抗認知症薬

進行を遅らせる薬

抗認知症薬は、認知症の進行を遅らせる薬で、4種類使用可能です。

 

より根本的な治療を目指す新薬が期待され、審査中です。

 

動画:抗認知症薬

もくじ

 
  1. (1)はじめに:抗認知症薬
  2. (2)抗認知症薬とは?
  3. (3)アルツハイマー型認知症の病態生理
  4. (4)抗認知症薬の種類
  5. (5)各種の抗認知症薬
  6. (6)まとめ
  7.  

(1)はじめに:抗認知症薬

心療内科・精神科の薬。今回は「抗認知症薬」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

この心療内科、精神科の薬の動画では、メンタル分野の様々なお薬に対してご紹介をしています。

今回は、認知症進行を遅らせる薬「抗認知症薬」についてみていきます。

(2)抗認知症薬とは?

抗認知症薬は「認知症の進行を遅らせる薬」です。

<認知症とは>

認知症は、記憶などの認知機能が後天的に徐々に低下していく病気です。

主に「アルツハイマー型認知症」が有名ですが、そのほかの原因もいくつかあります。

その中で、多くは徐々に進行していき、基本的には治す薬はありません。

<アルツハイマー型認知症とは>

これは代表的な認知症で、脳細胞の変性等から物忘れなど認知症症状が徐々に進んでいきます。

年単位で徐々に進行し、最終的には体の機能も大きなダメージを受けます。

進行を遅らせる薬はありますが、止めることは困難とされます。

<抗認知症薬とは>

抗認知症薬は、主にアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる薬です。

早期に始めて進行を遅らせ、他の介護サポートなども並行し、予後の改善を図っていきます。

一方で「進行を止める」まではできないとされます。

<抗認知症薬の種類>

主に2つ、一つは「コリンエステラーゼ阻害薬」、もう一つが「NMDA受容体拮抗薬」です。

「コリンエステラーゼ阻害薬」は、「ドネペジル」「ガランタミン」「リバスチグミン」、この3種類あります。

NMDA受容体拮抗薬は「メマンチン」の1種類です。

(3)アルツハイマー型認知症の病態生理

<アルツハイマー型認知症の病理所見>

①老人斑

老人斑は、脳に「アミロイド蛋白」が付着している状態です。

②神経原線維変化

神経の「タウ蛋白」のが「リン酸化」して変性し、それにより細胞死などを起こしやすくなるとされます。

③大脳萎縮

初期では「海馬」という記憶を司るところが萎縮し、進行後は大脳全般が萎縮してきます。

<アルツハイマー型認知症の病態仮説3つ>

①コリン仮説

アルツハイマー型認知症の方の脳を見ていくと、脳内物質「アセチルコリン」が低下をしています。

そのことを背景に、記憶障害や認知機能の低下が出ているというのがが「コリン仮説」です。

この仮説からアセチルコリンを増やす「コリンエステラーゼ阻害薬」が作られ、今も使われています。

②グルタミン酸仮説

アルツハイマー型認知症の方では、別の脳内物質「グルタミン酸」が過剰になっているとされます。

それにより神経伝達の障害や、細胞の損傷しやすさが出る事が指摘されます。

この仮説からグルタミン酸の作用を減らす「NMDA受容体拮抗薬」が作られ、今も使われています。

③アミロイド仮説

これは先ほどの病理所見からの仮説になります。

まず脳に「アミロイド蛋白」が付着し続けます。

するとその後に「神経原線維変化」という神経の変化が起きます。

その後最終的に神経細胞死が起こって認知機能も低下します。

この仮説を踏まえて、はじめの「アミロイド蛋白」を減らす「抗アミロイド抗体」が、今研究中の状況です。

<アミロイド仮説と他の仮説の関係>

アミロイド仮説は、①アミロイド物質が付着→②神経原線維変化→③細胞死・認知障害、の流れです。

先ほどのコリン仮説・グルタミン酸仮説は下流の「細胞死」や「認知障害」の抑制が目標になります。

一方、今研究中の「抗アミロイド抗体」は一番上流の「アミロイド蛋白」を減らし、進行抑制に加え「予防」も期待されるものになります。

(4)抗認知症薬の種類

抗認知症薬の種類は、「コリンエステラーゼ阻害薬」、「NMDA受容体拮抗薬」、「抗アミロイド抗体(研究中)」です。

①コリンエステラーゼ阻害薬

これは「アセチルコリンを分解する酵素」をブロックする薬です。

その結果、脳の「アセチルコリン」という物質を増やします。

それによって脳の機能を戻し、神経の保護作用も期待する薬です。

ただしあくまで「進行抑制」で、進行が「止まる」というわけではありません。

②NMDA受容体拮抗薬

これは、脳のグルタミン酸の作用を程よく抑える薬です。

これによって神経伝達を改善し、神経細胞の障害を保護する作用が期待されます。

ただ、これもあくまで「進行の抑制」で、「治る」「進行を止める」わけではありません。

③抗アミロイド抗体(研究中)

これはアミロイド仮説での脳に付着する「アミロイド蛋白」を減らす薬です。

これは理論上は「上流」を止めるため、根本的な「予防効果」が期待されています。

ただし実際に、これまでの治験等の中では、なかなか苦戦が続いていました。

その中ですが、今回このメカニズムの新薬「レカネマブ」が注目され、審査を受けている状況です。

(5)各種の抗認知症薬

今、日本で使える抗認知症薬は4種類です。

まず「コリンエステラーゼ阻害薬」は、「ドネペジル(アリセプト)」「ガランタミン(レミニール)」「リバスチグミン(リバスタッチ)」の3種類があります。

NMDA受容体拮抗薬は「メマンチン(メマリー)」の1種類です。

①ドネペジル(アリセプト)

これは主に使われてきた「コリンエステラーゼ阻害薬」の抗認知症薬です。

これは軽度から重度のアルツハイマー型認知症等に適応がある、症状の進行を遅らせる薬です。

そのほか、「無気力(アパシー)」にも効果が期待されますが、一方でイライラの副作用には注意が必要です。

②ガランタミン(レミニール)

これはコリンエステラーゼ阻害薬の一つで、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症で適応があります。

一方、ドネペジルとの違いは大きくは目立たず、1日2回飲む必要がある事が難点です。

③リバスチグミン(リバスタッチ)

これはコリンエステラーゼ阻害薬の「貼り薬」で、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症に適応があります。

そして貼り薬のため、「服薬困難」の方でも使用が可能で、消化器系の副作用も少ないです。

一方で貼った場所の「かぶれ」には注意が必要です。

④メマンチン(メマリー)

これは今のところ日本で唯一使える「NMDA受容体拮抗薬」で、中等度以上のアルツハイマー型認知症で適応があります。

他の3剤の抗認知症薬とは作用機序が異なるため、併用が可能です。

そして、「周辺症状」にも場合によっては効果を期待できますが、副作用の「眠気」や「ふらつき」に注意が必要です。

(参考)レカネマブ

これは「抗アミロイド抗体」の「注射の薬」になります。

アメリカでは、2023年に「軽度認知症(ただし様々な条件有)」に対し、「迅速承認」といって部分的な条件付きの承認が得られたものです。

そして2023年5月現在、日本では「承認審査中」の状況です。

(6)まとめ

今回は心療内科・精神科の薬「抗認知症薬」について見てきました。

抗認知症薬は、認知症の進行を遅らせる目的で使われる薬です。「治るものではない」というのがポイントです。

日本では、4種類の薬が使用可能です。なるべく早期に使って「介護ケア」等と並行、予後の改善を図っていくものになります。

一方で、根本治療が期待される「抗アミロイド抗体」は、これまで研究が難渋していましたが、ここ最近「レカネマブ」が効果を期待され、日本では今承認審査中です。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)