演技性パーソナリティ障害
「承認」に渇望する
演技性パーソナリティ障害は他者からの「承認」を強く求めるパーソナリティ障害。
制御可能なら現代では長所にもなりますが、過度だと自他に強い影響を及ぼします。
もくじ
- (1)はじめに:演技性パーソナリティ障害
- (2)演技性パーソナリティ障害とは
- (3)演技性パーソナリティ障害の症状(DSM-5の症状8つ)
- (4)演技性パーソナリティ障害の診断
- (5)演技性パーソナリティ障害のメカニズム
- (6)演技性パーソナリティ障害の主な鑑別疾患と併存症
- (7)演技性パーソナリティ障害で困難になる場面
- (8)現代と演技性パーソナリティ障害
- (9)演技性パーソナリティ障害の治療
- (10)家族等のかかわり
- (11)まとめ
(1)はじめに:演技性パーソナリティ障害
演技性パーソナリティ障害は、人の注意を引くため大げさにふるまうタイプのパーソナリティ障害。
現代のニーズに合う面も多く、「成功の原動力」もなりえる一方、特性が行き過ぎると自分や相手・周りに強い影響が出てしいます。
今回は、この「演技性パーソナリティ障害」について見ていきたいと思います。
(2)演技性パーソナリティ障害とは
この演技性パーソナリティ障害、「演技性」は「ちょっと大げさに言動してしまう」こと。
「パーソナリティ障害」は「個性の偏り」。背景は注目や承認を得たいことがあります。
これも含めてまとめると「注目・承認を得るために大げさに言動をしてしまう個性の偏り」になります。
背景は「注目や承認への渇望の強さ」です。
その結果、相手に大げさに振る舞う傾向があります。
その中で、「本来の自分」と「人前での自分」が相手に合わせすぎた結果分離することがあります。
(3)演技性パーソナリティ障害の症状(DSM-5の症状8つ)
①自分が注目の的になっていない状況では楽しくない
注目される・承認を強く求め、渇望します。「もっと私を見て」
②他者との交流が誘惑的・挑発的になる
恋愛以外にも様々な分野において距離が近くなります。「ちょっと私は遊んでみなよ」
③浅薄で素早く変化する情動の表出
新しいものに熱中するがすぐに飽きてしまう。「もう飽きちゃった」
④自分の関心を引くため、身体的外見を一貫して用いる
外見的で印象付けようとする。その準備は入念に労力をかける。
そしてその評価・承認を求め、不本意だと強く反応します。
⑤過度に印象的だが、内容のない話し方をする
印象のある言い方だが、よく聞くと中身がない。「今日は快晴。まさにサニーですね」
⑥自己演劇化、芝居がかった態度・誇張した情動表現
表現が大げさで時に周りが引きます。「今日あったのも、きっと運命なんですね。」
⑦被暗示的(他者や環境の影響を受けやすい)
特に一種の「カリスマ的な人物」に影響を受けやすい。「この水晶玉で未来が見えるんですよ」
⑧対人関係を実際以上に親密なものと思っている
初対面などでも親友のようにふるまいます。「この人は今日初めて会ったんだけども、かけがえない親友です」
(4)演技性パーソナリティ障害の診断
DSM-5では基本的には、パーソナリティ障害の診断がまずあって、そこに演技性の特徴の診断がある、この2段階で診断します。
<「パーソナリティ障害」の診断基準>
A:認知・感情・対人面・衝動この4つのうち、2つ以上の分野において大きな偏りがある。
B.C:Aが「幅広い場面で生じていて、かつ社会生活に大きな影響支障が出ている」。
(なお、「障害」とは自分か相手・周囲が強く困難を感じる状態を指します)
これらを満たしたときに診断基準を満たします。
<「演技性」の診断基準>
これは(3)の8つの基準のうち5つ以上を満たした時。
「パーソナリティ障害」と「演技性」の双方の基準を満たしたとき、「演技性パーソナリティ障害」の診断になります。
(5)演技性パーソナリティ障害のメカニズム
基本的には、素因があり、そこに経験が重なることで特徴が明確化します。
<関連する要素>
①幼少期の環境
愛情に飢えた・不承認の環境の背景が時に指摘されます。
②学校や社会経験
「不認証体験」や、「偶然強い承認を得た」成功体験の影響が示唆されます。
③発達障害の関連
特にADHDとの関連や、ADHDの二次障害としての発症などが言われます。
(6)演技性パーソナリティ障害の主な鑑別疾患と併存症
<鑑別疾患:合併する場合も多い>
①ADHD
衝動や感情の動きなどで共通点が多く、またADHDの2次障害での発症・合併もあります。
②躁うつ病(双極性障害)
気分の変動などの共通点があり、合併する場合もあります。
③他のパーソナリティ障害
パーソナリティ障害は2つ以上をしばしば合併し、症状の出方が多様になります。
<併存症>
①うつ病
不承認時のストレスが影響するか、「本来」と「人前」のずれのストレスが関与します。
②社会不安障害
不承認の反応や、不承認へのおそれからの不安が背景になります。
③依存症
SNSなど承認への依存が目立ちます。
(7)演技性パーソナリティ障害で困難になる場面
①自分が困る
まず、「承認を失う不安が強まる場合」に心理的な困難が出ます。
そして、「承認を維持するための浪費、ウソ、生活破綻」を通じて困難が出る事もあります。
また、「不承認の時や外の自分とのギャップが強い時」にうつ等が長期化することがあります。
②周りが困る
まず、「承認欲求の巻き込み」の反復で、周りが消耗してしまうことがあります。
そして、「承認を維持するためのウソ」からの対人トラブルが生じる事があります。
また、「承認欲求に応じない場合の強い怒り反応」に周りが巻き込まれることがあります。
(8)現代と演技性パーソナリティ障害
<SNSでの影響力の時代>
現代は、SNSの普及から「発信力・影響力」が強い意味持つ時代になっています。
さらに、フォロワー数などの可視化」が、承認欲求との結び着く面も指摘されます。
そして、自己文の満足だけでなく、実際のビジネスにも「承認」のレベルが影響することが多くなりました。
<演技性パーソナリティ障害との関係>
演技性パーソナリティ障害とSNSは結びつきが強い面が指摘されます。
確かにこの「演技性」の特性が、「承認」フォロワー獲得等への武器になる場合も多いです。
一方で行き過ぎると歯止め効かなくなり、自他ともに危険が及ぶリスクが否定できません。
そのため、「演技性」の武器は生かしつつも、リスクには細心の注意が必要です。
(9)演技性パーソナリティ障害の治療
<どこまで治療等が必要か>
特性だけであれば対応は不要、むしろ長所にもなる場合があります。
一方「障害レベル」であれば、影響を減らすために介入が必要になりえます。
(障害→自他いずれかが強く困難になる状態)
<障害までなっている例>
まずは「嘘を繰り返し対人トラブルが反復」している場合。
そして「承認維持のため浪費・生活破綻など」が生じている場合。
また、「不認証やギャップ著明時」のうつ・引きこもりが反復、長期化している場合です。
<治療や介入の方向性>
これは特性をなくすのではなく、あくまで「障害」を「特性」に戻す範囲です。
具体的には「自分を知って観察する」「地に足の着いた生活」「(合併時の)ADHDの治療」の3つになります。
<自分を知って観察する>
①承認欲求を知る
「承認欲求」自体は悪ではない一方、暴走するとリスクが大きいのも確かです。
なので暴走しそうなら「気づき、止める」ことが大事、そのために自分の承認欲求の観察が重要です。
そして自分が「承認を求める」より、先に「相手を承認する(与える)」ことが大事です。
②自分の感情を知る
時に承認を求めるあまり、相手に合わせすぎて自分の感情に鈍感になり、結果無理をして不調になる事があります。
対策としては「自分がどう感じているか」振り返る時間を確保し、冷静になることが大事です。
そのなかで、自分の状態を観察する「マインドフルネス」の実践も一案です。
③承認以外の「好きなこと」を知る
「承認」は、いわゆる「ドパミン系」の刺激のため、依存になりやすいことに注意が必要です。
対策の方向は、それ以外の「楽しめる事」を持ち、バランスをとることになります。
もし今「楽しめる事」がなければ、身近なことを含めて合う方法を徐々にでも探していきます。
<地に足の着いた生活>
①「被暗示性」の利用
演技性パーソナリティ障害では、「相手・環境から影響を受けやすい(被暗示性)」が特徴です。
すると、悪い相手等なら悪い影響を、いい相手等ならいい影響を受けることになります。
そのため、環境・相手をどう選ぶかが大事になります。なるべくいい影響を受ける相手や環境を選びます。
②環境の調整
精神面の安定には、刺激を減らしリズム整った「地に足の着いた生活」が望まれます。
「SNS」は影響が大きい場合はやめることが必要です。もし続ける場合も節度を持って行うことが必要です。
場合によっては、農業・地方など「環境を実際に変えて」刺激を減らすことも選択肢になります。
③人間関係の調整
「交流範囲」が広がりすぎると制御困難になるため、「広げすぎず制御可能な範囲」を意識します。
そして「関わる相手の影響」が強いため強く、「落ち着ける」相手との交流を選ぶことが大事です。
交際関係に関しても、同様の基準で、「落ち着く影響」を受けるようにすることが対策です。
<(合併時)ADHDの治療>
演技性パーソナリティ障害では、ADHDを合併することが少なくありません。
かつその場合、ADHDの衝動が「承認欲求の暴走」に強く影響することがあります。
対策としては、まずはADHDがあるか等か診断を受けること。
そして診断ついた場合は、依存ないADHD薬の治療(アトモキセチン、グアンファシン)が選択肢になります。
(10)家族等のかかわり
大きな方向性は、「枠組みや距離の確保」「断る時は慎重に」「冷静に一貫性を持って関わる」の3つです。
<枠組みや距離の確保>
演技性パーソナリティ障害では、特に不安定時は巻き込みが強まるため、その予防としての「枠組み」を予め作っておくことが大事です。
そして距離が近くなるほど巻き込みが生じ強まるため、普段から「距離の確保」をしておくことが大事です。
また、距離が一度近くなってから「引き離す」介入をするのは困難があるため、なるべく安定時に予め「枠組みと距離」を確立することが大事です。
<断る時は慎重に>
演技性パーソナリティ障害の人の要求等を断ると「不認証」と認知され、大きな心理的反応が起こりやすいです。
そのためどうしても断る必要がある場合は「サンドイッチ法」なども活用し、なるべく穏やかに「面子を立て」て断ることが大事です。
一方それでも影響は出るため、できれば「予防」として予め「枠組み、距離確保」することががやはり大事です。
<冷静に一貫性を持って対処する>
演技性パーソナリティ障害の人に「巻き込まれて」感情的に対応すると、悪循環に陥る危険が非常に高いです。
そのため、あおられてもぶれず「冷静に一貫性を持って対処する」ことが重要です。
本人は相手に影響されやすい「被暗示性」があるため、「冷静な対応」は本人のクールダウンにもつながる面があります。
(11)まとめ
今回は「演技性パーソナリティ障害」について見てきました。
「演技性パーソナリティ障害」は強い承認欲求を背景として、言動が大げさ、誇大的になる傾向があるパーソナリティ障害です。
今の時代とマッチしている面があって、その成功の原動力になる部分もあります。
ただ行き過ぎてしまうと自分にも相手・周囲にも強い影響が出てしまうため、この承認欲求の暴走には本当に注意が必要です。
対策は、この「承認欲求」を影響が出る「暴走・障害」のレベルから、制御可能な「特性」のレベルに戻していくことです。
そのためには、自分の状態を知り・感じながら、落ち着いた環境や生活・交流を心がけていくことがまず大事かと思われます。
ご注意
当院では、長時間のカウンセリング等の「演技性パーソナリティ障害の専門治療」は行っておらず、あくまで合併するうつ症状・不眠等への心療内科・精神科的治療を、外来診療の枠組みで行っております。
上記専門治療ご希望の方は、民間のカウンセリング専門施設や大学病院等のご相談をご検討ください。
記事内容に関しては実際に「演技性パーソナリティ障害」を持つ方にどうかかわるか等のヒントとしての「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)