ミスが多い
ADHDの不注意以外の可能性もある
「ミスが多い」状態は、ADHDの「不注意」に伴う症状として有名ですが、他の原因の事もあります。
うつ病・適応障害の症状で「集中力低下」があり、他のうつ症状と合併してミスが増えることがあります。
また、ASDの「マルチタスク」、境界知能・知的障害での「複雑な事」など苦手への不適応で出る事もあります。
もくじ
(1)はじめに:ミスが多い
心療内科・精神科の症状。今回は「ミスが多い」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
例えば、仕事が始まってから「ミスの多さ」にご自身で悩んで、もしくは上司に指摘されて「ADHD」じゃないかと思ったというご相談を受ける事が多いです。
確かにミスはADHDの「不注意」でよく出る場合が代表的ですが、一方で他の原因や背景でミスが出ることもあり、受診の際はその部分を見分けていくことになります。
今回は「ミスが多い」についてやっていきたいと思います。
(2)ADHDでのミス
まず、「ADHDでのミス」についてみていきます。
①ADHDでミスが目立つ例
「ADHDでミスが目立つ例」から見ていきます。
幼少期からうっかりしてのミスや忘れ物というのは目立っていた方。
ただ、ご家族のサポートなどもあって、トラブルなどには至らず、大学まで卒業した。
大学を卒業して仕事を始めてからミスが目立つようになり、上司に怒られてミスはしないよう注意するが、やはりうっかりミスが出てしまう。
その中でADHDの話題をネットで見て、自分に当てはまるところが他の部分も含めて多い。
そういうところで心療内科を受診して、問診と心理検査を受けてADHDの診断になった方がいます。
②ADHDとその中での「ミス」
<ADHDとは>
ADHDは不注意・多動・衝動が目立つ生まれながらの発達障害です。
幼少期・子供の頃に気付かれることも多いですが、大人になってから不適応などで気づかれるという方も少なくありません。
そして診断があった場合、人によっては「ADHD治療薬」が効果があって症状が改善する場合があります。
<ADHDのミスの例>
例えばメールでの「文章の誤字等のミス」や「宛先などのミス・誤配信」。特に後者ではトラブルが大きくなる場合があります。
あとは約束のいわゆる「ダブルブッキング」でトラブルになる場合があります。
または期限を忘れてしまい、いわゆる「納期遅れ」で取引先と問題になる事があります。
<ADHDでのミスの特徴>
まず、特に興味をあまり感じにくい単純な作業で出やすいところがあります。
そして、注意をしてもつい出てしまうのが特徴です。
そして、難しさやマルチタスクに関しては、影響はなくはないですが、必ずしも関連しません。
<ご質問:なぜ成人後分かるのか?>
これは幼少期から「特性はあったが隠れていた」ものが目立つようになったということです。
<大人・就職後ミスが目立つ背景>
まずは仕事において学生までと比べると、「ミスをしない」ことが取引先・職場の責任などもあり重要性が増すことがあります。
また、学生までは親や周囲のサポートでカバーできていたのが、仕事が始まってそれがなくなり、結果ミスが目立つこともあります。
あとは幼少期や学生時代に関しては「不注意だけ」だとなかなか目立ちにくいです。
ADHDやASDで気付かれる理由としては、ADHDは喧嘩やトラブルの「多動・衝動」というところで気づかれる場合が多く、ASDですと明らかな「孤立」や「人間関係的」なところで気づかれるところがあったりします。
それと比べると不注意だけだと、なかなか気づかれにくいのは背景としてはあります。
(3)他の原因でのミス
ADHD以外の原因でも実際ミスが多発する場合があります。
<ミスが多発し得る他の原因3つ>
1つ目は「うつ病・適応障害」、2つ目が「ASD(自閉症スペクトラム)」、3つ目が「境界知能や軽度の知的障害」になります。
①うつ病・適応障害
<ミスが増える例>
これまでは仕事を真面目にしてミスは少なかったんだけども、昇進してからストレスが増えてから次第に落ち込み、うつ症状が目立つようになってきた。
それに伴ってミスが明らかに目立つようになってきた。
<うつ病・適応障害>
うつ病・適応障害は、落ち込みなどのうつ症状が続くメンタル不調になります。
脳の不調が「うつ病」だとあって「適応障害」だとない、という違いはありますが、どちらもストレスにより悪化する等、共通点は多いです。
うつ病・適応障害の症状に「集中力の低下」があり、それでミスが増えることがあります。
<うつ病・適応障害でのミスの特徴>
まずは以前、うつ病や適応障害になる前はミスが目立っていないところ。
2つ目は、「他のうつ症状」落ち込みなどと非常に連動しやすいところ。
3つ目は、周りが「前と違う」ことで「違和感を感じやすい」ところが特徴です。
②ASD(自閉症スペクトラム)
<ミスが増える例>
幼少期子供の頃はこだわりが強く「変わっている」ところがある一方、むしろ几帳面でミスは少なかった。
しかし、仕事でさまざまなことを同時にやる「マルチタスク」を求められるになってから、急にミスが増加して集中ができなくなったという話があります。
<ASD(自閉症スペクトラム)>
ASDは、社会性の障害(対人面の苦手さ)とこだわり、この2つが目立つ生まれながらの発達障害です。
幼少期に分かることも多いですが、大人になってから不適応で目立つこともあります。
そして「こだわり」は「切り替えの苦手」でもあり、マルチタスクにおいてミスが増えやすいです。
<ASD(自閉症スペクトラム)でのミスの特徴>
これは、まさにマルチタスクになると急に目立つのが特徴です。
あと、人によっては課題が曖昧になってくると目立ちやすい方もいます。
また、急な変更やとっさの判断などの時にミスが目立つ場合もあります。
③境界知能・知的障害
<ミスが増える例>
以前から勉強は苦手だったが、真面目にやることで留年などは避けて卒業することができた。
そして、仕事でも単純作業、いわゆる新入社員時のシンプルな作業では、むしろミスは少なくて積極性が目立っていた。
しかし昇進してやることが複雑になったとたん、急にミスが増えるようになったということになります。
<境界知能・知的障害>
境界知能・知的障害は、全般的な脳の機能、思考力などの苦手になります。
基本的にはIQで定義され、IQ84から70が「境界知能」IQ70未満69以下が「知的障害」とされます。
そして、特に「知的障害」では幼少期に分かることが多いですが、軽度の知的障害でカバーを受けた時、もしくは「境界知能」ではなかなか学生まで気づかれず、大人になってから分かることもあります。
そして、複雑なことになるとなかなか理解が追いつかず、ミスが増えます。
<境界知能や知的障害でのミスの特徴>
まさにこれは「課題の難しさ」と非常に相関します。
いわゆる単純作業ではあまり目立たないですが、やることが複雑になってくると、「分からない」ためにミスが目立つようになります。
(4)まとめ
今回は心療内科・精神科の症状「ミスが多い」について見てきました。
ミスの多さは、主にADHDの不注意を由来して生じることが多いですが、他の原因で生じることもあります。
例えば、うつ病・適応障害では、うつ症状の一つとして集中力の低下が起こり、それによってミスが増える場合があります。
あとはASD(自閉症スペクトラム)ではマルチタスク、境界知能・知的障害では難しい課題。こういった苦手分野に触れた時にミスが目立つ場合もあります。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)