大仰型ASD

丁寧・おおげさが目立つ

大仰型ASDは、どの相手・場面でも丁寧と大げさが目立つ発達障害です。

 

一種適応への努力の結果とも言われ、適応には有利な面があります。

 

動画:大仰型ASD

もくじ

 
  1. (1)はじめに:大仰型ASD
  2. (2)大仰型ASDの方の例
  3. (3)大仰型ASDとは
  4. (4)他のタイプから大仰型への変化
  5. (5)大仰型の弱点
  6. (6)弱点をカバーするには
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに:大仰型ASD

ASDセルフチェック。今回は「大仰型ASD」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

発達障害の一つASD(自閉症スペクトラム)。

「こだわりを押し付ける」「相手の気持ちを考えない」、そういった自分本位なイメージで語られることがあります。

では、対策としてその逆をしたらどうでしょうか。

「無礼と思われないために明るく丁寧に振る舞う」「表情が乏しいと言われないために感情を込めて少し大げさに表現する」。

ただ、これだけではぬぐいきれない「一種の不自然さ」が残ります。

今回は大げさに丁寧に振る舞いすぎる「大仰型ASD」について見ていきたいと思います。

(2)大仰型ASDの方の例

Aさんは、いつもにこやかでやや大げさですが、誰にも丁寧に接するASDの方です。

本当はやや無理している部分もあるんですけれども、それは決して外には見せません。

その様子から上司はAさんのことを強く信頼していました。

一方で同僚の中には「上司に媚びている」など、よく思わないという人もいました。

職場の忘年会でも人に丁寧な様子は同じでした。

それを同僚の数人がいじりまして、揶揄することをSNSで広めました。

それを見たAさんは、何かが折れたように感じて、職場に行けなくなりました。

(3)大仰型ASDとは

大仰型ASDは「どんな場面でも大げさに丁寧に」が特徴です。

<ASD(自閉症スペクトラム)とは>

ASDとは、「社会性の障害」「こだわり」が特性の生来の発達障害になります。

幼少期にわかることが多いですが、10代から大人になってわかることもあります。

「大仰型」も含めて、ASDは細かくは5つのタイプに分かれるとされます。

<大仰型ASDとは>

大仰型ASDは、どんな場面でも大げさかつ丁寧に接するタイプのASDです。

社会場面では、他のタイプよりも一定の適応があるとされます。

一方で、「不自然」「融通が利かない」などと言われることもあります。

<ASD他の4タイプ>

他の4つのタイプを簡単に振り返りますと、まずは「積極奇異型」自分ルールで動きすぎてしまうというタイプ。

「受動型」受け身が続いて利用されやすいというタイプ。

「孤立型」自分の世界に入ってしまうタイプ。

「尊大型」人を見下し押し付けるタイプになります。

<大仰型は適応の過程>

この「大仰型」のASDの方は、以前は別のタイプであったという方が多いです。

その中で不適応を経験し、適応のためにこの「大仰型」になる場合があります。

経験や情報などから学習し、いろいろ適応を図った結果ともいえます。

(4)他のタイプから大仰型への変化

「大仰型」はASDの方の「社会適応への戦略」という面もあります。

<他のタイプでは不適応になりやすい>

ASDでは、自然な言動が「自分本位」などと捉えられることがあります。

その結果「不適応」「孤立」に至ることが多いです。

その打開策として「大仰型」の行動パターンを習得していく面があります。

①積極奇異型から大仰型へ

<積極奇異型>

積極奇異型は、自分ルールで積極的に他者に働きかけ過ぎるという状態です。

行動力はありますが、一方的になって「こだわりを押しつける」など相手からは迷惑になる事が多いです。

迷惑になると、動くほど周りから嫌われて不適応になることがあります。

<積極奇異型から大仰型へ>

まずは「一旦だまる」というスキルを身につけるというところ。

その上で話し方・タイミングなどは、他の「得意な」人の例から観察して(モデリング)獲得していく。

その上で実際の場面で、場面観察を土台に、「必要時に限り」積極的に関わる方法論をとります。

②受動型から大仰型へ

<受動型>

受動型は、自分を抑えることで一定の適応を図るタイプになります。

するとトラブルは減りますが「自分軸を見失い」流され・利用されやすくなります。

そして、無理をした「過剰適応」の状態が続くため、ストレスからの二次障害のリスクが上がります。

<受動型から大仰型へ>

まずは「丁寧にしっかり断る」スキルを、利用・操作・支配されるリスク改善のために獲得していきます。

そして丁寧さで相手からの反発リスクを減らしつつ、「必要時には主張・発信する」練習を徐々に積み重ねます。

③孤立型から大仰型へ

<孤立型>

孤立型は、まるで他人がいないような「自分の世界で生きる」タイプ。

言動に独特な面が多く、いろいろ揶揄されることが多い面があります。

これは続くと社会適応の困難をきたす場合が多くなります。

<孤立型から大仰型へ>

まずは最低限の適応戦略として「必要な場面に限っての対人交流」を図っていきます。

「外でのルール」「周りの成功例」などから、様々な角度で伝え方を学んでいきます。

そして、「社会・相手にプラスになる言動」を選んで発信していきます。

④尊大型から大仰型へ

<尊大型>

尊大型は「ASD」に「自己愛性パーソナリティ障害」が事実上重なった状態です。

もとのASDの「共感を欠く」状態に、自己愛性パーソナリティ障害の「見下し」などが重なった状態です。

ここでは「加害」や「圧をかける」ことを自己防衛にしており、「対等な関係」を取ることが難しくなります。

<尊大型から大仰型へ>

これはなかなか難しい面があります。

可能なら自分の行動の「自他への影響」に対してしっかり直面をしていきます。

その中で「相手にも自分にもプラスになる言動のパターンが何か」を学んで方法論を書きかえていきます。

そして書きかえた方法論を反復し、徐々にでも自分のものにしていきます。

(5)大仰型の弱点

大仰型の弱点は「ASDのカバー困難な根強い特性」です。

<大仰型ASDで指摘される弱点2つ>

①場に合わせられない

カジュアルな場所でも、丁寧に振る舞いすぎるなどを言われることがあります。

②とっさの対応ができない

急な変化のあった時に混乱したり、不安定になることがあるという指摘があります。

ただ、これらは大仰型というよりも、「ASD自体の本質的な特徴と弱点」です。

<場に合わせられない→社会性の障害>

ASDの社会性の障害の本質は、「非言語的な相手のサインを感じられない」ことです。

二次的な「問題行動」などに関しては、意識的に改善する余地があります。

しかし一番の本質に伴う「不自然さ」のカバーはなかなか難しいところがあります。

【大仰型ASDの場合】

大仰型であれば、「無礼な言動」などは意識的にカバーすることが可能です。

ただし、「外からカバーする」というところなので、どうしても不自然さが残ってしまいます。

特に「雑談的な場での不自然さ」というのは、どうしても最後まで残ることがあります。

<とっさの対応困難→こだわりの障害>

「こだわりの本質」は、「変化や切り替えの苦手」というところにあります。

「こだわりの押しつけをやめる」など「方向の調整」ということ自体は可能です。

しかし「とっさでの混乱のカバー」は、部分的にはできても、完全には難しいところがあります。

【大仰型ASDの場合】

大仰型であれば、「こだわりの押しつけ」などに関しては意識的にカバーすることが可能です。

そして、「プラスのことにこだわって」自分の長所を生かしていくこともできる余地があります。

ただし「とっさの苦手さ」は、周辺でカバーできる部分もありますが、少なくとも一部は残ることが多いです。

(6)弱点をカバーするには

「できる改善は徹底する。そして本質的限界は受容(受け入れる)」が要点です。

主な弱点カバーの対策は「自分の取り組みを認める」「スキルの精度を上げる」「ストレスマネジメントの徹底」「自分の強みを生かす」の4つです。

①自分の取り組みを認める

ある種「大仰型になった」ということは、自分の弱点に直面して取り組んできたからこその「大仰型」です。

時に不自然さで評価が下がる等の逆境がありますが自分の取り組みを自分で認めていき、「自己信頼」をもとに前を向きます。

そして、残る弱点への揶揄はあくまでも「ノイズ」、惑わされないことが大事です。

②スキルの精度を上げる

「大仰型の状態」は、改善の取り組みの途中経過というところがあります。

そのため、弱点や経験から学んでさらに改善をすることを日々続ける事が大事です。

それでも弱点は0にはならないことが多いです。ただし、精度は上がり続けます。

③ストレスマネジメントの徹底

どうしてもこの「取り組みや試行錯誤」は確かにストレスが大きいところがあります。

なので二次障害のリスクはありますが、それを防ぐための「ストレスマネジメント」の徹底が実は大事です。

ストレス対策が万全な中で改善の取り組みを続けていきます。

④自分の強みを生かす

「大仰型」であればもう既に(他者から奪う等の)「致命的な弱点」はなくなっているはずです。

なので弱点のカバーを続けつつも、強みをしっかり生かすことが大事です。

十分取り組んでいる状態であれば、弱点は残っても強みで十分カバーが可能と思われます。

(7)まとめ

今回はASDセルフチェック「大仰型ASD」について見てきました。

大仰型ASDは、どの場面でもある種大げさ・丁寧に振る舞うタイプのASDの方です。

適応を模索する中で、この大仰型のタイプになりやすいというところがあります。

大仰型になると社会適応は改善しますが、特性由来の「場に合わせにくい」「とっさの苦手」はしばしば残ります。

対策としてはまず取り組めている自分を信頼しつつ、特性の改善とストレス対策を続けていきます。

その上で、最終的には自分の本来持っている「強み」をしっかり生かしていくことが大事になります。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)