自己愛性パーソナリティ障害
「自分が特別」との認知の偏り
「自分が特別な存在」との考えの偏りが目立つパーソナリティ障害です。
他者に対しての思いやりのない言動などで、自分より相手が主に影響を受けます。
改善には考えの偏りへの直面と調整が必要ですが、「自分の強い意思」が必要条件です。
もくじ
- はじめに(自己愛性パーソナリティ障害)
- ①自己愛性パーソナリティ障害を考える場面
- ②自己愛性パーソナリティ障害とは
- ③自己愛性パーソナリティ障害の症状
- ④自己愛性パーソナリティ障害の診断
- ⑤自己愛性パーソナリティ障害のメカニズム
- ⑥自己愛性パーソナリティ障害の鑑別疾患・併存症
- ⑦自己愛性パーソナリティ障害のおもな経過
- ⑧自己愛性パーソナリティ障害の治療
- ⑨自己愛性パーソナリティ障害の薬物療法
- ⑩家族等の対応
- まとめ
はじめに:自己愛性パーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害とは、「自分が特別」だと思う「認知の偏り」が目立つタイプのパーソナリティ障害です。現実の場面では、ご本人より周りの方が辛くなることをよく聞きます。
一方で、特性上、「外から変えること」は難しいです。
今回は、この「自己愛性パーソナリティ障害」について全般的に見ていきたいと思います。
(1)自己愛性パーソナリティ障害を考える場面2つ
①周りに勧められて
仕事自体は非常にできて出世も、部下への強い叱責を反復、その結果、部下のうつ発症が反復、パワハラの疑いとなり、産業医より「自己愛性パーソナリティ障害の疑い」を指摘された。
②自分で気づく
学生時代は外に「傲慢な発言」あるも非常に優等生で経過。しかし就職後業績は良好も、対人面のあつれきから評価されず、納得いかず退職。
その後も同様の流れを反復、次第にうつ状態や社会不安発生。そして飲酒も増え生活も乱れ経過。葛藤の中「自己愛性パーソナリティ障害」の記事を見て、しぶしぶだが自分に該当する点を自覚した。
(2)自己愛性パーソナリティ障害とは
これは「認知などの強い偏り」パーソナリティ障害のうち、「自分が特別だ」というような「自己愛的な」認知の偏りが目立つタイプのパーソナリティ障害です。
(3)自己愛性パーソナリティ障害の症状
<DSM-5の基準9つ>
①自分が重要という「誇大な感覚」
必要以上に、自分はすごいと思って自慢します。「他の人とはレベルそのものが違うのだ」
②限りない成功などへのとらわれ
いくら成功しても足りないという感覚が続きます。「もっと!もっと!」
③自分が特別でそう認めてほしい
特に「レベル高い人」に認めてもらいたい傾向があります。「わかる人には、自分の特別さがわかる」
④過剰な賞賛を求める
羨望・注目・称賛を求める。「もっと褒めてくれ」
⑤特権意識
自分の仕事等を特別と思い「特別な配慮や待遇」を求めます。「これは特別な仕事だから助けてもらって当然だろう」
⑥対人関係で相手を不当に利用する
自分の目的のために人を利用したり、自分の利益を基準に人間関係を作ります。「こいつは使えるな、友人になってみよう」
⑦共感の欠如
相手の気持ちをわかろうとしない。「お前の悩みなんかどうでもいいんだよ」
⑧他者のへの嫉妬、他者が自分に嫉妬していると思い込む
相手への嫉妬あり、時にこき下ろしが出ます。「なんであいつばかりが」
⑨尊大で傲慢な行動や態度
いわゆる「マウントを取る」ような上からの言動。「おい、それ取って来なよ」
<補足:攻撃に対して敏感>
ストレスに敏感に反応し、強い怒りや強い落ち込みが出やすいです。
ある種敏感さへの自己治療で「成功への依存」も面もあります。
そして困難時は引きこもりなどに時に至ります。
(4)自己愛性パーソナリティ障害の診断
診断は基本的にはDSM-5では2段階、パーソナリティ障害の診断がまずあり、その中で自己愛的な特徴があることで診断になります。
<パーソナリティ障害>
認知・感情・対人面・衝動のうち2つ以上で大きな偏りがある。かつそれが幅広くあって「社会生活に大きな支障がある」。自分か周囲が強く苦悩するのが基準です。
<自己愛性>
前述9つのうち5つ以上が基準です。
(5)自己愛性パーソナリティ障害のメカニズム
基本、「素因」に「経験」が重なり発症します。
<関連要素>
●幼少期の養育環境
過酷な環境や、逆に過保護で親から「(おまえは)特別だ」と風に言われ続ける場合等
●学校や社会経験
「不認証体験」や偶然の賞賛の「成功体験」など
●発達障害の傾向
発達障害の二次障害で生じる事もあります
(6)自己愛性パーソナリティ障害の主な鑑別疾患と併存症
<鑑別疾患>
●自閉症スペクトラム障害(ASD)
「共感性欠如」が共通。違う場合と、ASD二次障害としての合併の場合あり。
●強迫性障害
失敗への不安からの強迫症状が出る事あり。
●他のパーソナリティー障害
しばしば合併し、それにより表出が多様になる。
<併存症>
●うつ病、社会不安障害
不適応時に反動で強い落ち込み、不安が続くことがあります。
●依存症
不適応時に回避・自己対処としてのアルコール等への依存
(7)自己愛性パーソナリティ障害の主な経過
- ①成功時→周りが困る
- ②失敗時→自分が困る(うつ・対人不安等)
(8)自己愛性パーソナリティ障害の治療
基本的には外から「変える」ことは困難、ご自身が気づき、徐々に現実の「直面化」「受入れ」ができるか次第です。
<受け入れることの例>
- ●自分は少なからず人を傷つけていた
- ●自分は思ったほどは成功を収めていない
- ●自分は実は陰では疎まれていた
<受入れの5段階>
- ①否認(なかったことにする)
- ②怒り(一部受け入れも納得いかず怒る)
- ③取り引き(半分受け入れもなかったことにしようと試みる)
- ④抑うつ(受け入れるが反動の落ち込み目立つ)
- ⑤受容(抑うつを越え受け入れつつ前を向く)
ただし、自己愛性パーソナリティ障害ではなかなかこの「受け入れ」には困難があります。
- ●受け入れる困難が強い
- ●本人がストレスに敏感で「受入れ」が苦手
の面があり、抑うつや前段階の否認・怒りが強く出やすいです。
<外からの変化は困難>
困難が大きい中、自分の意志がない中の直面化は「攻撃」と感じられ逆効果になります。(クリニック外来での直面化は困難です)
カウンセリングでも本人の意思がないと「治療関係のゆがみ」「直面化の拒絶」が生じ、逆効果の場合さえあります。
<直面できるための条件>
- ●苦難を飲み込む意志
- ●つらくても継続してぶれないこと、その為の覚悟
- ●本人の耐性
そのため直面には、本人の確固とした「意志」が必須です。
<現実的なかかわりの方向性>
まずはご自身が明確に変えようとする意志がある場合に限り、ご自身で徐々に直面化・受け入れを検討することになると思います。
その中で、意志は固いが実際に困難が強い時に、サポートとしてカウンセリングを受けるのは選択肢です。
また、うつが目立つ場合は一旦休止・休養して立て直しつつ、心療内科での薬の併用も選択肢です。
(9)自己愛性パーソナリティ障害の薬物療法
基本的に薬はあまり効きません。ただし、直面化時などの「うつ」「社会不安」などには、補助的にお薬を使いうると思われます。
<使う薬の候補>
●抗うつ薬
うつ・対人不安(社会不安)に対し有効。ただし、イライラ等リスクあり慎重に検討
●睡眠薬
不眠からの悪循環を防ぐが、依存に注意
●抗精神病薬
不調時の頓服で使う場合あり
(10)家族等の対応
対応の分岐点は、本人の「改善の意思の有無」です。
①改善の意思がある時
「見守っていく」も選択肢。ただし、意思が表面的だったり、本気でも耐性などから否認に戻ることもあるため、慎重に検討を。
②改善の意思がない時
その場合本人は変化しません。それを前提に関係者が「自分の安全や健康を守る」対策です。
<対策の方向性>
基本その相手とは距離を取り、刺激しない。そして言われたことは真に受けず受け流します。耐え難い時は距離を取る等の環境調整も選択肢です。
<どうしても離れられない場合>
正論的な直接対決は危険です。現実的には機嫌は取りつつ現実的な範囲での距離の確保が大事です。どうしても困難な場合は第三者を入れるのも選択肢です。
まとめ
この「自己愛性パーソナリティ障害」は、「自分が特別だと思う」認知の偏りが目立つタイプのパーソナリティ障害になります。
その多くは、周りが強く困るというところで発覚しますけれども、場合によっては逆に不適応などからうつ・引きこもりという状態が続くというところで見つかるという場合もあります。
特性上、外から変えようとする介入というのは非常に難しく、逆効果にもなりやすいです。なので、ご自身で「受け入れて直面化する」というところが道筋になってくるんですけど、困難は正直大きいです。
その中で何とか変えていこうとご本人さんが誓って、それでもハードルが高いという場合では、補助的にカウンセリングを受けて、その道筋を調整・相談しながら受け入れをやっていくということだったり、落ち込みに対して薬を少し補助的に使って受け入れをやっていくと、そういったことは選択肢になり得るんじゃないかと思います。
ご注意
当院では、長時間のカウンセリング等の「自己愛性パーソナリティ障害の専門治療」は行っておらず、あくまで合併するうつ症状・不眠等への心療内科・精神科的治療を、外来診療の枠組みで行っております。
記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)