アトモキセチン(ストラテラ)

依存のないADHD治療薬

アトモキセチン(ストラテラ)は、依存のないタイプの代表的なADHD治療薬です。

 

効果が出るまで1-2か月かかりますが、不注意・多動・衝動性のすべてに改善効果を見込みます。

 

ただしあくまで「改善」かつ個人差あるため、生活面の工夫の実践は並行します。

 

動画:アトモキセチン

もくじ

 
  1. (1)はじめに:ADHD治療薬アトモキセチン(ストラテラ)
  2. (2)アトモキセチン(ストラテラ)とは
  3. (3)ADHDとは(概略と症状)
  4. (4)ADHDでの、脳機能の2つの障害
  5. (5)アトモキセチンの効果と作用機序
  6. (6)脳機能の場所と効果までの期間
  7. (7)アトモキセチンの効果の特徴
  8. (8)アトモキセチンの副作用
  9. (9)アトモキセチンの長所・短所・使用想定の場面
  10. (10)アトモキセチン(ストラテラ)の実際の使い方
  11. (11)まとめ
  12.  

(1)はじめに:ADHD治療薬アトモキセチン(ストラテラ)

心療内科精神科の薬。今回は、アトモキセチン(ストラテラ)についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

この心療内科、精神科の薬の動画では、メンタル分野の様々なお薬についてご紹介をしています。

今回は依存のないタイプの代表的なADHD治療薬のひとつであります、アトモキセチン(ストラテラ)についてやっていきたいと思います。

(2)アトモキセチン(ストラテラ)とは

まずこのアトモキセチン(ストラテラ)とはですが、これは依存がないタイプの代表的なADHD治療薬です。

ADHDの症状の、不注意・多動・衝動性、この3つすべてに効果を見込むものになります。

ただし、効くまでがすぐではなくて、2から8週間・かなり時間差で効くというのが特徴です。

(3)ADHDとは(概略と症状)

<ADHDの概略>

このADHDとはですが、これは不注意・多動・衝動性が特徴的な生まれながらの発達障害になります。

幼少期に不注意などでわかることは多いですが、中には大人になって遅刻を繰り返す等、社会的な不適応を繰り返すことで発見されることも多いです。

薬で症状の緩和を(個人差はある中で)見込みますが、一方で生活面の工夫を一緒に行っていくことが対策として大事です。

<ADHDの主な症状>

このADHDの症状ですけれども、大きく言うと不注意・多動・衝動性、この3つになります。

不注意に関しては、注意が続かない・注意がそれる、人によっては物をなくす、先送りにしてしまう・片付けなどができないという方がいます。

多動に関しては、じっとしていられないという多動もありますし、考えがめぐってしまう「頭が多動」、またしゃべり過ぎてしまうという方もいます。

衝動性に関しては、つい衝動的に何かをやってしまうという方もいますし、ストレスに敏感に反応するという衝動性の方もいます。その延長で気分の波が強く出るという方もいます。

(4)ADHDでの、脳機能の2つの障害

このADHDの特徴、脳の機能ということで見ていくと大きく2つの障害があります。

1つ目は「実行機能系の障害」。これは物事を順序立ててやっていくことが難しいという機能(の障害)でして、前頭葉の障害によって起こるとされます。

もう一つが「報酬系の障害」でして、いいこと(報酬)時間差の「報酬」というのを待てないというところから来まして、脳においては「側坐核」というところの障害というふうに言われます。

<実行機能系の障害>

少し詳しくみます。まずは実行機能系ですが、これは脳の前頭葉のノルアドレナリン・ドーパミンの不足から起こる言われます。

不注意に関して言うと注意や集中を続けたり、計画したりすることが苦手になってしまいます。

多動・衝動性に関しては、抑制・抑えが利かず、衝動的に行動してしまうという形で出てきます。

<報酬系の障害>

もう一つが「報酬系の障害」です。これは脳の「側坐核」のドーパミンの不足というところは言われます。

不注意の症状としては、すぐ何かいいことがないと注意が逸れてしまうという形で出ます。

多動・衝動性ということに関しては、報酬がすぐにないと待てなくて別のことをしてしまうという形で出ます。

(5)アトモキセチンの効果と作用機序

この中で、アトモキセチン(ストラテラ)の効果に関していうと、実行機能・前頭葉のノルアドレナリンを増やすことで、実行機能への効果があります。

(一方で)報酬系の方への効果はあまり見込めないものになります。

このアトモキセチンの作用機序ですけれども、一番主なものは、「脳の前頭葉のノルアドレナリンを増やす」ということになります。

<アトモキセチンの作用機序:詳しく>

①脳のノルアドレナリン

このメカニズムを少し詳しく見ていきますと、脳の神経細胞は前頭葉にもありまして、この神経細胞の間と間で神経伝達物質をやりとりすることによって情報を伝えていきます。

この伝達物質の中にノルアドレナリンがあります。ノルアドレナリンを片方の神経細胞が放出・出しまして、もう片方が受容体というところで受け取ると。

ただこのノルアドレナリン増えすぎてしまうことがあるので、それを調整するためにノルアドレナリントランスポーターがありまして、そこで再取り込み・出したものをまた受け取る・回収をして、バランスを取っていきます。

②ADHDの場合の脳の状態

ここでADHDの方を見ていきますと、この前頭葉のノルアドレナリンが慢性的に不足している。

そうすると、先ほどの脳の「実行機能の障害」が出て不注意・多動・衝動が出ることがあります。

③アトモキセチンの効果

ここにおいてストラテラの効果ですが、このノルアドレナリンの再取り込みを阻害する、先ほどの「回収するところ」をブロックしますので、結果として「出すけれども回収されない」、その結果、ノルアドレナリンが増えるということがあります。

<アトモキセチンの作用機序のまとめ>

もう一度アトモキセチンの作用機序を振り返ると、この「脳の前頭葉のノルアドレナリンを増やす」のが主な作用、そして補助的に前頭葉のドーパミンも増やすというふうに言われます。

一方で、側坐核・報酬系に関わるドーパミンは増やさないというのは特性になってきます。

これは一見悪いことのようにも思いますけれども、「依存がない」という特徴にもつながってきます。

(6)脳機能の場所と効果までの期間

一般に薬の効くまでの期間というところを考えますと前頭葉のノルアドレナリン・実行機能の方に関しては、かなり効くまでの(脳の)バランスを取るための時間、2から4週もしくはそれ以上かかると言われます。

一方で、側坐核のドーパミン(報酬系)に関しては即効性を期待されるものになります。

(7)アトモキセチンの効果の特徴

アトモキセチン(ストラテラ)の効き目の特徴を見ていきます。

まず、この薬は先ほどの「実行機能」に効くため、効くまで時間がかかる・2から8週かなり時間差がかかります。

これに関連して効いた「分かりやすい実感というのを持ちづらい」のが特徴です。

一方で、依存はなくて、不注意・他動・衝動性、3症状全てに効くというのが特徴になってきます。

(8)アトモキセチンの副作用

このアトモキセチンの副作用、まずは吐き気・食欲低下など消化器系の副作用が初期に出ることがあります。

また、ノルアドレナリン系の副作用、動悸、不眠、頭痛などが出る人がいます。

一方で、離脱症状はあまり出なくて依存も基本的にはないとされます。

(9)アトモキセチンの長所・短所・使用想定の場面

アトモキセチンの長所・短所を見ていきたいと思います。

<長所>

まず長所ですけれども、1つ目は依存がなくて安全に使うことができること。

2つ目は三症状、不注意・多動・衝動性、その全てに効果を期待すること。

そして3つ目としては、不安や落ち込みなどに一定の効果を期待するというふうにされます。なのでADHDの方の中でも不安や落ち込みがある方に関しては、非常に相性がいいです。

<短所>

一方、アトモキセチンの短所ですけれども、1つ目は効果が出るまで非常に時間がかかるところ。

もう一つが効果の実感がなかなか分かりにくいということがあります。

この2つがあるために、ADHDで「なかなか待てない」という特徴との相性もあり、人により続けにくいことがあります。

<検討する場面>

このアトモキセチンを検討する場面ですが、特に大人の発達障害の方では、やはり安全性・依存がないことは大事ですので、事実上第1選択として臨床的には使っております。

そして効果が出るまでを待てるという場合には、このアトモキセチンは大いに適応になると思われます。

そして、不安や落ち込みが目立つという場合にも、これは大いに適応になるんじゃないかと考えております。

(10)アトモキセチン(ストラテラ)の実際の使い方

<開始>

原則1日40ミリという量から開始します。ただ、続けられることが大事なので、なるべく副作用を減らすため10ミリから25ミリ、少ない量で始める場合もあります。

始めた初期に吐き気やめまいなどの副作用が出ることはありますけれども、多くは数日で慣れてきます。

一方で、急にイライラするなど明らかな違和感があった場合は、これは中止をしていきます。

<継続・無効時の対応等>

そして、2から4週は少なくともはじめの量で見ていきます。そして、副作用が続くという場合は無理して増やさないですが、可能なら続けていきたいです。

そして、十分期間後も効果が不十分な場合は、徐々に量を増やしていきます。最大は120ミリです。

そして増やした時に副作用が強く続く場合は増やす前の量に戻していきます。

最大量を使っても効果不十分な場合は、まずは薬を続けていくのかというのを検討しながら、他の生活的な方法も検討していきます。

そして、薬の効果の有無にかかわらず、ADHDなので生活面の工夫を並行します。

<改善後と減薬>

そして効果があった場合、最低数カ月から1年以上に関しては工夫を続けながら同じ量で薬を続けていくことになります。

その後生活の工夫が十分定着した場合には、薬を減らすとどうしても不注意などをぶり返すことがあります、

そういった悪化リスクは踏まえながらも慎重に減らして薬以外でカバーをしていきます。

そして、減らして、やはり不注意など再燃が強いという場合は、元の量に戻すということを検討していく。こういった使い方になってきます。

(11)まとめ

今回はアトモキセチン(ストラテラ)についてみてきました。

このアトモキセチン(ストラテラ)は依存がないタイプの代表的なADHDの治療薬になってきます。

脳の前頭葉のノルアドレナリンという物質を増やしまして、実行機能というところを改善しまして、その結果、不注意・多動・衝動性の改善を見込んでいくというものになります。

効くまで2から8週間、かなり時間差があるのが弱点になってきます。徐々に増やしながら使っていきまして、効果を見ていきます。

その中で、生活面の不注意などの工夫ということは、並行しておこなっていくのがADHDの特性上大事になってきます。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)