電車に乗れない
パニック障害の「回避」に注意
「電車に乗れない」慢性化の背景には、パニック障害で発作を「回避」することがあります。
克服の対策は、抗うつ薬を土台としての、苦手場面を回避せず徐々に慣らす「脱感作」になります。
なお、うつ病・適応障害・強迫性障害など、他の原因で「電車に乗れない」事もあり、注意が必要です。
もくじ
(1)はじめに:電車に乗れない
心療内科・精神科の症状。今回は「電車に乗れない」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
「電車に乗れない」と言えば、多くの方が「パニック障害」を思い浮かべると思います。
その中で電車を避けるなどして生活はできるが、困難があることは続く方がいます。
また、パニック障害以外の原因で電車に乗れない方も中にはいます。
今回はこの「電車に乗れない」について見ていきます。
(2)パニック障害で「電車に乗れない」
まずは「パニック障害で電車に乗れない」についてです。
<「電車に乗れない」が慢性化するまで>
まず第1段階、電車でパニック発作・強い発作を起こすことがあります。
そうすると、電車に乗ることへの「予期不安」不安が目立ってきます。
その結果、電車に乗ることをしなくなる「回避」が出現。
すると落ち着く一方「電車に乗れない」ことは慢性化します。
<パニック障害3つの症状>
1つ目が「繰り返すパニック発作」、2つ目が苦手な場面への「予期不安」、3つ目が苦手場面の「回避」になります。
①パニック発作
これは別名「自律神経発作」とも言い、急な交感神経の興奮です。
精神的には強い不安や恐怖が出てきます。
体には動悸、めまい、しびれ、吐き気など様々な場所に色々な症状が出てきます。
②予期不安
先ほどの「パニック発作」はかなり強いイメージがあります。
そのため、「また発作が起こるのではないか」という強い不安と緊張が残ります。
その結果、苦手な場面を考えるだけで、不安や緊張が強まります。
その結果、むしろ発作が起こりやすくなってしまいます。
③回避
これは苦手な場面を避けて、発作や予期不安を防ぐことです。
ある種自分で治療する「自己治療」でよく行われます。
回避の結果一見症状は安定しますが、苦手な場面はむしろ持続・慢性化します。
<回避をしている生活の例>
例えば電車にはもう10年間乗らず、仕事は電車が不要な近い職場に勤務している。
そして、生活は基本的には徒歩圏内で過ごす。
結果、目立った不自由や症状は見当たらないという方はいます。
<回避でそこなわれる事>
ご質問で、「回避によりどんなことが損なわれるのですか」とあります。
答えとしては、一番に「生活の幅と可能性」がそこなわれます。具体的には以下の3つなどがあります。
①行える仕事の幅・場所の制限
電車に乗らなくてもできる仕事・場所に制限されます。
あとは出張などが困難のため、業種もかなり限られてしまいます。
②対人交流や趣味の制限
人と交流するとき、電車が必要な機会は多いです。何か習い事などをする時も同様です。
③楽しみ・達成感の制限
仕事、生活全般に制限が生じる結果、人生の楽しみや達成感も損なわれることがあります。
<克服のためには>
「では、どうすれば克服していけますか?」というご質問です。
答えとして、鍵になるのは、「くすり」と慣らしていく「脱感作」になります。
①くすり(薬物療法)
主には、抗うつ薬SSRIの継続が標準治療になります。
治療を始めて数週間してから予期不安が和らぎ発作が出にくくなります。
そして、発作時用に「抗不安薬」を頓服で持っておくと、いざ発作が起こっても安心です。
②脱感作
これは、不安を「回避」せず、直面し「慣らす」ことで徐々に克服を図る方法です。
はじめは軽いところから徐々に慣らし、だんだん負荷を増やし克服を図ります。
ここで「失敗」は症状悪化等逆効果のため、「うまくいく」無理ない強度の設定が大事です。
<薬で脱感作をサポート>
ここで「自分で脱感作すれば大丈夫なんですか?」というご質問があります。
答えは「薬なしだと難しいことが多い」です。
ポイントは「薬で脱感作をサポートする」ことです。
「脱感作」は、苦手なこと直面し負荷が大きく、失敗時のリスクも高い方法です。
ここで土台として抗うつ薬を続け不安を減らすことで、脱感作が安全に行いやすくなります。
さらに頓服薬を持つことで、仮に発作が起こっても対応可能になりリスクが減ります。
(3)電車に乗れない他の原因
パニック障害以外で電車に乗れないこともあります。代表例6つを見ていきます。
①うつ病
パニック障害とうつ病は、原因がセロトニン不足で共通点が大きいです。
そのため両者は合併することも、移行することも多くあります。
②適応障害
これは電車よりもその後の仕事へのストレスが強いため、電車で発作が起こり電車に乗れなくなります。
③社会不安障害
電車は混雑時人が多く、「見られる」不安から発作が起きる等して乗れなくなります。
④自律神経失調症
パニック発作未満のめまい等の身体不調が出るため、電車に乗れなくなることがあります。
⑤恐怖症
具体的には場所への「広場恐怖」や、閉じた場所への「閉所恐怖」があります。
双方とも電車では生じるため、これを背景として乗れない場合があります。
⑥強迫性障害
これは意外と思った方も多いかもしれません。
電車で色々な人がいる中、他者への「加害恐怖」、傷つけてしまうんじゃないかという恐怖(強迫観念)が強くあると、それで乗れなくなることがあります。
原因はさまざまですが、原因に合わせた治療・対策をとっていきます。
(4)まとめ
今回は、心療内科・精神科の症状「電車に乗れない」ついてみてきました。
「電車に乗れない」ことが慢性化する時、多くは「パニック障害」で電車を「回避」している場合です。
この場合、症状は確かに治まる一方、代償で失う事も多くます。
そして治療する場合、抗うつ薬を土台に不安場面に慣らす「脱感作」を反復します。
うつ病・適応障害・強迫性障害など、他の原因で電車に乗れないという場面も生じ得ます。
その場合は、その原因に合わせた対策をやっていくことになります。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)