空気を読めない

日本で特に困難あり

「空気を読めない」は、場や相手の求める事を察知し動くことの苦手さ。

 

主に自閉症スペクトラム(ASD)で、特に雑談の場面で目立ちます。

 

動画:空気を読めない

もくじ

 
  1. (1)はじめに:空気を読めない
  2. (2)「空気を読む」とは?
  3. (3)空気を読みにくい精神疾患
  4. (4)空気を読む・読めないの影響
  5. (5)日本の若者文化での影響
  6. (6)「空気を読めない」への対策
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに:空気を読めない

心療内科、精神科の症状。今回は「空気を読めない」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

特に日本の若者の文化では、「場の空気を読める」ことが非常に大事なスキルとされがちです。

一方で努力をしてもなかなか空気が読めず、その場で低く評価されたり、非常に苦悩する経験を持つ方も多いです。

今回は「空気を読めない」について見ていきたいと思います。

(2)「空気を読む」とは?

これは「その場で求められる言動をする」こと。

<空気を読むとは>

これはその場の雰囲気・相手の感情や態度を察知して、それに対し適切に対応していく能力です。

これは言語以外に「非言語的な手がかり」表情・声の調子等も含まれます。

特に協調性を重視する日本では、非常に強く求められる技術です。

そして、場によって重要な要素は変わってきます。

①ビジネスの交渉

ここでは枠組みや獲得目標が明確です。

この場合「空気を読む」は技術的には有利ですが、それ以上に誤解がない形で「明確に話し」「共有していく」ことが大事です。

そして1種の「失言」が打撃になる場合があります。

②雑談

これは逆に枠組みや獲得目標というのが非常に不明確です。

一方で、感情のやり取りなど非言語的な側面やプロセスを重視します。

そして、その場では、相手からの評価は、多くは「相手の感情」で決まります。

(3)空気を読みにくい精神疾患

これは主にASDとADHDです。

①ASD

ASDは気を読むのが苦手な発達障害です。

<ASDとは>

ASDは「社会性の障害」と「こだわり」の2つが特徴的な生来の発達障害です。

幼少期での診断が多いですが、成人後不適応などで判明することもあります。

苦手の中で、特に「雑談」での「空気を読む」ことが苦手との指摘があります。

<相手の立場に立てない→サリーとアン課題>

これは、サリーとアンという二人がいて、サリーが自分のバスケットにパンを入れました。

サリーがいなくなってから、もう一人のアンがパンを自分のところに入れてしまいました。

その後にサリーが戻ってきました。

この時サリーはどちらからパンを取り出すでしょうか

正解は「サリーのバック」になりますが、これASDの方だとよく間違えます。

相手の立場、「サリー側の立場」に立つことがきないからと解釈されます。

このように、「無意識に相手の視点をとれない」事が、ASDでの「空気を読めない」背景です。

<別府・野村の誤信念課題の研究>

先ほどの課題、ASDがあっても年齢を重ねるとできるようになることがあります。

しかしその「わかり方」に違いがあるという話です。

ASDない人は、正解時に「説明できない」人と「説明できる」人、両方いました。

一方ASDでは、正解の場合ほぼ「説明できた」結果でした。

<この研究からの推測>

ASDでは、無意識に「説明できないけど感じ取れる」ことは成長後も困難と推測されます。

一方で「理論でカバーする」事は成長後にできうるとも推測されます。

なので「空気を読む」件も、それが言語化・明確化されていればカバーの期待があります。

②ADHD

ADHDでは、「不注意と衝動が場を壊しうる」事に注意です。

<ADHDとは>

ADHDは不注意・多動・衝動性が特徴の生来の発達障害です。

これも幼少期の発見が多いですが、成人後不適応でわかる場合もあります。

特に社会的な場面でつい衝動から失言等が出る事が指摘されます。

<特性と失言等の関係>

不注意→「つい(だめと気づかず)」言ってしまう

多動→興味の移ろいで相手の関心とずれ、失言等につながります。

衝動→特に怒りなど感情が強まった時衝動から失言・問題言動が出る事があります。

(4)空気を読む・読めないの影響

特に雑談では大きな意味があります。

<対人交流の基本>

多くの人の特性として好きなことが欲しいし、それを奪われたくないということがあります。

その中で欲しい物等を貰えればうれしいし、それを奪われるとすごく嫌になります。

これは物に限らず、非言語的なやりとりでも同様です。

<空気を読み交流できると>

まずは無意識にこの「人は与えられると喜ぶ」「人に与えることができれば好かれる」ある種の「方程式」に無意識に気づけます。

そして普段から無意識にかつこまめに相手に何かを与える(物より感情面で)ことができ、普段から好かれやすくなります。

そして何かを要求する時、要求はどうしても「奪う」側面がある事を無意識に把握し、他のことでカバーして影響を最小化し、嫌われることを防ぎます。

<空気を読めない場合(ASD等)>

まず「相手に与えれば好かれる」相手視点の方程式に、無意識にはなかなか気づきません。

そして普段から無意識に「相手に何かを与えてポイントを取る」ことができず、普段から好印象を持たれにくいことになります。

そして何かを要求する時、要求の悪影響に気づかず「カバーしない」ことで影響が増加、嫌われることが多くなります。

ビジネス等なら他の要素で薄めることも可能ですが、雑談だと濃厚に影響が出ます。

(5)日本の若者文化での影響

これは、「日本」と「若者」の2つの要素が重なり、影響が増えます。

<日本①協調性を重視する文化>

日本では、「空気を読む」ことがある種の「思いやり」人格的評価と結びつきやすい面があります。

そして「言語化」「主張」が、しばしば「相手を侵害」する的なマイナスの要素と捉えられます。

そして、他者への「リスペクト」も意見より「空気を読む」ことで表現されやすく、空気が読めないと無礼と思われることがあります。

<日本②単一民族>

日本は基本的には「単一民族」のため、ある種文化的背景は共通しており、「言わず察する」ことが成立しやすい面があります。

欧米等は多民族文化で、文化・教育など背景が多様です。そこでは「察する」事は困難、明確化しないとすぐ衝突になります。

どうしても文化的な背景が違う時に、この「空気を読む・察する」ことは現実的には非常に困難です。

<若い世代と「空気」>

学生では仕事などの明確な役割がないため、人間関係の土台も一種「雑談」的なものになります。

そして中学・高校等、「所属する集団」がしばしば固定され、その集団での適応が求められます。

そして、若者文化の特徴として、広い意味で「内面」より「外見(空気を読む力も含め)」を重視する面が示唆されます。

(6)「空気を読めない」への対策

「弱点を知りカバーし、その上で強みを活かす」が要点です。

ASDですと、「無意識の障害」を「意識でカバーする」。

ADHDですと、「一歩引いて冷静に判断する」という反復練習です。

<ASDでの対策>

まずは「無意識に」空気を読んで適応することはかなり困難との現状を知ることです。

そして「意識的に」ルールを知り、他者に「与える」ことを意識するなど理詰めでカバーをしていきます。

そして、すぐの結果は厳しいですが、学習と実践と修正を繰り返し、徐々に精度を上げていきます。

<ADHDの対策>

まず、失敗の大半は「衝動」由来なことを知ることです。

そして、「純粋な衝動」は、それを感じた時まず一歩引き、「本当にすべきか」冷静に判断することを反復練習します。

そして土台の「アンガーマネジメント」獲得。怒り由来の衝動が特に危険のため、怒りをまず制御し、リスクを減らします。

<共通の対策:強みと環境調整>

できる範囲での改善は有効です。一方、どうしても限界は残ることがあります。

ここは、他の強みを生かすことで、弱点は残りますが「強み」で塗ってカバーすします。

そして、その「カバーができる環境」を選んでいくことが大事です。

(7)まとめ

今回は、心療内科・精神科の症状「空気を読めない」ということに関して見てきました。

「空気を読む」は、相手や場のことを察し、それに対応していく、日本で特に求められる能力です。

発達障害でこれが苦手なことは多いです。ASDは「非言語的なものを読み取ることの障害」。ADHDでは、衝動での失言等が主な背景です。

対策はその弱点を知った上で、まずそれをできるだけカバーすること。

そしてそうしても弱点は一部残りますが、それを長所でカバーすること。そして長所でカバーできる環境を選ぶことです。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)