自律神経失調症
体を整える「自律神経」の不調
体のバランスをとる「自律神経」。ここが不調になると、体のさまざまな部分に不調が出ます。
ストレスが影響し、多くの場合背景に「うつ病」「適応障害」などのこころの不調があります。
ストレス対策、リラックス対策とともに、背景の「こころの不調」の治療も重要です。
- 自律神経失調症は、体のバランスをとる「自律神経」の不調のことです。
- 自律神経失調症では体のバランスが崩れ、様々な「体の症状」が出ます。
- 内科的な病気と症状が共通しますが、「体の原因がない」ことが違いです。
- ストレスが発症に影響し、多くの場合「適応障害」等こころの不調が背景にあります。
- ストレスと関連し長期間続くこと、他のこころの症状がある等で、可能性を考えます。
- 自律神経に直接効く薬はありません。緊張の緩和や、ストレスへの対策が対策です。
- 背景に「こころの不調」がある場合は、その治療が大きな対策になります。
もくじ
- はじめに
- 自律神経失調症とは
- 自律神経失調症の症状
- 「体の病気」との違い
- 自律神経失調症の引き金
- こんな時に自律神経失調症を疑う
- 治療の方向性
- 具体的な治療の方法
- まとめ
- 自律神経失調症:動画での説明
はじめに
内科でも原因がわからない、長く続く体の不調。
「体の不調があるけど、内科では問題ないといわれた」こうした相談を、お受けすることがしばしばあります。
最近では、こうした場合に、「心療内科を受けてみては」と内科などの先生から勧められる場合も少なくないようです。
ここで想定されるのが、体のバランスを整える「自律神経」の不調、自律神経失調症です。
一方で、この「自律神経失調症」、なかなか漠然としてイメージが見えにくいとの声も聴きます。ここでは、自律神経失調症について、原因、症状、対策などをまとめています。
- 「体の不調はあるが、検査で異常がない」場合、自律神経失調症を想定する。
- 体のバランスをとる「自律神経」の不調が、自律神経失調症。
自律神経失調症とは
体のバランスをとる「自律神経」の不調です。
体の多くの臓器に、バランスをとるための「自律神経」が走っています。自律神経は、緊張をつかさどる「交感神経」と、リラックスをつかさどる「副交感神経」の2つがあり、バランスを取り合うことで、各臓器がスムーズに活動することができます。
この2つの自律神経のバランスが崩れてしまった状態が、「自律神経失調症」の状態です。その場合、自律神経が作用している臓器は多くあるため、影響を受ける範囲も、幅広いものになります。
- 多くの臓器に「自律神経」が走っており、その活動を整える役割をしている。
- 自律神経には、緊張の「交感神経」リラックスの「副交感神経」の2つがありバランスをとっている。
- そのバランスが崩れたのが「自律神経失調症」。多くの臓器に影響が及びうる。
自律神経失調症の症状
様々な場所に、様々な症状がでます。
では、自律神経失調症では、どのような症状が出るでしょうか?自律神経は多くの臓器を走っているため、文字通り様々な臓器に、様々な症状が出てくることになります。具体的には、以下のようになります。
自律神経失調症の症状の例
- 頭痛
- めまい・ふらつき・耳鳴り
- 息苦しさ、過呼吸
- 吐き気・胃の痛み
- 下痢・便秘が交互に起きる
- 体のほてり
- 朝起きられない
これらの症状のすべてではなく、いくつかが出現し、かつ時に症状が移り変わります。また、人によって、出やすい症状が違います。
- 自律神経失調症では、様々な場所に、様々な体の症状が出る事がある。
- 症状はいくつか出現し時に移り変わる。また人により出やすい症状が異なる。
「体の病気」との違い
「体の原因がない」ことが大きな違いです。
例えば貧血によるふらつきであれば、「貧血」というからだの原因が、検査でわかります。しかし「自律神経失調症」でのふらつきであれば、あくまで自律神経の不調が原因のため、検査で原因が判明しません。
このように、「体の原因がない」ことが、体の病気との「自律神経失調症」の違いです。(ただし、まれな病気では、厳密な検査を重ねて初めてわかることもあるため、体の原因が「実は」隠れている可能性は、常に考えておく必要があります)
そのため、体の不調はあるが、それに見合った「体の原因」が検査等ではっきりしない場合に、自律神経失調症の可能性が考えられ、「心療内科を受けてみては」と提案されることになります。
- 症状はあるが「体の原因がない」ことが、「体の病気」との大きな違い。
自律神経失調症の引き金
緊張とストレスが引き金。心の不調が背景のことが多い。
自律神経失調症の大半は「交感神経が強すぎる」不調、言い換えると「緊張が強すぎる」状態です。また、ストレスがしばしば「緊張」の引き金になります。
また、何も引き金なく自律神経だけが不調になる事は少なく、しばしば、背景に、ストレスや緊張と関連する「こころの不調」があります。
具体的には、以下のような心の不調が隠れていることがあります。
①うつ病
うつ病では、こころの症状の他、だるさ、吐き気などの「からだの症状」が出る事がありますが、これがまさに「自律神経失調症」の症状です。(うつ病の「自律神経症状」という言い方をします。)
うつ病があると、不安・緊張が強まって自律神経のバランスが崩れ、「自律神経失調症」の症状が出る事があります。
②適応障害
適応障害は別名「ストレス反応」ですが、ストレスの反応はこころの症状の他、緊張・不安を通じた「自律神経失調症」の症状で出る事もあります。
「会社に行こうとすると吐き気が止まらない」などは、まさに典型的なストレスに反応しての「自律神経失調症」の症状です。
③パニック障害
パニック障害のパニック発作は別名「自律神経発作」、急な交感神経の興奮による発作です。発作がない時も予期不安などを背景として緊張が優位となるため、その際に「自律神経失調症」の症状が出る場合があります。
④不安障害(不安神経症)
不安が強い「不安障害」の方は、常に緊張(交感神経)が優位にある状態でもあります。そのため、その自律神経のアンバランスから、「自律神経失調症」の症状が出やすい状態にあると言えます。
- 自律神経失調症の大半は「緊張(交感神経)優位」ストレスが引き金になりやすい。
- 多くの場合、自律神経の不調の背景には、「こころの不調」が隠れている。
- 具体的には、うつ病、適応障害、パニック障害、不安障害等が隠れていることがある。
こんな時に自律神経失調症を疑う
症状が動く、ストレスで悪化するなどがヒントです。
では、どういった時に(体の病気ではなく)自律神経失調症を疑うか?端的に言えば、「体の病気」で説明するには不自然な面があったときにそれを疑います。
具体的には、以下のような場合に疑います。
自律神経失調症を疑う例
- 症状の種類、場所が移動し、一定しない
- 変動しながら、症状が長く続く
- ストレスによって症状が大きく変動する
- 内科等での検査で、想定された異常が見つからない
- 落ち込みなど「他のこころの症状」がある
- 体の症状があるが、「体の病気では説明がつかない不自然さ」あるときに、主に疑う。
- 症状の変動、ストレスによる変化、他のこころの症状の存在が、主なヒント。
治療の方向性
リラックス・ストレス対策・心の不調の治療が主な対策です。
では、自律神経失調症は、どのように治療するといいでしょうか。
まず前提なのは、「自律神経に直接効く」薬はありません。(よく、自律神経を整える薬として「抗不安薬」が処方されることがありますが、これはリラックスを図り、二次的に自律神経のバランスをとることが目的です。)
では、どうするか?
引き金になる緊張・ストレスや、背景にある心の不調に対して働きかけるのが、実際の対策になります。
自律神経失調症の治療の方向
- 緊張を和らげるための「リラックス対策」
- ストレスの影響を減らすための「ストレス対策」
- 背景にある「こころの不調」への治療
- 自律神経に直接効く薬はない。
- そのため引き金の緊張・ストレスや、背景のこころの不調に介入していく。
具体的な治療の方法
見立てを踏まえ、必要なところに介入します。
自律神経失調症は、直接効く薬はないため、引き金になる緊張・ストレスや、背景のこころの不調に介入していきます。
診察を通じて、どの部分が特に引き金か、背景のこころの不調は何かを「見立て」それに応じた介入を行っていきます。
具体的な介入の方法は、以下のようになります。
①リラックス対策
緊張が背景として強い場合は、リラックスを図ることを対策とします。これには以下のような方法があります。
リラックス対策の例
- 深呼吸などのリラックス法の練習
- マインドフルネスの活用
- 抗うつ薬、漢方薬、抗不安薬の使用
薬なしでリラックスを図れることが望ましいですが、社会不安障害が背景にあるなど、緊張が強い場合は、その治療を兼ねて、抗うつ薬等を使っていく場合があります。
②ストレス対策
ストレスの影響が強い場合は、その対策を検討、実践していきます。これには以下のような方法があります。
ストレス対策の例
- 環境調整(環境からのストレスを減らす)
- 問題解決(ストレスになる問題を解決する)
- 考えのくせの見直し(自分で自分にストレスをかけない)
- 生活リズム・生活習慣の改善
- 体調管理
- 対人技術(自己主張など)の獲得
- ストレス発散法の習得
- 現実の整理と受け入れ
これらの中で、ストレスの要因として大きい部分を見極め、そこに合った対策を行っていきます。
③背景の「こころの不調」の治療
背景に、うつ病などのこころの不調があった場合、その治療を行い改善すれば、結果として症状の一つ手ある「自律神経失調症」も改善します。
診察、診断結果を踏まえ、以下のように治療することを通じ、改善を図ります。
こころの不調の治療の例
- うつ病→休養・薬物療法・精神療法
- 適応障害→ストレス対策+(必要時)薬の活用
- パニック障害→抗うつ薬・脱感作法
- 不安障害→リラックス対策等+(必要時)抗うつ薬
- 診察・診断を通じ「見立て」を行い、必要なところに介入して改善を図る。
- 緊張に対しては各種リラックス対策を行い、必要時、くすりも使っていく。
- ストレス対策は様々な取り組み方があるが、見立てに沿って必要なことを行う。
- 背景にこころの不調があれば、その治療で「自律神経失調症」も改善を見込む。
まとめ
多くはこころの不調が背景にあり、それも含め治療します。
自律神経失調症は、一見体の症状ですが、体のバランスをとる「自律神経」の不調で起こり、緊張やストレスが引き金になるほか、しばしばうつ病等の「こころの不調」が背景にあります。
直接自律神経に聞く薬はないため、引き金の緊張やストレスへの介入、および背景の「こころの不調」への治療を、「見立て」に沿って行うことで、結果的に「自律神経失調症」の改善を図ります。
- 自律神経失調症は、体のバランスをとる「自律神経」の不調で起こる。
- 一見体の病気と似ているが、検査で異常がないなどから可能性を考える。
- 緊張・ストレスが引き金になるほか、多くはうつ病等の「こころの不調」が背景にある。
- 緊張・ストレス面の対策および「背景のこころの不調」の治療で、改善を図っていく。
自律神経失調症:動画での説明
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)