解離性健忘

ストレスで思い出せなくなる

解離性健忘は、強いストレスに圧倒されたときに生じる「解離」症状の1つです。

 

ストレスに関連した出来事を思い出せなくなります。

 

無理して思い出すのは逆に危険あり。対策は併存症治療しつつ、まずは生活の安定を図る事です。

 

動画:解離性健忘

もくじ

 
  1. (1)はじめに:解離性健忘
  2. (2)解離性健忘の例
  3. (3)解離性健忘とは?
  4. (4)解離性健忘の鑑別疾患と併存症
  5. (5)解離性健忘の治療
  6. (6)まとめ
  7.  

(1)はじめに:解離性健忘

心療内科・精神科の病気。今回は「解離性健忘」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

物忘れといえば、高齢者の方の「認知症」ということがよくイメージされがちです。

一方で、若い方でもこの「物忘れ」のご相談を受けることがあります。

その中でも、ストレスに関連して「記憶がない」「忘れている」ことがあり、その場合は「解離性障害」の一つ「解離性健忘」の可能性があります。

今回は、この「解離性健忘」について見ていきたいと思います。

(2)解離性健忘の例

大学生のAさんは、人前での発表が苦手でした。

ある時、人が多い発表がありまして、その前の緊張が強いことは覚えていたんですけれども、その後気がついたら授業が終わっていて発表も終わっていました。

周りの人に聞くと、ちゃんと発表していたということなんですけれども、その記憶がご自身としてはありません。

(3)解離性健忘とは?

まとめると「解離によって思い出せない」という状態です。

<解離とは>

解離は、ストレスへのある種の防衛規制の一つで、各種感覚がまとまったものが分離する「離隔」とも言われます。

実際の症状は、「離人感」自分が自分でない感覚、「健忘」今回の「忘れてしまう」症状、あとは「体の症状」など様々な形で出てきます。

そしてこれは1個だけでなく、幾つかの症状が合併することが少なくありません。

<健忘とは>

健忘は「過去の経験を思い出せなくなる」こと。

脳の病気や、薬の影響などで出ることもありますが、ストレスが背景の「解離性健忘」の場合もあります。

<解離性健忘とは>

解離性健忘は解離性障害の一つで、強いストレスへの反応「解離」の出方の一つです。

ストレスに関連した出来事のことを思い出せないことが特徴です。

これはストレスへの一種の「自己防衛」の側面があると指摘されています。

<DSM-5「解離性健忘」診断基準の要点>

A:ストレスが強い「重要な自伝的情報」に関して想起できない

B:社会生活に影響が生じている

C:脳の不調・薬剤の影響など、他の医学的な疾患等の説明ができない

D:他の精神疾患では説明ができない

(4)解離性健忘の鑑別疾患と併存症

<解離性健忘の鑑別疾患>

①脳疾患

脳出血・脳梗塞などの脳の病気での健忘。MRIなど画像検査で必要時除外します。

②身体疾患や薬剤の影響

これらの影響から健忘が生じたり、一過性の意識変容「せん妄」が出る事があります。

③てんかん

発作中や発作後の「もうろう状態」と健忘に類似点が多くあります。

<解離性健忘の併存症>

①うつ病

強いうつや不安症状が出た時に、反応として解離性健忘を合併することがあります。

②パニック障害

パニック発作での強いストレスに関連して健忘が出る事があります。

③社会不安障害

対人的な強い不安・パニック的な状態に関連して、時に健忘が発生します。

(5)解離性健忘の治療

この解離性健忘へのある種の特効薬はありません。

そして、解離性健忘は一種の自己防衛のため、無理しての直面等は時に危険があります。

対策の方向性は、まずは「安全と安定の確保」、続いて「併存症の治療」、3つ目が「想起(思い出した)時の対応」になります。

①安全・安定の確保

この「解離」は強いストレスに圧倒された状態のため、その解消を図ります。

具体的には休養の確保・環境調整等で、ストレスに圧倒されない「余力」を作ります。

ここでの「無理な直面」は、「自己防衛」をはがすことになるため、危険性が高いです。

②併存症の治療

うつ病など併存症がある時は、その治療を通じ健忘の改善も期待します。

抗うつ薬・抗不安薬などを併存症の病名・状態に応じ使います。

そして、考えのくせの調整などのストレスマネジメントを適宜並行します。

③想起時の対応

自然に余力ができてくると、自ずと忘れた「記憶」を思い出すことがあります。

この時結果として嫌なことを思い出すため、強いストレス反応が起こることがあります。

この時はまず休養・リラックスなどで安定を図りますが、時に薬の治療も必要になります。

そして、時には不安定が強く、安全確保のため入院を要することもあります。

<補足:クリニックでは困難な場合の例>

まず、「健忘の範囲が広い・長い・反復する場合」病理の深さ及び想起時の不安定リスクの高さを踏まえると、専門の病院がいいかと思われます。

あとは「他の解離症状を合併する時」合併が多い時はそれだけリスクが高いと思われます。

もう一つが「情動不安定を合併する時」普段の悪化時および想起時の強い悪化の双方の観点から、緊急対応できる体制が整った病院での治療を要します。

その他でも悪化のリスクが高い時は、安全確保などの観点から、緊急対応できる「専門の病院」での治療が必要かと思われます。

(6)まとめ

今回は心療内科・精神科の病気「解離性健忘」について見てきました。

この「解離性健忘」は強いストレス反応「解離」の一つで、関連する出来事を思い出せなくなります。

脳疾患や薬・てんかんなどの除外を要し、また「うつ病」等の精神疾患をよく合併します。

対策は、まずは状態の安定を図り、併存症の治療をすることで、健忘の改善を図ります。

その中で、むしろ「想起」思い出した時のストレス反応には注意が必要になってきます。

ご注意

当院では、長時間のカウンセリング等の「解離性障害(解離性健忘含む)の専門治療」は行っておらず、あくまで全般的な心療内科・精神科的治療を、外来診療の枠組みで行っております。

記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)