人前で話せない
「社会不安障害」に注意
「人前で話せない」背景は、技術・経験の面の事もありますが、これは経験で改善しやすいです。
一方精神面での「社会不安障害」があり、場面を「回避」すると、慢性化しやすくなり注意を要します。
対策の基本は人前を回避せず慣らす「脱感作」人により抗うつ薬SSRIが有効なことがあります。
もくじ
(1)はじめに:人前で話せない
心療内科・精神科の症状。今回は「人前で話せない」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
特に社会に出ていきますと、さまざまな場面で「人前で話す」ことが求められます。
その際に、どうしても緊張などで「人前で話せない」場合があり、社会生活に大きな影響が出ます。
話せない背景は何か、そしてどう対策をしていくか。
今回は「人前で話せない」について見ていきます。
(2)人前で話せない要因
人前で話せない要素、まず1つ目はいわゆる「技術的な要因」です。
もう一つが「精神的な要因」不安障害などのことになります。
(3)「人前で話せない」技術的要因
まずは「技術的要因」を見ていきます。
<主な技術的な要因>
①経験不足
経験が少ないからなかなか一歩を踏み出しにくいという場合。
②自信不足
経験の少なさも背景に、なかなか自信を持ちにくい状態。
③技術不足
経験とも関連しての会話関連の「技術が不足」している場合。
④準備不足
準備の不足から不安が強まるなどして話しにくくなる場合。
ただし、これらの技術的要因の大半は、経験でカバーできる面があります。
<具体的な経験でのカバー>
まずは経験を重ねることでだんだんある種の自信がついてきます。
そして、経験を積み重ね、試行錯誤で徐々に技術も身についてきます。
そして発表までの準備を繰り返しやれば準備の段取りにも慣れ、普段からスムーズに準備できるようになります。
ただし、あくまで経験が必要なので、経験を回避すると改善が見込みにくくなる事に注意です。
(4)「人前で話せない」精神的な要因
主なこの背景は、「社会不安障害」になります。
<社会不安障害とは>
社会不安障害は、人前の発表などの対人場面で「強い不安」が長い期間続く状態です。
「他者からの否定への不安」が影響することが多いとされます。
そして、この結果、しばしば対人的な場面を「回避」することが出てきます。
<社会不安障害の背景3つ>
①素因
遺伝子の影響、脳の性質・敏感さ・性格の傾向など、生来の要素も影響します。
②経験
幼少期からの経験の積み重ねや自己肯定感の強さの影響、もしくは特定の嫌な出来事の影響が生じえます。
③セロトニンの不足
社会不安障害は、うつ病と同様「脳のセロトニン不足」が影響するとされます。
<素因と話しにくさ>
確かにもとの性格が社交的か内向的かとで話しやすさが変わる面はあります。
あとは敏感さ、特に他の人からの評価への敏感さは強く影響します。
そして困難時に向き合う傾向か回避する傾向か。これも一歩踏み込み「話す」かに影響します。
ただし、これら素因の中で、練習でカバーできる部分はあると思われます。
<自己肯定感と話しにくさ>
自己肯定感が低いと、リスクを取る「話す」という行動が不安からとりづらい面があります。。特に「他者軸」他の人の評価の影響が強いと、否定を恐れ一歩踏み出しにくくなります。
不安だけで自己否定的になる人もいれば、実際「否定された」ことが影響する場合もあります。
<セロトニンと話しにくさ>
この「社会不安障害」、うつ病同様、セロトニン不足の影響が指摘されます。
そのため、うつ病と合併・移行するということも少なからずあります。
特に「ある時期からの不安」「落ち込み等合併」の場合には想定されます。
<社会不安障害の対策>
まず基本としては不安に慣らすいわゆる「脱感作」です。
その上で自己肯定感や、技術面のフォローを並行していきます。
人によっては、抗うつ薬SSRIが有効な場合があります。
①脱感作
脱感作は、人前に出るような緊張する場面を回避せず「慣らす」方法です。
初めは強く緊張しますが、うまくいけばその後慣れてきます。
その際リラックス法や体調面の管理を並行するとうまくいきやすくなります。
②自己肯定
過去よりも「これから」どうしたいかを明確化する事がまず大事です。
その上で、より地道には「小さい成功体験」を重ねると徐々に改善が見込めます。
そして、どうしても対人的な「否定されることが不安」というところが大きなウエートを占めることあります。
ただ、ここで一歩大事なところは、挑戦には失敗はつきもの。その中で失敗を笑うような知人というのは、果たして友人でしょうかということ。
これは大事なことだと思います。
③技術面
「経験するまではみんな未熟」、なので、経験すれば技術はいずれついてきます。
その中で、マニュアルや他の人の体験など、参考にできる事は生かすことが望まれます。
そのうえで、初期は失敗を予め織り込み、中長期的な達成を目指すのがコツです。
④抗うつ薬SSRI
人によっては抗うつ薬SSRIが有効な場合があります。
確かに効果や副作用に関して相性があり、合わない人もいます。
ただもし有効なら、「脱感作」と併用して相乗効果を見込みます。
「不安の症状が非常に強い時」「うつ病と症状・経過が似る時」「他のアプローチのみでは困難な時」、この3つが特にSSRI使用を考える場面です。
(5)まとめ
今回は「人前で話せない」について見てきました。
「人前で話せない」原因はさまざまです。
もし技術的な要因なら、ある種「場数を踏んで」改善を図ることを見込んでいきます。
一方で、精神面であった場合、これは主に「社会不安障害」を想定します。
「社会不安障害」背景は広く、素因・経験・脳の不調など、人によって背景が異なります。
対策の基本は、不安に慣らす「脱感作」。そこに抗うつ薬や自己肯定等他の取組みを組み合わせて改善を図っていきます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)