高齢者の物忘れ
一部「治療可能な」ものも
高齢者の物忘れで「アルツハイマー型認知症」が代表的ですが、似た別の原因の認知症もあります。
「うつ病」「せん妄」で認知症と一見似た状態になる事あり、その場合診断後治療の余地があります。
また、「慢性硬膜下血腫」や「正常圧水頭症」など「治療可能な認知症」があり、その除外は大事です。
もくじ
- (1)はじめに:高齢者の物忘れ
- (2)アルツハイマー型認知症
- (3)他のタイプの認知症
- (4)うつ病(仮性認知症)
- (5)せん妄
- (6)治療可能な認知症(Treatable Dementia)
- (7)まとめ
(1)はじめに:高齢者の物忘れ
心療内科・精神科の症状。今回は「高齢者の方の物忘れ」について見ていきたいと思います。よろしくお願いします。
高齢者の方の物忘れといえば、多くの方がいわゆる「認知症」としての「アルツハイマー型認知症」を思い浮かべると思います。
一方で、そのほかにも似て非なる認知症の原因はいろいろありまして、中には診断がつけば治療につながるものもあります。
今回は、この「高齢者の物忘れ」について見ていきたいと思います。
(2)アルツハイマー型認知症
まず、1つ目は「アルツハイマー型認知症」になります。これは一般的ないわゆる認知症の病気になります。
<アルツハイマー型認知症とは>
これは高齢者の認知症の主な原因になります。
脳の細胞、特に海馬という記憶を司る神経細胞が徐々に減り、物忘れや、様々な生活上の障害が徐々に進んでいく病気です。
<アルツハイマー型認知症の3つの症状>
①物忘れ
約束を忘れる、物を置いた場所を忘れる等
②行動や認知の障害
遂行機能障害(物事の実行の苦手)、見当識障害(時間や場所がわからなくなる)、失行(日常動作ができなくなる)等
③周辺症状
精神的な症状です。ものとられ妄想、情動不安定・興奮・徘徊など
<アルツハイマー型認知症の治療>
薬物療法の効果はあくまで限定的で進行を遅らせるにとどまり、基本的には症状は徐々に進行していきます。
介護保険制度を活用するなどしてサポートを続けて、主には周辺症状などを防いでいきます。
予後の改善のポイントとしては、いかにこの周辺症状、精神的な症状を予防してかつ出てしまっても改善を図るかになります。
(3)他のタイプの認知症
アルツハイマー型以外の原因での認知症もあります。代表的なものは、まずは「脳血管性認知症」、2つ目が「レビー小体型認知症」、3つ目が「前頭側頭型認知症」になります。
<脳血管性認知症>
脳血管性認知症は、脳血管の障害から脳細胞が死滅してしまうことよって物忘れが生じるものになります。
大きい血管による大きな障害もありますし、あとは小さい血管が徐々にダメージを受けて徐々に進行する。よく脳梗塞でラクナ梗塞と言いますけど、そういったタイプのものもあります。
基本的には、アルツハイマー型認知症と合併することは、原因が違うのであり得ます。
<レビー小体型認知症>
レビー小体型認知症、はパーキンソン病という神経の病気と似たメカニズムでの認知症になります。
この場合、物忘れのほかにパーキンソン的な症状、「幻視」といって実際ないものが見える症状、または「パーキンソン症状」転倒してしまったり、いわゆるパーキンソン歩行になったりするなどが目立つことがあります。
治療としては、アルツハイマー型の薬と似ていますが、副作用が出やすいなど一部違いがあるので、見分けることが大事です。
<前頭側頭型認知症>
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉の2つが主に萎縮するタイプの認知症です。
物忘れは比較的目立たず、むしろ行動面の変化とトラブルが目立ちます。
基本的にこのタイプの認知症には改善薬はありません。主に精神面やトラブルに対しての対策をすることになります。
(4)うつ病(仮性認知症)
続いてうつ病、いわゆる仮性認知症になります。「うつ病で認知症と似た症状が出る」というのがポイントです。
<うつ病(仮性認知症)>
高齢者もうつ病になることがありますが、「高齢者でのうつ病」ですと体の症状や、意欲が出低下・集中困難などの症状が目立ちます。
その結果、物忘れや、無気力など、一見認知症と似た症状が出ることが少なからずあります。
そして、ご自身でも物忘れを自覚しますし、周りの人から見てもまるで認知症のように見えるということがあります。
<うつ病(仮性認知症)と認知症の違い>
うつ病の方だと、不安や落ち込みが目立つ一方、認知症だと目立ちません。
また、物忘れの自覚もうつ病では目立ちますが、認知症では目立ちません。
また、出てくる妄想も、うつ病だと「心気妄想」など自分の心配が主ですが、認知症だと「ものとられ妄想」など、外に向かう妄想になりやすいです。
<仮性認知症(うつ病)の治療>
仮性認知症はうつ病の一つですので、うつ病の治療によって改善を見込みます。
一方で、これは治癒しないで持続すると、そこから認知症に移行してしまうリスクが指摘されています。
なので早期発見・早期治療が非常に大事になってきます。
(5)せん妄
続いてが「せん妄」です。これは認知症と一見似た「変化する意識の障害」になります。
<せん妄>
せん妄は、時間による変動する意識や見当識などの障害になります。
さまざまな身体の不調などが原因となり得ます。
タイプが幾つかあって、その中でも「低活動性のせん妄」というあまり動きが大きくないタイプですと、認知症と似た症状が出ることが多いです。
<せん妄の原因の例>
まずは全身状態、体の状態が悪くなると出現しやすくなります。
あと、意外と盲点なのが、高齢の方(特に状態悪い方)が脱水症状になるとせん妄が出やすいです。
もう一つが「薬の副作用」、特に薬の種類が多く「相互作用」があると出やすいとされます。
<せん妄と認知症の違い>
せん妄の方ですと症状が時間等で変化しますが、認知症症状が一定で持続します。
そして出方として、せん妄は比較的急に出ますが、認知症は徐々にゆっくり出現します。
そして、意識障害があるのがせん妄でして、認知症だと意識障害はありません。
<せん妄の治療>
基本的には原因をもし特定して対策を取ることができれば改善することが多いです。
そして、環境や生活リズムの改善を図ることで改善する場合も少なからずあります。
一方で原因が分かっても時に対策が困難な時があり、その場合はせん妄を抑える薬を慎重に検討します。
(6)治療可能な認知症(Treatable Dementia)
続いてが他の治療可能な原因、いわゆる”Treatable Dementia”になります。診断がつけば改善するものが幾つかあります。
<代表的な例>
①内科疾患による物忘れ
甲状腺機能の不調、軽度のてんかん、電解質異常など
②慢性硬膜下血腫
これは脳の少し外「硬膜下」のじわじわ出るタイプの出血です。それが脳を圧迫して認知症的な症状が出る場合があります。これは画像などで判明しまして、手術の治療をします。
③正常圧水頭症
これは脳の不調の一つで、歩きにくくなったり、失禁なども出ることがあります。これもCTなど画像検査で判明し、「シャント術」という「一種の手術」などを行い、多くの場合改善を図ることが可能なものです。
(7)まとめ
今回は、「高齢者の物忘れ」について見てきました。
高齢者の物忘れはアルツハイマー型認知症が有名ですけれども、他の似て非なる認知症もいくつかあります。
また、「うつ病」や「せん妄」で認知症と似た症状になることがあり、これらに関しては早めの診断と治療によって改善する余地があります。
そのほか、「慢性硬膜下血腫」や「正常圧水頭症」など、見つかれば治療できるタイプの状態もあるため、必要時はには必要な検査をして、そうした「治療できるもの」は除外していくことが大事になってきます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)