パーソナリティ障害
持続する認知・感情などの偏り
パーソナリティ障害は、持続する認知や感情などの偏りで、出方によって3群・10種類に分類されます。
発達障害とは定義に違いがありますが、時に発達障害に「パーソナリティ障害」が「重ね着」することがあります。
特効薬はなく、偏りに直面しつつ徐々にその修正を図る日々の反復した取り組みが、治療の方向性になります。
もくじ
- (1)はじめに:パーソナリティ障害
- (2)総論①パーソナリティ障害とは(診断基準も含め)
- (3)総論②パーソナリティ障害の3つの群
- (4)総論③パーソナリティ障害の起こる背景
- (5)総論④発達障害との違いと重複(オーバーラップ)
- (6)総論⑤パーソナリティ障害の治療について
- (7)各論:10種類のパーソナリティ障害
- (8)まとめ
(1)はじめに:パーソナリティ障害
心療内科、精神科の病気。今回は「パーソナリティ障害」についてやっていきたいと思います。
最近、「生まれながらの生きづらさ」として発達障害の話がよく出てきますが、それより前から「続く生きづらさ」としてのパーソナリティ障害の診断がありました。
有名なものとして「見捨てられ不安」などを背景に、結果「周りを振り回してしまう」等の症状が出る「境界性パーソナリティ障害」があります。
その他も含め、今の診断基準では合わせて10種類のパーソナリティ障害があります。
今回はこの「パーソナリティ障害」について全体的に見ていきたいと思います。
話の流れとしましては、まずは総論・パーソナリティ障害の定義や治療について、各論としてはこの10種類のパーソナリティ障害について見ていきたいと思います。
(2)総論①パーソナリティ障害とは(診断基準も含め)
まず「パーソナリティ障害」を大まかにまとめると「強すぎる、認知・感情・対人面・衝動のかたより」になります。
<DSM-5での主な診断基準の要点>
A:認知(考え方)、感情、対人面、衝動、この4つのうち2つ以上の著しい偏りがある
B:Aの偏りが幅広くかつカバーするのが難しい
C:Aの部分で社会的な障害や強い苦痛が起こっている
D:Aのの偏りが長期間続いている
まとめると「強すぎる認知などの偏りが長期間幅広く続いて、社会生活や苦痛という点で強い困難をきたす」になります。
(3)総論②パーソナリティ障害の3つの群
このパーソナリティ障害のタイプですけれども、大きくとABCの3つに分かれます。
まず、A群としてはある種「風変わりな群」と言われまして、妄想型パーソナリティ障害、シゾイドパーソナリティー障害、統合失調型パーソナリティ障害があります。
B群としては、「感情などが激しいタイプ」と言われまして、反社会性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害になります。
C群としては「不安が強いタイプ」と言われまして、回避性パーソナリティー障害、依存性パーソナリティ障害、強迫性パーソナリティ障害があります。
(4)総論③パーソナリティ障害の起こる背景
このパーソナリティ障害の起こる背景としては、2つの因子があります。
一つは、素因(元からの要素)、敏感さが強いということもありましょうし、家族歴的な遺伝的要素も少なからずあるとも言われます。
もう一つの要素が経験です。色々な経験で不安が強くなったり、自己評価が下がったり等の要素が影響すると言われます。
(5)総論④発達障害との違いと重複(オーバーラップ)
<発達障害との違い>
主には起こり方の違いです。
発達障害は、生まれながらの脳のレベルでの障害ということが言われます。
一方でパーソナリティ障害は、もとの素因はある一方で、経験が合わさって、様々な要素が混合して出てくることがあります。
<実際は合併等も多い>
ただ、これはオーバーラップすることも少なくありません。特に、発達障害に(ストレス等による)2次障害が合併した時に出やすいです。
例としては、ADHDに2次障害を合併した時に、感情のコントロールが難しい「境界性パーソナリティ障害」を合併することがあります。
またASD(自閉症スペクトラム)に2次障害が重なって「自己愛性パーソナリティ障害」を合併するということが言われます。
(6)総論⑤パーソナリティ障害の治療について
パーソナリティ障害の治療では、いわゆる「特効薬」はなく、期間をかけて徐々に取り組んでいくものになります。
<治療の大まかな方向性>
一番の基本は、先ほどの「かたより」に対しての地道な取り組みの継続です。
その中で、補助的に薬を使うということがあります。
大前提としては、自分の意思で地道に取り組むことが、(治療が長期のため)必要になってきます。
<目指していく方向3つ>
1つ目はまず「他の人を傷つけない」こと。これは周りからサポートを受ける上でも、非常に大事な要素になります。
2つ目は「自分を傷つけない」ということ。危険性などの面からも、自分を傷つけないことは2つ目に大事になってきます。
3つ目は「自分の軸を持って人生を充実させていく」ことが、長期的な取り組みの中で大事です。
<精神療法等で行う事の方向性>
まず1つ目は「現状を受け入れていく」こと。自分自身、そういう偏りがあって影響が出ていることを徐々にでも受け入れていくこと。
その上でその「かたよりへの対処技術」。感情のコントロール・衝動に一歩引くことなどの「対処技術」を反復練習で獲得していくこと。
その上での「実際の場面での実践」。練習と比べ実際場面の方が難易度が上がり失敗も増えますが、振り返りをしつつ徐々に修正しつつ練習し、改善を継続していきます。
<薬:補助的に使うことあり>
まずは「頓服」。不安定時に、「安定剤」を頓服で使うことがあります。これは対処技術の一環として使います。
また、2次的にうつなどを合併した時の抗うつ薬や、気分変動への気分安定薬を使うことがあります。
そして背景にADHDが合併している時は「ADHD治療薬」を使うことがあります。
(7)各論:10種類のパーソナリティ障害
(A群:風変わり)
【妄想性パーソナリティ障害】
これは主に認知・対人面の偏りがあります。他者に対して強く疑い過ぎるというところが大きな特徴になってきます。
これが強くなると、他者を疑ってしまうことからトラブルになることがあります。
【シゾイドパーソナリティー障害】
これは主に感情・対人面の偏りになってきます。人・他者に対して無関心で孤立するという傾向があります。
そして、感情がなかなか出てきづらくなり、結果として孤立することが多くなります。
【統合失調型パーソナリティ障害】
これは、主に認知・対人面の偏りになってきます。奇妙な捉え方・感じ方というのが目立つというのが一つ。
そして周りへの表出・表すところも奇妙になり、対人的なところも回避をする傾向が出ます。
(B群:感情が激しい群)
【反社会性パーソナリティ障害】
これは、先ほどの4分野の全般的な偏りになりますます。衝動や感情のコントロールというのが非常に難しくなります。
そのため時には反社会的な行動を繰り返してしまう場合もあります。
【境界性パーソナリティ障害】
これも4分野、認知・感情・対人面・衝動全ての偏りが特徴的です。
主には、感情・衝動の調節の困難が目立ち、その結果、対人面でも結果的に振り回すなどが目立つ場合があります。
【演技性パーソナリティ障害】
これは主に感情・対人面の偏りになります。感情表現が過剰で、ある種芝居がかった感じになります。
その結果相手を巻き込んだり、また巻き込まれることが目立ちます。
【自己愛性パーソナリティ障害】
これは主に認知・対人面の偏りになります。
自分が特別な存在との思いにとらわれ、人によっては他者を見下したり利用したりすることが出てきます。
(C群:不安が強い群)
【回避性パーソナリティ障害】
おもにこれは認知・対人面の偏りで、自己評価の低さから様々なことが不安になる状態が続きます。
その結果対人関係の場面など様々なことを回避・かわしてしまうことが特徴になります。
【依存性パーソナリティ障害】
これも主に認知・対人面の偏りです。
自己評価の低さなどから様々なことへの不安が生じ、その結果他者に頼り依存しすぎてしまう「対人面の偏り」が出てきます。
【強迫性パーソナリティ障害】
これも主に認知・対人面の偏りで、強迫的に「こうあるべき」という秩序にとらわれます。
結果、対人面でもそれを「押し付けてしまう」偏りがあり、そこからトラブル等が生じることがあります。
(8)まとめ
今回は「パーソナリティ障害」について全般的に見てまいりました。
パーソナリティ障害は強すぎる認知・対人面などの偏りが続き、社会生活などが困難になる障害です。
もとの「素因」と「経験」が重なることで発症するとされます。
発達障害に二次障害が重なったタイプに関しては、重複する面が少なからずあります。
細かく分けると10種類に細分化されます。
治療の方向は、この偏りに対して向き合って徐々に調整をしていくことです。
ただし、これは期間・労力とも要するため、自分自身で何とか変えていこうという「意思」が大前提になります。
ご注意
当院では、長時間のカウンセリング等の「パーソナリティ障害の専門治療」は行っておらず、あくまで合併するうつ症状・不眠等への心療内科・精神科的治療を、外来診療の枠組みで行っております。
記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)