言い過ぎてしまう

「一歩引く」が対策の基本

「言い過ぎてしまう」ことは、社会的、対人的に悪影響になります。躁うつ病等で起こります。

 

背景の精神疾患の治療をしつつ、言う前に「一歩引く」反復練習が大事です。

 

動画:言い過ぎてしまう

もくじ

 
  1. (1)はじめに:言い過ぎてしまう
  2. (2)言い過ぎの背景と影響
  3. (3)言い過ぎにつながる精神疾患
  4. (4)言い過ぎへの対策
  5. (5)まとめ
  6.  

(1)はじめに:言い過ぎてしまう

心療内科・精神科の症状。今回は「言いすぎてしまう」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

「つい余計な一言を言い過ぎてしまう」というご相談を受けることがあります。

無意識の「くせ」などのこともある一方で、何らかの精神疾患が背景にある場合も少なくありません。

今回は「言い過ぎてしまう」について、全般的に見ていきたいと思います。

(2)言い過ぎの背景と影響

「言い過ぎるとどんな影響がありますか?」というご質問があります。

「対人的・社会的に影響が出てきます」というふうにお答えします。

<言い過ぎることの影響>

まずは言い過ぎることで相手を不快にして、その関係が悪化してしまいます。

その積み重ねで評判が悪化し、組織や集団での評価でが悪化してしまいます。

場合によっては、実際の対人的・社会的なトラブルに発展することもあり得ます。

一方、「はっきり言うことで、特に苦情は受けません」というご質問もあります。

これは「言わないことと納得していることは違います」とお答えします。

<反論はされなくても>

言われた相手は多くは報復を恐れ、直接は反論を言わないことが多いです。

しかし、怒りや不満が必ず残り、それが印象・風評につながってきます。

結果気づくと、周囲からの様々な悪評が確立してしまうリスクがあります。

この中で、「なぜ言い過ぎてしまうんですか?」というご質問があります。

これは人によりさまざまな原因があります。

<言い過ぎる原因の例>

1つ目はいわゆる「言わないと気がすまない」怒りが背景の例です。

人によっては「つい、悪気がないけど言ってしまう」という方もいます。

もう一つはご自身なりの「こだわり」で言いすぎる場合。

あとは、相手への「マウンティング」で言いすぎる人もいます。

この中で背景に精神疾患が隠れていることも少なくありません。

(3)言い過ぎにつながる精神疾患

言い過ぎにつながる精神疾患の例です。

まずはいわゆる「躁うつ病」、躁状態に伴って言うという場合があります。

次は「発達障害」。これはADHD・ASD、両方が含まれます。

もう一つは「パーソナリティ障害」。これは「境界性パーソナリティ障害」や「自己愛性パーソナリティ障害」が該当します。

①躁うつ病

躁うつ病では、躁状態の時に言い過ぎてしまうということがあります。

これは躁状態特有の誇大性(自分が大きくなる感覚)・衝動性・多弁が複合しています。

これは治療で改善が見込めるので、躁うつ病が疑わしい場合は、早期受診をお勧めします。

②ADHD

ADHDでは、いわゆる「衝動性」から思ったことを「つい」言ってしまいます。

また、「怒り」への敏感さ・怒りの衝動から言いすぎる事があります。

ここは薬で改善する余地が一部あるため、問題が大きい場合は相談をご検討ください。

③ASD(自閉症スペクトラム)

ASDでは「こだわり」、一種の「自分ルール」を押し付け、言いすぎる事があります。

あとは「社会性」相手の感情などを読まず発言し、「言い過ぎ」ととられることがあります。

対策は、特性を知った上で、自分の行動を「行動分析」する事と思われます。

④境界性パーソナリティ障害

これはいわゆる「感情調節困難」、ストレス時に感情制御が難しく情動不安定になります。

その結果、感情がおさまらず「言ってしまう」ということが出てきます。

対策は「一歩引く」ですが困難あり、その場を離れる等の対処技術の獲得が大事です。

⑤自己愛性パーソナリティ障害

これは「自分が相手より上」という認識から言いすぎる事があります。

そして「傷つけられた」と感じた時に、強い怒りから言い過ぎる事もあります。

対策の土台は、自分と相手が対等だという感覚を持つことになります。

(4)言い過ぎへの対策

原因に合った対策を取っていきます。

対策の例は、まずは「精神疾患の治療」、次は「一歩引くという練習」、そして「行動分析」、最後に「アサーション」になります。

①精神疾患の治療

躁うつ病の場合は、治療で改善を見込めるため、早期受診が大事になります。

ADHDでも衝動には治療薬で効果を見込むため、問題時は、早めの相談が時に有効です。

パーソナリティ障害では、不安定時の頓服薬の活用が時に有効です。

②「衝動性」に一歩引く

「つい言ってしまう」場合は、言う前に一歩引く練習を繰り返すのが対策です。

一呼吸おき分析し、言うべきことだけを選んで言うのが大事です。

これは実際行う難しさがあるので、実際場面での反復の「実践練習」が大事です。

③「怒り」に一歩引く

怒りから気が済まず言いすぎてしまうことがあります。

対策は「言い過ぎる」衝動的な行動をまず抑え、次に感情を抑える2段階の練習です。

土台は、まず「その場を離れる」、強い場合は「頓服薬を使う」の2つです。

④行動分析

会話も含めた「自分の行動」の、相手や場への影響を、理論的に分析します。

「相手がどう思うか」も同様に、経験や観察結果、文脈などから推測します。

そして、推測を踏まえ「相手にプラスになる発言」のみを選んで言う事にします。

⑤アサーション

ここでは言い過ぎを自覚して主張の強さを「抑える」アサーションになります。

重要なのは「自分の言う強さがどれぐらいか」観察し、多すぎれば減らすことです。

一番の土台は、相手を見下さない「リスペクト」です。

(5)まとめ

今回は心療内科・精神科の症状「言い過ぎてしまう」について見てきました。

この「言い過ぎる」ことは、たとえ一見反論されなくても、長期的に相手や社会からの評価を落とすことにつながります。

時に躁うつ病・発達障害・パーソナリティ障害が背景にあり、それにより対策が変わります。

対策は、あれば「精神疾患の治療」をまず行いつつ「一歩引く習慣」を身につける。

その上で自分の発言を「行動分析」しつつ、自分の言い方を観察し、主張を穏やかにすることが大事です。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)