前頭側頭型認知症

性格・行動が変わる認知症

前頭側頭型認知症は、物忘れよりも性格や行動の変化が目立つ認知症です。

 

初期の「脱抑制」での問題行為に注意。難病指定になる場合があります。

 

動画:前頭側頭型認知症

もくじ

 
  1. (1)はじめに:前頭側頭型認知症
  2. (2)前頭側頭型認知症の例
  3. (3)前頭側頭型認知症とは?
  4. (4)前頭側頭型認知症の主な症状
  5. (5)前頭側頭型型認知症の診断基準(DSM-5)
  6. (6)前頭側頭型型認知症の鑑別疾患と診断まで
  7. (7)前頭側頭型型認知症の治療とケア
  8. (8)まとめ
  9.  

(1)はじめに:前頭側頭型認知症

心療内科・精神科の病気、今回は「前頭側頭型認知症」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

よく認知症といえば「物忘れ」が有名です。一方、中には行動や性格が変化して、社会生活に影響が強く出るタイプの認知症があります。

これを「前頭側頭型認知症」と言います。

今回は、「前頭側頭型認知症」について見ていきたいと思います。

(2)前頭側頭型認知症の例

Aさん(50代)はもとは親切で思いやりのある方でした。

しかしここ最近、急に無神経な発言や行動が目立つようになり、孤立していきました。

食事や生活もワンパターンになり、浪費からの借金も増えてきました。また、言葉も出にくくなってきました。

これらを心配したご家族が受診を勧め、問診と様々な検査などを行った結果、「前頭側頭型認知症」と診断されました。

(3)前頭側頭型認知症とは?

これは「性格や行動が変わる認知症」です。

<認知症とは>

これは記憶や実行機能などの「認知機能」が後天的に低下していくものです。

主にアルツハイマー型認知症が有名ですが、そのほかの原因もいくつかあります。

基本的には徐々に進行し、治すことは困難です。

<前頭側頭型認知症とは>

これは脳の前頭葉と側頭葉の障害で起こるタイプの認知症です。

記憶などの物忘れの症状はあまり目立ちません。

一方で性格や行動・言語面に影響が強く出ます。

<前頭側頭型認知症の原因>

主には「タウタンパク」などが前頭葉と側頭葉に付着します。

その結果、前頭葉と側頭葉の脳細胞が障害を受けて萎縮します。

結果、その部分の機能が障害され症状が出ると推測されます。

<症状の特徴>

これは主に「思考や実行機能」「言語」等を司る前頭葉・側頭葉の障害です。

そのため「実行面」「考え」「言葉」等に関しての症状が目立ってきます。

一方で、記憶(物忘れ関係)の障害はあまり目立ちません。

<前頭側頭型認知症の疫学等>

今日本で(難病指定で)認定されている方は約1万2000人と言われます。

平均年齢は55歳と言われ、40代の方もいます。

経過は、6年から10年で徐々に進行すると言われます。

<前頭側頭型認知症の病期>

まず前期(初期)は逸脱行動・興奮などのトラブルなどが目立つ時期。

中期では、むしろ逸脱行動は減り、「意欲の低下」アパシーや引きこもりなどが目立ります。

そして後期では「運動機能の困難」が目立ち、寝たきりになる場合もあります。

<前頭側頭型認知症が問題になる場面>

まずものを盗る等の「衝動的な軽犯罪」

あとは「衝動的な対人マナー違反」、セクハラ的なところも含まれます。

あとはお金の関係で浪費・借金が出る事があります。

(4)前頭側頭型認知症の主な症状

主に、性格・行動・言語に症状が出ます。

大まかな前頭葉・側頭葉の機能は「理性で抑える機能」「言動を開始しまとめる機能」「考えて変化に対応する機能」「言葉関連の機能」の4つです。

逆にいうと、これらが前頭側頭型認知症では障害を受けます。

主な症状は「抑えが利かない(脱抑制)」「アパシー(意欲低下)」「固定した行動」「言語面の障害」の4つです。

①脱抑制的な行動

これは社会生活で大きな問題なので、特に注意が必要です。

脱抑制により、万引きなどの軽犯罪、セクハラ的言動が時に出現します。

また、悪ふざけや無神経な発言から孤立することがあります。

あとはストレス時に大声や暴力を抑えられず、トラブルになる場合があります。

②アパシー(無気力)

これはもう何もやる気・気力がわかず、活動が減る事です。

人により引きこもり状態になることもあります。

そして他者にも無関心になり「相手への共感や思いやりを欠く言動」が出る場合があります。

③固定した言動

まず、日々の行動が「ルーチン化」し、パターンが決まります。

そして「会話内容の単一化」話す内容の種類が非常に少なくなります。

そして食事の常同化と「口唇傾向(口に来たものをなんでも食べる)」が出現します。

④発語の障害

まず、言葉がなかなか出てこない事があります。

そして、物の名前も出てこなります。

また「保続」同じことを繰り返し言う事もあります。

(5)前頭側頭型認知症の診断基準(DSM-5)

DSM-5での診断基準は2段階、まず「認知症」の診断基準があり、その中で「前頭側頭型認知症」の診断基準があります。

①認知症の診断基準

A:1つ以上の認知領域(学習・記憶、実行機能等)で、以前から有意な認知の低下がある(以下に基づき)

(1)本人、家族等、臨床家等からの懸念

(2)心理検査等客観的にある認知の障害

B:認知欠損が日々の活動で自立を阻害する

C.D:せん妄やほかの病気で説明できない

②前頭側頭型認知症の診断基準

A:認知症の基準を満たす

B:その障害は潜行性に発症し緩徐に進行する

C:(1)または(2)

(1)行動障害型:

(a)以下の症状3つ以上

ⅰ行動の脱抑制

ⅱアパシーまたは無気力

ⅲ思いやりの欠如または共感の欠如

ⅳ保続的・常同的または強迫的・儀式的行動

ⅴ口唇傾向および食行動の変化

(b)社会的認知and/or実行能力の顕著な低下

(2)言語障害型

(a)発語量、喚語、呼称、文法、または語理解における、言語能力の顕著な低下

D:学習・記憶・知覚運動機能が比較的保たれている

E:他の病気等で説明できない

(6)前頭側頭型認知症の鑑別疾患と診断まで

サポートの制度の事もあり、厳密な診断が望まれます。

<前頭側頭型認知症の鑑別疾患>

①他の認知症

症状や経過の特徴などからまず見極めていくことが多いです。

②他の神経疾患

一部の神経難病で、この前頭側頭型認知症とメカニズム等近いものもあります。症状の出方等で見極めます。

③他の精神疾患

興奮や脱抑制、逆にアパシー的な意欲低下があった時に、他の精神疾患と見極めることが大事です。

<前頭側頭型認知症の診断まで>

まず第1段階としては「症状や経過」から臨床的な診断をします。

その上で必要時、精密な心理検査など客観的な面を見ます。

そして各種の画像検査等で、他の疾患を除外するなどして最終的な診断をします。

(クリニックでは第2,3段階は難しく、専門病院での確定診断となる事が多いです)

<厳密な診断が大事な理由>

まずは「単一の診断の決め手が少ない」こと。

2つ目は「頻度が少なめ」のため診断には慎重になります。

一番重要な点は、「難病指定」「介護保険」の認定が大事な中、そのために厳密さが求めらる点があります。

(7)前頭側頭型認知症の治療とケア

治療薬はなく、サポートが重要になります。

治療ケアの方向性は、「薬物療法」、「非薬物療法及びケア」、「制度・介護資源の活用」の3つです。

①薬物療法

これはあくまで「精神面への補助」です。

<抗認知症薬は基本的に使わない>

前頭側頭葉型認知症には、抗認知症薬はあまり効果はないと言われます。

かつ精神面など逆効果になりうるという指摘があります。

なので、原則はあまり使いません。

<使う薬の候補>

まずは「抗うつ薬」。アパシーや常同行為などに有効なこともありますが、個人差があります。

次が「抑肝散」興奮、イライラ等に有効です。個人差ありますが、副作用少なく安全に使えます。

あとは「抗精神病薬」興奮などの問題行動への対策に検討されますが。副作用等の事もあり、あくまで慎重に判断します。

②非薬物療法及びケア

ポイントは「本人の特性に合わせて対応する」。

1)生活のルーチン化

日々やることやその時間をパターン化して、ストレスを減らし精神的な不調を防ぎます。

変化や予想外を減らすことで結果、興奮の予防など情動面の安定を図っていきます。

この実現のため、デイサービスなどの介護資源が、相性が合うと著効します。

2)特性に合った関わり

言語の障害もあるため、「言葉はゆっくり短く話す」ことが大事です。

後は言葉以外の「図面」「絵」などの活用も選択肢です。

そしてできる範囲で本人のペースに合わせるのも大事です。

③制度や介護資源の活用

必要なサポートは躊躇なく使う事が大事です。

1)難病指定

この前頭側頭型認知症は「難病指定」の適応がある病気です。

もし難病指定されますと医療費の助成などを受けることが可能になります。

ただ、指定のためには定義が明確にあるため、厳密な診断が必要になります。

2)介護保険

この前頭側頭型認知症は40-64歳でも介護保険を受けられる「特定疾病」の1つです。

認定されると、各種「介護保険のサービス」の受給が可能になります。

ただ、若年性認知症でも「記憶障害が目立たない」など非典型的な面があり、厳密な診断の上での申請が望まれます。

3)デイサービス

デイサービス、介護保険で活用する「定期的に通所する施設」1日4-6時間、週1-5回通所します。

これが定着すると生活ルーチンが定まるため、精神面にも有効性が高いことが期待されます。

そして介護者の疲弊も防ぐことができます。ただ、興奮などがあると使えない場合もあります。

4)一時的な入院

興奮やトラブルが続くと、社会生活・通所とも困難になり行き詰まります。

その際に、一時期入院をして状態を立て直す場合があります。

ただあくまで応急処置のため、退院後のデイサービスなど枠組み確立が大事です。

(8)まとめ

今回は心療内科・精神科の病気「前頭側頭型認知症」について見てきました。

この「前頭側頭型認知症」は、性格や行動が主に障害を受ける認知症です。

物忘れは目立たない一方、逸脱行為などのトラブルはむしろ多い場合があります。

「脱抑制」「無気力や常同化」「言語障害」が主な症状になります。

治療法はない一方、「難病指定」や「介護保険」の利用が時に可能になります。

その中で、特に「デイサービスを活用」しての「生活のルーチン化」が多くの場合ケア継続の鍵です。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)