不眠症(睡眠障害)
寝付けない、すぐ目が覚める
不眠は、長く続くと心身の不調の引き金になり、早めの対応が重要です。
まずは生活習慣などを整える「生活の治療」。それでも難しい時にくすりの治療を。
ここ最近では、依存のない睡眠薬が使用可能で、時に効果が期待できます。
- 不眠症は、他の心身の不調の原因にもなるため、注意が必要です。
- 「入眠困難」「中途覚醒」「熟眠障害(浅眠)」に分類されます。
- 緊張が引き金に。ストレスやうつ病等、様々な誘因があります。
- 生活面での治療を行い、それでも続く場合薬の治療を並行します。
- 生活面では「生活習慣」「考え方」の調整をします。
- 薬では、最近は、依存がない薬を使う選択肢も出てきました。
もくじ
はじめに
不眠は他の不調の原因にもなり、早期治療が重要です。
なかなか寝付けなかったり、途中で目が覚めてしまう「不眠症」。緊張が引き金になるため、「眠れない」ことを意識しすぎると、さらに、緊張、不眠が続く悪循環に陥ってしまいます。
また、不眠が続くと、身体面、精神面双方の不調が起こる原因にもなるため、早めの対策が重要です。
不眠症の治療はまず生活面の治療をしますが、それでも難しい場合は薬の治療を併用します。ここ最近では、依存のない睡眠薬も処方できるようになってきています。早めのご相談、対策をお勧めします。
- 不眠は緊張が引き金となり、考えすぎると悪循環になってしまう。
- 不眠は身体、精神双方の不調の原因にもなるため、早期の対策が重要。
- 生活の対策を取り、難しい場合は薬を併用。最近は依存のない薬もある。
不眠症の分類
入眠困難、中途覚醒、熟眠障害の3つに分類されます。
不眠症は、細かく分類されることもありますが、大まかには、次の3つに分類されます。これらは一つのみのこともあれば、いくつか合併することもあります。
①入眠困難
「寝付くことができない」タイプの不眠症です。
②中途覚醒
「途中で目が覚めてしまう」タイプの不眠症です。この一種として、朝早くに目が覚めてしまう「早朝覚醒」があります。
③熟眠障害(浅眠)
「眠りが浅い」「寝た気がしない」タイプの不眠症です。
不眠症の原因
多くは「緊張」が引き金ですが、その原因はさまざまです。
睡眠時は、リラックスの自律神経「副交感神経」が優位になります。何らかの原因で寝る前に緊張の自律神経「交感神経」が強く働くと、不眠になります。
不眠の多くはこの「緊張」で説明できますが、その原因は、以下のように、色々あります。
不眠の原因の例
- ストレスによる緊張
- 他のこころの病(うつ病など)
- 体の原因(痛み、じんましん等)
- カフェイン等の影響
- 生活リズムの乱れや変化
- 寝る前に刺激が多すぎる
- 「寝なければ」との考え方のくせ
- 不眠は寝る前の「緊張」が引き金になりやすい。
- その原因は、身体的(痛み等)、ストレス、考えのくせなど様々。
不眠による影響
心身の双方に影響が出ます。
不眠が続くと、以下のように心身の双方に影響が出るとされます。そのため、不眠が続く場合は、早めの対応が望まれます。
①日中の不調
日中の眠気、だるさ、集中しにくいなどの症状が出現します。不眠の翌日にまず目立ちますが、不眠が続けば慢性的に持続し、生活・仕事の質が落ちてきます。
②「うつ」等の発症、悪化
不眠の持続は強いストレスとなり、うつ病・適応障害の発症リスクとなるほか、症状悪化のリスクとなります。(そのため、うつ病などの時には、合併する不眠にも重点的に対応します)
③体調への悪影響
不眠が続くと体にも大きなストレスとなり、体調不良のリスクになります。糖尿病・肥満・高血圧といった生活習慣病の危険性を上げることが指摘されています。
- 不眠は翌日の不調のみならず、精神面・体調面の不調のリスクにもなる。
不眠の治療の2つの方法
まずは「生活の治療」をして、続くとき薬を併用します。
不眠に関しては、まずは生活面などを見直して睡眠の改善を図っていく「生活の治療」を第一に行います。ただし、それだけでは不眠が改善しない場合もあり、その時は薬を併用します。薬を使う場合でも「生活の治療」を並行して行っていくことが重要です。
なお、最近では、依存の心配がない睡眠薬も使えるようになっています。
- 不眠の治療は、まずは「生活の治療」それでも難しい時に薬を使います。
- 薬を使う場合でも、「生活の治療」は並行して行っていきます。
- 最近では、「依存の心配がない睡眠薬」も使えるようになっています。
治療の方法①生活面での治療
生活習慣、考え方の双方にアプローチします。
治療の一つ目は「生活面での治療」です。睡眠には、生活習慣やこころの状態、それに関係する考え方のパターンが影響します。そのため、生活習慣、考え方の2つの視点で介入し、睡眠の改善を図っていきます。
①生活習慣の改善(睡眠衛生)
「日中に動いて、夜はリラックスする生活リズム」がいい睡眠の基本です。仕事などの制約はありますが、なるべく、その基本に近づけることを方向性として、生活において様々なことに取り組んでいきます。
様々な取り組みがありますが、代表例は以下の通りです。
生活習慣の取り組みの例
- 夕方以降のカフェイン・煙草をなるべく避ける
- 必要のない飲酒を避ける
- 起きる時間を一定にして、寝る時間をそれに合わせる
- 日中に活動し、夕方からはリラックスを図る
- 日中に、短時間でも日光を浴びる
- 寝室の環境を整える(音、明るさ、物など)
- なるべく、午後3時以降の昼寝をしない
- 早く寝ようとしすぎず、眠くなるのを待つ
- 寝室には寝るときだけ行き、それ以外は行かない
- 眠れないときはいったん寝室を離れ、眠くなったら戻る
無理して一気にやろうとすると逆に緊張してしまうため、できそうなところから、徐々に取り組んでいくといいでしょう。
②考え方へのアプローチ
不眠が気になってくると、「寝ないといけない」と考え、その結果より緊張し寝られなくなる、そんな悪循環になる事があります。慢性化すると、寝室に行くと「寝ないと」と思い緊張して寝れないパターンになってしまいます。
また、寝る前になると次の日や今後が心配になり「考え事」をして、それで寝れない習慣がつく場合もあります。
これらの、逆効果になる「考え方のくせ」に、必要時アプローチします。具体的には、以下のような方法があります。
(1)「眠れなくてもいい」と考える
「寝ないといけない」と考えることで、かえってプレッシャーがかかってしまい、緊張→眠れないの悪循環になります。
対策として、逆転の発想ですが「(眠れた方がいいが)眠れなくても何とかなる」と考える方法があります。(実際、寝れなくても、次の日何とか仕事などをした方もいらっしゃると思います)「眠れなくても何とかなる」→プレッシャーが和らぐ→リラックスでき、結果として寝やすくなる、の流れです。
考え方は、1・2回ですぐに変わることは難しいですが、繰り返し練習することで、徐々に変化を図ります。
(2)「考え事」の時間をずらす
夜、静かになると、考え事をする習慣がある方は少なくありません。しかし、考え事は、「脳が活発に動く」「不安・緊張が出やすい」双方の観点から、しばしば睡眠には悪影響を与えます。
では、「考えなければいい」と思いがちですが、そうすると、かえって気になって考えてしまうことも少なくありません。
現実的な対策としては「考え事の時間をずらす」ことと思われます。「夕方までに考える」「次の朝に考える」と決めておけば、「無理して考えないようにする」とは違う形になるため、結果として夜の考え事を避けやすくなることを期待します。
これも「習慣づけ」なのですぐの変化は難しいですが、繰り返しの練習での変化を期待します。
- 治療の方向の第一は「生活面の治療」生活習慣と考え方を振り返り、必要なら介入する。
- 生活習慣の基本は「日中に活動し、夜はリラックス」その実現の取り組みを行う。
- 昼寝の予防、夕以降のカフェイン・飲酒を避けるなどは、日常的に取り組みやすい。
- 寝室の環境を工夫しつつ、「寝るときだけ寝室に行く」習慣をつけることが重要。
- 「寝ないと」と考えすぎると逆効果。逆に「寝なくても何とかなる」と考えた方が寝やすい。
- 夜の「考え事」の習慣は不眠い影響。現実的には考え事の「時間をずらす」ことが対策。
治療の方法②薬の治療
最近は、依存の目立たない薬も使えるようになっています。
不眠には、「生活の治療」が基本ですが、それだけではうまくいかない場合もあります。そのさいに、「くすりの治療」が適応になります。
これまで、睡眠薬には依存の問題があり、使うかは慎重に考える必要がありましたが、ここ最近では、別のメカニズムの「依存のない睡眠薬」も使えるようになっています。
薬を使う場合でも、「生活の治療」は一緒に行うことが重要です。特に「薬を減らしたい」場合は、「生活の治療」がうまくいくことが大事な要素になります。
具体的には、次のような薬があります。
(1)依存のないタイプの睡眠薬
ここ数年で、これまでの睡眠薬とは違うメカニズムの、依存がないタイプの睡眠薬が開発されました。種類も増えてきており、次第に幅広いタイプの不眠に対応できるようになりつつあります。
(ⅰ)オレキシン受容体拮抗薬
脳の覚醒をつかさどる物質「オレキシン」を受け取る部分(受容体)をブロックし、眠りをうながす薬です。一般の睡眠薬とはメカニズムが違い、依存の心配をせずに使うことができます。
使える薬は2種類あり、効果の短い「レンボレキサント」は寝つきの悪い人に、効果の長い「スボレキサント」は途中で目が覚める人に多く用いられます。
効果に個人差が大きいことが難点ですが、相性が合えばしっかりとした効果が経験上期待できます。
(ⅱ)メラトニン受容体作動薬
生活リズム調節を行うホルモン「メラトニン」と似た作用を持つことで、生活リズムを整えることにより、睡眠や生活リズム改善を促す薬です。
安全性が高く、かつリズムの乱れが影響する不眠には効果が期待できますが、スボレキサント・一般の睡眠薬と比べると、効果が弱いことが経験上多いです。
(2)ベンゾジアゼピン系睡眠薬
これまで主流とされた睡眠薬です。効果が強く、また持続時間によって使い分けることで幅広い不眠に対応できることが長所です。
一方で、長期使用した場合の依存の問題が出る場合があるため、必要性をしっかり検討するとともに、生活の治療と組み合わせ、安定した場合には減薬も検討することが望まれます。
効果の続く時間によって、以下のように分類されます。(一部メカニズムがやや違うとされる薬がありますが、おおむね同じのため、この中で分類します)
(ⅰ)超短時間型(ゾルピデム等)
半減期(体内の薬が減るまでの時間)が2-4時間と非常に短く、効果がすぐ切れるタイプの薬です。寝付けない(入眠困難)方に使います。
朝に残らないため使いやすい面がありますが、人によっては途中で目が覚める場合があり、その場合は別の薬を考えます。また、効果が明確な分、依存には注意が必要です。
(ⅱ)短時間型(ブロチゾラム等)
超短時間型より、やや効果が長く続くタイプです。寝付けない(入眠困難)に効きますが、途中で目が覚める(中途覚醒)方にも効果を期待します。
バランスがよく使いやすいのですが、一方で「中途半端」になってしまう場合もあり、その場合は別の薬を検討します。
(ⅲ)中時間型(ニトラゼパム等)
半減期が12時間前後と、やや長く続くタイプの薬です。特に、途中で目が覚める(中途覚醒)方に有効性を期待します。
人によっては、朝に眠気やだるさが残る場合があるため、その場合は、別の薬を検討します。
(3)その他の薬
睡眠薬との相性、不眠のタイプなどにより、次のような別の薬を単独、もしくは併用して使うがあります。
(ⅰ)漢方薬
不安・緊張を和らげる漢方薬です。リラックスを図ることで、結果的に睡眠の改善を促します。効果は睡眠薬より弱いことが多いですが、安全性の高さが長所です。
また、アレルギーの薬や安定剤などを、睡眠薬代わりに用いる場合もあります。
(ⅱ)その他の薬
他の薬(抗アレルギー薬、抗うつ薬、抗精神病薬)の中で、眠気が強く出るものがあり、その作用を期待して、それを用いることがあります。依存が少ないことを踏まえ、睡眠薬だけだと不眠が残る場合に併用する場合、睡眠薬の代わりに単独で用いる場合があります。
- 第二の治療法は「薬物療法」。生活面の対策だけでは厳しい場合に、開始する。
- 依存のない睡眠薬が最近では選択肢に。不眠のタイプにより使い分けていく。
- ベンゾジアゼピン系睡眠薬は効果は強いが依存の心配あり、必要な時に用いる。
- 場合によっては、漢方薬や抗アレルギー薬などを用いることがある。
- いずれでも、「生活面の治療」は、合わせて行っていくことが重要。
まとめ
不眠は心身に影響あり。早めの対応が大事です。
不眠症は、続くと心身両面の影響がみられるため、早めの対策が重要です。生活面の影響が強く出るため、まずは生活面の対策が重要ですが、それでも効果が難しい場合は、薬の治療を併用していきます。
以前は依存の問題もあり、睡眠の治療を迷われる方もいらっしゃいましたが、最近では、依存性のない薬も使えるようになっています。もし不眠が続く場合は、早めのご相談をご検討いただけますと幸いです。
- 不眠症は、他の心身の不調の原因にもなるため、注意が必要です。
- 生活面での治療を行い、それでも続く場合薬の治療を並行します。
- 生活面では「生活習慣」「考え方」の調整をします。
- 薬では、最近は、依存がない薬を使う選択肢も出てきました。
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著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)