離人症

「自分を見失う」離人感の持続

離人症は、「自分が自分でない」と感じる「離人感」等が一過性でなく持続・反復する精神不調です。

 

「解離性障害」の一種であり、ストレスに圧倒されやすい状態のときに生じやすくなります。

 

治療の方向は「ストレスに圧倒されない状態を目指す」事。そのために様々な方向でアプローチします。

 

動画:離人症

もくじ

 
  1. (1)はじめに:離人症、
  2. (2)離人症の例
  3. (3)離人症とは
  4. (4)離人症のメカニズム
  5. (5)離人症の鑑別疾患と併存症
  6. (6)離人症の治療
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに:離人症

心療内科、精神科の病気。今回は「離人症」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

「自分が自分でないような」「現実がないような」感覚を覚える「離人感」。

ストレスなどでの一過性のことも多い半面、中には「続く」「繰り返す」という方もいらっしゃいます。

その場合は「離人症」の診断のもと対策を考える必要があります。

今回はこの「離人症」について見ていきます。

(2)離人症の例

Aさんは仕事のストレスなどが続く中、自分が自分でない感覚に襲われることがありました。

初めは一回きりだったのですが、次第にストレスが大きくは目立たない時でも繰り返し同じような感覚に陥るようになってきました。

周りからも違和感を持たれることがあったり、仕事や日常でもうまく集中ができないということも生じてきました。

そのため、心療内科を受診して「離人症」と診断をされました。

(3)離人症とは

離人症とは「現実感のない状態が反復・持続する不調」です。

この「現実感のない状態」は、「離人感」と「現実感消失」の2つに分かれます。

①離人感

離人感は、「自分自身の感覚」が自分から離れてしまっているような感覚。

「考え」自分の考えが自分でないような感じであったり、「感情」自分の感情がないように感じられます。

あとは「感覚」や「体の状態」、「行動」が自分から離れたように感じられます。

②現実感の消失

現実感消失は、「相手や周囲」が現実とはあまり感じられない感覚。

例えば自分がまるで映画の中にいるような感覚であったり、周囲の人や物が遠くにあるような感覚になります。

③一過性ではない

実際に多くの人がストレスが強い時などに「一過性の離人感」を体験します。

しかし、その多くは一回きりで一過性で終わります。

しかし(離人感でなく)離人症の場合、これが持続もしくは反復します。

<DSM-5での診断基準>

ここでは「離人感・現実感消失症」という名前ですが、基準を見ていきます。

A:「離人感」よ「現実感の消失」が、どちらかもしくは両方が「持続する」か「反復する」

B:離人感などの体験の間、現実検討は正常に保たれている

C:社会生活などに強い影響がある

D・E:物質の影響や他の病気などでは説明ができない

<離人症の疫学等>

平均の発症年齢は一説によると16歳と言われて、かなり年齢が低いです。

アメリカのデータでは、約2%の方が離人症になると言われます。

そして、はじめから慢性の方、もとは一過性だったのが次第に慢性化する方、どちらもありえます。

(4)離人症のメカニズム

基本的にはいわゆる「解離」の一つになります。

<解離とは>

解離は強いストレスに「圧倒された時」のストレス反応の一つです。

ある種「自分が自分でないような状態」になります。

この中で人によってはいわゆる健忘(解離性健忘)、人によっては「解離性遁走」どこか他のところへ行ってしまうなど、様々な形をとります。

こういった中、「離人症」も強いストレスに圧倒された反応の一つといえます。

(5)離人症の鑑別疾患と併存症

<離人症の鑑別疾患>

①一過性の離人感

ストレスなどがあった時に一過性に離人感が出る方は多いですが、大半はストレス下で「一過性」で終わります。

②トランス状態

自発的に離人的な状態を誘発する場合や、ある種の「物質」などが影響して離人的な状態になる事があります。

③統合失調症

いわゆる「初期症状」の時に出ることが多く、俗にいう「世界没落体験」や、「失感情症」感情が感じられないような症状などが時に体験されます。

<離人症の併存症>

①うつ病

うつの中で無気力や「体が鉛のように重い」など、離人症と非常に似た症状が出ることがあり、合併しやすいです。

②不安障害

特にパニック発作に関して、この離人感を合併しやすいことが指摘されています。

③発達障害・パーソナリティー障害

これは感情や強い衝動に圧倒されやすい点を背景としてよく併存します。

(6)離人症の治療

この離人症へのある種の特効薬的なものはありませんが、治療の方向性は、「ストレスに圧倒されなくする」ことです。

ストレスに圧倒されて「解離」の一つとして離人症が出ますので、ストレスに圧倒されなくすることが治療のポイントになります。

圧倒された状態から色々対策を取って、圧倒まではされない「ストレスはあるけれども共存する」状態を目指します。

大まかな治療の柱としては、一つは「ストレスマネジメント」もう一つはいわゆる技術「スキルトレーニング」、3つ目が「薬物療法」です。

<ストレスマネジメント>

さまざまな角度からストレスとその影響を減らしていきます。

①生活リズム・休養・ストレス発散

生活面などの土台を整えることで、ストレスやその影響を減らしていきます。

②認知行動療法

考え方のくせで自分を追い詰めないようにする「認知再構成」や、対人面で我慢するくせを減らす「アサーション」等が適応になります。

③リラックス・マインドフルネス

ストレスに対しもがき過ぎず「受け入れる」ことで、緊張などからの悪循環を減らします。

<スキルトレーニング>

これは、特に発達障害やパーソナリティ障害がある方で有効です。

強い感情や衝動に圧倒されないための様々な「一歩引いたりする」などの技術を、まず知ったうえで徐々に身につけていきます。

それによりストレスに圧倒されることを防ぐ事を目標にします。

<薬物療法>

これは特に「うつ病」や「不安障害」が背景にある時に有効です。

抗うつ薬を基本として、時に不安を取る抗不安薬などを併用し、背景の疾患の改善から、合併している「離人症」の改善を図ります。

これはしばしば有効ですが、例えばうつ病が改善した後も離人症が続く場合があり、その際は他の対策も併用することが必要です。

(7)まとめ

今回は心療内科・精神科の病気「離人症」について見てきました。

この離人症は、「自分が自分でないように感じる」離人感などが反復・持続して生活に影響が出る不調です。

離人症は、強いストレスに圧倒される「解離」の1つで、うつ病や不安障害などが背景にあることが多いです。

離人症への対応の基本は「ストレスに圧倒されなくなる」こと。

そのためにストレスなどの対処方法を改善しつつ、背景にうつ病や不安障害がある場合はその治療を並行します。

ご注意

当院では、長時間のカウンセリング等の「離人症の専門治療」は行っておらず、あくまで全般的な心療内科・精神科的治療を、外来診療の枠組みで行っております。

記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)