場面緘黙症

特定の場面でのみ話せない

場面緘黙症は、特定の場面でのみ話せなくなり黙ってしまう精神疾患です。

 

子供や10代に多いですが、成人後も部分的に「話しにくい」形で残ることもあります。

 

社会不安障害と共通点が多く、治療としても同様に抗うつ薬SSRIを使う事があります。

 

動画:場面緘黙症

もくじ

 
  1. (1)はじめに:場面緘黙症
  2. (2)場面緘黙症について(診断基準も含め)
  3. (3)場面緘黙症以外の「話せない」例
  4. (4)場面緘黙症と社会不安障害の類似点
  5. (5)場面緘黙症についての注意点
  6. (6)場面緘黙症の予後
  7. (7)場面緘黙症の治療
  8. (8)まとめ
  9.  

(1)はじめに:場面緘黙症

心療内科、精神科の病気。今回は「場面緘黙症」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

家では話すことはできるけれども、学校ではまったく話せない。こういったようにある特定の場面だけ話すことができなくなるというのが今回話します「場面緘黙症」になります。

主には、学校に入学した後にそうなってしまうなど、いわゆる児童精神科で扱うことも多いです。

一方で成人・大人の方でも残る場合がありまして、大人の方だといわゆる全く話せない緘黙まではいかないんだけれども、部分的にしゃべりにくいというのが出てくる場合、あとは社会不安症・対人的な不安と合併する形で出てくるということがあります。

今回は、この「場面緘黙症」について見ていきたいと思います。

(2)場面緘黙症について(診断基準も含め)

まず、この「場面緘黙症」大きく言うと、「ある場面でのみ話せなくなる病気」になります。

少し詳しく見ていきますと、特定の苦手な場所や場面でのみ話すことができなくなる。

一方で、家であったり、安心できる場所だと話すことはできるというものになります。

比率としては諸説ありますが、おおむね0.2%程の方がなると言われまして、10代までの方が多いんですけれども、大人で残る方もいらっしゃるということになります。

<場面緘黙症の診断基準>

診断基準、DSM-5の診断基準の要点を見ていきます。ここでは「選択性緘黙」です。

まずAとしては、ほかの状況で話せても、話すことが期待される特定の状況で話すことができない。

Bとしては、その障害が学業・仕事・対人面を妨げているというところ。

Cとしては、長期間・1カ月以上続くということになります。

(3)場面緘黙症以外の「話せない」例

この場面緘黙症以外でも話すことがしにくいという例はいくつかあります。

1つ目としては、いわゆるコミュニケーション症、吃音であったり、そういった別の理由で話しにくい場合があります。

2つ目としては「全緘黙」ストレスがあった後に多いんですが、全く話せなくなるという、これはちょっと別の原因になってきます。

3つ目としては発達障害、発達障害の中ではなかなか会話が困難になる方がいらっしゃいます。

(4)場面緘黙症と社会不安障害の類似点

あと、社会不安障害の話が先ほどありましたが、この場面寡黙症、社会不安障害と病態など非常に近いところがあります。

この場面寡黙症に関しては、強い不安から話すことができない。あえて話さないんじゃなくて、強い不安から話せないということが想定されています。

そういう意味で社会不安障害とは概念としては違うんだけども、非常に共通点も多くて、基準ではしばしば合併するということがあります。

ただ、場面緘黙症の方だと不安に対しては無意識であることも少なくないというのがちょっと違いにはなってきます。

(5)場面緘黙症についての注意点

で、この場面緘黙症に関していろいろちまたに情報がある中での注意点を少しまとめます。

まず1つ目としてはよく一部の説で親の養育のせいだという説も出ることがあるんですけど、これは基本的には違うものです。親の養育のせいではないというところがあります。

あと、2つ目はこれはわざとやっているんじゃないかみたいな話が出ることはありますが、これは不安があって話せないというのは基本的な話なので、わざとではないということです。

3つ目としては、つい「なぜ話せないの」と、「なぜ」というふうに圧力をかけてしまう場合をしばしば聞きますが、この圧力は逆効果になってしまいます。なぜなら、不安と緊張がある中で圧力がかかると、もっと不安緊張が強くなってしまって、さらに話せなくなるからです。

(6)場面緘黙症の予後

この場面寡黙症の予後ですけれども、基本的には徐々に改善していくことが多い。

ただし、話せない状況で集団にいるとストレスはずっとかかりますので、2次的にうつ病などを合併するということが少なくありません。

あと、成人の方に関しては、部分的な緘黙、部分的にしゃべりにくいとなるような方、あとは社会不安症・対人不安が残るという方がいらっしゃいます。

(7)場面緘黙症の治療

治療としては、基本的には社会不安症と近い、準じるところがあります。

1つ目としては、徐々に不安に慣らす「系統的脱感作法」、2つ目は必要な時の「薬物療法」になってきます。

<系統的脱感作>

まず系統的脱感作法ですけれども、これは徐々に不安に慣らし、克服するという治療法です。

場面緘黙症に関しては話せる場面を徐々に広げていくということになってきます。

少し専門的な話になると、刺激フェーディング法という方法を検討することがあります。

【刺激フェーディング法】

この刺激フェーディング法を見ていくと、以下に挙げる2つを無理ない範囲で、徐々に入れて脱感作を図っていくものになります。

まず、1つ目はフェードイン手続きになりまして、これは何か苦手なものを入れると。例えば話しやすい人がいる環境で、ちょっと苦手な人が途中で入ってきて、その不安に慣らしていくということになります。

あとフェードアウト手続きに関しては、得意な要素を少し減らす。例えば、仲がいい人が何人かいて話しやすい中で、仲がいい人が一人か二人いなくなると。そうすることで得意要素が減って不安が増える、それに慣らしていくというものになります。

こういったものをやっていくことがあります。

<薬物療法>

あと、薬物療法になりますけれども、特に社会不安・対人不安が全般的に合併していたり、年齢・成人に近い場合であれば慎重に検討していくことになるかと思います。

1つ目の薬としては、いわゆる抗うつ薬SSRIになってきます。これは大人の方であったり、全般的に社会不安が強い・社会不安障害を合併しているという方に関しては検討されるところになると思います。

2つ目としては漢方薬です。漢方薬は抗うつ薬と比べて、副作用は少ない・安全性が高いということがありますので、これは10代以下の方も含めて幅広く検討されるかと思います。

ただ、効果に関しては限界があったり、個人差があったりしますので、続けるかどうかに関しては効果を見て、主治医の先生と相談していただけたらと思います。

(8)まとめ

今回は「場面緘黙症」について見てきました。「場面緘黙症」は学校や職場など「特定の場面」でのみ話せなくなる病気になります。

基本的には「不安があって話せない」、社会不安障害と近い病態でありまして、圧力をかけるのは逆効果になってしまいます。

この治療も社会不安障害に基本的には準じるところがありまして、徐々に不安に慣らしていく脱感作をしながら、成人の方だったり社会不安障害がある方はSSRI・抗うつ薬を検討していくことになります。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)