境界知能
障害未満の「知的機能の困難」
境界知能は、IQ84-70に相当する、知的障害未満の「知的機能の困難」約7人に1人が該当します。
主に成人後に、適応障害等のメンタル不調の持続や反復がある事を契機に発見されます。
まずは「発見すること」が大事。そのうえで、無理のない環境への調整や、薬物療法を検討します。
もくじ
- (1)はじめに:7人に1人が抱える「境界知能」
- (2)境界知能とは
- (3)境界知能の症状(機能、社会生活、精神症状)
- (4)境界知能の多くは精神不調で受診する
- (5)注意:境界知能と発達障害の合併
- (6)境界知能の対策と治療
- (7)まとめ
(1)はじめに:7人に1人が抱える「境界知能」
心療内科、精神科の病気。今回は「境界知能」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
慢性的な生きづらさや不調、これが続くときに背景に発達障害はないかということを見るのが最近言われています。
一方で、もう一つの可能性として、考えや行動が全般的に苦手な「境界知能」というものがあります。
特にこの境界知能は、なかなか大人になるまで指摘されることは少ない。その一方で、一旦わかれば環境をどうするかなどの対策をとることが見えてくることがあります。
今回は、この「境界知能」について見ていきたいと思います。
(2)境界知能とは
まず、「境界知能」とは大まかに見ていくと、知的障害まではいかない、考えや行動の苦手さということになります。
少し詳しく見ていきますとIQは平均100ですが、これが84から70まででおおむね定義されていきます、知的障害まではいかない知的機能の苦手さというふうに言えます。
率としては、おおむね14%の方が該当するというふうに言われます。
(3)境界知能の症状(機能、社会生活、精神症状)
まず脳の機能というレベルでいきますと、考えたり問題を解決することの困難さ。あと、言葉の理解ややりとりの困難さ、人間関係でのやりとりの困難さということがあります。ただ、これは知的障害ほどではないということがあります。
2つ目としては、社会生活での症状ですけれども、勉強についていきにくい、仕事についていきにくい、日常生活でつまずくことがあるというところ。これも同じく知的障害の方ほどではないというふうにされます。
3つ目が精神的な症状です。これは主にストレスへの反応というところで起こってきます。
例としては、落ち込みや不安というところが出てくる方もいらっしゃいますし、いらいらしたり興奮するということが出る方はいらっしゃいます。
人によっては、衝動的に何かをやってしまうという問題があるという方もいらっしゃいます。
(4)境界知能の多くは精神不調で受診する
この「境界知能」ですけれども、多くは受診のきっかけは精神的な不調で受診をするということがあります。
境界知能の特徴としてはですけど、まず学校ではあまり発覚することは多くはありません。
そして、仕事でも特に初期に関しては見つかりにくいということがあります。
実際には、不適応があったり、問題行動があったり、精神症状があったり、そういうことがあって、初めて疑われるというところがあります。
<境界知能で起きる不適応>
これらをちょっと見ていきたいと思うんですけれども、まずは不適応ということですけれども、なぜか仕事についていけないこと、覚えられないということが繰り返されてきます。
人によっては、大学で何か真面目にやっているんだけれども、成績が伸びない・単位が取れないという方も中にいらっしゃるかもしれません。
その結果、仕事がなかなか定着できず転々としたり、学校であれば留年を繰り返したりすることがあります。
<境界知能で起きる問題行動>
続いて問題行動ということですけれども、背景としてはよく触法・法を犯してしまう方の中によく調べると、いわゆる境界知能の方が少なくないという指摘が最近されています。
これは背景としては、いろいろ「慢性的な不適応」があっての反応という意味もありますし、「ストレスに対しての衝動的な行動」という両面があるかと思われています。
これに関しては、対策は特性上内省・反省をするというよりは、もう環境調整して少しでもストレスを減らすことが重要ということが言えるかと思われます。
<境界知能で起きる精神症状>
3つ目の精神症状ですけれども、そういった不適応ということはどうしても続いてしまうことがあって、不適応が続くことによってうつ病などの不調が出てくることがあります。
そして、そういう時にストレスへの反応が強く出やすい、ストレス対処が苦手というところがあって、症状が強く出やすいというのは特徴になってきます。
そして(境界知能が)発見される前でありますと、なぜかうつが長期化してしまったり、あと繰り返してしまうということが起こりやすいというのがあるかと思われます。
(5)注意:境界知能と発達障害の合併
ここで注意としては、人によっては境界知能と発達障害を合併するという方がいらっしゃいます。
定義としては、境界知能は知能的なものでありまして、発達障害はまた別のところなので合併することは少なくありません。
発達障害への対処ということが境界知能になると難しい部分があるので、症状がより強く出てしまうということが恐れとしてあります。
ただ一方で、境界知能単独だとなかなか福祉的対応は困難ですが、発達障害が合併している場合であれば、福祉的対応をとる余地があり得るということになります。
(6)境界知能の対策と治療
この境界知能の治療の方向性ということですけれども、これは知能的な面での治療というのはなかなか難しいと。どちらかというと、精神面の対策を優先するということになります。
境界知能の対策・治療ということで見ていきますと、まずは見つける、2段階目が環境調整、3段階目が薬物療法。この3段階におおむねになってきます。
①見つける
これは実は一番大事です。
不適応やうつ状態が続くという時、その可能性としてもしかしたら境界知能があるんじゃないかというのを念頭に置いておく。
その上で、子供の頃・幼少期であったり、勉強がなかなか頑張っても苦手だったり、人間関係は頑張っても何かうまくいかない、という時には特に念頭に置いておくと。
その上で正式には知能検査をした時に数字を見て判明するところがあります。
②環境調整
実際、精神不調の多くは、ご本人と環境のミスマッチ、難しすぎるなどミスマッチによっての「慢性的なストレス」が関与していることが大半です。
そのため、環境の調整としては「難しすぎない」その中で「相性がいい」環境を探していくということが一番大事になってきます。
その中で、もしうつ病などの精神疾患、もしくは発達障害(ADHD・ASD)を合併しているという場合であれば、福祉的なサポートというのも選択肢になる、検討していくことになります。
③薬物療法
うつ病など、環境調整をしてもそういった不調が続く場合に関しては、薬物療法の適応になってきます。
例えば、うつ病合併であれば抗うつ薬を使うなど、精神科的な診断に基づいた治療をしていくということになります。
その中で、調子が急に悪くなることがありますので、不調な時の頓服薬の活用、これは積極的に検討してみていただけたらと思います。
(7)まとめ
今回は「境界知能」について見てきました。境界知能は知的障害まではいかない、全般的な考えたり動いたりする「知的機能」の困難ということになってきます。
実際、不適応の反復であったり、精神面の不調、こういったところで大人になってから気づかれることがかなり割合が多いです。
この境界知能の対策としては、まずは見つけること、そして見つかったならば、負担を掛けすぎないような環境調整を行っていきまして、残る症状に対してお薬などの治療を行っていきます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)