尊大型ASD
パワハラ等の背景にも
尊大型ASDは、ASDに自己愛性パーソナリティ障害が重ね着した状態です。
高圧的な言動からパワハラ・モラハラ・カサンドラ症候群の背景にもなります。
もくじ
- (1)はじめに:尊大型ASD
- (2)尊大型ASDの例
- (3)尊大型ASDとは
- (4)尊大型ASDの特徴
- (5)尊大型ASDの長所と短所
- (6)他の型からの移行
- (7)尊大型ASDと自己愛性パーソナリティ障害の関係
- (8)弱点をカバーするには
- (9)周りの人の尊大型ASDとの関わり方
- (10)まとめ
(1)はじめに:尊大型ASD
ASDセルフチェック。今回は「尊大型ASD」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
発達障害の一つ「ASD(自閉症スペクトラム)」。
近年、パワハラやカサンドラ症候群の背景としての「尊大型ASD」が注目されています。
これは確かにASDの種類のひとつになりますけれども、一方で、ASDの方がみな「尊大型」というわけでは決してありません。
今回は人を見下して圧をかける「尊大型ASD」について見ていきたいと思います。
(2)尊大型ASDの例
Aさんは、かつて一人が好きで、他者と関わらず生活をしていました。
独特さをからかい・いじめに遭うことがありまして、他者を信じられなくなってきました。
そして、一回強く言い返したら相手がひるむことがありました。
そこから「自分は正しい・相手は下」との価値観のもと、進学や転職・就職をして業績も出るようになりました。
しかし、部下へのパワハラ的な言動が続きまして、それが発覚して退職をしました。
家でも高圧的な言動が続いていまして、ある日、配偶者の方はいなくなっていました。
現実に怒りがこみ上げてきましたが、「もしかしたら自分が悪いのでは」と振り返りました。
しかし、沸き起こる「強い苦痛」に耐えることができず、再度「相手が悪い」と思うに至りました。
(3)尊大型ASDとは
尊大型ASDは「自分が特別と思い、他者を下に見るASD」になります。
<ASD(自閉症スペクトラム)とは>
ASDは「社会性の障害」「こだわり」、この2つが目立つ生まれながらの発達障害です。
幼少期に見つかることは多いですが、10代から大人になってから見つかる場合もあります。
「こだわりの押しつけ」等の一種の「他害性」が時に問題になることがあります。
<尊大型ASDとは>
「尊大型ASD」は自分が特別と思い、他者を見下すASDです。
「ASD+自己愛性パーソナリティ障害」の一種「重ね着」と捉えるとわかりやすいです。
自分よりも、周囲の方がストレスが強くなってしまうのが、この尊大型ASDの特徴です。
<ASDの他の4タイプ>
まずは「積極奇異型」自分ルールで動きすぎてしまう方。
「受動型」相手にあわせすぎて利用されやすいという方。
「孤立型」自分の世界に入るタイプの方。
そして「大仰型」礼儀正しく大げさが目立つ方がいます。
<尊大型ASDの気づかれ方>
周りからの苦情・トラブル、もしくは不適応で気づかれることが多いです。
10代までで学生生活などで気づかれるということもあります。
一方成人後に問題が起こって気づかれる方も少なくありません。
<尊大型ASDの由来>
大きくいうと以下の2つが想定されます。
①元から
「積極奇異型」類似の一つの種類として、生来からこの特性の場合もあります。
②二次的な変化
色々な迫害経験などから二次的に「自己愛性パーソナリティ障害」を合併し、尊大型の状態になる場合もあります。
(4)尊大型ASDの特徴
「自分が上だと思い、高圧的に接する」のが特徴です。
「相手を下に見る」「主張が強い」「共感を欠く」の3つが具体的な特徴です。
①相手を下に見る
自分の方が相手より「上」で「正しい」と思います。
その結果、自分のルールを相手や組織のルールよりも優先してしまいます。
そして、何か強く言った時に、自分が相手にむしろ「してあげてる」と思うのが特徴です。
②主張が強い
「自分のこだわりやルールを相手に押し付ける」ことがあります。
そして、「その意に沿わないと激高する」ことがあります。
押し付ける一方で、「相手の主張はあまり聞かない」のも特徴です。
③共感を欠く
尊大型ASDでは、相手がどう思うかはあまり気にしないのが特徴です。
そして自分の目的のために時に相手を利用する場合もあるというところ。
逆にうまくいっている人には嫉妬することも目立ちます。
(5)尊大型ASDの長所と短所
「自分はあまり困らない、相手がつらくなる」のが特徴です。
<尊大型ASDの長所>
まずは「知的能力などは高いことが多い」。だからこそ成人後も同じ性質が続く面があります。
また「周囲に影響されず行動できる」点。結果、仕事等でパフォーマンスを発揮できる場合は多いです。
そして「自分はストレスはあまり感じない」。本人が悩んで二次障害になるリスクは比較的低い面があります。
<尊大型ASDの短所>
一番には「相手や周囲の影響・ストレスが非常に強い」というところになります。
その結果「相手から嫌われやすい」ところがあります。
その結果「長期的には自分にも不利益が出てしまいやすい」面があります。
<他者がつらくなる例>
まずは「部下へのパワハラ的言動」によって部下の方が適応障害になる話。
また「カサンドラ症候群」。高圧的な扱いで、配偶者の方が適応障害などになってしまう話。
そして親が「尊大型」の場合の「お子さんの慢性的なうつ状態」が問題になる事があります。
<自分に跳ね返ることもある>
たとえば「パワハラした場合に訴えられてしまう」場合。
そして配偶者の方から「別居や離婚」の話が出る場合。
また「家族関係がのちのち断絶」する結果になる事があります。
(6)他の型からの移行
「二次障害的に移行することも多い」です。
<ASDの移行>
まず元からあるタイプとして「積極奇異型」「受動型」「孤立型」があります。
この中で、いろいろな経験をする上で変化していくパターンが2つ、「大仰型」と「尊大型」です。
<大仰型への移行>
大仰型は、社会生活の適応を目指して意識的に改善を図った結果とも言えます。
他者やマニュアルなどを参考に「ある種大げさに・ある種丁寧に」そんな方法を徹底した結果です。
その結果、不自然さは残る一方大きな不適応はなくなり、かつ強みを生かして適応改善を図ります。
<尊大型への移行>
これは逆に人間関係でいじめにあうなど迫害体験あり「他者不信」になった場合です。
そして逆に「高圧的に行動したら逆にうまくいった」という経験を積む方もいらっしゃいます。
これらを元に、「自分は正しく相手は間違い」の尊大型の思考パターンに移行してしまうことがあります。
(7)尊大型ASDと自己愛性パーソナリティ障害の関係
「ASD+自己愛性パーソナリティ障害=尊大型ASD」の関係です。
<自己愛性パーソナリティ障害とは>
自己愛性パーソナリティ障害は、自分が特別だと思い他者を見下すタイプのパーソナリティ障害です。
パワハラ、モラハラなどの背景にあることが多いとされます。
自分は困らず他者が困り、自分では気付きにくくかつ気づかないと改善が困難なのが現状です。
<重ね着症候群とは>
重ね着症候群はASD(自閉症スペクトラム)に他の精神疾患が合併、いわゆる「重ね着」する状態です。
二次障害と非常に似た概念で、同様に「ストレスや逆境体験」が背景になることが多いです。
この中で自己愛性も含めた「パーソナリティ障害」も「重ね着」することがあります。
<尊大型ASDとは>
シンプルにはもとにASDがあり、そこに自己愛性パーソナリティ障害が「重ね着」の形で合併した状態です。
<ASD単独との違い>
ASD単独では必ずしも出ない「他者を下に見る価値観」が出てきます。
また「他者への強い圧力」が出てきます。
そして「意に反した時に激昂」するのも「尊大型」の特徴です。
<自己愛性パーソナリティ障害単独との違い>
まずは「より直接的」、「操作」よりも「直接的なこだわりの押し付け」などが目立ちます。
そして「状況を見ての融通はむしろききにくい」面があります。
そして、ある種の世渡り的なテクニックは、もとにASDがあるため必ずしもうまくないことが言われます。
(8)弱点をカバーするには
要点は「自分の現実に直面すること」です。
具体的な方向は「自分の現実に直面する」「等身大の自分を信じる」「特性への取り組み」の3つです。
①自分の現実に直面
自分がやってきた言動の他者への様々な影響、特にその「加害者性」に直面することが一番のポイントです。
その上で関連した「現実の評価や状況」に関しても直面します。
そして直面すると、非常に強いストレスの反応や落ち込みが出ますが、そこに「持ちこたえる」のがもう一つの要点です。
②等身大の自分を信じる
「特別ではない自分」を受け止めて信じることが1つ目です。
一方で「自分の身に付けた色々な技術等」は事実なので、それを信じるのがもう一つです。
そして、方法論(やり方)をなかなか180度変えるのは難しいところもあります。
一番シンプルなやり方とは、「自分を信じる→自分達を信じる」の置き換えと思われます。
③特性への取り組み
ASDを合併しているため、まずは様々に残る「ASD特性」の改善に継続して取り組む余地があります。
もう一つ「自己愛性パーソナリティ障害的な特性」これも直面を続けつつ徐々に修正を図ります。
そして直面・取り組みの継続に伴う「ストレスやうつ」に対しても対処・取り組みをしていきます。
(9)周りの人の尊大型ASDとの関わり方
「距離を保ちチームで対応」が大事です。
具体的な要点は「巻き込まれない」「チームで対応」「組織ルールを整える」の3つです。
①巻き込まれない
まずは「なるべく距離を確保して影響を少しでも減らす」ことが大事です。
その上で原則は色々言われても「受け流していく」。
ただ、あまりに理不尽なことに対しては、冷静に相手を立てつつも、しっかり反論していくことも大事です。
その中で孤立してしまうと、非常に危険が高いため「孤立を避けて」相談できる相手・体制を作ることが大事です。
②チームで対応
複数の方が困ることが想定されますので、チームで情報を共有して状況や客観的事実を集め・把握していきます。
その上で必要なことに絞り、相手を立てつつも「明確にこれは困る」と「変化を促す」ことになります。
相手の反応が芳しくない場合は、「専門家のサポートを検討」することもありえます。
③組織ルールを整える
実際、組織の価値観として「結果や業績だけ」を偏重すると、「相手から奪って結果を出す」価値観がいいという風になってしまいます。
そうすると、尊大型ASDの人のパワハラなどのリスクが非常に上がってしまいます。
なので組織として価値観を整えることが大事です。
業績は大事でも、それ以上に搾取をしない「フェアトレード」を最優先とすることが重要です。
そして、明確なもの以外に「隠れた業績偏重など」もありうるため、それも合わせて見つけ、必要時修正することが大事です。
(10)まとめ
今回はASDセルフチェック「尊大型ASD」について見てきました。
「尊大型ASD」は、自分が上だと思い圧をかけるASDです。自分よりも周りが強い影響を受けます。
ASDに自己愛性パーソナリティ障害が一種「重ね着」した状態で、パワハラやカサンドラ症候群の背景になることが多いです。
対策は「直面」ですが、困難も大きいです。組織や社会がパワハラを許さない「フェアトレード」を重視する事が現実的な対策と思われます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)