受動型ASD
周りに影響されやすい
受動型ASDは、過剰適応が目立ち周りに流されやすい発達障害です。
トラブルが少ない一方、相手からの利用や二次障害に注意を要します。
もくじ
(1)はじめに:受動型ASD
ASDセルフチェック。今回は「受動型ASD」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
発達障害の一つASD(自閉症スペクトラム)。
ASDといえば、「自分ルールのこだわりを押し付ける」「こちらに構わず話しかけてくる」など、相手に入り込んでくるイメージで語られることが多くあります。
けれども中にはその逆で「相手に流されすぎて時に利用されてしまう」タイプのASDの方もいます。
今回は、受け身でむしろ流されてしまう「受動型ASD」について見ていきたいと思います。
(2)受動型ASDの例
Aさんはあまり話すことは少なく、おとなしい子とよく言われていました。
グループには入っていました。みんなが話す内容はよくわかりませんでしたが、とりあえずうなずいていれば、その場は大丈夫でした。
周りに勧められた大学・会社に入りましたが、なぜかきつい仕事が多く回されることが多く、断れないうちに体調を崩しました。
交際相手もできましたが、なぜか騙されたり、強く束縛されたりして振り返ると主に泣いていることが多いと振り返っています。
(3)受動型ASDとは
「受け身で合わせて流されやすいASD」になります。
<ASD(自閉症スペクトラム)とは>
ASDは「社会性の障害」「こだわり」の2つが特徴的な生まれながらの発達障害です。
幼少期にわかることが多いですが、10代から成人でわかることも少なくないです。
一見トラブルが少ない「受動型」というタイプがあり、発見が遅れやすい面があります。
<受動型ASDとは>
「受動型ASD」は、受け身で自己表現が少なく、周りに合わせるタイプのASDです。
一見奇妙さは少なくトラブルも少ないですがも、他者に利用されやすく、また2次障害に注意が必要になります。
<ASD他の4タイプ>
まずは「積極奇異型」自分ルールで動きすぎてしまうという方。
「孤立型」自分の世界に入るタイプの方。
「尊大型」人を見下し押し付けるタイプの方。
「大仰型」礼儀正しく大げささが目立つという方がいます。
<受動型ASDの性差など>
受動型ASDは、男女では「比較的女性」に多いです。
そして、幼少期には気づかれにくく、10代以降に気づかれることが多いです。
そして、気付かれ方としては、二次障害をきっかけに気づかれることが多いのが特徴です。
(4)受動型ASDの特徴
「周りに合わせて、自分を見失いやすい」のが特徴です。
「周りに合わせる」「自己表現が苦手」「実はこだわりがある」この3つが主な特徴です。
①周りに合わせる
受動型では、「周りに合わせて」何か言われても断らず受け入れる傾向があります。
そのため、対人的なトラブルは生じにくく、表面的な評判はそんなに悪くないというところがあります。
一方で、「自分の軸」が不明確になりやすく、相手に悪意があった場合、それに利用されやすい面があります。
②自己表現が苦手
受動型では、自分の思ったことや主張を表現することが苦手な面があります。
背景としては、「自分軸の不明確さ」ということが大きな要素とされます。
ただ一方で「中枢性統合」、脳のレベルでの思ったことを言葉にする「言語化などの苦手さ」も指摘されています。
③実はこだわりがある
特性上「実はこだわりはある」。一方で意に反しても直接は断らず、無視する等の受動攻撃的対応になります。
しかし、納得はなかなかできない面があり、ストレスは強まることが少なからずあります。
こうした中で、ストレスからの二次障害のリスクには非常に注意が必要です。
(5)受動型ASDの長所
「他者から「奪う」ということは少ない」ということがあります。
「交流自体は可能」「他者から奪うトラブルは少ない」「相手次第では適応しやすい」の3つが主な長所です。
①交流自体は可能
いわゆる「孤立型」の方のように「交流自体がもうできない」というわけではありません。
そのため、明らかな「孤立」や「いじめ」などのリスクは比較的少ない面があります。
そして、相手にも不快感を与えにくいところが長所です。
②相手から「奪う」トラブルは少ない
受動型はある種「受け身」のため、「こだわりを押しつける」などのことはあまり生じません。
そして積極奇異型で生じる「相手や場を不快にさせる言動」も少なく、相手から「奪う」ことは目立ちません。
そのため「自分が過失があって嫌われる」ことはあまり多くないです。
③相手次第では適応しやすい
受動型では相手から奪うようなトラブルは少ないので、相手に迷惑をかけることは少ないです。
そして、相手が前向きな性質を持っていれば、その影響も受け入れることができ、うまく適応することが可能です。
相手に悪意がなければ問題になりにくいのが長所です。
(6)受動型ASDの短所
「自己防衛に弱点があって、悪意に害されやすい」です。
「自己表現の困難」「悪意に害されやすい」「二次障害が出やすい」の3つが主な弱点です。
①自己表現の困難
「自分軸が不明確」かつ「内容の言語化が苦手」なのが受動型の特徴です。
そのため、自分の「強み」や「興味」を生かせず力を発揮しにくいのが弱点です。
そして自己表現の困難から、他者から低く見られたり、雑に扱われてしまうリスクがあります。
②悪意に害されやすい
受動型の場合、「断れない」ことを利用され仕事などで「損な役回り」を押し付けられやすい面があります。
そして、交際でも相手に悪意ある場合「支配」「利用」「搾取」されるリスクがあります。
その中で相手に流された結果、場合により法的なトラブルに巻きこまれるリスクもあるため注意が必要です。
③二次障害が出やすい
受動型では、嫌なことを拒めずストレスがたまりやすいところがあります。
そして、言語化の困難やある種の受け身・消極性を背景に、ストレスの発散がしばしば困難になります。
これら2つが合わさりストレスがたまりやすく、結果二次障害が出やすいことに注意が必要です。
(7)弱点をカバーするには
「自分を理解して自分を大事にする」ことがポイントです。
「断るスキル」「自己理解と表現練習」「ストレスマネジメントの徹底」の3つが主な対策です。
①断るスキル
受動型の方は「断れない」ことが一番のリスクになります。
なので「トラブル少なく断る」方法を、(無意識では困難のため)意識的に学習・練習して習得することが最重要課題です。
そして、「断った」時の副産物で生じうる「敵意」「孤立」のリスクを受け入れることが、ひるまず断るために大事になります。
(ただし、実際断ったとき、上記のことが実際生じる事は予想よりは少ないと思われます)
②自己理解・表現練習
受動型では「過剰適応」無理に相手に合わせることが染み付いて、自分の軸を見失っていることが多いです。
対策はある種「一人の時間」を作ってある種「自分を甘やかす」時間を作ること
それで自分が「本当は何を思って」「何をしたいか、何がいやか」など「自分の本心」を引き出していくことが大事です。
もう一つの技術面的な弱点に関しては、主張や自己表現が上手い人を真似る「モデリング」等活用しての反復練習が大事です。
③ストレスマネジメントの徹底
受動型ではどうしても特性上ストレスが非常に溜まりやすく、二次障害が非常に出やすいのが弱点です。
対策は「ストレスマネジメント」ストレスを溜めない・発散する・耐性をつける。この3つを徹底し、二次障害を少しでも防ぎます。
その中でも、関わる人や場を選ぶ「環境調整」が、特に受動型ASDの方にとっては大事です。
<取り組みを続けると「大仰型ASD」に>
「受動型」の方が自己理解、自己表現を続けると、結果「大仰型のASD」のタイプになります。
これによって「流される」「利用される」リスクは減って社会適応は改善します。
ただし「不自然さ」や「とっさの場面の弱点」などを揶揄されるリスクはどうしても残ります。
ただ、これは対策の余地があります。
<「大仰型」になってからの対策>
まずは「努力の成果」と「限界」の双方を認めたうえで、「自己信頼」を持っていくことが大事です。
その上で残る苦手に関しては「スキルの改善」を日々継続することが大事です。
そのうえで、受動型と同様「ストレスマネジメント」を徹底して二次障害を防いでいきます。
これらをした上で「本来の自分の強みをしっかり生かしていく」ことが大事になってきます。
(8)まとめ
「受動型ASD」は周りに合わせ続け、時に利用されるASDの方です。「自己理解」と「自己表現」に弱点が生じやすいです。
トラブルは少なく合う環境があれば適応しやすいのが強みですが、悪意に害されやすく、二次障害が出やすい点に注意が必要です。
第1の対策は「断る」スキルの獲得。その上で自己理解・表現練習に努めつつ、ストレスマネジメントを並行し二次障害を防ぐことが大事です。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)