気分安定薬
躁うつ病で主に用いる薬
気分安定薬は、躁うつ病の「躁」「うつ」双方を抑え、気分の安定を図る薬です。
症状の改善のほか、再発予防にも重要なため、原則続ける必要があります。
リチウムなど代表的な薬では、安全のため「血中濃度の測定」が望まれます。
もくじ
- (1)はじめに:躁うつ病で使う「気分安定薬」
- (2)総論①:躁うつ病・気分安定薬、躁うつ病での抗精神病薬について
- (3)総論②:どの薬を使う?3つの状況での使う薬
- (4)各論①:(狭義の)気分安定薬
- (5)各論②:抗精神病薬(広義の「気分安定薬」)
- (6)まとめ
(1)はじめに:躁うつ病で使う「気分安定薬」
心療内科・精神科の薬。今回は「気分安定薬」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
うつ病と似た不調で、「うつ」とその逆の「躁」の2つを繰り返す躁うつ病というご病気があります。
うつ病では、治療として抗うつ薬を使うということがあるんですけれども、この躁うつ病では、気分の波を減らす「気分安定薬」を使います。
今回は、この「気分安定薬」について見ていきたいと思います。話の流れとしては、まずは総論・一般的な話。その後、各論・各種の気分安定薬の話をしていきたいと思います。
(2)総論①:躁うつ病・気分安定薬、躁うつ病での抗精神病薬について
まず、総論から見ていきたいと思います。
<躁うつ病とは>
まず躁うつ病ですが、これはうつ病同様の落ち込みなどのうつの症状、あとはその逆の躁状態の2つを繰り返す脳の不調です。
うつ病とは違う脳の不調のメカニズムが言われています。
そのために、治療としては主に気分安定薬という薬を使うということになります。
<気分安定薬とは>
この気分安定薬について見ていきたいと思いますけれども、これは躁とうつ双方・両方を押さえて気分の波を減らす薬になります。
リチウムなどが有名、これらの「以前から使うような気分安定薬」が今も主流です。
一方で、ここ最近では抗精神病薬、統合失調症などで使う抗精神病薬の一部を、気分安定薬の作用もあるということで使うことが最近あります。
<躁うつ病での抗精神病薬>
ここで躁うつ病での抗精神病薬というところを見ていきますが、以前から躁うつ病の中の躁状態に対しては、躁の改善のために使われていました。
この中で、一部の薬が躁だけじゃなくて、躁鬱のうつにも改善の効果があるという報告があり、また、再発予防、いわゆる維持療法にも有効だという報告が出てきているというのが状況です。
(3)総論②:どの薬を使う?3つの状況での使う薬
という中で、どの薬を使うといいですかというところがありますけれども、まず大まかにお答えしますと、基本的には今でもリチウム次いでバルプロ酸という薬が主流になります。
ただ、うつやそうが強い時に関しては、先ほどのような抗精神病薬を使うということがあります。
その中で、特にうつの治療に関しては、これさえやればいいという標準というのがなかなかなくて、いろいろな選択肢の中から相性を見ながら選んでいくということになってきます。
少し細かく見ていきますと、治療の3つの場面を見ていきますと、まずは躁状態の治療がどうかというところ。
2つ目としてはうつ状態の治療がどうかというところ、3つ目がいわゆる維持療法・再発予防の治療はどうかというところ、この3つを少し詳しく見ていきます。
<躁状態に対して>
まずは躁状態に対してということですけれども、基本的にはリチウムやバルプロ酸という標準的な薬が主力なんですけれども、多くは抗精神病薬を併用します。
なぜかというと、リチウム等に関しては有効なんだけれども、効くまでは非常に時間差がある。10日から2週間ほど時間差があることが多いとされますので、即効性が高いと言われる抗精神病薬を使うのが臨床上は必要になることが多いです。
この場合リチウムなどは血中濃度も測り安全性は保ちつつも、その中では多めに薬を使うことが多いです。
<うつ状態に対して>
2つ目のうつ状態に対してですが、このリチウムやバルプロ酸を使うのは基本ではあるんですけれども、効果が特にバルプロ酸はうつへの効果は弱い。
リチウムもあまり強くないというところがあるので、それだけだと症状が長期化しやすいです。
そこで、別の気分安定薬「ラモトリギン」や、抗精神病薬でうつを改善するというのも選択肢になってきます。
一方で、抗うつ薬を単独で使うということは推薦されません。逆にリチウムとの併用は議論がありますが、標準ではないと思われます。
<維持療法として>
3つ目の維持療法・再発を防ぐというところですけれども、これに関してはやはりリチウムが標準というふうにされます。
時によっては、バルプロ酸と2剤併用で使うこともあり得ると思われます。
その中で、抗精神病薬等の一部を使う場合もあり得ます。前者(気分安定薬)では血中濃度の測定が大事ですし、逆に抗精神病薬を使う場合は状態によって量の調整というのが必要になってきます。
<補足:妊娠時の気分安定薬>
補足として、妊娠の時の気分安定薬ですが、標準的な薬の2剤、リチウム・バルプロ酸はどちらとも催奇形性と言ってお子さんへの影響のリスクが相対的に高いとされています。
これらに関しては少ない量を使うとリスクは減るということは言われるんですけれども、それでも悩ましさが残ります。
これは個別で相談ですが、別の相対的にリスクの少ない薬ラモトリギンや抗精神病薬を維持療法で使う方法も選択肢になってきます。変薬のリスクはありますが、選択肢にはなります。
(4)各論①:(狭義の)気分安定薬
続きまして、各論というところに移っていきたいと思います。まずは狭い意味での気分安定というところから見ていきたいと思います。
①炭酸リチウム(リーマス)
炭酸リチウムは改善のためにも、維持のためにも双方に有効でありまして、今でも躁うつ病治療のスタンダードということが言えます。
躁の治療や予防に比べまして、うつへの効果はやや弱いとされまして、そういう時に抗精神病薬などを併用することがあり得るかと思います。
血中濃度を測ることが必要な薬、あと妊娠時のリスクが高くて副作用も幾つかあるので注意が必要ということになります。
②バルプロ酸(デパケン、デパケンR)
これは特に躁の予防・改善に強い、維持にも使う気分安定薬になります。
うつに対しての効果はリチウムよりも弱いとされまして、そういう意味では他の薬・抗精神病薬と一緒に使うなどが選択肢になってきます。
この薬も血中濃度の測定は必要とされる薬になります。肝臓への影響(肝障害)と、妊娠時のリスクなどに注意が必要です。
③カルバマゼピン(テグレトール)
これも特に躁の予防や改善に強いタイプの気分安定薬になります。うつへの効果は少し弱いとされまして、他の薬を併用することがあります。
この薬も濃度を測ることが必要。かつ薬疹と言って、アレルギーで皮膚に強い湿疹が出るリスク、あと相互作用といって(他の)薬との影響が出やすいというリスクがあるとされまして、そのため使用頻度は減少傾向というのが臨床的な印象です。
④ラモトリギン(ラミクタール)
こちらは特にうつの改善を見込むタイプの気分安定薬になります。
そういう意味ではある種画期的ですが、逆に躁状態の時はあまり推奨されないという薬になります。
この薬は弱点としては「薬疹」強い「薬による湿疹」ができるリスクがあり、そこは注意が必要なので少量から慎重に使う必要があり、効果まで時間が掛かります。
(5)各論②:抗精神病薬(広義の「気分安定薬」)
続きまして、抗精神病薬の中で気分安定作用のあるもの。広い意味での気分安定薬ということで、それらの薬を紹介していきます。
①オランザピン(ジプレキサ)
これは統合失調症のほか、躁うつ病の改善にも使う抗精神病薬になります。
多い量(10ミリから20ミリ)で躁の改善を見込みますし、少量(2.5から5ミリ)でうつの改善を見込む。この中間で維持療法も見込んでいくものになります。
これは妊娠時リスクなどは少ない一方、眠気であったり、体重増加に注意が必要で、糖尿病の場合は使えません。
②アリピプラゾール(エビリファイ)
これも統合失調症で使うんですけれども、躁うつ病の改善にも使う抗精神病薬になります。
多くの量(24から30ミリ)で躁の改善を見込みます。一方で、少量(1ミリから6ミリ)でうつの改善を図るということになります。
副作用は少ないということはメリットになります。ただ、維持量の適量は個人差があり注意が必要です。
③クエチアピン徐放錠(ビプレッソ)
これは適応としても躁うつ病のうつの改善に適応がある抗精神病薬です。はじめは少ない量から徐々に増やしていって結果、うつの改善を図ります。
眠気が、特に薬を増やした時に強く出やすく、体重増加にも注意が必要で、糖尿病の場合は使いにくい薬になります。
④ルラシドン(ラツーダ)
これは統合失調症にも使いますけれども、躁うつのうつ改善にも適応がある抗精神病薬になります。眠気は比較的少なく、うつの改善を図ります。
一方で躁になった時に関しては、別の抗精神病薬に変えるのも検討するのが選択肢になってきます。
補足:躁を抑える時に使う抗精神病薬
3つ程候補を挙げておきますと、ハロペリドール(セレネース)、ゾテピン(ロドピン)、クロルプロマジン(コントミン)というのを使う場合があります。
どちらかというと、維持というよりは躁を改善するためにこの薬を使うことが選択肢としてあります。
(6)まとめ
今回は「気分安定薬」ということで見てきました。気分安定薬は躁うつ病の躁とうつ双方を改善して波を減らすこと、それによって改善と再燃予防を図る薬になります。
この気分安定薬、基本は炭酸リチウムになるんですけれども、うつに少し弱点があるのと安全性の問題もありまして、他の選択肢も重要になってきます。
最近では、抗精神病薬の一部を躁の改善以外にうつの改善・維持療法としても使うことがありまして、特に妊娠があったり、妊娠を考える場合には、選択肢になってきます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)