間欠性爆発性障害
急な強い怒りの反復
我慢できない突然の強い怒りを反復し、社会生活などに大きな影響が出ます。
気づいたら「一歩引く」練習を地道に行うことが大事です。
もくじ
- (1)はじめに:間欠性爆発性障害
- (2)間欠性爆発性障害の例
- (3)間欠性爆発性障害とは?
- (4)間欠性爆発性障害の背景
- (5)間欠性爆発性障害の診断基準(DSM-5)
- (6)間欠性爆発性障害の鑑別疾患と併存症
- (7)間欠性爆発性障害の治療
- (8)まとめ
(1)はじめに:間欠性爆発性障害
心療内科・精神科の病気。今回は「間欠性爆発性障害」についてみていきます。よろしくお願いします。
「あいつはキレると止められない」そう言われる人がいます。
一方、自分では止めた方がいいとわかっていても、「一度怒りにのまれると怒りを止められない」こういったご相談をいただくこともあります。
この「急な強い怒りを止められない」状態。これを精神医学では「間欠性爆発性障害」といいます。
今回は、この「間欠性爆発性障害」について見ていきます。
(2)間欠性爆発性障害の例
Aさんは普段は物静かな人です。しかし、一度怒ると手がつけられません。
激昂した結果、交際が終わったこともありました。会社でキレてしまいトラブルになり、退職になることもありました。
Aさんは強く怒って何かを失うたびに、強い後悔に駆られることがありますけれども、気に障る場面に実際遭遇しますと怒りを抑えることができません。
(3)間欠性爆発性障害とは?
これは「突然の怒りが抑えられない障害」です。
<間欠性爆発性障害とは>
「急に前ぶれなく強く怒り、社会生活に影響を与えるもの」になります。
この怒りは短時間でおさまって、その後しばしば後悔をする事があります。
そしていけないとわかっていても、その場で強い怒りなどを抑えることが困難なことが特徴です。
<間欠性爆発性障害での怒りの特徴>
まず1つ目は「きっかけのストレスと不つり合いに強い」強すぎるということです。
2つ目が「短時間でおさまる」30分未満とも言われます。
3つ目が「計画的ではなく、その場での反応・衝動」です。
<間欠性爆発性障害の影響>
①対人面の影響
強い怒りから人間関係が壊れる、人から避けられ孤立するなどがあります。
②社会生活への影響
怒りから退学・退職になったり、衝動的な暴力等の犯罪のリスクが出る事があります。
③精神面への影響
怒りでの失敗から自己肯定感の低下が生じたり、また失敗するのではとの「予期不安」が生じ、「うつ」や「不安障害」等のリスクが生じます。
(4)間欠性爆発性障害の背景
これは以下のような多面的な要素が指摘されています。
①遺伝的な要素
親が間欠性爆発性障害だと発症率が高いことが指摘されるなど、遺伝的部分の指摘が言われています。
②生理学的な要素
「セロトニンの作動性の異常」の存在などが指摘されています。
③環境的な要素
幼少期の虐待体験や強いストレス等の関与が指摘されます。
(5)間欠性爆発性障害の診断基準(DSM-5)
A:反復性の行動の爆発(以下の2ついずれか)
1)言語面、身体面への攻撃が「3カ月以上続けて週2回以上ある
2)「物や人の損傷や怪我」が生じるほど強い「行動の爆発」が12カ月の間で3回以上生じる
B:「爆発の攻撃性の強さ」が、きっかけのストレスと釣り合わないほど強い
C:攻撃性・爆発は計画的ではなく、合理的な目的もない(衝動的に生じる)
D:この爆発がその人に強い苦悩、職業や対人関係の障害、経済や法律的な影響を与える(実害が強い)
E:6歳以上
F:他の精神疾患などでは説明が困難
(6)間欠性爆発性障害の鑑別疾患と併存症
①ADHD
<ADHDとは>
ADHDは、不注意・多動・衝動が特徴の生来の発達障害です。
幼少期で見つかることが多いですが、成人でわかることもあります。
この中で、特に「衝動」が「間欠性爆発性障害」と類似します。
<間欠性爆発性障害をADHDと比較して>
違いは「不注意や多動は、必ずしも間欠性爆発性障害では合併しない」こと。
共通点は「衝動的な行動の爆発」。
そして、これは併存することも多いです。
②反社会性パーソナリティ障害
<反社会性パーソナリティ障害とは>
反社会性パーソナリティ障害は、他者の権利を侵害するパーソナリティ障害です。
「他者の軽視・衝動性・無責任性」が主な特徴と言われます。
この中で「衝動性」が「間欠性爆発性障害」と類似します。
<反社会性パーソナリティ障害と比較して>
違いは、間欠性爆発性障害では「他者の軽視」や「無責任性」は必ずしも合併しません。
一方で、共通点は「衝動性からの行動の爆発」。
結果、併存することも多いです。
③他の鑑別疾患
1)躁うつ病
躁状態の時の衝動性とと類似するところがあります。
2)ASD
こだわり背景の「強い怒りの衝動」が外からは「急な怒り」に見えることがあります。
3)重篤気分調節症
これは少年期の「衝動」および慢性的なイライラ等がある障害です。
④他の併存症
1)うつ病
怒りでの「失敗体験」への葛藤からも、うつ病が併存することがあります。
2)不安障害
不安からの衝動のほか、「また怒ってしまうんじゃないか」という「予期不安」で合併することもあります。
3)ASD
こだわりでは説明しきれない「強い衝動」を合併する場合は「併存症」になります。
(7)間欠性爆発性障害の治療
様々な角度で改善を図っていきます。
治療の方向性4つ、まずは「気付きと受け入れ」、2つ目が「アンガーマネジメント」、3つ目が「併存症の治療」、4つ目が「様々な試行錯誤」です。
①気付きと受け入れ
「自分の行動の爆発」と「その影響」に「気付き・受け入れる」ことが、改善の取り組みの第1歩です。
一方で、この受け入れには「葛藤」が強く生じ、時に受け入れ困難なこともありますが、それでもなお重要です。
この受け入れの途中で「うつ」を合併することもあり、その場合はその対策も並行します。
②アンガーマネジメント
これは併存症など関係なく取り組む、「怒りを鎮める」ための様々な技法です。
まずは理論を学習し、安定時に繰り返し練習して技術を身につけます。その上で実際の怒り場面で実践します。
この「実践」は、平時に身につけてもなお困難ですが、繰り返し挑戦し徐々に体得します。
③併存症の治療
併存症は、この「怒りの爆発」の悪化要因になります。
一方でこの併存症を治療すれば怒りの爆発も改善することがあります。
特にADHDとうつ病に関しては薬の治療があるため、まずこれをしていきます。
④様々な試行錯誤
この1から3のことを取り組んでも困難な場合は、様々な角度から改善を検討します。
まず、頓服薬をしっかり使うのも一つの方法です。
時には、大学病院など「専門医療機関」で様々な角度から精査し治療法を模索するのも選択肢です。
(8)まとめ
今回は、心療内科・精神科の病気「間欠性爆発性障害」について見てきました。
この「間欠性爆発性障害」は「突然の怒りが収まらない」障害で、社会生活にも大きな影響が出ます。
ADHDや反社会性パーソナリティ障害と併存しやすいですが、その他うつ病・不安障害などと併存することもあります。
治療はまずは「気づきと受け入れ」、その上で「アンガーマネジメント」と「併存症の治療」を並行していきます。
それでも困難な場合は、多面的な精査加療を検討していくことになります。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)