認知症は治りますか?
困難だが、取組みあり
認知症は、徐々に進む疾患のため、例外を除いては「治す」事は困難です。
一方「周辺症状」の予防や改善で予後改善を見込み、そのために各段階で可能な取り組みがあります。
もくじ
(1)ご質問:認知症は治りますか?
ご質問にお答えします。今回は「認知症は治りますか?」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
今回お受けしましたご質問は「認知症は治りますか?」になります。
答えとしては「治すことは困難。ただできることはある」とお答えします。
(2)治すことは困難
認知症は、基本的には治すことは困難です。
<認知症とは>
認知症は、脳の機能が低下して記憶・思考・判断などが苦手になる病気になります。
代表的にはアルツハイマー型などありますが、いくつかの原因があります。
基本的には徐々に進行して、「治す」治療は原則ありません。
<主な認知症の原因4つ>
まずは「アルツハイマー型認知症」、続いて「脳血管性認知症」3つ目が「レビー小体型認知症」、4つ目が「前頭側頭型認知症」になります。
①アルツハイマー認知症
これは最も一般的な認知症で、物忘れが徐々に進行します。
これは「アミロイド」というタンパクが脳につくことで、時間差で、脳の神経細胞が傷んで、だんだん進行してくるということが言われます。
そのため、進行を遅らせる薬はありますが、進行を止めること自体は困難です。
②脳血管性認知症
これは脳血管の障害から脳の細胞が死滅して物忘れが生じます。
これは大きな血管が損傷することもし、小さい血管がたくさん損傷することもあります。
これはアルツハイマー型認知症とは原因が違うため、合併することもあります。
③レビー小体型認知症
これはいわゆるパーキンソン病と似たタイプの認知症になります。
物忘れのほか、「幻視」幻が見えたり、「パーキンソン症状」歩きづらさなどが目立つことがあります。
これも進行を遅らせる薬はありますが、止めることは事実上困難です。
④前頭側頭型認知症
これは脳の前頭葉・側頭葉が主に萎縮するタイプの認知症です。
物忘れは比較的少ない一方、行動面の変化やそれに伴うトラブルなどが目立つことがあります。
基本的には改善薬はなく、主には精神面やトラブルの対策になります。
<4つの認知症の共通点>
基本的には徐々に進み、そして進行を止める治療がないことです。
そして「周辺症状」、精神面の症状の予防・対策が予後の鍵になります。
<改善できる認知症>
一方、「中には改善できる状態というのもある」という話をします。
改善できる状態2つありまして、1つ目は「認知症と似た状態」の場合、もう一つがいわゆる「治せる認知症」です。
<1:認知症と似た状態>
認知症と似た疾患主に3つ、まずは「うつ病(仮性認知症)」、2つ目が「せん妄」、3つ目が「妄想性障害」です。
①うつ病(仮性認知症)
うつ病で物忘れの認知症と似た症状が出ることがあります。
自覚症状や見当識などがどうかなどで見極めていきます。
もしうつ病であれば、うつ病の治療で改善を見込めるところがあります。
②せん妄
せん妄は、時間によって変動する意識や見当識などの障害になります。
これは、体の不調などの原因があって生じることが多いです。
もし原因が判明し対策可能なら、、その対策で改善が見込めます。
③妄想性障害
妄想性障害は、高齢者で出る「妄想が続く病気」になります。
これは時に認知症の「物とられ妄想」と非常に見分けにくいことがあります。
「抗精神病薬」統合失調症に準じた治療することで、一部改善を見込みます。
<2:治せる認知症>
治せる認知症の例、まずは「内科疾患」、次は「慢性硬膜下血腫」、もう一つが「正常圧水頭症」です。
①内科疾患
体の病気が原因で物忘れなど認知症の症状が出ることがあります。
甲状腺の機能の低下や「てんかん」など、さまざまな原因があり得ます。
これも原因がわかれば、その治療をすることで改善が見込めます。
②慢性硬膜下血腫
これは、脳の硬膜の下の所で徐々に出血し、脳が圧迫されて認知症症状が出ます。
診断は、経過や他の症状などで疑って、CTの画像で確定をします。
もし見つかれば、手術によって改善が見込めます。
③正常圧水頭症
これは脳の髄液が増えまして、それが周りの脳を圧迫して認知症症状などが出ます。
これも経過や他の症状等で疑い、CTなど画像の検査等で確定をします。
これも確定すれば手術(シャント術)で改善を見込みます。
(3)認知症でできること
先ほどの例外はありますが、基本的には認知症は進行します。
ここでご質問として「何かできることはありませんか」ということがあります。
答えは「各段階でできること自体はいろいろある」、この点を見ていきます。
認知症でできることの4段階、まずは「認知症の予防」、2つ目が「早期診断とケア」、3つ目が「周辺症状への対策」、4つ目が「症状が進んだときの対策」です。
①認知症の予防
確実に予防可能な方法はない一方、有効とされる方法はいくつかあります。
まずは「運動」体を動かす有酸素運動などが有効とされます。
あとは「頭を使う作業」。これを習慣的にやっていくことで、予防効果を見込みます。
3つ目は食事や睡眠など土台の生活習慣。脳血管性認知症の他、アルツハイマー型でも予防効果を期待します。
②早期診断とケア
早期診断に関しては、それで治るわけではないけれども、早期対策は可能になります。
<早期診断を・早期対策でできること>
まずは「認知症治療薬」進行を遅らせる薬を早めに導入することが可能になります。
次は「介護サービスの導入」、早目に診断すれば早めに導入可能です。
これらも関係して、3つ目で「周辺症状の予防」に取り組める余地があります。
③周辺症状への対策
この周辺症状が予後を非常に変える部分があります。
<周辺症状とは>
周辺症状とは、認知症に伴って出てくる各種の精神的な症状です。
種類により危険性や介護の限界に至る場合もあるため注意が必要です。
一方でこれを予防・対策・改善することで予後が改善する場合があります。
<影響の大きい周辺症状>
まずはいわゆる「ものとられ妄想」など妄想が強くなるとトラブルの原因になります。
2つ目から「興奮や暴力」。介護の限界やデイサービス利用困難の原因になります。
もう一つが「徘徊」、夜の徘徊があると、事故などに巻き込まれるリスクも出てきます。
<周辺症状への対策①薬以外の対策>
対策の1つ目は「薬以外の対策」です。
周辺症状はある種ストレスの反応という面があり、環境や生活リズムの調整で時に改善します。
その際にデイサービスなど、介護保険の制度も活用の余地があります。
<周辺症状への対策②漢方薬>
対策の2つ目が「漢方薬」です。
漢方薬であれば、比較的安全に高齢の方でも使うことが可能です。
「抑肝散」を周辺症状にはよく使います。
ただ、人により効果は個人差があります。
<周辺症状への対策③向精神薬>
対策の3つ目が「向精神薬」です。
漢方薬が無効などの場合、抗精神病薬などの向精神薬を時に使います。
ただし、体への負担や「ADL」の悪化のおそれあり、慎重に検討する必要があります。
そして「転倒」関連でも様々なリスクがあることに注意が必要です。
<周辺症状への対策④入院>
対策の4つ目が「入院」です。
例えば、暴力を繰り返すなど、安全確保が困難な場合は入院が検討されます。
入院で薬の調整などを通じ精神面の改善を図り、原則を家に戻ります。
ただし、その中で時に入院中にADL等が悪化する場合がある点には注意が必要です。
④症状が進んだ時
症状が進むと身体面・生活面の双方から、標準的なケアが難しくなる場合があります。
その時の選択肢は3つ。まずは「施設入所」、もう一つが「療養型病院等」、3つ目が「訪問診療」です。
<施設入所>
「特別養護老人ホーム」「グループホーム」などへの入所を検討します。
日常でどうしても逸脱行為などが多くて家では困難な時に適応になります。
ただし暴力行為などがある場合は受け入れが難しく、一旦入院で精神面の安定化を時に要します。
<療養型病院等>
ここでは、身体面の強い不調が先に来た場合になります。
家での療養が、処置も含め身体的に限界となった時に選択肢になります。
「介護療養型医療施設」など数種類選択肢があり、合うものを選択します。
<訪問診療>
これも同じく身体面の強い不調が先に来た時に選択肢です。
状況によっては重度の認知症でも在宅と訪問診療でうまくいく場合があります。
ただ、どうしても無理な場合もあり、その時は先の「療養型病院等」も検討します。
(4)まとめ
今回はご質問「認知症は治りますか?」について見てきました。
認知症はアルツハイマー型などいくつか原因がありますが、基本的には徐々に進み、「治す」ことは困難です。
例外として、うつ病等「似た状態」や「治せる認知症」があり、これらは改善が可能なため見分けることが大事です。
治すことは困難な一方、各段階でできる事はあり、特に「周辺症状の予防と対策」が長期予後に大事です。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)