溜め込み症

物をためすぎゴミ屋敷状態に

様々なものを「病的に」溜め込んで、ゴミ屋敷状態になる等が起こる精神疾患です。

 

生活面・健康面・社会での対人関係のいずれもに大きな影響が出る事があります。

 

治療法は確立されていませんが、薬や環境調整などを状況に応じ組み合わせ改善を模索します。

 

動画:溜め込み症

もくじ

 
  1. (1)はじめに:溜め込み症
  2. (2)「溜め込み症」を考える場面
  3. (3)溜め込み症とは?
  4. (4)溜め込み症の症状と診断基準
  5. (5)溜め込み症の影響
  6. (6)溜め込み症の鑑別疾患・併存症
  7. (7)溜め込み症の治療
  8. (8)まとめ
  9.  

(1)はじめに:溜め込み症

心療内科、精神科の病気。今回は「溜め込み症」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

ここ最近では、家に物が大量に・乱雑に溜まってしまう、いわゆる「ゴミ屋敷」の問題というのがよく社会問題で出てきます。

これはよく「脳の病気」であったり、「強迫性障害」確認を繰り返してしまうなどが背景のことも言われます。

一方で、それだけでは説明がつかないようなケースも少なからずあるとされまして、アメリカの診断基準DSM-5では、独立して「溜め込み症」ということで定義をされました。

今回はこの「溜め込み症」について見ていきたいと思います。

(2)「溜め込み症」を考える場面

まず、「溜め込み症」を考える場面ですけれども、Aさんの例です。

物を集めていくのが好きなんですけれども、一方で捨てるということがどうも辛くて苦手でした。

その結果、徐々に物が溜まっていって数年すると、次第に家が物でいっぱいになってきたと。

その中で一部のものが腐って結果、悪臭を放つことがあって、近隣からの苦情からトラブルになってしまったという例です。

(3)溜め込み症とは?

この「溜め込み症とは」ということですけれども、まず大まかに言うと、物を捨てられずに・物が溜まって・生活が困難になる、という疾患になります。

<溜め込み症の疫学等>

溜め込み症の疫学等ですけれども、これはいわゆる時点有病率、その時点でこの病気を持っている方が2から6%と、欧米ではデータがあります。

男性と女性、男性の方が多いという説があります。年齢的にはどちらかというと、(年を)重ねた高齢の方の方が多いというふうにされます。

10代で発症して20代でちょっと影響出始めて30代でいろいろ支障が出る。4-50代でより問題になる方もいらっしゃいます。

この中で、いわゆる動物をたくさん飼いすぎてしまう「動物溜め込み」という方が中にはいらっしゃるというふうな指摘があります。

<溜め込み症になりやすい背景>

まず1つ目はいわゆる「優柔不断」。捨てるということはある種の「判断」ですから、その判断が苦手な方はなりやすいと指摘されています。

2つ目は完璧主義というところです。やっぱり捨てるということでリスクがある、そうするとなかなかそれが止まってしまうということが完璧主義な方で出ることがあります。

3つ目としては、いわゆる注意散漫になります。片づける時はある程度「集中を続ける」ということが必要になりますので、それが難しい方だと結果、溜め込んでしまうことがあります。

(4)溜め込み症の症状と診断基準

続いて、溜め込み症の症状と診断基準を見ていきます。

まず基準Aですけれども、これは実際の価値と関係なく、捨てる・手放すことが困難ということです。

周りから見て、そんな貴重じゃないと思っても、ご自身の中で捨てるというのは困難ということがあります。

Bとしては、捨てる困難に関しては「保存する欲求・要求」や「捨てることへの苦痛」から生じるというところ。

そういうことがあるので、「ご自身の意図として」溜めているというところになります。

次のCとしては、捨てる困難によって生活空間が物でいっぱいになって危険が生じるというところです。

これは片付いている場合もあり得るんですけど、大体これは業者が入ったりとか、第三者が入って綺麗になっているというところになります。

Dとしては、社会生活等に大きな影響があるというところ。これは自分や他者の環境の安全というところも含まれます。

Eは他の医学的疾患が由来ではない。Fに関しては他の精神疾患では説明がつかないということであります。

<診断基準のまとめ>

これらをまとめると、Aは捨てることが困難、Bはそれが自らの意思でやっているというところ。Cは物で溢れてしまう。

Dはそれで社会的に大きな影響があると。E.Fに関しては、他の原因では説明はできないということです。

(5)溜め込み症の影響

つづいて「溜め込み症の影響」を見ていきますけれども、大きく言うと3つになるかと思います。

1つ目は、生活が困難になるというところです。ものがたくさんありますので、できることが減ったり、日常生活に影響が出ることがあります。

2つ目は健康への影響です。不衛生になってしまったり、生活がままならなくなってしまうことで、健康にも影響が出ることがあります。

3つ目としては、周囲とトラブルになります。先ほどあった悪臭であったり、物が外へ出てしまったりなどがあったりすると、近隣とトラブルになることがあります。

(6)溜め込み症の鑑別疾患・併存症

次は溜め込み症の鑑別疾患・併存症になってきます。

<溜め込み症の鑑別疾患>

1つ目は脳神経疾患です。脳の損傷・脳血管障害・脳梗塞などが背景にあって、いわゆる高次脳機能障害の一つとしてため込んでいることはあり得ますので見分けます。

次は発達障害です。いわゆる自閉症スペクトラムASDのこだわりが背景にある場合、ADHDの方の不注意・集中が続けられないということが背景になるという場合もあり得ます。

3つ目は強迫性障害です。強迫症状、こだわりや確認から捨てられないというところがあるというところがあります。

<溜め込み症の併存症>

まず「うつ病」です。約半数の方が合併するとは言われます。うつで判断力や集中力が落ちたりすると、より悪化するということは想定されます。

続いては各種の不安障害です。社会不安症、全般性不安障害などを合併するという方が少なくはないです。不安があると捨てにくい悪循環になることがあります。

続いては「強迫性障害」になります。溜め込みとこの強迫性障害を分けることもあるんですけれども、両方を合併するということも少なくないということになります。

(7)溜め込み症の治療

続いて溜め込み症の治療ですけれども、これに関していわゆる標準治療というのは今のところないというのが見解です。

候補になる治療としては幾つかあって、薬物療法(薬の治療)、精神療法、あとは環境調整というところは候補にはなります。

<薬物療法>

まず薬物療法ですけれども、確かに強迫性障害と似た部分があって、抗うつ薬が第1選択にはなり得るんですけれども、効果の出にくさが指摘されます。一部の論文では、2割弱の効果とも言われることがあります。

ただ、先ほどあったうつ病などの併存症・併存疾患で、さらに悪循環になっている時には有効性を期待できるところがあります。

<精神療法>

つづいては精神療法ですけれども、基本的は認知行動療法の中でもある種の「意思決定と分類するトレーニング」決める・分ける・捨てる、の繰り返しの練習のトレーニングということは期待されることは言われることがあります。

これで期待する効果としては大きくいうと2つでして、まずは判断する。どっちがいいか判断するということを繰り返し練習して、先程あった種優柔不断さの改善を図るというところ。

2つ目は捨てるということの不安や苦痛に対して徐々に慣らしていく・脱感作をするという意味があろうかと思われます。

<環境調整>

これはご家族であったり、第三者がまずいったん片付けるというところ。散らかっているのを良くするというのは、なかなかご自身だけでは難しいので、第三者がそこは環境調整するというところです。

ただ、これは一回良くなるんですけれども、またやはり同じことが繰り返されてしまうことは当然あるので、他の対策も並行して行っていく必要があります。

そして、捨てること・捨てられることへの心理的反応というのは当然出ることがありますので、そこは注意しながらいろいろご相談しながらやっていく必要があるかと思われます。

(8)まとめ

今回は「溜め込み症」について見てきました。

この溜め込み症は、物が捨てられずに溜まり、いわば「ごみ屋敷」のような状態になって、自分や他者に強く影響が出てしまうという病態になります。

これに関しては、脳疾患であったり、発達障害であったり、強迫性障害、かぶりやすいものの鑑別が必要になってきます。そして、うつ病や各種の不安障害などを合併し易いということがあります。

この溜め込み症、標準的な治療は今のところないとされます。併存症・うつ病などへの薬物療法や判断などの訓練のトレーニングの練習、あとは「物を一回片付ける」などの環境調整などを適宜組み合わせてやっていくことになります。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)