動画で見る認知症

物忘れがゆっくりと進みつつ、不安などの「周辺症状」も出る事があります。
対策しやすい「周辺症状」の対処がカギ。早期での治療開始が望まれます。
治療と介護サービスの活用を並行、生活・人生の改善を図ります。
ご高齢の方に、徐々に「物忘れ」が進むほか、生活や考えることなどが徐々に苦手になる脳の不調、それが「認知症」です。
治療・対応がない状態で症状が進むと、周囲とトラブルになったり、精神的にも混乱し、対応が難しくなる場合があります。
一方で、早めに治療・対処をすることで、特に精神的な不調である「周辺症状」の予防・改善を図ることができ、認知症があっても、その人らしい生活を目指しやすくなります。
ここでは、認知症について、症状や治療・対応法などを見ていきます。
認知症は、基本的には「全般的な脳の機能の低下」が原因となります。一方、それがなぜかは、まだ解明されていない部分が多いです。
代表的な認知症である「アルツハイマー型認知症」では、「アミロイドタンパク」と言われる物質の影響などが言われ、研究が進んでいますが、まだ不明な点も多く、研究に沿った薬の実現も、まだ途中の状態です。
ただし、中には、アルツハイマー型ではない「原因がはっきりした」認知症の場合もあり、対応が変わるため、それは診察・検査の中で見分けていくことになります。
認知症の症状は、大まかにいうと、脳の不調(中核症状)とこころの症状(周辺症状)の2つに分けられます。
このなかで、特に介入が重要なのが、こころの不調(周辺症状)です。この周辺症状が強くなると周囲とのトラブルや事故の危険などが生じる一方で、介入により予防・改善が見込める部分が大きいためです。
では、この2つの症状を、もう少し詳しくみていきます。
「脳の機能の低下」から、直接出てくる症状です。記憶力の低下(物忘れ)のほか、時間や場所の感覚(見当識障害)、考えたり、感じ・実行する力の低下(認知機能障害)など、幅広い範囲で症状が出てくることがあります。
例えば、次のような症状が出ます。
これは、脳の機能の低下での症状のため、徐々に進んでいくことが特徴です。
脳の「中核症状」があると、「前できたことがうまくいかない」「なぜか怒られてしまう」など、ストレスがかかることが多くなります。
その結果、ストレスと、脳機能の「ストレスへの余裕のなさ」を背景とした「こころの不調(周辺症状)」が出てくることがあります。
症状は様々な分野に出てくることがあり、重さもそれぞれです。例えば、次のような症状が出ます。
特に重い周辺症状が出ると、ご本人の尊厳がそこなわれるほか、周囲とのトラブルになったり、生活を続けること自体が難しくなることがあります。
一方で中核症状と比べると、心理面・環境面の働きかけによって、改善を見込みやすい症状でもあります。
早い段階での治療・ケアをお勧めする最大の理由は、この「周辺症状の予防・改善」にあります。
たとえば「うつ病」など、一見、認知症と似た症状を起こす「別の病気」があり、それが原因のことがあります。もしそれがあれば、その対策を取ることで改善するため、診察の中で見分けていくことが大事です。
以下に、代表的な「別の病気」の例と特徴をまとめます。
認知症の診断では、主に「認知症であるか」「別の病気が隠れていないか」の2つに関して見ていきます。具体的には、これまでの症状の経過(病歴)を聞くことを主に、今の症状(質問の検査)、画像などの精密検査を組み合わせて、確定診断を行います。
具体的には、以下のようなことをします。
認知症では、中核症状と周辺症状の2つの方法があり、また、医学的治療のほかに、介護保険制度を用いたケアの活用が重要になります。
主に行う内容をまとめると下のようになります、詳細は、次の章以降になります。
中核症状には、ドネペジル等の「進行を遅らせる薬」を使います。ただし、これはあくまでも「進行を遅らせる」作用であり、「進行しない」もしくは「改善する」ものではありません。そのため、できる対策として「進行を遅らせる」ことはしつつも、「徐々に進行する」ことを受け入れつつ、対策を取っていく必要があります。
また、生活の面では、「頭を使う」習慣が重要です。体を普段から使うことで「体の機能を保つ」ことと同様に、頭を普段から使うことで「脳の機能を保つ」ことが、「進行を遅らせる」点からは、やはり有効です。
「頭を使う習慣」は、自主的に取り組むことでも有効ですが、特に「無気力・意欲の低下」などがある場合は、なかなか自分では難しいこともあります。その場合は、デイサービスなどを導入し、サポートの枠組みの中で「頭を使う習慣」を保つのも有効と思われます。
周辺症状は、多くの場合、症状の悪化に、「生活・環境でのストレス」がからんでいます。まずは、その点での改善を図ります。
「わかりにくい」「落ち着かない」「役割がない」ことがストレスの大きな要因です。環境調整として、まずは細かい「余分な刺激」を減らしてなるべく家をシンプルにして落ち着きを図ること、および大きく、わかりやすく場所の説明の紙を張るなどとしてご本人の負担を減らし「わかりやすくする」ことが有効です。そして可能なら、家での「役割・長所」を見つけ、できたことをほめることで、「役割・自己肯定感」を保ってもらうといいでしょう。
これらは家だけでは難しかったり、長時間だと介護する側の人が疲れ切ってしまうことがあります。そのため、デイサービスを主体とした介護サービスを導入し、枠組みとして「わかりやすく・落ち着けて・役割がある」状況を作るのが、ご本人・介護者の双方にとって有効と思われます。
こうした環境の調整だけでは周辺症状が治まらなかったり、強い周辺症状のために生活が難しい場合は、くすりの使用を検討します。
年齢もあり、薬による負担もあるためなるべく最小にとどめたいですが、「使わないと生活・介護が困難」であれば、必要最小限で使っていきます。その場合抗精神病薬・抗うつ薬などを用いますが、「抑肝散」などの漢方薬が、安全には使いやすいと思われます。
それでも症状が強く、生活を続けることが難しい場合は、一旦入院して立て直すことが必要になる事があります。しかし可能なら、なるべく入院に至る前に、対策を取り、改善を図りたいところです。
中核症状や、強い周辺症状には薬の治療を行っていきますが、それと並んで、生活面を支えるための「介護サービス」の活用が、認知症の対策に重要です。
介護サービスの活用には、「介護保険」の認定を受ける必要がありますが、そのためには、医師に「診断」を受ける必要があります。
医師に(認知症の)診断を受けたうえで、市の「介護保険窓口」に申請を行うと、調査を経て、要介護度が決まり、介護保険の利用が可能になります。
その後、近くの「ケアマネージャー」に相談し、使うサービスを決めた「ケアプラン」を作り、実際にサービス利用になります。
サービスの種類は多いですが、メインは、週数回定期的に通う「デイサービス」と、短期間宿泊する「ショートステイ」の2つです。ご本人が活動して周辺症状の予防等を図るほか、介護するご家族が心理的余裕を持ち、無理なく介護を継続するための助けにもなります。
経過により症状が変化するため、それに合わせてデイサービスの頻度の見直しなど、ケア体制の調整を行っていきます。
認知症は、特に重い「周辺症状」が出ると、生活に大きな困難が出てしまいます。一方、早期から治療とケアを始めていくことで、周辺症状を予防し、物忘れ自体は徐々に進んでも、生活は崩さず、その人らしい人生を継続していくことが期待されます。
治療をするにも、介護保険を受けるにも、まずは診察と診断が必要になります。もし物忘れの兆候があれば、早めのご相談をお勧めいたします。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)