ヒステリー球(咽喉頭異常感症)
ストレス背景の「喉の違和感」
「ヒステリー球」は、ストレス等が関与する「喉のつまり」で、耳鼻科では「咽喉頭異常感症」といいます。
時に喉の病変など、「器質的」なものが隠れていることがあるため、その除外がまずは大事です。
器質因がない時は「ヒステリー球」の診断で、ストレス面の対策をしつつ、必要時薬を検討します。
もくじ
(1)はじめに:ストレスでの喉の違和感「ヒステリー球」
心療内科・精神科の症状。今回は「ヒステリー球」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
うつ病などの治療の中で、「のどのつまり」の症状が気になるという相談をよく受けます。
また、内科・耳鼻科で「のどのつまり」を相談したが異常がなくて、メンタルの科での受診を勧められた。そういったご相談もあります。
今回はストレスから起こる喉の違和感「ヒステリー球」について見ていきたいと思います。
(2)ヒステリー球とは
<ヒステリー球とは>
ヒステリー球は、「喉の詰まりが実感されるんだけども、内科的・耳鼻科的な異常はない」という状態。
そして社会生活に影響が出ている状態です。
これは精神科では、DSM-5では「身体表現性障害の中の感覚障害の一つ」と分類されます。一方、耳鼻科では、「咽喉頭異常感症」、のど(咽頭)や喉頭のところの異常な感覚と言われます。
<咽喉頭異常感症の2つの原因>
まずは「真性の咽喉頭異常感症」。これはいわゆるメンタルのもの「ヒステリー球」になります。
もう一方は、「症候性の咽喉頭異常感症」、これは何か身体の原因があるとの分類です。
<ヒステリー球の症状の例>
「喉に何か(ボール等)が詰まったような感覚」という方がいます。
あとは「飲み込みにくくて引っ掛かる感じ」という方。
人によっては「何か喉が腫れているような感じ」が出ます。
<ヒステリー球の想定されるメカニズム>
基本的にはストレスで交感神経が優位になってバランスを崩す。
その結果、食道・胃の上にある食道の筋肉の「過剰な収縮」が一部のところで起こる。
その違和感が「のどの違和感」として自覚されるというものになります。
(3)ヒステリー球の鑑別疾患と診断
<ヒステリー球の代表的な精神科的な原因>
まずは「うつ病」に伴い自律神経の不調があって「ヒステリー球」が出ることがあります。
また、ストレス反応「適応障害」によって出てくることはあり得ます。
あとは、いわゆる「不安障害」不安と緊張が強くなり、自律神経のバランスを崩して出ることがあり得ます。
<ヒステリー球の代表的な内科・耳鼻科的な原因>
まずは「のどや甲状腺などの腫瘍」(実際に)固まりが実際あった結果違和感になっている可能性。
あとは「逆流性食道炎」いわゆる胸焼けの延長でこの違和感が出ている可能性。
もう1個は、「慢性副鼻腔炎」鼻の奥の副鼻腔の炎症が絡んでいることが時にあります。
<診断までの2段階>
①体の原因の除外
内科や耳鼻科というところを受診をし、必要な検査を受けて体の原因がないことを証明し、除外します。
②心療内科・精神科
体の原因がないという背景のもと、他の症状や背景・生活への影響を見ていきます。
そして背景の精神疾患も合わせて診断し、治療を図っていきます。
(4)ヒステリー球の治療
まず大原則として、このヒステリー球へのいわゆる「特効薬」はありません。
その中で、ヒステリー球はストレスにより起きているため、現実的な治療としては大きく2つです。
一つが「ストレス対策」、もう一つがいわゆる「薬物療法」になります。
①ストレス対策
<基本的な考え方>
強すぎるストレスを背景にこのヒステリー球が出ていますので、背景のストレスを減らすというところになります。
<具体的な方法>
1つ目は「環境調整」環境によるストレスが大きい場合、その環境を調整してストレスを減らします。
2つ目が「ストレスマネジメント」ストレス時にどういう風に対策をするかを色々調整していく話。
3つ目は「認知行動療法」考えや行動にくせがあった場合は、そこを調整します。
②薬物療法
候補は様々ですが、基本的にヒステリー球は「緊張」が背景の中、薬で「緊張を和らげて」いきます。
候補の薬を見ていくと、まずは漢方薬、これ「半夏厚朴湯」というのは有名です。つづいて「タンドスピロン」という依存がない不安を取る薬。続いてが「抗不安薬」、最後にあるのが、いわゆる「抗うつ薬」になります。
1)漢方薬
これは主に色々ある中、「半夏厚朴湯」という漢方が喉の詰まりに一番使います。
不安や緊張を和らげて結果、ヒステリー球の改善も図っていきます。
安全で副作用の心配もない一方、効果は遅くて弱めなのが弱点です。
2)タンドスピロン
これは、依存がない「弱めの抗不安薬」になります。
緊張を和らげて効果を見込みますが、漢方薬よりは効果が強く、抗不安薬などより比較的安全でもあります。
一方で、漢方と比べたら眠気が出る、また抗不安薬などと比べると効果は弱い所が弱点です。
3)抗不安薬
これはベンゾジアゼピン系の薬で即効性があり、比較的効果は強いものです。
依存リスクを踏まえ、効果が長い「超長時間型」、ロフラゼプ酸エチルなどを主に使います。
ただあくまで対症療法に過ぎず、かつ「超長時間型」でも依存や眠気には注意が必要になってきます。
4)抗うつ薬
SSRIなどの抗うつ薬を、うつ病や不安障害に対して続けて使い、時間差で効果を見込みます。
背景にうつ病や不安障害がある場合は第1選択になります。
一方、初期のお腹の副作用や、中止した時の離脱症状等には注意が必要です。
(5)まとめ
今回は心療内科・精神科の症状「ヒステリー球」について見てきました。
この「ヒステリー球」は体の原因がなく、ストレスが影響する「のどのつまり感」です。食道の動きの不調の関与が言われます。
まずは、内科・耳鼻科で体の原因がないことを確認した上で心療内科を受診し、背景の不調も含めて診断をします。
ヒステリー球に対しては、いわゆる「特効薬」ありません。背景のストレス対策をまず取りながら、いくつかある「緊張を和らげる薬」の相性を見ていきます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)