クエチアピン(セロクエル)

眠り・気分安定に強い抗精神病薬

クエチアピン(セロクエル)は、「MARTA」と呼ばれる非定型抗精神病薬です。

 

特に気分安定、睡眠改善に効果を期待し、副作用は少ないですが、糖尿病があると使えません。

 

主剤では効果に弱点がありますが、頓服薬や、補助的な使い方もします。

 

動画:クエチアピン

もくじ

 
  1. (1)はじめに:抗精神病薬クエチアピン(セロクエル)
  2. (2)クエチアピンと、統合失調症・抗精神病薬について
  3. (3)3種類の抗精神病薬とクエチアピンが属する「MARTA」
  4. (4)クエチアピンの立ち位置と特徴
  5. (5)他のMARTAとの違い
  6. (6)クエチアピンの副作用、長所・短所・検討場面等
  7. (7)クエチアピン(セロクエル)の実際の使い方
  8. (8)まとめ
  9.  

(1)はじめに:抗精神病薬クエチアピン(セロクエル)

心療内科・精神科の薬。今回は「クエチアピン(セロクエル)」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

この心療内科・精神科の薬の動画では、メンタル分野の様々なお薬について扱っています。

今回は不眠にも強い・副作用の少ない抗精神病薬「クエチアピン(セロクエル)」について見ていきたいと思います。

(2)クエチアピンと、統合失調症・抗精神病薬について

<クエチアピン(セロクエル)とは>

クエチアピンは、統合失調症に使う抗精神病薬「MARTA」の一つです。

眠気や気分の安定に対してはかなり効果が期待できる部分がある。

一方で、統合失調症自体への効果は相性が強く、糖尿病だと使えない薬です。

<統合失調症とは>

統合失調症は、悪化した時に混乱や幻聴・妄想などが目立つ脳の不調です。

主に脳のドーパミンの作用の過剰が背景とされています。

治療は、ドーパミン作用を抑える等をする抗精神病薬の継続が基本です。

<抗精神病薬とは>

抗精神病薬は、脳のドーパミンの作用を抑えるなどして統合失調症の改善を図る薬です。

改善のほか、再燃予防の意味もあり、安定後も続ける必要があります。

この抗精神病薬は、効く場所などによって大まかに3種類に分かれます。

(3)3種類の抗精神病薬とクエチアピンが属する「MARTA」

この3種類を見ていきますけれども、「ドーパミン遮断薬」「SDA」「MARTA」になります。

順番に見ると、ドーパミン遮断薬は脳のドーパミンの作用の遮断等をします。

SDAに関しては、ドーパミン以外にセロトニンにも関係する薬です。

そして「MARTA」は、ドーパミン・セロトニン以外にも様々な脳内物質関連を調整します。このクエチアピンは「MARTA」に属します。

<MARTAとは>

MARTAは、さまざまな受容体などに作用をして調整する薬です。

特に気分・情動という面に効果が強く、以前の抗精神病薬で強い「パーキンソン症状」は非常に弱いです。

ただし、血糖・脂質・体重増加や「眠気」の副作用には注意が必要です。

(4)クエチアピンの立ち位置と特徴

クエチアピンの立ち位置をまとめると「比較的安全に微調整をしやすいMARTA」。

特徴としては、まず副作用が比較的少なくかつ量の微調整がしやすいです。

そして、気分安定・睡眠の改善への効果が強く期待できます。

ただし一方で、特に主剤(メインの薬)で使う場合は効果がしばしば不十分です。

(5)他のMARTAとの違い

「他のMARTA」としては、まずはオランザピン(ジプレキサ)、もう一つはアセナピン(シクレスト)があります。

<オランザピンとの違い>

まず眠る前(眠前)の使用分に関しては、日中の眠気がオランザピンより少ないです。

そして、血糖値や体重が増える副作用は、オランザピンよりはクエチアピンの方がやや少ないとされます。

ただし、クエチアピンはオランザピンと比べると効果の安定感は劣る印象です。

<アセナピンとの違い>

量の調整がしやすく、不眠への有効性が高いというのがクエチアピンの特徴です。

そして、アセナピンのように「舌下錠」ではなく、他の薬とも一緒に飲めます。

一方で、クエチアピンはアセナピンと違い、糖尿病があると使えません。

(6)クエチアピンの副作用、長所・短所・検討場面等

<クエチアピン(セロクエル)の副作用>

まずは眠気、特に日中使った時に目立ちます。

もう一つが「ふらつき」。特に日中使用時や急な増薬時に注意が必要です。

そして「血糖や体重の増加」。このために糖尿病の方はクエチアピンを使えません。

<クエチアピンの主剤時の弱点>

主剤で使う時は、多めの量を日中も含め2-3回分けて使う事が必要です。

それでもオランザピン等よりは、効果がしばしば弱い面があります。

さらに日中使う場合、どうしても眠気やふらつきが目立ちやすくなります。

<クエチアピンの長所>

クエチアピンは、「パーキンソン症状」はMARTAの中でも非常に少ないです。

そして情動・気分・睡眠の安定には強い効果を見込めます。

また、似た薬オランザピンと比べ、体重や血糖増加の副作用は相対的には少ないとされます。

<クエチアピンの弱点>

まずは「効果に相性が強い」十分量使っても効果が弱い場合も多いです。

一方、主剤(メイン)で使うと、1日2-3回に分けて使う必要あり、結果眠気やふらつきにより注意が必要です。

もう一つが血糖や体重の増加の副作用、このために糖尿病では使用不可です。

<クエチアピンを検討する場面>

まずは「気分の不安定や不眠が強い時」、この点ではは非常に強みがあります。

続いて「パーキンソン症状が出やすい時」出にくいMARTAの中でもさらに出にくいです。特に高齢者で転倒のリスクが高い方に関して適応になります。

3つ目が不安や不眠に対して「頓服薬」や「補助薬」で使う場面。この場合は、比較的弱点が目立たず強みを生かしやすいです。

(7)クエチアピン(セロクエル)の実際の使い方

①定期的に使う場合

まずは1日に50から75ミリ、これを1日2から3回に分けて開始します。

ここから徐々に増やし、1日150-750ミリを原則1日2-3回に分け使います。

副作用が強くあった場合は、変薬・減薬、もしくは寝る前になるべくまとめる等用法の調整を検討します。

そして、十分量でも効果不十分なら、薬を変える「変薬」などを検討します。

もし効いて安定した場合は、原則は再燃予防のため「維持量」を継続します。

その中で副作用時などに減薬を慎重に検討しますが、再燃リスクには注意が必要です。

②頓服や補助薬としての使い方

情動不安定な時、12.5-25㎎を目安に頓服で使います。

同様に眠れない時も、12.5から25ミリを頓服で使うことがあります。

不眠が強い時の補助薬としては、12.5から100ミリを徐々に増やしつつ使う事があります。

(8)まとめ

今回は、抗精神病薬「クエチアピン(セロクエル)」について見てきました。

この「クエチアピン(セロクエル)」は、気分安定・睡眠に対し有効性を期待する抗精神病薬で、「MARTA」という種類に属します。

主剤として考えた時には、どうしても血糖値・眠気・ふらつき等の副作用に比べると効果が弱いなど、弱点が多いです。

一方で、即効性や睡眠の効果には長所があり、頓服薬や「不眠に対する補助薬」などで使う場合は、有効性を発揮しやすい面があります。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)