呑気症

空気を飲みすぎる不調

呑気症(空気嚥下症)は、空気を飲みすぎる不調で、その結果腹痛、おなかの張りなどが慢性的に生じます。

 

ガス以外に内科的異常なく、かつストレスや緊張などが続いている場合に、吞気症を強く疑います。

 

特効薬はありませんが、心療内科・精神科では背景の緊張・不安などの精神症状の改善を図る事から、呑気症の改善を図ります。

 

動画:吞気症

もくじ

 
  1. (1)はじめに:空気を飲みすぎる「呑気症」
  2. (2)呑気症とは
  3. (3)呑気症の鑑別疾患と診断まで
  4. (4)吞気症の治療
  5. (5)まとめ
  6.  

(1)はじめに:空気を飲みすぎる「呑気症」

心療内科・精神科の症状。今回は「呑気症」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

不安障害などの方で「お腹が張ってしまう」という話がよく出てきます。

また、お腹の不調がある方が内科で「ガスがたまっている」以外の異常がなく、心療内科に紹介されることもあります。

これらの原因は、意外とシンプルで「空気を飲み込んでしまう」ことです。

今回は、空気を飲み込んでしまう症状「吞気症」について見ていきたいと思います。

(2)呑気症とは

吞気症とは、「空気を飲みすぎる不調」になります。

<吞気症(空気嚥下症)>

これは、緊張などを背景に空気を飲み込んでしまう不調です。

その結果、胃や腸にガスが溜まり、お腹の張り・痛み等の症状が出てきます。

<吞気症の背景>

いくつか要素がありますけれども、まずはストレスや緊張の要素が非常に大きいとされます。

あとは人によっては「歯を噛みしめてしまう癖」があり、そこから空気を飲み込みやすくなります。

あとは食べ方や話し方、呼吸の癖から、飲み込みやすくなってしまう方もいます。

<吞気症を何科で診るか>

出てくる症状によって変わってくる部分はあります。

まずは「内科」お腹の張りなどのことを内科で診る場合があります。

あとは背景に「副鼻腔炎・喉の不調」などがあり得ますので、耳鼻科で診ることがあります。また、噛みしめの部分を背景に、歯科で診ることもあります。

その上でストレスなどの関係も大きいので、心療内科で見ることも多いです。

<呑気症が発見されるパターン>

①精神症状の一つとして

例えば、うつ病や不安障害などで治療している中で、お腹の張りなどの症状が出てくることがあります。

その原因としての吞気症がそこで見つかることがあります。

②内科などで異常がない場合

お腹の張り・のどの不調などで内科・耳鼻科等を受診しますが、検査では(腹部のガス以外)異常はない状態。

その時に背景としてそのストレスが関係してないかという点で、心療内科を紹介して吞気症の診断が下りることがあります。

<吞気症の主な症状>

空気を飲み込んでしまうことでいろいろ症状が出ます。

まずは胃の不快感や、張り過ぎると胃の痛みが出ることがあります。

あとは、おなかの膨満感・張りや痛みが出ることがあります。

また、ガスが出るということ、いわゆるゲップ・おならが出る方もいます。

(3)吞気症の鑑別疾患と診断まで

<呑気症の精神科的な原因・背景の例>

①不安障害

不安と緊張が強くなることを背景に飲み込んでしまうことが増えます。

②適応障害

ストレスが強くかかることで、いろいろ症状がある中、飲み込んでしまう症状も出ます。

③うつ病

落ち込み・不安が合併し、その中で緊張が強まり「飲み込んでしまう」ことがあります。

<内科などの原因>

①噛みしめ・食いしばり

このくせがあると舌が「(口腔の)上についた状態」になって、結果飲み込みやすくなってしまうことが指摘されます。

②副鼻腔炎・後鼻漏

どうしても「副鼻腔炎」鼻の奥の炎症、あと「後鼻漏」(液体が喉の方に行く)がある場合、「(空気を)飲み込んでしまう刺激」になってしまいやすい面があります。

③胃腸の腫瘍や炎症

こうした、いわゆる器質的な原因が時にあるので、必要時の精査はやはり大事です。

<合併しやすい不調>

まずははいわゆる「過敏性腸症候群」おなかの動きなどの不調を合併することがあります。

2つ目は「機能性ディスペプシア」胃の方も同様な不調を合併することがあります。

3つ目としては、肩や首や頭の痛み。これは食いしばりなどの合併時、口の近くに緊張が強まり、痛みが発生することがあります。

<診断までの2段階>

①器質因の除外(体の原因の除外)

内科や耳鼻科・歯科を状況によって受診し、必要があれば検査も行い、身体の原因を除外していきます。

②心療内科・精神科

他の症状(落ち込み・不安など)がないか。あと、ストレスの状況や生活への影響等を見ていきまして、呑気症の診断と、背景の精神疾患の診断も合わせて行います。

(4)吞気症の治療

この呑気症、いわゆる「特効薬」というのはなかなかないです。

その中で現実的な治療として3つ挙げていきますと、まずは「身体面への治療」、2つ目が「ストレス対策」、3つ目が「薬物療法」になります。

①身体面の治療

もし身体の背景があればその治療をします。

<具体的には>

まず「噛み締めなどの対策」かむことを調整したり、マウスピースを付ける方もいます。

2つ目が「副鼻腔炎・後鼻漏への治療」。抗生剤を使ったり、その他の治療もあり得ます。あとは、「腸の動き・過敏性腸症候群などの治療」。IBS等のの治療薬を使うことがあります。

なお、時にガス駆除剤・整腸剤を使いますが、これらの効果は限定的と言われます。

②ストレス対策

背景のストレスと緊張を減らすことで結果、改善を図っていきます。

<ストレス・緊張対策の例>

まず1つ目は「環境調整」環境によるストレスを「環境調整」することで減らします。

2つ目は「ストレスマネジメント」、ストレスの発散法などを学習し、ストレスが溜まっても溜め込まないようにします。

3つ目は「リラックス法・マインドフルネス」。技術を用いて自主的に緊張を和らげていく場合があります。

③薬物療法

緊張を和らげるための薬、いくつか候補があります。

見ていきますとまずは漢方薬。続いては依存がない不安の薬「タンドスピロン」。もう一つが「抗不安薬」、最後にあるのが「抗うつ薬」になります。

<漢方薬>

主には「半夏厚朴湯」「半夏瀉心湯」なとが候補に挙がってきます。

不安や緊張を和らげて、その結果、呑気症の改善を図っていきます。

これは安全に使える一方、効果は遅くて弱めです。

<タンドスピロン>

これは依存がないタイプの弱い抗不安薬になります。

漢方薬よりは効果が強いことが多い。一方、他の向精神薬と比べ安全に使えるのが強みです。

一方で、眠気は出る事があり、抗不安薬よりは効き目が弱いのが難点です。

<抗不安薬>

これは「ベンゾジアゼピン系」の薬で、即効性があり効果が強いのが特徴です。

依存をなるべく減らすために効果が長い「超長時間型」ロフラゼプ酸エチルなどを用いることが多いです。

一方で、対症療法に過ぎない部分あり、かつ長い薬でも依存と眠気の問題は残ります。

<抗うつ薬(SSRIなど)>

これはうつ病や不安障害に続けることで、徐々に効果を出していく薬です。

背景にうつ病や不安障害がある場合は、基本的には第1選択になります。

ただ、飲み始めの時のお腹の不調や、中止時のめまい等「離脱症状」には注意が必要です。

(5)まとめ

今回は、心療内科・精神科の症状「吞気症」を見てきました。

吞気症は空気を飲み過ぎてしまうことで、お腹の張りや痛みなどの不調をきたす症状です。ストレスの関与が大きいとされています。

内科・耳鼻科・歯科で身体の(原因の)除外をまず行っていくことが大事です。その上で、他のうつなどの症状も併せて見ていき、背景の精神疾患も併せて吞気症の診断をしていきます。

治療はまず体の原因がある時は身体面の治療を行っていき、次にストレスの対策をしていきます。その上で、緊張などに対して合う薬を探していきます。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)