HSP

生まれながらの「敏感さ」

昨今話題の「生まれながらの敏感さ」です。

 

「考えすぎる」「気を使いすぎる」等から、疲弊してしまうなどの辛さが発生します。

 

特性を受け入れつつ、長所を生かしながら、弱点をカバーすることが対策です。

  • HSPとは、「生まれながらの敏感さ」。様々な刺激を、敏感に受け取る特徴があります。
  • その結果、「疲れすぎてしまう」「まわりに振り回される」などの不調が出る事があります。
  • 多くは精神科的には「不安神経症」ですが、背景に発達障害等があることがあります。
  • 基本は「強みを生かし弱点をカバーする」こと。環境などの工夫を行っていきます。
  • 不安や落ち込みなどに対して、漢方薬やこころの薬を使う場合があります。
  • まず「精神科的な診断」をしたうえで、治療・対策の方向性を相談していきます。

もくじ

 
  1. はじめに
  2. HSPの定義・特徴
  3. どんな症状が出るか
  4. HSPは、精神医学的には何か?
  5. 心療内科・精神科での、HSPへの取り組み
  6. HSP特性への対処の方法論
  7. どんな時に受診を考えるか?
  8. 当院でできること、できないこと
  9. まとめ
  10.  
 

はじめに

「敏感さ」のお悩みが増えています。

ここ最近、「HSPですか?」など、敏感さや、HSPに関してのご相談が増えています。

もちろん、メディア等で知名度が上がった点もあるのですが、ここ昨今(2020-2021年)の社会情勢とも無関係ではないと思われます。

HSP的な「敏感さ」があると、外の様々な情報から良くも悪くも影響を受けます。ポジティブな交流が(社会情勢上)減り、一方で、ニュース等でネガティブな情報を多く浴びるようになれば、おのずとマイナスの方向で強く影響を受け、二次的なこころの不調にもつながってきます。

HSPの対策は、この「敏感すぎるアンテナ」をどう整え、使いこなすか、突き詰めればその点につきます。

そのために、まずHSPについて知り、その対策の方向性を、ご自身の取り組み・環境の調整の面からとらえ、そしてその中で心療内科では何ができるか、ここで見ていきたいと思います。

  • HSPとは生まれながらの敏感さ、良くも悪くも環境から影響を受けやすい。
  • 対策は「敏感さ」をどう使いこなすか。特にマイナスの影響をどう減らすかが重要。

HSPの定義・特徴

 

「敏感さ」を核とした4つの特徴が定義されています。

 

HSPとは英語で「Highly Sensitive Person」の略、日本語では「とても敏感な人」となり、俗に「繊細さん」と言われることもあります。

 

これは心理学者のアーロン博士が定義した概念です。どのくらい当てはまるかは諸説ありますが、「5人に1人(20%)」とする説もあります。

 

特徴としては、文字通りの「敏感さ」に集約されますが、具体的には、次の4つの特性があるとされます。(英語の頭文字を取り「DOES」と略されます。)

①処理(考え)の深さ(Depth of prosessing)

ものごとを深く考える傾向のことです。深く物事を考えられることが長所になりますが、一方で必要ないことまで「深く考えすぎて」しまい、疲れ切ってしまうことや、「考え」にとらわれて動けなくなることが生じえます。

②刺激の受けやすさ(Overstimulated)

刺激に敏感であり、一般には見逃しやすい「ささいな情報」も、より敏感に感じ取ります。いわゆる「一から十を知る」ことができる一方で、日常の様々な情報が(まるで大音量のように)大きな刺激となり、気が休まらず疲れ切ってしまう場合があります。

③感情的反応性・共感力の強さ(Emotional reactivity and high Empathy)

相手や出来事に対して、強く共感し・大きく影響を受けやすい特徴があります。うまく活用できれば、きめ細かな共感・気づかいができます。一方で、相手に気を使いすぎて疲弊したり、相手の悪意に強く影響されて心理的ダメージを受けやすい弱点があります。

④ささいな刺激に対する感受性(敏感さ)(Sensitibity to Subtleties)

目・耳・鼻などから受け取る五感など、日常のささやかな刺激に敏感な特徴があります。日常の中でも退屈せず変化を味わえる一方で、刺激が強い場所で疲れ切ったり、残酷な表現やネガティブな出来事などに強いストレスを受けるおそれがあります。

 

なお、このHSPの定義は「心理学的」な定義であり、精神医学での定義とは異なります。精神医学では、似た特徴に関して「不安神経症(不安障害)」と定義しており、対策なども含めて類似する面は多くあります。

  • HSPは日本語で「とても敏感な人」の意味。特徴もまさにその「敏感さ」にある。
  • より具体的には「DOES」、考えの深さ・敏感さ・強い共感性が特徴とされる。
  • 音で例えれば、日常の物音がすべて「大音量」で聞こえてくるイメージ。
  •  
  • HSPは精神医学の定義ではない。精神医学では「不安神経症」が似た概念になる。

どんな症状が出るか

 

敏感さの結果、疲れすぎる等の症状が出ます。

  

HSPの特性があると、敏感さから「疲れ切ってしまう」「影響を受けすぎてしまう」ことをしばしば経験します。そして、そこから派生して、生活・対人面などに、様々な影響が出てくる場合があります。以下に、代表的な例を示します。

HSPでの症状の例

  • すぐに疲れ切ってしまう
  • よく寝る・寝すぎてしまう
  • 人に気を使いすぎ、後で疲れ果ててしまう
  • 雑談や大人数の集まりで、すぐ疲れてしまう
  • 小さい音や刺激が気になって、集中できなくなる
  • 考えすぎて、「適当に流す」ことができない
  • (疲れるため)人を避ける、一人を好む
  • ストレスに強く反応して、体調を崩しやすい
  • 嫌な出来事を忘れられず、不調が長引いてしまう
  • 他の人に影響されすぎてしまう
  • ストレスから「うつ」「対人不安」になる
 
 

特性としての「疲れやすさ」等の特徴のほかに、二次的な「落ち込み」「対人不安」などが出る場合も少なくありません。この「二次的な症状」をいかに防ぐかが重要な点になります。

  • 敏感さから「すぐ疲れてしまう」「影響されすぎてしまう」ことが主な症状。
  • ストレスに敏感な結果、二次的に「うつ」「対人不安」が出る場合がある。
  • 「二次的な症状」をいかに防ぐかが、HSPと付き合う大きなカギになる。

HSPは、精神医学的には何か?

 

大半は「不安神経症」ですが、ほかの原因のこともあります。

  

HSPはあくまで「心理学的定義」のため、精神科医としては、「精神医学的に何か」を見定める必要があります。

  

定義的に該当するのが「生まれながらの」不安障害、いわゆる「不安神経症」ですが、時に、発達障害など、別の原因が隠れていることがあります。その場合、対策の方向が変わるため、診察の中で見極めていくことが重要です。

  

具体的には、以下の可能性を考えます。

 

①不安神経症(生まれながらの「不安障害」)

  

以前から、幼少期からの「敏感で気を使いすぎる」性質としての「不安神経症」の概念があり、これとHSPはかなり合致します。(なお、DSM-5での「不安障害」も似ているのですが、より幅広く「途中で不安が強くなった場合」も入ってしまうため、「生まれながらの」不安障害、というとしっくりくるかと思われます)「敏感さ」「考えすぎること」「気を使いすぎる・影響されすぎる」ことすべて合致します。

  

②以降の原因が否定的であれば、この診断になります。

 

②ADHD

  

「敏感さ」の点で似た点が多く、鑑別が必要です。「気をつかわずついやってしまう」ことなど、HSPとの違いはいくつかありますが、タイプによっては一見似て見える場合もあり、その場合は、心理検査などを要することがあります。

 

③自閉症スペクトラム障害(ASD)

  

「感覚の敏感さ」「深く考えるところ」などでの共通点があり、鑑別が必要です。ASDでは「空気を読めない」HSPでは「空気を読みすぎる」ことが大きな違いですが、ASDの人が努力等で「場の推測」ができるようになると、似て見える場合があり、その時は心理検査などを要することがあります。

 

④他のこころの不調(うつ病・社会不安等)

  

うつ病や社会不安症の症状で「敏感さ」「考えすぎる」ことが出る場合があります。これは発症後に「後から」出てくることがHSPとの違いです。ただし、HSPの人が二次的にうつ病・社会不安症などになる事もあり、合併もふくめ見極める必要があります。

 

⑤体の原因(甲状腺など)

  

甲状腺ホルモンの異常など、体の原因で「敏感さ」「疲れやすさ」等が出る場合があります。これらは採血検査で、多くのものは見極めることができます。

  • HSPは心理学の定義のため、精神科医としては、精神医学的な診断の読みかえを要する。
  • 「生来の」不安障害(いわゆる「不安神経症」)とほぼ特徴が一致している。
  • ADHDやASDと「過敏さ」など一部似ている面があり、その鑑別が重要になる。

心療内科・精神科での、HSPへの取り組み

 

精神医学的にどうか診断し、その治療をします。

  

「HSPではないか」と相談した方でも、よく聞くと「不安神経症」のこともあれば「ADHD」の場合もあります。そして、その診断により、行う対策は異なってきます。

  

そのため、心療内科・精神科では、「HSPではないか」とご相談の方に関し、「精神医学的にどういう診断になるか」を見極めます。そして、HSP特性の方には、「うつ病」「社会不安症」などの二次的なこころの不調が合併することがあるため、その有無を見極めます。

  

そして、「精神医学的診断」「二次的な不調の有無の診断」をもとに、できる治療の方向を示していきます。

大まかには、以下のようになります。

精神科診断名と治療

  • 不安神経症→リラックス対策、環境調整、(漢方薬等)
  • ADHD→特性の理解、ADHD治療薬、サポート体制模索
  • ASD→特性の理解、サポート体制模索
  • 体の原因→内科での検査と内科的治療
  • 二次的なこころの不調→その治療(薬など)
 
  • 同じ「HSP特性」でも、精神医学的にはいくつかの可能性あり、治療法も違う。
  • そのため、精神科的な診断と、二次的なこころの不調の診断を心療内科では行う。
  • その精神科的診断をもとに、治療方針を決め、必要な治療を行う。

HSP特性への対処の方法論

 

弱点をカバーして、本来の長所を生かす。

  

精神科的に「不安神経症」の場合は、くすりは補助的な役割であり、「特性への対処」が重要になります。

  

方向性は「弱点をカバーして、本来の長所を生かす」こと。環境を整える等で、HSP特性(敏感すぎる等)の弱点をカバーし、本来の長所である「深く考えられる」「気遣いができる」等を生かしていくことです。

  

特に現代社会において、HSP特性の「長所を生かす」ことは、そう難しくないことと思われます。そのため、いかに「弱点をカバーできるか」がカギになります。

  

その「弱点カバー」の方法の例を、以下に示します。

①考えすぎない練習

「深く考える」ことは必要時は長所ですが、必要ないことまで「考えすぎる」と、消耗したり、考えにとらわれて動けなくなってしまいます。

対策として「必要な時だけ考える」ことが目標ですが、そのためには「無意識に考えるくせ」を減らすことが重要です。(そして、「考えるか」自分で選びます)

具体策としては、考え過ぎそうになったときに、気づいて、「別のことに集中する」方法があります。無意識だと考えすぎるため、あえて「別のことに集中する」ことで、結果として考えすぎを防ぐ方法です。

②刺激を減らす(環境調整)

敏感さで「疲れすぎる」ことを減らすためには、「刺激を減らす」のが一番の対策になります。

生活する中で、聞こえること、見えるものなど、すべてが「刺激」です。一見何もなくても、無意識に大きな「刺激」になっていることもあります。

家や通学、職場(学校)などを振り返り、どういったことが強い刺激になっているかを見極めたうえで、例えば「部屋をなるべくシンプルにする」など、できる範囲で、刺激を減らす試みを、様々な場面で積み重ねていくことで、刺激と疲労を減らすことを期待します。

③対人距離の確保の練習

「強い共感」は、必要な場面では大きな強みですが、多くの場面では影響を受けすぎたり、疲労してしまう原因にもなります。

基本的には無意識だと「他者との距離が近すぎる」と思っておくとちょうどいいと思われます。そのため日常では「意識的に距離を取るくらいがちょうどいい」と思われます。

そのため、普段より「少し距離を取る」練習をしていきます。なれたら、体調や必要性に応じて「距離を調整する」ことができると、弱点カバーと長所を生かすことの双方ができます。

④リラックスと休養

HSP的な状態では、無意識だと常に「緊張して・動きすぎ・休まらない(疲れてしまう)状態と言えます。その対策としては、意識的に「リラックス」「休養」をとれることが、非常に重要です。

緊張に慣れていると、「リラックスする」「休む」ことは、すぐにはつかみにくいかもしれません。ここは「反復練習」が大事と思われます。自分に合ったリラックス方法を試行錯誤し、見つけたら、それをもとに「しっかり休む」方法を見いだせると、疲弊しての不調のリスクは、だいぶ減ります。

  • HSP特性には薬は補助的。「弱点をカバーし長所を生かす」取り組みが重要。
  • 考えすぎない、刺激を減らす、対人距離、リラックス・休養がキーワード。

どんな時に受診を考えるか?

 

自分の「対処」で限界あるときは、受診の検討を。

 

HSPの人が2割いるとして、すべての人が受診が必要なわけではないと思われます。まずは、先ほどの「リラックス」「刺激を減らす」などの対策を取っていき、つらさがカバーできるのであれば、あえて受診は必要ないとも思われます。

逆に、対策だけではカバーできない場合は、受診が選択肢になると思われます。特に次のような場合は、受診を検討するといいと思われます。

①対策を続けても生きづらさが強い

対策を続けても緊張が取れない、すぐ疲れてしまうなど、生きづらさが強い場合は、受診が選択肢になります。「不安神経症」以外の原因がないかを調べるとともに、必要に応じ「つらさ」を和らげる薬を使うことも選択肢になりえます。

②社会生活・対人関係がやりにくい

ご自身でHSPと思った場合の中に、実はその敏感さが「発達障害(ADHD/ASD)の感覚過敏」という場合があります。過敏さのほかに、忘れ物が多かったり(不注意)、対人面のやりにくさ(社会性の障害)があったりする場合は、発達障害の可能性があり、対策やサポートも異なってくるため、今後の対策のためにも、一度受診するのが選択肢になります。

③最近、落ち込みや不安が強まった

敏感さが(幼少期からでなく)最近強まった場合、落ち込みや不安が一緒に強まった場合は、HSPではなく、うつ病・適応障害の可能性があります。また、元からHSP特性のある方に最近落ち込みなどが出てきた場合は、二次的にうつ状態が合併した可能性があります。どちらの場合でも、うつ病等に準じた治療で改善の余地があるため、受診が選択肢になります。

④体の不調を合併している

敏感さに、その他の体の不調を合併している場合、いわゆる「自律神経失調症」の場合のほか、体の病気が隠れている場合があります。その場合は、身体面の見極めも含め、受診して一度原因や状況をはっきりさせることが望まれます。

 
  • まずは「リラックス」「刺激を減らす」などの対処を取り、つらさが減るか見極める。
  • それでもつらさが残る場合は、一度受診し、方向を見定めることが望まれる。
  •  
  • また、対人面の難しさや、最近の落ち込み・体の不調ある場合も受診検討を。

当院でできること、できないこと

 

民間のカウンセリングが望ましい場合もあります。

  

HSPの対策では、医療機関のほかに、民間のカウンセリング施設を活用される方もいます。それぞれ一長一短あり、人や状態により、適応は変わってくると思われます。

  

それは当院でも同様で、できる事、できないことがあります。以下に示します。参考にしていただければ幸いです。

<できること>

 

①精神科的な診断の確定

HSPの特徴があっても、実際はいくつかの原因が可能性としてあり、それによって適切な対策の方向性が変わってきます。この、「HSP特性を精神医学に翻訳して診断すること」は、精神科医療機関の得意とするところです。

 

②取り組みの方向性の助言

精神科的な診断(二次的な合併症も含む)がさだまれば、おのずと、とるべき方向性が見えてくるため、その助言を行うことができます。

 

③必要な薬での治療

不安・緊張を和らげるくすり、合併したうつ状態への薬などを相談しつつ使用し、不安・緊張・落ち込みなどの症状の改善を図っていくことができます。

 

<難しいこと>

 

①「HSP」そのものの診断

あくまで医療機関での診断は「精神科的な診断」であり、「HSPかどうか」自体に関しては正式な診断を行うことはできないとされます。

 

②「HSP」そのものへの薬の治療

心療内科では、うつや不安・緊張などへの薬の治療は可能ですが、HSP自体(生まれながらの敏感さ)への治療薬は、2021年現在ない状態です。

 

③時間をかけたHSP特性への取り組み

心療内科では、一般的には「診察」「くすりの治療」が柱になり、いわゆる「じっくり時間をかけたカウンセリング」は難しい面があります。(再診は5-10分になります)

この点に関して、民間のカウンセリング施設を活用することは、選択肢の一つと思われます。

  • 精神科的な診断と・それに基づく方向性の助言、必要な薬の治療が医療機関で行える。
  • ただし、「HSP」自体の診断、根本治療薬等に関しては、難しい面がある。

まとめ

 

「弱点をカバーし、長所を生かす」が大事です。

  

HSPとは「敏感すぎる」状態。無意識だと、「ずっと大音量を聞いている」ように、疲れ果てたり、二次的にうつなどになる恐れがあります。

  

一番には、「刺激を意識的に調整し、休養を取る」など「疲労状態を防ぐ」工夫を継続して弱点をカバーすることです。

  

一方で、「敏感さ」が実は、発達障害など、別の原因がある場合もあります。工夫してもつらさが続く場合は、受診をして、とるべき対策の方向性を見定めていくのも、選択肢になると思われます。

  • HSPは、「生まれながらの敏感さ」ともすると疲弊してしまうリスクがある。
  • 「刺激の調整」「休養」など、自主的にできる弱点カバーの方法がある。
  • 時に発達障害などが隠れていることもあり、つらさが続くなら、受診も選択肢。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)