重ね着症候群

発達障害ASDにうつ等が合併

重ね着症候群は、発達障害(主にASD)を背景に、うつ等の他の精神疾患が「重ね着」する状態です。

 

うつ病・社会不安障害等の他、パーソナリティ障害が合併することもあります。

 

治療に困難ありますが、うつ等治療→発達障害への環境調整等の順で主に対策します。

 

動画:重ね着症候群

もくじ

 
  1. (1)はじめに:重ね着症候群
  2. (2)重ね着症候群の例
  3. (3)重ね着症候群の由来と定義
  4. (4)重ね着症候群の症状
  5. (5)重ね着症候群の診断まで
  6. (6)重ね着症候群の治療
  7. (7)重ね着症候群の予防
  8. (8)まとめ
  9.  

(1)はじめに:重ね着症候群

心療内科、精神科の病気。今回は「重ね着症候群」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

発達障害でよく「うつ」などの2次障害を合併しやすく要注意という風に言われます。

この逆でなかなか治療してもうまくいかない「うつ」や「対人不安」、「情緒不安定」など、この背景に実は発達障害が隠れているということも少なくありません。

もとに発達障害があって、そこにうつなどメンタル不調が「重ね着」されている。そのために、こうした状況を「重ね着症候群」と言うことがあります。

今回は、この「重ね着症候群」について見ていきたいと思います。

(2)重ね着症候群の例

まず、「重ね着症候群」の例ですけれども、ある方について振り返っていきます。

幼少期から同級生となかなか馴染めず、一人で過ごすことが多かったという方、ただ診断までは受けなかったという方です。

あるときにクラスで発表があって、そこで話し方が独特などそういうことがあったために、クラスメートからいろいろバカにされました。

その後、落ち込みや対人不安が目立つようになって、不登校から中退をして家に引きこもることが続くようになりました。

こういった方がいらっしゃいます。

(3)重ね着症候群の由来と定義

この「重ね着症候群」の由来と定義というところを見ていきたいと思います。

<重ね着症候群の由来>

これは、日本の精神科医の「衣笠医師」らが提唱したものになります。

治療に難渋したり、引きこもりなどある患者さんの中で背景にこの(当時の)広汎性発達障害、いわゆる自閉症スペクトラム障害がある方の割合が非常に多いということが見えたと。

それをよく調べてみると、さまざまな精神不調を持つ方の背景に、いわゆる広汎性発達障害がある方が多くありまして、これを「重ね着症候群」というふうに命名したということがあります。

<重ね着症候群の定義>

この「重ね着症候群」もとの定義を見ていくと、未発見のIQ85以上(境界知能や知的障害がない)の広汎性発達障害(いわゆるASD)を背景として、うつや不安障害などさまざまな精神不調を合併するというものになります。

そして、ここ最近は臨床的に「より広くとる」という考え方もあります。

それを見ていくと、未発見の発達障害(ASDとADHDでも似たところあります)、もしくは未発見の「境界知能や知的障害」あとは、敏感さの強いいわゆる「HSP」的な方。

こういった特性を背景にして、さまざまな精神不調が出るものというふうに広く解釈する方もいらっしゃいます。

(4)重ね着症候群の症状

この「重ね着症候群」の症状ですけれども、本当にいろいろな症状が出ることがあります。

<3つに分けると>

大きく3つに分けますと、まずはいわゆる精神面の症状。これはいわゆるうつ病の症状であったり、社会不安症の症状。人によっては統合失調症的なものが出る方もいらっしゃいます。

2つ目としては行動面になります。人によっては、依存症の症状が出る方もいますし、引きこもりになってしまう方もいらっしゃいますし、いわゆる行動障害・感情を抑えられないという方もいらっしゃいます。

そして、3つ目としては、各種のいわゆる「パーソナリティ障害を合併」するということがあるということです。

<症状の出方の特徴>

症状の出方の特徴を見ていきますと、まず1つ目としてはさまざまな症状が絡んでくることが多いというところ。

そして治療の効果が例えばうつ病単独と比べると、抗うつ薬ですぐ治るみたいにはなりづらく、クリアに出にくいというところがあります。

そして、一見発達障害の症状が目立ちにくいことが多いと、これは他の症状が目立っているので、相対的に隠れてしまうという意味にもなります。

(5)重ね着症候群の診断まで

続いて、「重ね着症候群」の診断までということですけれども、大きく言うと3段階で診断になります。

①重ね着症候群を「疑う」

治療をしたけれども、うつ病など治療がどうもうまくいかない・難渋して長期化していたり、あとは交流・関わり方に何かそういう「こだわり」が強かったりとか・違和感があったりする場合。

そして最近多いのが「ご本人」としていわゆるADHDやASDに当てはまるところがあるんじゃないかという「気づき」があった場合、これは疑うポイントになります。

②幼少期と現在の発達障害関連の症状を見る

今の段階で、そういう対人面のこだわりがあったり不注意があったりしないかどうか。

あとは幼少期・主には小学校の頃が一番参考になりますけれども、そういう時期にいわゆるこだわりだったり、対人的な孤立だったり、そういったものはないかというところを見ていきます。

③精査(心理検査)

症状から疑わしい時、客観的にいわゆるWAIS検査・知能検査などをして客観的な様子を見ます。

それと先ほどの問診を合わせて発達障害かどうかを正式に診断をするということになります。

これは発達障害の診断があれば、もとにはそういう精神疾患があるので、事実上「重ね着症候群」の診断が確定します。

(6)重ね着症候群の治療

続いて「重ね着症候群」の治療ということですけれども、いろいろ重なっているので困難が正直あります。ただできるところからやっていきましょうという話です。

主には、3つの順番での話をよくします。

①うつ病など精神疾患への治療

うつ病であれば抗うつ薬ですし、統合失調症のような症状であったら「抗精神病薬」などを使うことになると思われます。

②もとにある「発達面への治療や対策」

例えばADHDの方であれば、いわゆるADHDの治療薬を使うことはあり得ると思いますし、それ以外の工夫や対応というところがあります。

あとはもうそれだけで難しい場合はいわゆる「就労移行支援」という集中的なリハビリで取り組んでいくこともあるかと思います。

③パーソナリティ障害への介入(ある場合)

ただ、これは非常に特性があると難しいというふうに言われまして、1番目2番目を優先するというところ。

そしてもし仮に介入するとしても、例えば境界性の方だと衝動というところや怒りというところを何とか抑えましょうというところ。

もうやることを「必要なことに絞って」やっていくということになるんだと思われます。

(7)重ね着症候群の予防

この「重ね着症候群」は、「本来は予防できた方がいい」ということはあります。

この「重ね着症候群」今一度振り返ると、もとに発達障害があって、不適応があった結果、2次障害が合併していわゆる「重ね着」になっているということです。

なので対策のポイントとしては、この「特性からの不適応を防ぐ」ということになります。

これは主に幼少期や成人早期なので、ある種これは「社会的な課題」というところは言えるかと思います。

<重ね着症候群予防のための2つの対策>

社会的にどう対策をとるかというところを2つ事項を見ていくと、まずは「早期発見・早期療育」の話になります。

もう一つがいわゆる「ニューロダイバーシティ」というものになります。

①早期発見・早期療育

未発見の状態のままの不適応を防ぎたいので、早期・早目に特性があれば発見をして、診察・検査して診断をするというところ。

そして診断があれば、療育などを早めに導入してしっかりサポートをすることで不適応を防いでいくという話になります。

②ニューロダイバーシティ

これはよく「神経学的な多様性」とも言いまして、そういういろいろな特性・多様性を受け入れて社会・教育をつくっていきましょうという話です。

会社や学校などが発達障害などの多様性に対応するというところ。

そして願わくば弱点をカバーしつつ、一番大事な「強みを生かす」というところをしていけるといいんじゃないかというところがあります。

注意点としては、どうしてもそれをやっていくと、「周りとの対立」ということはやっぱり出てきてしまうことがあるので、それを何とか防ぐためにある種「モラル」的なところも大事でしょうし、お互いが共存するための「ルール」をしっかりつくるというところが大事になってくるかと思われます。

(8)まとめ

今回は「重ね着症候群」について見てきました。

未発見の発達障害等を背景に、「うつ」などの精神症状を合併することは少なからずありまして、これは「重ね着症候群」ともいわれます。

症状が複雑に絡み合うことが多くありまして、治療には難渋するんですけれども、まずはお薬の治療を土台としまして、背景の発達面の対策を並行してやっていくというのが一番現実的な対策です。

この「重ね着症候群」の予防というのは、社会的課題になってきます。まずは早期発見・早期療育をしっかり行っていきながら、学校や社会でのいわゆる「ニューロダイバーシティ」の普及ということが今後望まれてくるかと思います。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)