急性ストレス障害

危機的ストレスへの反応

急性ストレス障害では、危機的なストレス曝後「過覚醒」に伴い様々な症状が出ます。

 

自然軽快を期待しますが、急性期の混乱と慢性化には注意が必要です。

 

動画:急性ストレス障害

もくじ

 
  1. (1)はじめに:急性ストレス障害
  2. (2)急性ストレス障害とは?
  3. (3)急性ストレス障害の診断基準
  4. (4)急性ストレス障害の経過
  5. (5)急性ストレス障害の治療
  6. (6)まとめ
  7.  

(1)はじめに:急性ストレス障害

心療内科、精神科の病気。今回は「急性ストレス障害」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

大きなストレスがかかった後、強い緊張と「過覚醒」から急性のさまざまな不調が起こります。これを「急性ストレス障害」と呼びます。

改善することも多い一方で、強い混乱や慢性化には注意が必要なものになります。

今回は、この「急性ストレス障害」について見ていきます。

(2)急性ストレス障害とは?

急性ストレス障害は「危機的なストレスへの急性の反応」です。

<急性ストレス障害とは>

急性ストレス障害は、命の危険レベルでの強いストレスの後に起こる反応です。

脳の「過覚醒」を背景に、さまざまな症状が出ます。

定義上、原則1カ月以内で改善しますが、慢性化のリスクには注意が必要です。

<急性ストレス障害はストレスの反応の全てではない>

急性ストレス障害はあくまで「命にかかわるレベルの危険」かつ「過覚醒による多彩な症状」の両方を満たすことが条件です。

なので、これは「ストレス反応」の中でも一部に限られます。

そして、この条件を満たさないストレス反応は「適応障害」と分類されます。

(3)急性ストレス障害の診断基準

<DSM-5の診断基準>

A:危機的状況への曝露(後で詳しく)

B:過覚醒に伴う多彩な症状9つ以上(後で詳しく)

C:症状の持続が3日から1カ月

D:社会生活の障害

E:他の原因では説明が困難

<A:危機的な出来事への曝露>

これは、実際もしくは危うく「死に至る」「重症を負う」、「性的暴力を受ける」出来事への、下記1つ以上の形式での曝露です。

①心理的外傷的な体験を「直接体験する」

②「他者に起こった出来事をじかに目撃する」

③近親者や親友に起こった出来事を耳にする(暴力的か偶発的な強いストレスに限る)

④業務等での外傷的出来事の反復しての曝露(仕事関連でないテレビ等の曝露は該当しない)

<B:過覚醒に伴う多彩な症状>

以下の5つの領域、14個の症状のうち9つ以上の症状を満たします。

【侵入症状】

①苦痛な出来事の記憶を繰り返し、侵入的に思い出す

②出来事関係の反復的で苦痛な夢を見る

③フラッシュバック

④似た場面などで出来事の強い苦痛が再燃する

【陰性気分】

⑤陽性の情動(幸福や満足など)を体験できない状態が続く

【解離症状】

⑥離人感・現実感の消失や変容

⑦解離性健忘(出来事関連での)

【回避症状】

⑧出来事関係の苦痛な記憶・思考・感情を回避しようとする

⑨外傷的出来事等に「結びつくもの」に関しても回避しようとする

【覚醒症状】

⑩睡眠障害

⑪イライラ・激しい怒り

⑫過度の警戒心

⑬集中困難

⑭過剰な驚愕反応

(4)急性ストレス障害の経過

「自然軽快を期待するが、慢性化等に注意」が要点です。

<自然経験を期待>

ストレスから離れ休養することで、徐々に改善を見込んでいきます。

定義から踏まえても「1カ月以内」が一つの基準になります。

この中で、経過に2つのリスクがあります。1つ目が「急性期の混乱」、2つ目が「慢性化」です。

①悪化時の混乱(急性期の混乱)

急性期・悪化した時に混乱した状態になることがあります。

特に不眠や不安が強い時には注意が必要になります。

この中で、自分や他者への衝動行為に特に注意が必要になってきます。

②慢性化

回復のプロセスがうまくいかない時などに時間経過をしても症状が続くことがあります。

その場合は、より積極的な介入が必要であることが多いです。

<慢性化するリスク>

1つ目は「ストレスが重なってしまう」こと。

2つ目が「休養が不十分」、何らかの理由で休めない時に起こりやすいです。

3つ目が「不眠や強い不安が続く」場合です。

<慢性化した時の診断名>

慢性化した時の診断名は、1つ目は「PTSD」、2つ目が「うつ病」、3つ目が「適応障害」です。

①PTSD

これは「急性ストレス障害同様の症状」が「1カ月経過後も続く」状態です。

この範囲は急性ストレス障害同様、かなり狭く厳密なものになります。

まずは安全の確保を続け、徐々に改善を期待しますが、困難な時は専門的な対策を要します。

その場合は大学病院等の専門性の高い医療機関での加療を要することが多いです。

②うつ病

これはストレス後、しばらくしても各種の「うつ状態」が続く状態です。

2週間以上続くなど、DSM-5の「うつ病」の基準を満たすというところになります。

この場合はうつ病ですので、「うつ病の標準治療」休養・薬物療法・精神療法を行います。

③適応障害

これは不調は続く一方、先のPTSDやうつ病の基準を満たさない場合です。

基本的には、半年以内にストレスから離れて改善を見込むとされます。

対策は各種ストレスの対策の継続、外的ストレスなら「環境調整」。内的ストレスなら「ストレスマネジメント」を行います。

(5)急性ストレス障害の治療

基本的には「自然治癒を促していく」のが対策です。

<治療の方向性>

「自然治癒を促し慢性化を防ぐ」ことが一番大事です。

そして、「急性期のトラブルを防ぐ」。

3つ目が「慢性化した時の治療」になります。

①自然治癒を促して、慢性化を防ぐ

<自然治癒を促す>

基本は「安全を確保」して「ストレスがない」という状態で、休養を促していきます。

そして、必要時は「話す」などして「心理的な整理」を行っていきます。

加えて、自分に合った「セルフケア」リラックス法などを並行します。

<積極的な介入が必要な場面>

まずは「ストレスの曝露の状況が続く」時。

2つ目は「不眠が続く」時。

3つ目が「不安や混乱などが続きなかなか休めない」時です。

<介入の方法>

まずは「環境調整」、少しでもストレスを減らすような調整をしていくこと。

2つ目が「睡眠薬」眠りを助けるような薬を使うこと。

3つ目が「抗不安薬」不安や混乱を防いでいきます。

<特に受診が必要な時>

まずは休職など「診断的な外力によっての環境調整」が必要な時。

2つ目が抗不安薬や睡眠薬などの「薬での介入が必要な場面」。

3つ目がいわゆる「安全確保が難しい時」です。

②急性期のトラブルを防ぐ

<急性期のリスク>

まず「混乱した言動に伴うトラブル」が一番のリスクになります。

そして「自分に向かう衝動性」、これに伴う自傷などのリスク。

そして「他者に衝動性が向かった場合」、そこでのトラブルのリスクです。

<リスクを乗り切る対策>

まずは休養に専念して、少しでも安定化を図っていきます。

それで難しい場合は受診し、睡眠薬や抗不安薬などを検討、それで安定化を図っていきます。

それでも安全確保が困難であったり緊急性を要する場合は、入院を検討し、入院が可能な医療機関に相談します。

③慢性化した時の治療

このときは「慢性化した状態・病名への治療」をします。

1)PTSD

少しでも落ち着いた環境を作り、徐々にでも改善を図ります。

それが難しい場合は、大学病院などでの「専門治療」を検討します。

2)うつ病

抗うつ薬などの薬物療法と休養・精神療法のいわゆる「治療の3本柱」を行います。

3)適応障害

「各種のストレス対策」、外的なストレスなら「環境調整」、内側のストレスなら「ストレスマネジメント」を行います。

(6)まとめ

今回は、心療内科・精神科の病気「急性ストレス障害」について見てきました。

「急性ストレス障害」は、主に生命の危機的なストレスに曝露した時に、各種の過覚醒に伴う症状が「3日から1カ月以内」続く状態です。

経過は、休養などで自然軽快を期待しますが、「急性期の混乱」と「慢性化のリスク」には注意が必要です。

治療の基本は「自然治癒の誘導」。休養を基本に、もし滞りがあれば積極的に介入をして改善を促し、慢性化の防止を図ります。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)