想定されます。実際には脳内のセロトニンの測定などは難しいため、診断基準(DSMー4)では「2週間以上(ストレスが減っても)症状が持続する」ことで推定しています。
2分動画で説明- 落ち込みにまつわる用語は、「うつ状態」「適応障害」「うつ病」など複数ある。
- 「うつ状態」が一番広い定義。「落ち込み」ある状態の全般を指す。
- 「適応障害」はストレスの反応での「うつ状態」。
- 「うつ病」はセロトニンの不足等での「うつ状態」が想定される。
正常なストレス反応との違い
症状の強さ、生活への影響で見分けます。
強いストレスがかかると反応が出ますが、適応障害の場合いわゆる「普通の反応」よりも強く反応が出て、仕事や生活にもしばしば影響が出ます。
「正常なストレス反応」とは言えない「適応障害」の例は、以下のようになります。
適応障害の例
- 仕事のストレスで、会社に行けなくなる
- 嫌なことを考えると、涙が止まらなくなる
- 嫌なことを考えると、色々な体の症状が出る
- 嫌なことを考えて、眠れない日が続く
- 嫌な場面で、急なパニック発作が起こる
- 適応障害の特徴は、普通の反応よりも「強く、生活等にも影響すること」
- 例として、不眠・パニック発作などの強い症状、会社に行けないなどの生活への影響がある。
うつ病との違い
ストレスから離れた時の症状の変化で見分けます。
適応障害の症状は、落ち込み・体の症状・生活面での変化など、うつ病とほぼ同じで、症状だけでは見分けることは困難です。
では、どうやって見分けるか?
基本的には、以下のような、「ストレスから離れた時の症状の変化」の違いで見分けます。
ストレスから離れると
- 適応障害→症状がすぐ改善する
- うつ病→すぐには症状が改善しない
例えば、仕事がストレスの時、休日に症状が大きく改善するのが「適応障害」、休日も不調なのが「うつ病」といった具合です。
ただし、「休日に部分的によくなる」など中間の場合があったり、「休日に仕事のことばかり考えて不調」などで見分けにくいこともある等、クリアには分けられないことも多いです。
- 症状は、「うつ病」も「適応障害」もほぼ共通しており、見分けにくいことが多い。
- 休日など、ストレスが減ったときの症状の変化で主に見分ける。
- ただし、実際には、中間の状態など、クリアに分けにくいことも少なくない。
治療の方向性
うつ病と類似も、「ストレスへの対策」が中心になります。
適応障害でも、治療の三本柱としては、休養(ストレスからの避難)、薬物療法、精神療法の3つなのは共通しています。
ただし、「ストレスへの反応の要素が強く」「脳の不調の要素は限定的なことが多い」ため、より精神療法、特に「ストレスへの対策」の部分が大きくなります。
ストレスへの対策は、外側(環境)の要素が強いか、内側(ストレスのたまりやすさ等)の要素が強いかで、次の2つに分かれます。
ストレス対策の方向性
- 外的要素が強い→環境調整
- 内的要素が強い→ストレス対処法の見直し
- (両方の要素→両方の対策)
- 適応障害でも治療は休養・薬・精神療法ですが、その中でも「ストレス対策」が重要。
- 外的要素(環境)が強い場合は、転職等も含めた「環境調整」が重要になる。
- 内的要素(ストレスのたまりやすさ等)強ければ、ストレスの対処法の見直しが重要になる。
治療の方法①環境調整
外的要素が強ければ環境調整が有効です。
特定の外的なストレスの影響が強い場合は、そのストレスを減らすための「環境調整」が重要になります。例としては以下のようなものがあります。
環境調整の例
- 転職・異動(仕事)
- 自分に合う業種を探す(仕事)
- 夫婦関係の見直し・相談(家庭)
- 家族関係の見直し、関係機関の相談(家庭)
- 介護サービスの導入・調整(介護)
- 親族の協力の模索(子育て)
- 関係機関と相談、サービス導入(子育て)
うまくいくと大きく改善することもある一方で、「わかっていても環境を変えられない」場合も少なくありません。その場合は、ほかの方法を並行して行っていく必要があります。
- 特定の「外的ストレス」が大きい場合は、それを減らすための「環境調整」が重要。
- 仕事での転職や異動など、ストレスのかかる環境を変えたり、調整する。
- 有効なことが多い一方、実際に実現困難な場合もあり、その時は他の方法を検討する。
治療の方法②ストレス対処法の見直し
内的要素が強ければ、ストレス対処法の見直しが重要です。
様々な環境で、ストレスがたまり適応障害になってしまう場合は、内的な要素(ストレスのたまりやすさ、考えのくせ等)が影響している可能性があります。
その場合は、むしろ、ストレスの対処法を見直すことが重要になります。
具体的には、以下の例のように、その人の「ストレスの影響が出やすい」背景を見極め、その対策を取っていきます。
ストレス対処見直しの例
- 別の見方を探す(自分を追い詰める考えのくせ)
- ストレス対処法を増やす(対処法が少ない)
- 休養・リラックスの練習(いつも緊張して休まらない)
- 程よい自己主張の練習(主張できず我慢するくせ)
- 弱点を含め自分を受け入れる(自己肯定感の低さ)
これらは、しっかり行おうとすると、期間がかかることが難点です。例えば休職した場合、時間に余裕があれば、カウンセリングやリワークプログラムなどを通じて、これらに取り組む場合があります。
- ストレスのたまりやすさ等「内的要因」が強ければ、ストレス対処法の見直しが重要。
- ストレス対処法が少なければそれを増やす等、見極めた弱点にあった対応を行う。
- 長期的に有効も習得に時間がかかる。リワーク・カウンセリングを通じて行うこともある。
治療の方法③薬の治療
必要に応じ、薬を併用することがあります。
適応障害の治療には「ストレスへの対策」が最重要ですが、それだけではうまくいかない場合などもあり、必要に応じ、以下のような薬を使う場合があります。
(1)抗うつ薬
うつ病の治療で必要になる「抗うつ薬」。適応障害の場合は、必要ない場合もありますが、一方で「ストレス要素が強いが、うつ病の要素もある場合」「ストレス因は明確だがその対策が現実的にとれない場合」などに、抗うつ薬を使うことが望まれる場合があります。
(2)睡眠薬
適応障害の場合でも、睡眠がとれない状態が続けば症状の悪化やうつ病への移行につながるため、必要時は睡眠薬を用いることがあります。
(3)抗不安薬
ストレスの要素が明確であっても、その解決が難しくかつ考えすぎて悪化傾向がある場合などに、対策として抗不安薬を用いることがあります。
(4)漢方薬
ストレスの解決がすぐには難しく、不安などが続く場合、安全に行える対策として、漢方薬を用いて改善を図ることがあります。
- 適応障害には「ストレス対策」が最重要だが、必要時は薬を併用することがある。
- 具体的には、抗うつ薬・睡眠薬・抗不安薬・漢方薬等を、状況に応じ使うことがある。
適応障害と休職
休職の場合も、環境調整・ストレス対策に重点を置きます
適応障害でも、うつ病と同様に、休職して治療を行うことがあります。短すぎない期間を置くこと、休養期→リハビリ期→復帰準備期と進めていくことは共通しています。
一方で、病態の違いを踏まえ、重点を置く部分などに関しては、以下のような違いがあります。
(1)休職期間
うつ病では「3か月」を基準としましたが、環境調整主体の場合は、もう少し短く1-2か月の場合もあります。一方で、「ストレス対策の見直し」をしっかり行う場合は、(リワークプログラム等を活用し)4-6か月、むしろ長期間休職し、再燃予防を図る場合もあります。
(2)休職期、リハビリ期
うつ病では、休職期・リハビリ期とも各1か月が目安でしたが、適応障害の場合、一般的には脳のレベルでの変調は少ないため、各1-3週と短くなる場合が少なくありません。
(3)復帰準備期
一方で適応障害の場合は、復帰準備期の課題である「環境調整」「ストレス対策の見直し」に重点を置く必要があります。そのため、この時期の取り組みは比較的時間をかけ、かつ重点を置いて行う必要があります。
(4)復職時の異動の有無
うつ病の場合は、環境変化のストレスを避けるため、元の部署に戻るのが一般的とされます。一方で、適応障害の場合は、環境とご本人の相性の側面が少なくないため、異動も選択肢になります。
元の環境でのストレスと、環境変化のストレスの双方を比較していき、より負担の少ない方法を取るのが一般的です。ただし、職場規定でルールが決まっている場合は、それに従う必要が出てきます。
- 適応障害でも、うつ病と同様、数か月の休職を行い療養の上、復職することがある。
- 休養・活動の増加はスムーズな一方、環境調整・ストレス対策の見直しは時間をかける必要あり。
- 異動に関しては、元の環境のストレスと、環境変化のストレスを比較して、検討する。
まとめ
適応障害では、環境調整とストレス対策が大事です。
適応障害は、うつ病と症状が似ている「うつ状態」の一つですが、より「ストレスの反応」の要素が強いものになります。
そのため、治療の際も、ストレスへの対策、具体的には環境調整やストレス対策の見直しが重要になります。薬はうつ病の場合よりは優先順位が下がりますが、必要に応じて使う場合があります。
- 適応障害は、主に「ストレスに反応してのうつ状態」。
- うつ病との違いは、「ストレスから離れると速やかに改善する」こと。
- 治療は「うつ病」と近いが、「ストレス対策」の比重が大きい。
- 環境のストレスが大きければ、環境調整が重要になる。
- 内的な要素が大きければ、弱点に合わせたストレス対策の見直しを徐々に行う。
- 休職の際も、より「環境調整」「ストレス対策の見直し」を重視していく。
おもなご質問
定義・診断など
- 前の心療内科では「適応障害」と、次のところでは「うつ病」と言われました?どうして変わるのですか?
-
典型的には、ストレスの反応が「適応障害」、反応だけで説明できない脳の不調が「うつ病」ですが、確かに区別がつきにくい場合は少なくありません。
そのため、どちらに力点を置くか、および経過により診断名が違ったり、変わったりすることはありえます。ただし治療の方向は大きくは変わりません。ストレスと脳の不調のそれぞれがどうかを推測したうえで、望ましい治療の方向性を提案することになります。
- 適応障害は、うつ病より軽症なのですか?
-
「脳の不調が目立たない」という点では軽症とも言えます。ただし、うつ病でくすりの治療後著明に改善し再燃しないこともあれば、適応障害だが複数回再燃をくり返すこともあるなど、経過(予後)としては必ずしも「うつ病より軽症」とは言い切れない面もあります。
治療の要点が、うつ病では「薬+休養」、適応障害では「環境調整+ストレス対処」になるという面で、違いがあるとも言えます。
- 休日は元気になるので、特に受診は必要ないのでは?
-
適応障害では、典型的には、ストレスから離れると(休日など)いったん改善しますが、再度ストレスに触れると再燃します。
そして、「会社に行けない」など強い影響があったとき、受診・治療なしでは影響・損失が大きい状態が続くことが予想されます。
薬以外にも、休職や環境調整の模索など、取れる対策は複数あるため、生活・仕事に影響が強い場合などは、受診をご検討いただければと思います。
- 適応障害からうつ病に移行することはありますか?
-
ありえます。はじめは「ストレスの反応(適応障害)」だったのが、ストレスの持続により「セロトニンの減少」などが起こり、「脳の不調(うつ病)」に移行するメカニズムが推測されます。
症状としては、はじめは「仕事の日だけ不調(適応障害)」だったのが、しだいに「休日も不調(うつ病)」になってきます。
一般的には「うつ病」に移行した方が、回復まで時間がかかり、くすりも多く必要になるため、移行する前に、早めに受診していただければと思います。
- 最近言われる「新型うつ」と適応障害の関連はどうですか?
-
従来の「典型的なうつ病」と、「場面等で症状が変わる」「趣味などは行える」などの点で違う人が最近多いと指摘され、「新型うつ」と言われる場合があります。
精神医学上はまだ認知されていない概念ですが、実際的には「適応障害」とほぼ同じ場合が多いと思われます。そのため、一般には、「適応障害」に準じた治療・対策をしていくことが多いです。
治療・関わりなど
- 適応障害の治療では、くすりはまったく使わないのですか?
-
典型的な適応障害の場合、薬を使わず治療等を行う場合は少なくありませんが、絶対ではありません。
不安や不眠などが強い場合はその改善の薬を使う場合がありますし、うつ病とやや近い病態の場合など、抗うつ薬の使用をお勧めする場合はあります。また、より穏やかな効果を期待し、漢方薬を用いる場合があります。
- 休職したら1週で元気になりました。もう復帰してもいいですか?
-
特に環境を変えられない場合は、慎重に検討いただければと思います。
適応障害の場合、うつ病と比べ、休職すると(ストレスが減るため)速やかに症状が改善することは少なくありません。ただし、「家で症状がない」ことと、「復帰後、(仕事のストレスがかかっても)症状が再燃しない」ことは、しばしば異なります。
特に早期の復帰の場合は、「環境が十分に変わること」もしくは「職場への葛藤を十分に整理できていること」が必要になるため、事前に職場としっかり話し合うことが望まれます。
- 適応障害で再燃しないコツは何ですか?
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休職前のストレスが(復帰後)十分に減っていることが重要です。そのため、職場としっかり話し合って環境を調整すること、および職場への葛藤を十分に整理して、葛藤からのストレスを十分に減らすことが重要です。
なお、環境を変えても不調が繰り返される場合は、「自分を追い詰めてしまう」などの考え方のくせが影響する場合があります。その場合は、考え方のくせ等の振り返りと調整が重要になります。
- 休職して改善、復帰や転職して悪化をくり返してしまいます。
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環境(外的要因)を調整しても再燃をくり返してしまう場合、「考え方のくせ」などの内的要因の可能性を検討する必要があろうかと思います。
もう一つの可能性として、成人になってから目立つ、ADHDなどの「大人の発達障害」が背景になっている場合もあります。
前者であれば、リワークプログラム(定期的に数か月通ってのリハビリ)やカウンセリングが、後者であれば、心理検査などを通じた診断と治療が対策になります。
(なお、これらのプログラムは当院では行っていないため、提携の機関などへのご紹介を行う等で対応いたします)
- 家族として、どんなことに注意して関わるといいですか?
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「圧力をかけず、見守る」基本方針は、うつ病と共通です。その中でより休養自体よりも、自分自身や会社への葛藤などへの「気持ちの整理」が重要になるため、その点で「聞くこと」を基本としつつ、アドバイス等が行えれば理想的です。
ただし、ご家族で、ご本人の葛藤を抱えきることは難しい場合もあるため、その場合は、カウンセリングやリワークなど、専門のプログラムを勧めるといい場合もあるかと思われます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)