皮膚むしり症
皮膚を繰り返しむしる
顔や手などの皮膚を繰り返しむしってしまう病気です。
次第に無意識に繰り返すようになり、皮膚にも影響が出ます。
もくじ
- (1)はじめに:皮膚むしり症
- (2)皮膚むしり症の例
- (3)皮膚むしり症とは?
- (4)皮膚むしり症の診断基準(DSM-5)
- (5)皮膚むしり症のメカニズム
- (6)皮膚むしり症の鑑別疾患と併存症
- (7)皮膚むしり症の治療
- (8)まとめ
(1)はじめに:皮膚むしり症
心療内科・精神科の病気。今回は「皮膚むしり症」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
「皮膚をむしってしまう」というご相談を時に受けることがあります。
はじめはそれで楽になっていたんだけども、次第に無意識になってきて、皮膚も痛んできてしまう。
長い目で見て影響が強くなりうる症状になります。
今回はこの「皮膚むしり症」について見ていきます。
(2)皮膚むしり症の例
Aさんは几帳面な性格で普段から常に緊張している状態でした。
ある時、皮膚のささくれをめくると、なぜか気持ちが楽になるのを感じました。
次第に手の皮膚をむしることが増えてきまして、気が付くと次第に無意識にするようになってきました。
そして気が付くと、手の皮膚がかなりただれてしまって出血するようになりまして、皮膚科に行きました。
そうすると「皮膚むしり症」と診断されて、心療内科を受診するように言われました。
(3)皮膚むしり症とは?
これは「皮膚のむしりを繰り返す病気」です。
<皮膚むしり症とは>
皮膚むしり症、は手や顔などの皮膚を繰り返しむしる病気です。
多くは無意識に繰り返し、皮膚に強い症状が出ることもあります。
はじめは皮膚科を受診することが多いですが、精神的要因が強いものになります。
<皮膚むしり症と似た病気>
まずは「抜毛症」髪を抜いてしまうメカニズムに近いです。
あとは「爪かみ症」爪を噛んでしまうのも似たところがあります。
そして「皮膚ひっかき症」むしるんじゃなく「ひっかく」場合も、非常に似たメカニズムが言われます。
<強迫性障害と類似している>
まずこの皮膚をむしるということが強迫観念のように頭から離れないというところが共通します。
そして「強迫的にしてしまう」それを繰り返しするところ。
そして初期はそれをすることで不安の軽減をしている点も共通です。
<皮膚むしり症の皮膚への影響>
まずは「皮膚組織の損傷」繰り返しむしったことでの損傷です。
その結果、いわゆる「瘢痕」あとが残ります。
3つ目は破ったところが「感染してしまう」、感染してしまうと、機能などにも時に影響が出ます。
<皮膚むしり症の社会生活への影響>
まず「むしり関係での時間の浪費」繰り返しむしる時間、傷の処置をする時間、むしることが頭が離れない時間、これらが含まれます。
そして「活動などへの集中困難」気になって集中できない事があります。
そして跡が残ったりする中で、対人場面の回避が出てくることがあります。
<皮膚むしり症の疫学等>
DSM-5(記載)の統計によりますと、約1.4%の有病率という数字があります。
「10代の発症が多い」皮膚のニキビ(ざ瘡)との関連が時にみられます。
男女比としては「約4分の3が女性」と言われています。
(4)皮膚むしり症の診断基準(DSM-5)
A:皮膚の損傷を引き起こすような、繰り返される皮膚むしり行為
B:皮膚むしり行為を「減らすもしくは止めようと」繰り返し試みている
C:強い苦痛か社会生活への障害がある
D.E:他の病気等では説明が難しい
(5)皮膚むしり症のメカニズム
大まかに、「自己治療」、「強迫症状」、「無意識の習慣」の3つが言われます。
①自己治療
これはある種の「痛み刺激」によっての「緊張緩和」です。
これは初期は効果を実感して結果むしりの回数が増えます。
しかし、繰り返す度に次第に効果が弱まっていきます。
②強迫症状
強迫的にむしりを「繰り返しせずにはいられない」確認行為類似の状態になります。
そして、皮膚をむしることが「強迫観念」のように頭から離れなくなります
そしてやめようとしますがなかなかやめられないというところがあります。
③無意識の習慣
だんだん慢性化してくると、次第に「無意識にする習慣」になってきます。
そして、しばしば生活の中で、瘢痕が残ったり対人面を回避するなど実害が出てきます。
しかしなかなか理屈だけではこの習慣が変わらないのが、この病気の難しさになります。
(6)皮膚むしり症の鑑別疾患と併存症
<皮膚むしり症の鑑別疾患>
①皮膚疾患由来
「疥癬」が有名ですが、かゆみなどが強い皮膚疾患のために「むしる」行動が出る事があります。
②醜形恐怖
外見へ不安や恐怖がある中で、逆説的な結果として「皮膚をむしる」ことが時に出現します。
③精神病性障害
「寄生虫妄想」などの一種の「幻覚や妄想」などから「むしること」が出てしまう方が時にいます。
<皮膚むしり症の併存症>
①強迫性障害
「強迫スペクトラム」の1つと言われるように症状に似たところが非常に多いです。
②抜毛症など
抜毛症など、「間接的に自分を傷つけるくせが習慣化する」、非常にメカニズムが似ているものが幾つかあります。
③うつ病
うつ病があり2次的にむしり症が出る場合、逆に「むしる」ストレス・葛藤からうつ病になる場合、双方あります。
(7)皮膚むしり症の治療
いわゆる標準治療はなく、補助的な方法で合うものを組み合わせます。
候補は、「併存症の治療」、「セルフモニタリング」、「曝露反応妨害法」、「ストレスマネジメント」の4つです。
①併存症の治療
うつ病や強迫性障害が合併の場合は、その治療として抗うつ薬を充分量使います。
そして、うつ病などの改善に伴って、この皮膚むしり症も改善することもあります。
ただ、残る場合もありますので、その場合は他の方法を考える必要があります。
②セルフモニタリング
この皮膚むしり症が「無意識の習慣」になってしまうと、これを止めることは非常に困難です。
そのため、まずは自分の状態・意識を観察して知ることが大事です。
特にむしる時・むしる前を意識して、まずは可能な範囲でなるべく止めてみます。
③曝露反応妨害法
この「むしる」ことをあえて「やらない」ことで、そこで生じるもやもやした不安に慣らしていきます。
ただ、この方法は非常に心理的な負担が大きいため、非常に徐々にかつ可能なら抗うつ薬と併用で、慎重に行います。
その中で、かわりに手を動かす等の「代替行動」を活用して欲求や衝動をかわしていくのも一つの方法です。
④ストレスマネジメント
皮膚むしり症の悪化要因としてストレス・体調不良などあるため、そのストレスにまず対策します。
そして、緊張が悪化の背景にあるので、緊張へのリラックス法を日頃から模索していきます。
そして疲れも影響しますので、疲労を取るための生活面の様々な調整・介入をしていきます。
これらは地味ですけれども、他の対策の土台になります。
(8)まとめ
今回は、心療内科・精神科の病気「皮膚むしり症」について見てきました。
皮膚むしり症は、皮膚をむしることを繰り返す病気になります。重症化すると、皮膚感染の合併など、時に生活にも影響が出ます。
初めは、緊張を和らげるなどの「自己治療」ですが、次第に強迫的・無意識になります。
強迫性障害と類似点が多くあり、しばしば併存・合併します。
治療法は決め手はないですが、まずストレス等の対策や併存症の治療を土台にします
そして状態を観察して、必要時は「あえてむしらない」という暴露反応妨害法的な練習を並行します。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)