知的障害

生来の「知的機能」の障害

知的障害は、生まれながらに考える等の「知的機能」に困難がある障害です。

 

主に知能検査のIQで重症度を分類。主に幼少期に発見も、時に成人で発見されます。

 

知的機能への薬はなく、二次的な精神不調を防ぐための各種サポートを検討します。

 

動画:知的障害

もくじ

 
  1. (1)はじめに:知的障害
  2. (2)知的障害の定義と基準
  3. (3)IQと、知的障害の重症度について
  4. (4)知的障害の3つの症状群
  5. (5)知的障害の気づき方(子供or成人後)
  6. (6)合併する精神疾患等の例
  7. (7)知的障害の治療の方向(特に環境への不適応に注意)
  8. (8)知的障害の薬物療法
  9. (9)まとめ
  10.  

(1)はじめに:知的障害

心療内科、精神科の病気。今回は「知的障害」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

心療内科・精神科の外来では、知的障害のある方の不安や混乱など感情コントロールの治療をさせていただくことがあります。

そして、また、最近では、幼少期から生きづらさがあった方が、当初、ADHDの発達障害を疑って受診をされた。

その上で検査などをした結果、実は発達障害ではなくて知的障害があったということがわかるということ。これを経験することが最近では出てきました。

今回は「知的障害」ということについて全般的に見ていきたいと思います。

(2)知的障害の定義と基準

まず、「知的障害」とはという定義ですけれども、これは脳の機能、考えたり、動いたりする能力の全般的な困難ということが言えるかと思います。

知的障害の一般的な基準としては、まずIQが70未満というのが一つの基準です。その上でIQが70未満だけではなくて、生活の困難が実際にあるというところが補助的な要素としてあります。

もう一つが生来生まれながら続いているということです。例えば、30歳のときに頭を強く打ってIQが下がってしまったとしたら、これはちょっと定義としては違うということになります。

(3)IQと、知的障害の重症度について

では、このIQとはということですけれども、これはWAIS検査などの知能検査の結果出る、全般的な知能を表す数字になってきます。

平均は100、高いほど基本的にはいいとされます。そして、約95%の方が70から130の間に入ります。

そして、今回の知的障害の一つの目安になります。「IQ70未満」というのは約2%になってきます。

<IQと知的障害の重症度分類>

IQ84から70は知的障害までではないけれども、境界知能といい、知的障害ではないが実際的には生活の困難があることがあります。

そして、69から50が軽度の知的障害、49から35が中等度の知的障害、34から21が重度の知的障害、20以下が最重度ということになります。

(4)知的障害の3つの症状群

知的障害の症状というところを見ていきます。

①知的機能の障害

1つ目としては考えたり、問題を解決するというところの困難です。

2つ目としては、言葉の理解や「やりとり」の困難ということになります。

3つ目が人間関係でのやりとりの困難です。この3つが総合的に出てきます。

②社会生活の困難

まず例としては勉強についていけない。

2つ目としては仕事をやっていく(その)仕事についていけないというところ。

3つ目としては日常生活でうまくいかない、日常生活に困難が出るということになります。

③精神的な症状

この前の2つは脳の機能の障害ですが、この精神症状は主にはストレスの反応から起こるものになってきます。

まずは、大声や暴力というのが人によっては出ることがあります。

2つ目としては、落ち込みや不安といった症状が出ることがあります。

3つ目としては、いわゆる精神病症状、幻覚のような症状であったり、人によっては「解離」と言って記憶が飛んでしまったり、こういった症状が出る場合があります。

(5)知的障害の気づき方(子供or成人後)

この知的障害の気付き方ですけれども、大きく言うと2つに分かれまして、まずは子供の時に気づく、2つ目が大人になって気付くということになります。

①子供の時気づく

1つ目としては、子供の頃の発達の遅れ、歩いたり喋ったりするところの遅れから幼少期気づかれることがあります。

2つ目としては、小学校など勉強や活動についていけないということで気付かれる場合。

もう一つは同級生との人間関係でついていけないというところで気づかれる場合があります。

②大人になって気付く

これは幼少期から勉強などが苦手ということが背景なんですけれども、大きく目立つまでは至らない場合。

その場合に仕事などの社会活動への不適応が続くというところで気づかれる場合があります。

当初は発達障害を疑われることも少なくないんですけど、いわゆる知能検査を行った結果、全般的なIQというところで見つかるということがあります。

(6)合併する精神疾患等の例

①発達障害ASD・ADHD

これはもう定義が違うので、合併することが少なからずあります。知的障害に発達障害を合併するということがあります。

その場合は、知的障害の数字(IQ)と比べても、社会的な困難が強く出ることがあるので、サポートが多く必要なことが少なくありません。

②うつ病・不安障害

これは先ほどの精神症状2次的にストレスなどが続いて合併することが少なくないということになります。

③統合失調症

これはストレスなので合併することも少なくないですが、一方でストレスの反応や人格の変化によって「統合失調症はないけれども、統合失調症のような症状が出る」という方も中には経験します。

(7)知的障害の治療の方向(特に環境への不適応に注意)

この知的障害の治療の方向ですけれども、この知的能力・知能への治療は基本的にはありません。

なので2次的なものを防ぐための「適応の改善」をするという対策をとっていくのが非常に大事になってきます。

<2次的な不適応や精神不調に注意>

合わない環境や無理がかかる環境というのがずっと続いてしまいますと、ストレスが慢性的に続くことになり、うつや不安障害といった精神的な不調が出たり、人格の変化というところにつながってくることがあります。

なので合う環境を整備していくということがある種の治療にとって最優先になってきます。

<小児期で発見後の幼少期の対応>

小児期で発見の場合、まず学ぶ環境を調整するというところになります。人によっては通常級・一般に混じるということもあるんですけれども、人によってはいわゆる特別支援教育というところを受ける方が望ましいというところがあります。

これはどちらも一長一短あります。通常級だと社会的に色々触れることは広くなるんだけれども、その二次的な不適応のリスクが上がると。特別支援だとその逆になってきますので、これは個別に検討することになります。

<小児期発見での成人後の「働く環境」>

もう一つ小児期発見で課題になるのが、学校卒業後の働く環境です。

人によっては、障害者枠、特に学校が斡旋する障害者枠というのを取る場合があります。

人によっては就労移行支援というところを受けたり、作業所といってサポートを受けながら作業するという方がいらっしゃいます。

人によっては、いわゆる知的障害の手帳というのを得まして、それによってサポートを受けるということがありますし、障害年金といって障害がある中で生活するというところで年金を受給するというのも選択肢になる場合があります。

<成人で発見された場合>

成人の方でありますと、サポートを受ける権利があるというところが大事になります。

この診断を受けた場合に、「知的障害者の手帳の獲得」というのを検討することになります。大人になって、それが分かった場合には、心身障害者センターなどに行って、そういう手帳が適応になるかどうかを相談するということがあります。

2つ目としては、いわゆる障害者枠での仕事ということを検討すると、この知的障害者手帳があった場合にはこれはまさに選択肢になりますし、それが手にできなかった場合でも、精神的な症状を合併していたら、精神障害者手帳から障害者枠を検討するという方もいらっしゃいます。

また、これ関連してですけど、就労移行支援を受けて仕事につなげる方や作業所といって定期的作業をするというアプローチをとる方もいらっしゃいます。

(8)知的障害の薬物療法

あと、お薬に関しては、精神的な症状を合併した場合に使うことがあります。

うつや不安障害を合併した場合は、抗うつ薬薬というのを使うことがありますし、感情のコントロールが難しい場合、不安定になった時の頓服の安定剤というのを使うことがあります。

あとより副作用が少なく、予防というところでは漢方薬を使う方もいらっしゃいます。

(9)まとめ

今回は「知的障害」というところについて見てまいりました。

知的障害とは生来より続く、考えて動くというところの全般的な困難になります。IQが70未満というのは、一つの目安になってきます。

幼少期から気付かれることが多いんですけれども、軽度の場合は大人になってから不適応の反復があってから気づかれるということも少なからずあります。

知能自体の治療というのはなくて、ストレスの影響を減らす環境調整というのが大事になってきます。その中で必要なサポートというのは受けていくということが望まれるかと思われます。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)