妄想性障害

妄想のみ長く続く病気

妄想性障害は、妄想のみが長期間持続する精神疾患です。

 

幻聴や陰性症状などが目立たないのが、統合失調症との主な違いです。

 

治療は統合失調症に準じますが、病識の欠如と行動化には特に注意が必要です。

 

動画:妄想性障害

もくじ

 
  1. (1)はじめに:妄想性障害
  2. (2)妄想性障害の例
  3. (3)妄想性障害とは?
  4. (4)妄想性障害の症状
  5. (5)妄想性障害の鑑別疾患
  6. (6)妄想性障害の治療
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに:妄想性障害

心療内科・精神科の病気。今回は「妄想性障害」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

妄想とは「訂正困難な、事実とは異なる確信」になります。

主に「統合失調症」で幻聴など他の症状と合わせて出現します。

ただし、中にはこの「妄想だけ」が長く続くこともあり、「妄想性障害」と呼ばれます。

今回はこの「妄想性障害」について見ていきます。

(2)妄想性障害の例

Aさんは周りの人が話しているのを聞いた時、「自分を監視している」と確信しました。

そこから様々な人が「組織的に自分を監視して狙っている」という妄想が発生し、それが持続した結果、外に全く出られなくなりました。

その結果、食事も取れなくなり、飢餓状態になって保護されました。

そこで妄想性障害という診断を受けました。

(3)妄想性障害とは?

これは「妄想だけが長く続く病気」です。

<妄想性障害とは>

妄想性障害は、一つ以上の妄想が長期間続く病気です。

幻聴や陰性症状などは目立たない一方、妄想から社会生活に強い影響が出る事があります。

そして症状など、「統合失調症」と似ているところが多い病気です。

<統合失調症との共通点>

まずは妄想が持続することが大きな共通点です。

もう一つは「似た脳の不調のメカニズム」ドーパミン(作用)の過剰などが言われます。

そして、使う薬も基本は「抗精神病薬」で共通です。

<統合失調症との違い>

妄想性障害では、「他の陽性症状」幻聴や混乱、興奮などはあまり目立ちません。

または「陰性症状」活動の減少なども目立ちません。

そして、「認知機能障害」考える力の障害もあまり目立ちません。

<妄想性障害の疫学等>

基本的に「罹患率」かかる方の率は0.2%ほどと言われます。

年代は、基本的には40代以降、統合失調症より高い年齢の方が多いとされます。

妄想以外の面では、生活面の障害は基本的には少ないとされています。

<妄想性障害のDSM-5での診断基準>

A:一つ以上の妄想が1ヶ月以上続く

B:統合失調症の(Aの)症状の基準は満たしていない

C:妄想以外での生活困難や奇妙さはあまり目立たない

D:躁やうつのエピソードが仮にあっても、妄想よりはずっと短い

E:他の精神疾患などでは説明ができない

(4)妄想性障害の症状

基本的には「長く続く妄想」になります。

<妄想とは>

妄想は、事実と違う確信で、かつ他の人からの訂正が困難なものです。

周りからの情報(妄想知覚)、及び急な思いつき(妄想着想)から主に生じます。

出方は様々ですが、特に「行動化」、妄想に基づいて行動するときに注意が必要です。

<妄想のタイプ6つ>

①被害型

周りから監視・迫害されているなど、自分が攻撃されているという妄想です。

②被愛型

ある人物(有名人)などに恋愛感情を持たれているという妄想です。

③誇大型

自分が特別な才能などを持っているという妄想です。

④嫉妬型

配偶者などが不貞・浮気などをしているという妄想です。

⑤身体型

自分の体の状態が身体が歪んでいるなど、独特な異常があると確信する妄想です。

⑥混合型

これまでのいくつかの内容が合わさった妄想です。

<妄想で特に困ること>

まずは「対人トラブル」妄想に伴って行動化しトラブルになることがあります。

次は「生活困難」妄想に伴って生活が制限され、困難が出る事があります。

3つ目は「社会的孤立」他者への妄想が強くなると対人関係が切れ、孤立に至ります。

(5)妄想性障害の鑑別疾患

①統合失調症

妄想性障害と似た点が多いですが、他の陽性症状・陰性症状等の合併が特徴です。

②躁うつ病・うつ病

これらも妄想が時に出ますが、妄想が気分と連動しているのが特徴です。

③強迫性障害・醜形恐怖

強迫観念などで妄想的な信念が時に出ますが、この場合は強迫性障害等の診断を優先します。

<類似:遅発性パラフレニー>

これは60歳以上の高齢の方に、急に妄想や幻聴が発生する病気です。

妄想性障害と似たところが多く比較的現実的な幻覚妄想が出て、治療は抗精神病薬を使います。

ただ、妄想性障害とはなりやすい年齢が違い、こちらでは認知症との鑑別や進行に注意が必要です。

(6)妄想性障害の治療

基本的には統合失調症と同様の治療をします。その中でも、病識の欠如と行動化に注意が必要です。

妄想性障害の治療、まずは「薬物療法」、続いてが「心理社会的治療」、その中で3つ目が「病識や行動化への対策」になります。

①薬物療法

妄想性障害の薬物療法は、統合失調症と同様「抗精神病薬」を続けるのが基本です。

そして改善した後も、再燃予防のために薬を続ける必要があります。

原則は単剤で使い、色々種類ある中で合うものを探していきます。

ただし一方で、実際には治療継続にはなかなか難航することが多いです。

<難航する背景>

まず妄想性障害は、時に統合失調症以上に「病識」を持ちにくいことが多いです。

そして薬の「効果を実感しにくい」のも、続けにくい背景です。

関連して「治療の動機付け」のが難しさも影響します。

②心理社会的治療

まず精神科リハビリ(作業療法など)は統合失調症と比べると必要性は少ないです。

一方で病識を持つための「疾患教育」は大事ですが、実際には困難も多いです。

時に「行動化」ある場合は、緊急対応が時に必要になることがあります。

③病識の欠如と行動化への対策

<病識の欠如>

「病識」がないと治療の動機づけができず、治療継続が非常に困難になります。

一方で、統合失調症と違い症状が「妄想のみ」のため、なかなか自然な形で病識を持ちにくいです。

「違和感→病識」の流れを、妄想性障害では持ちにくいことがあります。

そして、「病識を出す」薬はないというのも難渋しやすい背景です。

<病識欠如への対策>

まずは「関係者との関係性を築いていく」ことが大事です。

そして、病気の有無よりも「困り事の対策」として治療導入ができるとうまくいきやすいです。

そして妄想のみに焦点が当たると行動化のリスクも上がるため、むしろ「生活をより良くする」ことに焦点を当てられるといいと思われます。

<行動化>

実際、妄想があるだけでは、影響はそこまで大きくはないことが大半です。

ただし妄想からの「行動化」が出ると、自傷他害等、リスクが大きく上がります。

そのため、この「行動化」を何とか防ぎたいところです。

<行動化への対策>

まずは「薬物療法の導入と継続」です。薬によって妄想は(消えなくても)減少はしますので、それで行動化リスクの軽減が図れます。

その上で残った妄想に「一歩引く」対策を習慣化する、これを訪問看護等も含め、繰り返し働きかける事が大事と思われます。

そして、どうしても行動化が反復する場合は、自他の安全確保のため、入院も選択肢になると思われます。

(7)まとめ

今回は、心療内科・精神科の病気「妄想性障害」について見てきました。

妄想性障害は、妄想のみが長く続く病気で、幻聴や陰性症状などが目立たないのが統合失調症との違いです。

様々なタイプの妄想が生じますが、特に妄想からの「行動化」でのトラブルに注意が必要です。

治療は統合失調症に準じて主に抗精神病薬を使いますが、病識を欠くことがどうしても妄想性障害では多いため、時に治療が難渋することがあります。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)