社会不安障害
人前で、強い不安が起こる
発表の場面など人が多い場面で急に緊張する「社会不安」が主な症状です。
不安で人前を避けると活動範囲が狭まり、時に引きこもりになる事があります。
抗うつ薬の治療を土台に、徐々に対人的な不安に慣らす「脱感作」を並行します。
- 社会不安障害は、発表などの「人前の」場面で強い不安・緊張が繰り返し起こるこころの不調です。
- 慢性化すると人前の場面を「回避」して活動範囲が狭まり、悪化すると引きこもりになる事もあります。
- 治療の柱は、「薬物療法」と、徐々に不安にならす「系統的脱感作法」の2つです。
- 薬は主に「抗うつ薬」を続けて使い、強い不安の時に頓服で「抗不安薬」を使います。
- 「脱感作法」では、対人的な不安な場面を回避せず、徐々に負荷を増やしつつ「慣らし」ます。
- 治療初期は薬主体、次第に「脱感作」を続けて、安定が続くなら薬を徐々に減らします。
もくじ
はじめに(社会不安障害とは)
対人場面での強い不安・緊張をくり返すこころの不調です。
仕事での発表やパーティーなど、「人前の」場面で強い不安・緊張が繰り返されるのが社会不安障害です。
症状が慢性化すると、次第に人前の場面を「避ける」ようになり、結果、活動範囲が狭まり、重症化すれば「引きこもり」状態に至る場合もあります。
「人前であがる」「あがり症」などというと、性格の問題と言われがちですが、多くの場合で薬などの治療が効果的であり、取り組みによって改善が望めます。
ここでは、「治療できるあがり症」としての社会不安障害について、症状や治療法などを見ていきます。
- 社会不安障害とは、「人前の」場面での強い不安・緊張が繰り返されるこころの不調。
- 「性格」と思われがちだが、薬などの治療で、多くの場合で改善が期待される。
社会不安障害の症状
「人前での」強い不安と、人前を避ける「回避」の2つが主な症状です。
社会不安障害の主な症状は、①「人前での」強い不安、②人前を避ける「回避」、の2つです。
①「人前での」強い不安
人に見られる場面、具体的には、「人前での発表」や「面接」などの場面において、強い不安や緊張が生じます。自律神経の不調も生じるため、吐き気や動悸などのからだの症状も出てくることがあります。これが、同様の場面になると、繰り返し生じます。
②人前を避ける「回避」
人前で強い不安が出る事が繰り返されると、そうした場面への「予期不安」が強まり、次第に、そうした人前の場面を「回避」してしまうようになります。
人前の強い不安の例
- スピーチで強く緊張し「頭が真っ白になる」
- 面接で強く緊張し、思いもしないことを言ってしまう
- 複数人での「会食」で強く緊張してしまう
- 他の人の視線が気になって落ち着かない
- 話しかけられると緊張から汗が止まらない
「回避」の例
- 人前での発表の場面を避ける
- 人と一緒に会食することを避ける
- 人が多くいる場面を避ける
- 話しかけられないように、人を避ける
- 就職面接を避け、なかなか仕事が決まらない
- 社会不安障害の主症状は、「人前での強い不安」と「対人場面の回避」。
社会生活への影響
慢性化すると、行動範囲が狭まってしまいます。
では、この「社会不安障害」があると、どのように、社会生活に影響が出るでしょうか。
緊張による失敗の他、「回避」で活動範囲が狭まる結果、以下の3段階で、幅広い影響が出ます。
①対人緊張による「失敗」
発表の際強く緊張するなどした結果、本来のパフォーマンスを発揮できない、想定外のミスをするなどの「失敗」に至ることがあります。その結果、周りから本来の「評価」を受けられなくなる場合があります。
また、失敗しなくても、その場面は強い緊張を伴う「いやな経験」となってしまいます。
②「回避」で活動範囲が狭まる
こうした緊張と「失敗」が反復した結果、「失敗しそうな」人前の場面を避けるようになり、活動や、仕事選択の幅が狭まってしまいます。
また、失敗の反復で自己肯定感が悪化し、「また失敗するだろう」との思いからさらに挑戦の意欲がそこなわれ、活動範囲が狭まっていきます。
③生活困難・引きこもり
慢性化すると、「人が怖いため買い物に行けない」など、生活全般に影響が出る事があります。その結果、「まわりが怖くて外に出られない」引きこもり状態に至る場合もあります。
実際は③までは至らない場合の方が多いですが、社会不安のために「本来の活躍ができなくなる」ことは非常に多く、それはとても残念なことです。
- 社会不安障害があると、「人前での失敗」「活動範囲の狭まり」が起こり、社会生活に強く影響する。
- 症状が強くなると、外出などの基本的な活動にも影響し、引きこもり状態に至る場合もある。
社会不安障害の治療の2つの柱
「薬の治療」と、不安に慣らす「脱感作」の2本柱です。
社会不安障害は、進行すると幅広い範囲で影響が出るため、早めの治療が重要です。
では、どのように治療するのでしょうか?
治療の2つの柱は、「薬の治療」と、不安に段階的にならす「(系統的)脱感作法」です。
薬でもとの不安・緊張をやわらげていき、その土台の下で、徐々に慣らす治療(脱感作)を並行していきます。
- 社会不安障害の治療は、「薬の治療」と、不安にならす「脱感作」が2本柱。
治療の柱①薬物療法
定期的には「抗うつ薬」を、つらい時に「抗不安薬」を使います。
薬の治療(薬物療法)では、定期的には「抗うつ薬」を使うことが一般的で、強い不安の時のとんぷく薬として「抗不安薬」を持っておくことが一般的です。
①抗うつ薬(SSRI)
社会不安障害も、うつ病同様、脳の物質「セロトニン」の不足が影響するとされます。それを補正するのが抗うつ薬(SSRI)です。
効果が出るまで2-4週かかりますが、徐々に予期不安などの不安・緊張が和らぎ、発作が起こりにくくなります。
副作用など、相性が悪い場合は、他の抗うつ薬や漢方薬などが候補になります。
②抗不安薬(頓服)
飲むと15-30分ほどで効果が出て、緊張・不安を和らげる薬です。種類にもよりますが、4-6時間ほど効果が続きます。
「強い不安が起こりそう」な時に飲むと有効です。一種の「お守り」として持っておく方法もあります。ただし、安易に使いすぎると「依存」の問題があるため、「必要な時だけ使う」ことが大事で、「持っているが使わない」のが理想です。
- 定期的にはSSRIなどの「抗うつ薬」を続けて、不安・緊張の改善を図る。
- 強い不安が起こりそうなときに、頓服の「抗不安薬」を用いて悪化を防ぐ。
治療の柱②段階的に慣らす「脱感作法」
苦手な場面を回避せず「徐々に」慣らしていきます。
もう一つの治療の柱が、苦手な場面に「徐々に」ならす「脱感作法」です。
たとえば人前の発表で強い不安が出る場合、発表を避けると一見不安はなくなりますが、何かの偶然で人前に立つと、また強い不安が出ます。
脱感作法では、その逆をします。苦手な場面を「避ける」代わりに、あえて「体験して、慣らす」ことをします。
「苦手だが、何とかやり切れる」レベルで、徐々に慣らすことで、その場面への「予期不安」を減らしていき、慣れてきたら徐々に「強度」を上げていきます。
発表の例で行けば、初めは「慣れた友人との会話」で始め、慣れたら「5人くらいのミーティング」「20人くらいの発表」などと、段階的に強度を上げていき、慣らしていきます。
この方法は薬と並んで強力ですが、もし「強すぎる緊張」が起きるとかえって逆効果になるため、原則は薬(抗うつ薬)を土台として、主治医と相談しながら行ってください。
- 社会不安障害の第2の治療は、段階的に苦手場面に慣らす「脱感作法」
- 「苦手だが、何とかやり切れる」レベルで緊張に慣らすことを反復していく。
- 一歩間違えると逆効果になるため、薬と並行し、主治医と相談して行っていく。
治療の3段階
はじめは薬主体、その後は「脱感作」を並行します。
治療の経過は、大まかに、以下のような3段階に分かれます。はじめは薬の治療を重視し、改善してきたら、苦手に慣らす「脱感作」を重視していきます。
①治療初期
初期は、まず「不安・緊張を減らす」ことが、その後の「脱感作」につなげるためにも重要です。
そのために、抗うつ薬を始めて、量を調整しながら効果を見ます。
この段階では、まだ準備ができていないため、あまり「脱感作法」は行いません。
薬が効いてきて、以前より、似た場面での緊張が減ってきたら、「治療中期」に進みます。
②治療中期
中期では、抗うつ薬は続けながら、苦手な場面への「脱感作法」を徐々に行っていきます。
これまで回避してきた「人前の場面」で比較的やれそうなものから徐々に慣らして克服し、次第に克服する場面を広げていきます。
その結果、苦手な「人前の場面」が減るのみならず、回避が減って、生活・行動範囲も本来に戻ってきます。
十分に人前の場面の緊張が減り、生活・行動範囲も望んだレベルまで拡大したら、治療後期に進みます。
③治療後期
後期では、再燃を防ぎながら、徐々に抗うつ薬を減らしていき、最終的には中止を目指します。
抗うつ薬を減薬すると、効果が弱まるため、いったん不安がややぶり返します。この不安を、再度「脱感作法」を行うことで、「生活範囲を狭めずに減薬できている」状態に持っていきます。
うまくいったら、再度減薬し、脱感作で不安を抑えることをくり返していき、最終的には中止を目指します。
理想的には薬を中止して普段の生活に戻ることが望まれます。ただし、中止まですると「人前の強い不安」がぶり返してしまうこともあり、その場合は「少量の抗うつ薬を続けて」再燃予防しながら、社会生活を続ける場合もあります。
治療前期
- 目標:土台の緊張を減らす
- 抗うつ薬開始
- 必要時抗不安薬を使う
- 効果が出るまで待つ
治療中期
- 目標①:対人場面克服
- 目標②:活動範囲を広げる
- 抗うつ薬は継続
- 徐々に「脱感作」をくり返す
- 徐々に活動範囲を広げる
治療後期
- 目標:抗うつ薬中止(減薬)
- 徐々に抗うつ薬を減らす
- 不安には「脱感作法」で対応
- 活動範囲を狭めず薬を減らす
- 治療初期は「不安・緊張を減らす」が目標。抗うつ薬開始しつつ効果が出るまで待つ。
- 治療中期は「対人場面克服」「活動範囲拡大」が目標。徐々に「脱感作法」を継続する。
- 治療後期は「減薬・中止」が目標。脱感作法を合わせつつ、徐々に減薬する。
まとめ
人前の緊張も、治療で多くが改善します。
社会不安障害は、人前の場面での強い緊張と、人前の場面の「回避」が特徴で、その結果活動範囲が狭まり、強い影響が出ます。
抗うつ薬を主体とした「薬物療法」と、徐々に不安にならす「脱感作法」が治療の2本柱です。性格と思った部分も、改善が見込めることが少なくありません。
- 社会不安障害は、人前の強い不安と人前の「回避」が特徴、活動範囲も狭まってしまう。
- 治療法は抗うつ薬等の「薬物療法」と、徐々に不安にならす「脱感作法」が2本柱。
- 初期は薬主体、中期から脱感作を継続し、後期で、薬を徐々に減らすことを目指す。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)