転換性障害

ストレスが体に出る

転換性障害は、強いストレスに圧倒されたときに生じる「解離」症状の1つです。

 

失声など、体の運動・感覚関連の様々な症状が出ます。

 

ストレスに圧倒された反応のため、対策は併存症治療しつつ、まずは生活の安定を図る事です。

 

動画:転換性障害

もくじ

 
  1. (1)はじめに:転換性障害
  2. (2)転換性障害の例
  3. (3)転換性障害とは?
  4. (4)転換性障害の症状と診断基準
  5. (5)転換性障害の鑑別疾患と併存症
  6. (6)転換性障害の治療
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに:転換性障害

心療内科・精神科の病気。今回は「転換性障害」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

ストレスが「うつ病」などのメンタル不調につながることはよく言われています。

一方で、時にストレスが「体の症状」として表れることがあり、これを「転換性障害」と言います。

今回は、この「転換性障害」について見ていきたいと思います。

(2)転換性障害の例

Aさんは、歌の仕事をしていました。やりがいがある一方で、ステージに上がる前のプレッシャーを常に感じていました。

あるステージの直前、何か違和感があり、その後急に声が出なくなりました。

耳鼻科を受診して検査をしましたが、異常は特にありませんでした。

そして、医師からは「転換性障害」の一つ「心因性失声」と診断をされました。

(3)転換性障害とは?

転換性障害は「強いストレスが体に出る障害」、そして「基本的には解離の症状の一つ」です。

<解離とは>

解離はストレスへの「防衛規制」の一つです。強いストレスに圧倒される形で、脳の機能をある種「分ける」ことで対処するものです。

症状は、「離人感」自分が自分でない感覚、「健忘」思い出せなくなる。そして、今回の「体の症状」など様々な形で出てきます。

そして、症状は一つとは限らず、いくつかの症状が合わさることも多いです。

<解離の出方>

まず精神的なものへ出るものが「解離性障害」です。

そして体に出るのが今回扱います「転換性障害」です。

なので、この「転換性障害」は「解離性障害と背景はほぼ同じ」です。

(4)転換性障害の症状と診断基準

この「転換性障害」は様々な形で出現し、症状が動くことも多いです。

<転換性障害の症状の例>

①歩行障害

ストレスによって歩くことが難しくなることがあります

②失声(心因性失声)

ストレスによって声が出なくなることがあります。

③ヒステリー球

ストレスを背景として喉の違和感が出ることがあります。

④偽発作

ストレスを背景に、てんかん発作と似た「発作様の症状」が出ることがあります。

⑤知覚麻痺

ストレスを背景に、痛みなど知覚を感じなくなる状態です。

⑥管状視野

見える「視野」が管状に狭まる症状です。

<DSM-5の診断基準の要点>

A:一つ以上の運動・感覚の変化をする症状

B:症状と神経学的・医学的疾患の所見が適合しない

C:他の医学的疾患・精神疾患では説明ができない

D:社会生活等に影響がある

(5)転換性障害の鑑別疾患と併存症

体の病気の除外ということは、非常に大事です。

<鑑別①体の病気>

似た症状の身体の病気を除外をすることが診断に必要になります。

「その体の病気では、明らかに矛盾が生じる症状の出方をする」ことが要点です。

そして、必要に応じて検査も行い、体の病気を除外します。

<鑑別②身体表現性障害>

これは非常に転換性障害と似た概念ですが、定義上細かい違いはあります。

「転換性性障害」では、体の病気とは症状が明らかに矛盾が出ます。これは「身体表現性障害」ではあまり矛盾は必ずしも出ない場合もあります。

一方、「身体表現性障害」では、症状や病気への「考え過ぎたり、不安が強く出たりする」ことが目立ちます。これは「転換性障害」ではあまり目立ちません。

<転換性障害の併存症>

①解離性障害

メカニズムがほぼ共通し、しばしば合併します。

②うつ病

強いうつや不安の症状に合併して生じることがあります。

③パニック障害

パニック発作の発生時に合併して転換性障害が時に生じます。

(6)転換性障害の治療

まず、この「転換性障害の特効薬」はありません。

そして、対策は「解離性障害と同じ方向性」になります。

なので基本的には「ストレスに圧倒されなくする」が方向性です。

治療の方向性は、1つ目が「環境調整」、2つ目が「ストレスマネジメント」、3つ目が「スキルトレーニング」、4つ目が「併存症への薬物療法」です。

①環境調整

環境のストレスが大きい時に、環境調整を検討していきます。

なるべくストレスから離れる方向での環境調整を行いストレスを減らしていきます。

ただし実際困難な場合も多く、その場合は他の方法を取っていきます。

②ストレスマネジメント

さまざまな角度からストレスとその影響を減らしていきます。

1)生活リズム・休養・発散

生活の土台を整えて、ストレスの影響を減らします。

2)認知行動療法

考えを整える認知再構成、対人面のアサーションなどが選択肢です。

3)リラックス・マインドフルネス

ストレスを受け入れて、緊張からの悪循環を減らしていきます。

③スキルトレーニング

これは、特に背景に発達障害やパーソナリティ障害などストレス対処の苦手さがある方に有効です。

「感情に対して一歩引く」など、感情や衝動に圧倒されなくなる技術を、知った上で徐々に習得します。

それによってストレスに圧倒されることを防いでいきます。

④薬物療法

これは、特にうつ病、パニック障害などが併存症の時に有効です。

抗うつ薬など併存症に対しての治療を行っていきます。

これに連動して「転換性障害」も改善しやすいですが、残る場合もあります。

残る場合は、他の方法も合わせて併用していくことになります。

(7)まとめ

今回は、心療内科・精神科の病気「転換性障害」について見てきました。

転換性障害は、「ストレスが体に出る」障害です。運動・感覚に関するさまざまな症状が出ることがあります。

「解離性障害の身体症状版」とも言われ、解離性障害とよく合併します。体の病気とは、「症状の出方の矛盾」で鑑別します。

対策はストレスに圧倒されないこと。環境調整やストレス対処法の改善を行いつつ、もしうつ病など併存症が場合は、その治療を並行して行います。

ご注意

当院では、長時間のカウンセリング等の「解離性障害(転換性障害含む)の専門治療」は行っておらず、あくまで全般的な心療内科・精神科的治療を、外来診療の枠組みで行っております。

記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)