嫌なことを思い出す

巻き込まれての悪循環に注意

「嫌なことを思い出す」背景は様々ですが、特に「巻き込まれる」と危険です。

 

背景の治療と心理的安全生の確保を土台に、思い出した事と距離を取ります。

 

動画:嫌なことを思い出す

もくじ

 
  1. (1)はじめに:嫌なことを思い出す
  2. (2)「嫌なことを思い出す」とは?
  3. (3)「嫌なことを思い出す」精神疾患
  4. (4)「嫌なことを思い出す」影響と悪化リスク
  5. (5)「嫌なことを思い出す」時の対策
  6. (6)まとめ
  7.  

(1)はじめに:嫌なことを思い出す

心療内科・精神科の症状。今回は「嫌なことを思い出す」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

「嫌なことを思い出す」ということで、ご相談を受けることが多くあります。

その内容は、「嫌な考え」が頭に浮かぶ場合、「嫌な出来事」が鮮明に浮かぶ場合等あります。

そして背景となる精神疾患もさまざまあります。

今回は、この「嫌なことを思い出す」について見ていきます。

(2)「嫌なことを思い出す」とは?

思い出し方は2つあります。まず1つ目は「侵入思考」、そして、もう一つが「フラッシュバック」と言われるものです。

<侵入思考>

侵入思考は、嫌な考えやイメージが侵入的に考えとして頭に浮かぶ状態です。

そして、しばしば巻き込まれてうつ症状などが悪化することがあります。

そして、これは繰り返し思い出されて影響される面があります。

<フラッシュバック>

これは、過去の嫌な出来事を鮮明な形である種「再体験」するものになります。

これもしばしば巻き込まれて情動不安定などになります。

そしてこれも一回じゃなくて繰り返し思い出されて影響されます。

<この2つの共通点>

この侵入思考とフラッシュバックは、形式は違いますが、共通点は多くあります。

まずはこの嫌なものが「侵入的に」意図しない形で、急に頭に浮かぶことです。

また、しばしば巻き込まれて不安定になるというところが2つ目です。

そして一回ではなく繰り返し思い出されて影響されます。

(3)「嫌なことを思い出す」精神疾患

これは2つのタイプで異なる原因があります。

①侵入思考

主な原因、まず1つ目は「うつ病」、2つ目が「強迫性障害」、3つ目が「不安障害」です。

1)うつ病

うつ病は、落ち込みなどが目立つセロトニンが不足するなどの「脳の不調」です。

その中で「否定的思考」自分を否定する考えが、ある種「侵入的に」時に入ってきます。

そしてうつ病だとよく「反芻思考」繰り返し考え悪循環になる事があります。

2)強迫性障害

強迫性障害は、「強迫観念」と「確認行為」の2つが特徴となる脳の不調です。

強迫観念は、しばしば否定的なことが頭に浮かぶ「侵入思考」の一種です。

そして、それが反復し「ばかげている」とわかっても、巻き込まれて囚われてしまいます。

3)不安障害

これは強い不安や緊張がある場合、嫌なことをより鮮明に覚えやすくなってしまいます。

そして、さらに普段から不安緊張が続くため、逆に思い出しやすくなります。

そして、実際にはそういう場面を「回避」し、一見安定しますが、長期的には悪影響が目立ちます。

②フラッシュバック

主な原因、まずは「PTSD」、2つ目が「急性ストレス反応」、3つ目が「自閉症スペクトラム」です。

1)PTSD

これは、もとは戦争で言われた用語で、戦争など非常に強いショックの後に発生します。

時間差で、その過去のことが鮮明に。繰り返し思い出されるというものになります。

ただ、実際の臨床では、「背景に自閉症スペクトラムがあって、それに適応障害的なストレスが重なった」ケースの場合も少なくありません。

2)急性ストレス反応

先ほどのPTSD同様の強烈なストレスの直後に起こる反応です。

強いストレスな出来事がフラッシュバック的に鮮明に思い出されます。

ただ、これは大半は一過性で、休養等により4週以内に自然軽快することが多いです。

3)自閉症スペクトラム(ASD)

ASDでは、昔の嫌なことを鮮明にを思い出すことはよく報告されます。

背景は、ASDの方の記憶法の特徴でやこだわりの影響も言われますが、実際は不明です。

そして、そこに「こだわり」が連動すると、とらわれて影響が強くなってしまいます。

(4)「嫌なことを思い出す」影響と悪化リスク

一番注意なのが「巻き込まれての悪循環」です。

<巻き込まれの悪循環>

まず、嫌なことを思い出します。すると感情的に巻き込まれてしまう。その結果非常に感情が不安定になってしまう。

そしてまた思い出すくなるという悪循環になる事があり、影響が強く出ます。

<嫌なことを思い出すことでの悪循環の影響>

①精神状態の悪化

特に巻き込まれると強いストレスになり、結果しばしば精神的に不安定になります。

②睡眠への影響

巻き込まれる中で特に「過覚醒」緊張が強くなり、不眠から悪循環になることがあります。

③人間関係への影響

巻き込まれの結果、回避・対人不信・自己否定につながり、対人的悪循環に至ることがあります。

<思い出すことで「悪化するリスク」>

①過去の出来事にこだわってしまう

そうすると思い出したことにもこだわり、悪循環に陥りやすくなります。

②精神不安定

状態が不安定になると、状態の制御が困難になり、悪循環のリスクが上がります。

③自己肯定感の低さ

思い出した反応を「自分で何とかできる」と思えないと、悪循環の危険が上がります。

(5)「嫌なことを思い出す」時の対策

基本的に大事なのが「思い出しても巻き込まれない」ことです。

先ほどの悪循環では、「思い出して、その後巻き込まれて不安定になって、もっと思い出す」。

対策はこの逆です。思い出すところは変えられない。ただ、その後巻き込まれる「かわりに」それを受け流す。

受け流すことによって不安定を防ぎ、結果思い出しにくくなる好循環を目指します。

ここで、質問として「そのためにどうすればいいですか」ということがあります。

これはなかなか難しいですが、一個一個積み重ねていきたいところ。

主な対策の方向を見ていきますと、まずは「原疾患の治療」、2つ目が「心理的安全性の確保」、3つ目が「思い出したことと距離を取る」ことになります。

はじめの2つをしっかりやった上で「思い出したことと距離を取る」です。

①原疾患の治療

うつ病など、「脳の不調」が、「思い出す事」の発生・悪化につながることがあります。

その場合脳の不調を改善すれば、この「思い出すこと」も改善が見込めます。と

これは特にうつ病・強迫性障害など薬が効くタイプの病気で重要です。

②心理的安全性の確保

特にストレスや切迫した状態が続くと、緊張が強まり「悪循環」につながりやすくなります。

対策は落ち着ける環境になるべく移る「環境調整」が可能なら第一選択です。

並行して、土台の「余力」を付けるストレス・疲労・生活リズム対策を行っていきます。

③思い出したことと距離を取る

侵入思考でもフラッシュバックでも、これはあくまである種の「脳の誤作動」です。

脳が勝手に思い出してしまってるもので、今の現実とは違うというところ。

これが一番大事ですので、思い出したら、これが現実とは違うことを客観的に確認する。

それによって受け流すことをしていきます。

その中で、「リラックス法」や「マインドフルネス」が助けになる事があります。

(6)まとめ

今回は心療内科・精神科の症状「嫌なことを思い出す」について見てきました。

「嫌なことを思い出す」時、「侵入思考」と「フラッシュバック」の2種類ありますが、実際には共通点は多いです。

そして、「思い出してから巻き込まれる」というところが一番注意です。

そうなってしまうと悪循環になり、影響が大きく出てくることになります。

対策はこの逆で「思い出しても巻き込まれない」ことです。

その為には、原疾患の治療を行い、心理的な安全性をなるべく確保していく。

それを土台として「思い出したことに対して距離を取っていく」ことが大事です。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)