なぜあの人はうつ病なのに人前では明るいの?
微笑みうつ病
人前では明るいタイプのうつ病を「微笑みうつ病」と言い、一見うつ病に見えにくいです。
過剰適応などが背景で、我慢しすぎ理解されにくい事からの悪化リスクがあります。
もくじ
(1)はじめに
ご質問にお答えします。今回は「なぜあの人はうつ病なのに人前では明るいの?」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
今回お受けしましたご質問は「なぜあの人はうつ病なのに人前では明るいの?」という質問になります。
お答えとしては、「もしかすると微笑みうつ病」とお答えします。
(2)うつ病と、人前では明るい「微笑みうつ病」
<うつ病とは>
うつ病は、各種のうつ症状が続く脳の不調です。
脳内物質「セロトニン」の不足などが背景と言われています。
その中で、典型的な落ち込みが目立たないタイプのうつ病の方もいます。
<典型的なうつ病の症状>
まずは「落ち込み」いわゆる「抑うつ気分」。
また楽しみがなくなる「興味の減退」ややる気がなくなる「意欲の減退」。
あとは「罪悪感」、自分を責めすぎ「周りに迷惑かけてしまう」と感じる事があります。
これらが一般的なうつの症状になりますが一方で「一見人前では明るいうつ病も」あります。
<微笑みうつ病>
これは正式な医学用語ではないですが、俗称で使われます。
内側にはうつ病の落ち込みを秘めている一方、人前では明るく振る舞うタイプのうつ病の方です。
そのため、一見すると「うつ病」のようには見えにくいのが特徴です。
(3)微笑みうつ病の背景やサイン等
<微笑みうつ病の状況>
一つは「つらいけれどもつらく見せない」というところ。
そしてある種「その場を装うという力はまだ残ってはいる」状態です。
ただ後で説明するように、この「エネルギー」が消耗しやすいのも微笑みうつ病の特徴になります。
<微笑みうつ病の背景>
これは「本当はつらいんだけどつらく見せない」というメカニズムです。
代表的には、「過剰適応」と「躁的防衛」の2つが言われます。
①過剰適応
過剰適応は「自分の状況を無視して相手に合わせすぎる」状態です。
その結果、本当の状態「つらい状態」と人前での「明るい状態」、この2つが大きく乖離してします。
これは無理をしているためストレスはむしろ強まり、エネルギーを消耗し悪化するリスクが高いため注意が必要です。
②躁的防衛
これはつらいときに「むしろ逆のことをする」ことで自分を守る「防衛機制」の一つです。
これをすると本当は「つらい」が外には逆の「明るく元気に見せる」状態となり、見え方は「うつ」に見えにくいです。
一方で、これもやはり無理をしている状態のため、悪化のリスクが高く注意が必要です。
<微笑みうつ病のサイン>
まずは「仕事中は動けるが終わると体が重くなって動けなくなる」方がいます。
また「仕事中は明るく振る舞うが、仕事が終わり一人になると強く落ち込む」方もいます。
また、休みの日に非常にぐったりしてしまう方もいます。
<微笑みうつ病でのリスク>
「助けを求めない」、「理解されにくい」、「進行しやすい」の3つが主なリスクです。
①助けを求めない
基本的には「過剰適応」のため「外にはつらさを出す罪悪感」から助けを求めない事があります。
そして、自分でも日中は元気だと思ってしまう場合もあります。
また、「話しても理解されないのでは」と思い言えない場合もあります。
②理解されにくい
微笑みうつ病は外からは元気に見え、落ち込みが目立ちにくい状態です。
いわゆる「うつ病」のイメージとは違う面があり理解されにくいところがあります。
そして、相談時の様子も一見元気に見えることがあり、さらに理解されにくい場合があります。
③進行しやすい
基本的に「過剰適応」「躁的防衛」とも無理してある種「とりつくろう状態」で、そのストレスが重なります。
「本来のストレス」と「とりつくろうストレス」が両方重なり、負担が強まりリスクが上がります。
そして「自分のつらさに気付きにくい」面があり、無理してしまって不調になりやすくなります。
そして、上の2つを背景に「他者のサポートが入りにくい」ことも悪化のリスクになります。
(4)微笑みうつ病の可能性があった時の対策
「この微笑みうつ病と自分で思ったらどうすればいいか?」というご質問があります。
答えとしては「段階的に対策をとっていきましょう」ということになります。
微笑みうつ病の対策は、「自分の状態を知る」、「自主的に対策する」、「相談する」、「受診する」の4段階です。
①自分の状態を知る
まずは今の状態が典型的ではないが「うつかもしれない」と知ることです。
そして背景にある「過剰適応」的な状態を知ること。
そしてこれらは「対策が必要」なことを知ることです。
②自主的に対策する
まずは「基本の睡眠や疲労の対策」十分行い疲れを少しでも取ること。
続いてはストレスをなるべく発散し「ためない」ようにすること。
そして3つ目は「負荷の調整」やることを絞る等で負担感を少しでも減らすことです。
③相談をする
まず、今の状態が(非典型的だが)うつの状態と思われることを伝えます。
そして可能なら「業務の軽減」等の対策がとれないかを相談します。
ここで大事なのが「理解されないリスク」を予め想定し、否定されたときの影響を減らすことです。
④受診する
いろいろ対策をとっても難しい場合は受診を想定します。
まずは「会社に行けない時」、これは早めに受診が必要です。
そして「不調かつ相談がうまくいかない」時も受診を想定します。
あとは「自主的な対策などをしても悪化が続く時」も受診が選択肢です。
(5)まとめ
今回はご質問「なぜあの人はうつ病なのに人前では明るいの?」について見てきました。
うつ病の中には典型的な落ち込みが目立たず、人前では明るい「微笑みうつ病」というタイプの方がいます。
一見軽そうにも見えますが多くの場合実際は異なり、かつ無理してしまうなどから悪化リスクもあります。
もし、自分で気付いたら状態を知りつつできる対策を取って、周りと相談していきます。
それらでも打開することが困難であれば受診を検討します。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)