妄想
訂正困難な「確信」
「妄想」とは「訂正困難な、事実とは違う「確信」」。統合失調症で特徴的な症状です。
被害妄想など、統合失調症で有名ですが、うつ病、躁うつ病などでも時に出現します。
一過性でなければ早期に受診・診断・治療を受け、「行動化」防止を図ります。
もくじ
(1)はじめに:妄想
心療内科・精神科の症状。今回は「妄想」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
妄想は幻聴と並んで統合失調症の代表的な症状になります。
一方で、他の病気で妄想が出ることもありますし、妄想と似た症状が出る病気もいくつかあります。
今回はこの「妄想」について見ていきたいと思います。
(2)妄想とは?
「妄想とは何ですか」というご質問があります。
答えとしては、「訂正が難しい事実と違う確信」と答えます。
<妄想とは>
妄想とは「事実とは違う確信」で、他の人などからの「訂正が困難」なものになります。
これは統合失調症で多く出ますが、他の精神疾患でも出ることがあります。
特に自分や他者を巻き込む「行動化」に至る場合にリスクが高くなります。
<主な妄想の出方>
①妄想知覚
見たり聞いたりする情報から妄想を持ちます。。
②妄想着想
急に何かアイデアが出てきて、それを根拠なく確信してしまう妄想です。
<主な妄想の例>
①被害妄想
自分が攻撃や被害を受けていると思い込んで訂正が難しい場合です。
②関係妄想
関係ない出来事・人物などを自分と関連づけ、訂正しにくい状態です。
③誇大妄想・微小妄想
自分が過度に「大きい」か「小さい」と思い込みます。躁うつ病・うつ病で主に出ます。
<特に注意が必要なこと>
まず1つ目は「行動化」。行動に移ってしまうと、様々なリスクが高くなります。
次に「情動の不安定」およびその、自己治療としての「アルコール依存」のリスク。
もう一つが妄想が続くことに伴う「生活力の低下」や「社会的な孤立」です。
(3)妄想の原因
統合失調症以外で妄想が出ることもあります。
<妄想の原因の例>
まずは「統合失調症」、続いてが「一過性の妄想」、もう一つが「他の精神疾患によるもの」です。
①統合失調症での妄想
統合失調症は代表的な妄想の原因になります。
<統合失調症とは>
統合失調症と、悪化したときに幻聴や妄想・混乱などが目立つ脳の病気です。
主に脳のドーパミンの作用の過剰が原因とされます。
そして、主に抗精神病薬の使用で、脳と症状の安定を図ります。
<未治療期間と妄想>
統合失調症の「未治療期間」が長くなると、次第に妄想が強固・独特になる傾向があります。
すると治療でも残り、行動化や社会生活困難のリスクが増えてきます。
そのため早目の治療開始が、統合失調症の妄想にも望まれます。
②一過性の妄想
一過性でだけ妄想が出る方は、比較的いらっしゃいます。
<一過性の妄想>
例えば不眠、疲労、ストレス等が強い時、一過的に妄想が出ることがあります。
これは単発であれば、特に病的な意義は低いと思われます。
そして、休養などで体調を戻すと、一過性であれば消失します。
ただし、繰り返すときには注意が必要になります。
<境界性パーソナリティ障害>
繰り返す例として、境界性パーソナリティ障害があります。
これは「感情調節困難」ストレスに強く反応し感情が混乱しやすいパーソナリティ障害です。
この障害で、ストレス時に一過性の妄想が繰り返しやすい特徴があります。
繰り返しやすくかつ程度や巻き込みが強いのが特徴です。
③他の精神疾患
他の精神疾患で妄想が出ることもあります。
<他の精神疾患での妄想の例>
まずは「躁うつ病」、特に躁状態での「誇大妄想」が特徴的です。
続いてが「うつ病」。うつ症状に伴い微小妄想・罪業妄想・心気妄想などが時に出ます。
あとは「認知症」。物忘れの誤認を背景とした「物とられ妄想」等出ることがあります。
(4)妄想と似た状態
これは「妄想と似た偏った確信」で幾つかの原因があります。
<妄想と似た状態が起きる病気>
①強迫性障害
いわゆる「強迫観念」、不合理と分かっても、その強迫観念が頭から離れません。
②ASD(自閉症スペクトラム障害)
「こだわり」、外からは「独特」かつ修正が難しい点で妄想と類似します。
③摂食障害
「ボディーイメージの障害」体のイメージのずれが強まり、拒食の悪化要因になります。
(5)妄想の対策
「早目に対策をして、行動化を防ぐ」が大事です。
<妄想の対策>
まずは「体調の回復を図る」次は「受診・診断・治療」、そして最後は「一歩引き行動化を防ぐ」です。
①体調の回復
背景は「一過性で消えるものも多い」ことです。
まずは睡眠・休養などを図っていきます。
それで消えて反復しなければ、基本的に経過観察で問題はないと思われます。
ただし、続くなどがあれば、次の対策を取っていく必要があります。
<受診の検討を要する場合>
まずはこの妄想が体調を戻しても「続く」という場合。
あとは、妄想が一回は消えても「繰り返し何回も出てくる」場合。
あとは幻聴など「他の症状」を合併しているという場合です。
②受診・診断・治療
多くの場合で、早期治療が妄想でも有効になってきます。
<診断と治療の例>
統合失調症の診断であれば、抗精神病薬で改善が見込めます。
躁うつ病なら、気分安定薬を使って抗精神病薬を時に併用します。
うつ病であれば「抗うつ薬」を使い、時に抗精神病薬を併用します。
③一歩引いて行動化を防ぐ
妄想で怖いのは「行動化」になります。
<行動化の例>
まずは被害妄想に基づいて、相手に暴力をしてしまうという場合。
また、「誇大妄想」に伴っての「浪費」が出ることがあります。
あとは「罪業妄想」に伴っての自傷が出ることがあります。
このように確信が強まってしまうと、行動化のリスクが高くなってしまいます。
なので一歩引くことでリスクを下げることが対策になります。
<一歩引き行動化を防ぐ対策例>
まずは相手の視点など「別の視点で見る」という習慣。視点を相対化し、確信を弱めます。
次に「俯瞰して全体を見る(メタ認知)」自分の視点から一歩離れ確信を弱めます。
続いて、「体調面の回復」です。体調・余力を持ち、一歩引く助けとします。
もう一つは「原因への治療の継続」です。治療で症状が弱まり、確信も弱まります。
(6)まとめ
今回は症状「妄想」について見てきました。
妄想は「訂正が難しい、事実とは違う確信」。特に行動化を伴う場合は注意が必要です。
主に統合失調症で出る症状ですが、他の病気や体調不良時の一過性で出ることもあります。
対策はまずは体調を戻し、それでも続く時は、早めに受診・診断・治療を受けていくこと。
それでも残る妄想に対しては、なるべく「一歩引き」行動化の予防を図ります。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)