うつ病の精神療法

うつ病を知り、自分を知る

うつ病には一般的な「脳の不調」の側面と、その人特有の課題の関与があります。

 

まずは「うつ病とは何か」と「自分の状態やくせは何か」を知ります。

 

そして治療は続けつつ、必要なら生活や考えのくせを調整していきます。

 

動画:うつ病の精神療法

もくじ

 
  1. はじめに
  2. 精神療法とは(具体的にすること)
  3. 総論①問題を抽出する
  4. 総論②相手に合う形で解決の方向性を提案する
  5. 各論①診断・治療に関しての解決の提案
  6. 各論②背景(考えのくせ等)に関しての解決の提案
  7. まとめ
  8.  

<はじめに:うつ病の精神療法>

今回は、「うつ病の精神療法」についてまとめていきたいと思います。

うつ病の治療では、休養・薬物療法・精神療法これを3本柱と言われます。その中で「精神療法」具体的にやることは、見えにくいこともあります。

今回はこの「うつ病の精神療法」について今一度まとめていきたいと思います。

<精神療法とは>

まずこの精神療法とはですが、教科書的には「対話・交流を通じて心の不調を改善する方法」ですが、具体的に言うと次のようになります。

まず医師・患者間の面談を通じて、各種問題に取り組める関係性をつくり、それを土台にして心の不調に関連するその人の問題を抽出し、そこに関して相手に合う形で解決の方向を提案していくこと。

その中で今回は後半の2つ「心の不調に関連する問題を抽出していって、相手に合う形で解決の方向性を提案していく」を扱います。

<総論①問題を抽出する>

まず、序盤の「問題を抽出する」というところ。

こころの不調の中での問題、大きく2つに分けると、まず「診断というところに関して」の問題の抽出、2つ目が「生活等の背景に関して」の問題の抽出です。

<診断に関して>

うつ病か適応障害かもしくは躁うつ病など別の病気か、これは情報を集め見極めます。

具体的には、これまでの経過・病歴、今の色々な症状、面接での様子等、様々な角度からの情報を集めてまとめ、見立てます。

その際、病名のほかにも重症度、必要な介入もあわせて見立てていきます。

<生活等の背景に関して>

その中で治療に影響するものに関しては、特に問題抽出が大事です。

いくつか要素がある中で見ていきますと、まず1つ目はストレス(対処法や耐性など)、2つ目が疲労(体力面や対処法など)、3つ目が生活面(生活リズム・睡眠・日中活動など)。4つ目が考えるくせ(自責・べき思考など)、5つ目が対人面(我慢し過ぎる・言い過ぎるな等)、6つ目が環境(負荷や相性など)最後は(うつ病以前の)自己肯定感。

<総論②相手に合う形で解決の方向性を提案する>

続いては、「相手に合う形での解決の方向を提案する」。まずは提案を「相手に合う形で」という点。

これは人によって背景や物事の理解の仕方、「うつ病」への思いなどが違います。

この背景を面談などを通じて見極めた上で、その相手にある種「響きやすい方法」で、いろいろな提案をしていくことが大事です。

そこを背景としながらも、解決の方向性を提案しますが、これも大きくは2つ、1つ目が「診断や治療に関して」の方向性の提案(全員へ)、もう一つが「背景に関して」の解決法の提案(必要な相手に、必要に応じて)。

<各論①診断と治療に関しての方向性の提案>

まず、診断と治療に関しての方向性の提案ですが、要素としては、まずは「診断・治療の一般論」の話、続いて「その人個別の治療方針の提案や共有」等の話。3つ目がその中でも特に「お薬に関しての説明と同意」の話。最後は「療養生活の方向性の提案」です。

<診断・治療の一般論>

うつ病であるという診断、その背景の脳の「セロトニン」不足など、病気の説明をします。

その上で、治療法は休養・精神療法・薬物療法の3つが治療の3本柱という事。

その上で病状によっては休職の必要があったり、本当に症状が悪い方は入院を要することもあるということなどを説明します。

<個別の治療方針の提案と共有>

今の一般論があった上で、その方の重症度、その中で休職等の介入が必要か。

特にその中でお薬の必要性と種類も含まれます。

<薬の説明と同意>

その中で抗うつ薬、SSRIなど抗うつ薬に関しては、効果の出方や副作用に一種の特徴があり、重点的に説明します。

その他睡眠薬などを使う場合には効果と依存の問題、その一方必要性もあるという点をご説明します。

その中で、患者さんと一緒に話し合って協議をしていきながら、薬を決定していきます。

<療養の方向性の提案>

まずは「次の外来までどういう風に生活するか」という方向性を提案します。例えば、休養初期なら休養の専念などです。

初回や状況に余裕がある時に、全体的な療養の方向性を提案することがあります。例えばうつ病の初回であれば、初めは休養を優先して、だんだん体を動かしていって、最後復帰に備えていく等です。

その中で休職は、期間も含め相談の上決定していきます。

<各論②背景のことへの解決の方向性の提案>

続いてが背景の色々なことに関してです。

基本的な方向性は、あくまで「治療に大きく影響する分野」について「必要に応じて」提案をします。

複数ある場合は、一気に全部扱うのは現実的でなく、原則優先順位の高いものを優先して扱います。

その中で、基本的にはまずは病気の治療を優先していく。治療をしっかりやっていても「そういう背景のこと」がネックになる場合に、必要に応じて介入するのが基本的な方向です。

想定する背景を今一度振り返ると、まずはストレス、続いてが疲れ・疲労。その次は生活面、あとは考えのくせ、対人面、環境、自己肯定感というところがあります。

これらの中で介入が必要がある場合は、適宜解決法などを提案していきます。

<ストレスへの提案>

一番シンプルなのがストレスの対処法を増やすこと、対処法が少ないとストレス溜まりますので、色々な対処法というところをご提案することはあります。

あとは現実的なストレスが大きい場合に関しては、いわゆる問題解決技法。問題を分けて、受け入れるか・解決するかを決める等をご提案することがあります。

3つ目としてが現実の受け入れや割り切りというところ、環境が変えられない時はストレスは続くので、ある種もう受け入れたり割り切ってしまった方がいい場合というのもあり得るかと思います。

<疲労への提案>

まずは休養法の振り返りと改善というところがあります。休養の方法が少なければ増やすということになりますし、あとその中で本当にそれが効率の良いものかどうかというのも振り返っていきます。

2つ目としては「休養時間の確保」。というのはいくら休養法があっても時間が足りないという場合もありますので、その確保を必要時助言します。

3つ目としては、日頃からのリラックスの模索。どうしても気疲れというのも疲れの大きな要素になりますので、リラックスなどで対応していくというところです。

<生活面への提案>

まずは生活リズムの改善。生活リズムが不安定だとなかなか不調は続きやすいです。

続いては睡眠衛生の指導。眠りは休養などにとっても色んな意味で大事ですので、そこの指導をすることがあります。

3つ目が日中の行動活性化。日中活動が少ないと、なかなか意欲が出にくいということもありますので、そういったところのご提案をすることがあります。

<考えのくせへの提案>

まずは考えにくせがあった場合のいわゆる「認知再構成」別の見方が何か・別の捉え方はないかを見ていくという方法になります。

2つ目が考え過ぎに対しての「何か別のことをして悪循環を断つ」という方法。

3つ目としてあるのが一歩引いてみる。いわゆるメタ認知的なことを習慣にしていくという話です。

<対人面への提案>

まず自分の対人交流のパターンを振り返っていく。その中でストレス溜まりやすいことは何か振り返っていくと。

そこを踏まえての程よい主張アサーションというところをご提案することがあります。

その上で、どうしても嫌な相手に関しては、距離を取るなど具体的な対策をご提案することがあります。

<環境面への提案>

まずは仕事の方であれば、「転職や異動などの検討」というところを提案します。

後は、生活の環境に関して調整を提案することがあります。

苦手をカバーする為の環境的な工夫などを提案するということもあり得るかと思います。

<自己肯定感への提案>

まず「自分ができたこと、得意なこと」というのを振り返っていくというのをご提案することがあります。

あとは頑張れば何とかなるような環境を、環境調整とかぶりますが、それを探していくというところがあります。

そこを土台としながら、いわゆる「小さな成功体験」を積み重ねていく。そこをやっていくというところをご提案することがあります。

<まとめ>

今回は、「うつ病の精神療法」というところで見てまいりました。

精神療法の要点に関しては、不調・心の不調に関する問題点を抽出していって、それを相手に合う形で解決の方向性をご提案するということであります。

診断・治療に関しては、一般論と自分の状況というところを共有しながら、治療や療養の方法などについてご提案をしていくということになります。

考えのくせなど、それ以外の背景に関しては、治療に大きく影響するものがあった時に必要に応じて、対策をご提案することがあります。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)