抜毛症

髪を抜きすぎてしまう病気

抜毛症は、髪を抜くことを繰り返してしまい、生活等に大きな影響が出る精神疾患です。

 

意識して行う場合と、無意識に習慣になっている場合の双方があります。

 

標準治療はありませんが、薬・行動面・ストレス対策を組み合わせ、改善を図ります。

 

動画:抜毛症

もくじ

 
  1. (1)はじめに:「抜毛症」髪を抜いてしまう病気
  2. (2)抜毛症とは(概略と定義、統計的要点)
  3. (3)抜毛症の2つの要素(自己治療と無意識の習慣)
  4. (4)抜毛症の鑑別疾患
  5. (5)補足:類似疾患「皮膚むしり症」
  6. (6)抜毛症の治療
  7. (7)周りは圧力をかけない
  8. (8)まとめ
  9.  

(1)はじめに:「抜毛症」髪を抜いてしまう病気

心療内科、精神科の病気。今回は「抜毛症」について見ていきたいと思います。よろしくお願いします。

「髪を抜いてしまう」というご質問を受けることがあります。

これはよく10代の方でご相談を受けることが多くあるんですけれども、大人の方でもうつ病などで治療を続けていく中で、実はそういうことがあるんですということでご質問・ご相談を受けることがあります。

今回は、この髪を抜いてしまう「抜毛症」についてご紹介していきたいと思います。

(2)抜毛症とは(概略と定義、統計的要点)

まず、抜毛症とはということですけれども、これは「わかってはいても、髪など体毛を抜いてしまうという病気」になります。

<DSM-5での主な定義>

DSM-5での定義の主なところを見ていきますと、まずAとしては繰り返し髪など体毛を抜いて、その結果、そこが失われてしまうということ。

Bとしては、この体毛を抜くことをやめる、もしくは減らすことを試みていく、でもそれでもなかなかできないというのがBの定義になります。

Cでは、Aによって苦痛であったり、社会生活への影響が出るということになります。

<統計的な要点>

統計的な要点を見ていきますと、この「抜毛症」統計によりますけれども、今約2%ほどというふうに言われています。

年代としては10代から20代での発症の方が多いと、性別でいくと女性に多いというふうにされます。

(3)抜毛症の2つの要素(自己治療と無意識の習慣)

この抜毛症の2つの要素ですけれども、1つ目としては「緊張に対しての自己治療」自覚型と言われるものになります。もう一つが「無意識でも習慣になってしまう」いわゆる無意識型になります。

①緊張への自己治療(自覚型)

これは抜くことでの痛みの刺激によって、緊張を緩和・緊張を和らげるというところがあります。

初めはそういうことで効果はあるんですけれども、ただ、だんだんその効果が薄まってしまう。そうすると抜くことがどんどんエスカレートしてしまいがちだと。

さらにそれによって次第にはじめは意識的な治療としてしていたのが、次第に無意識にやってしまうという、いわゆる無意識型に移行してしまうことがあるということがあります。

②無意識の習慣(無意識型)

これはもう特に意識しなくても気がつくと無意識にやっているということになります。

これはよくないとわかっている。でも、無意識についやってしまうということがあります。

イメージとしては、いわゆる「強迫症状」強迫性障害であるようなついやってしまう強迫症状というのに近いところがあります。

(4)抜毛症の鑑別疾患

まず1つ目としては強迫性障害です。違いとしては強迫性障害だとこの抜くこと以外でも、いろいろ強迫症状、強迫観念などが出てくるということはありますけれども、非常に近いところはあるというのがあります。

2つ目としては発達障害。これはむしろ背景に発達障害が合併していることがあるというところです。ADHDの衝動性というところでなかなか抑えにくいことがあるかもしれないですし、ある種のASDのこだわりというところで慢性化してしまうということがあることがあります。

3つ目としては統合失調症、この妄想や幻聴などによって抜いてしまうという方が、これは頻度はちょっと下がりますけれどもいらっしゃいます。この場合は、抜毛症ではなくて、統合失調症による「抜毛症状」ということになります。

(5)補足:類似疾患「皮膚むしり症」

これと似たものとして、皮膚むしり症ということがあります。

これは、無意識に手などの皮膚をむしってしまうというご病気になります。

メカニズム等も、大体抜毛症と非常に似ていまして、治療や対策というのもほぼ抜毛症と似たものになってきます。

(6)抜毛症の治療

治療ということで見ていきますけれども、治療の方向としてはなかなか短期的な方法がないので、じっくり取り組んでいきましょうということになります。

治療として3つ見ていくと、まずは薬の治療(薬物療法)、2つ目が行動面(行動のアプローチ)、3つ目が「普段からのストレス対策」ということになります。

<薬物療法>

まずは薬物療法ですけれども、先ほど強迫性障害に近いというところがありまして、そこに対していわゆるSSRIという抗うつ剤を使うということがあり得ます。ただし、強迫性障害と比べると効果は薄いんじゃないかという指摘はあるという状況です。

2つ目としては、より安全なものとして漢方薬を使うことがあります。緊張を和らげる漢方を使う場合、これは安全なんですけど、やはり効果にはちょっと限界があるというところ。

両方ともなかなか決め手は欠くというのが現状としてあります。

<行動療法(習慣逆転法)>

2つ目の「行動面」としては「習慣逆転法」というものを使います。

これは要点を言うと、まずは髪を抜く・抜毛が起こる場面や状況というのを観察して意識をする。

その上で緊張の悪影響など(へ)リラックスの方法をうまく組み合わせて、抜毛・抜くという「行動」を別の行動で置き換えていくということをやっていきます。

では、この別の行動は何かというと、2つの方法があります。

1つ目はその「抜こう」とする時に、「両手をふさぐ」別の行動ということになります。例えば、ももを掴むということだったり、両手で物を持つとか、両手をちょっと回すとか、そういったことで抜く以外の行動をして「抜く行動」を直接変えていくということ。

2つ目としては、もう少し広く見た時の集中しやすい活動ということになります。それは趣味でも運動でもいいんですけれども、それに何か他に集中できることをやっていくことによって、抜毛に集中を向かせず、外に集中を向かせて予防していくということになります。

<普段からのストレス対策>

この抜毛症、やはりストレスで悪化したり、PMS的な生理周期で悪化するという方もいらっしゃいます。

ストレスや緊張により悪化するというところがありますので、長期的な対策としてはいかに日頃からストレスを溜めないかということになってきます。

一つは対処法・ストレスの対処法を色々な角度で獲得していくこと。

もう一つは環境の調整、なるべくストレスの少ない環境を心掛けていくということ。

これを組み合わせることを継続してやっていくというのが大事になってきます。

(7)周りは圧力をかけない

そして、周りの方としては、圧力をかけないということが大事だと思います。

ご本人としては、これはやめようと思ってもやめられないというのが一つポイントになります。

なのでそこに圧力を掛けてしまうと、かえってストレスや緊張につながって逆効果になってしまいます。

むしろやることとしては、なるべくリラックスしやすいような環境を作っていくというのを、周りの方はしていただけたらと思います。

(8)まとめ

今回は抜毛症・髪を抜いてしまうことについて見ていきました。

この抜毛症は「分かってはいても、髪を抜いてしまう」という病気でして、10代や20代の女性に多くありまして、全体の約2%の方にあると言われます。

抜毛はある種の緊張への自己治療という側面、もう一つは無意識・強迫的にやってしまうという両面がありまして、慢性化しやすいというところに注意が必要になります。

治療としてはこの抜毛してしまう場面を意識しつつ、何か他のことで置き換えていくというのが基本になってきます。

そして、長期的には悪化要因であるストレスを色々な角度で対策していくということが重要になってきます。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)