離人感

「自分が自分でない」感覚

離人感は、「自分が自分でない」感覚。ストレス下で経験する人も多いですが、大半は一過性で改善します。

 

但し続く・繰り返す場合は、解離性障害の1つ「離人症」の可能性があるため、注意が必要です。

 

まずは背景のストレスを減らし一過性で改善するか観察、続くなら「離人症」の可能性踏まえ対応を検討します。

 

動画:離人感

もくじ

 
  1. (1)はじめに:「自分が自分でないような」離人感
  2. (2)離人感とは
  3. (3)「離人感」と「離人症」
  4. (4)もし離人感が出たら
  5. (5)まとめ
  6.  

(1)はじめに:「自分が自分でないような」離人感

心療内科・精神科の症状、今回は「離人感」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

うつ病などの治療を続ける中で、「自分が自分でない感覚があった。離人症ではないですか?」などのお話を聞くことがあります。

ただ、一方で一回あったんだけど、その後は繰り返さないという方も多くいらっしゃいます。

今回はこの症状「離人感」についてみていきたいと思います。

(2)離人感とは

まずは「離人感」の定義ですが、離人感とは「自分が自分でない感覚」になります。

他の離人感の出方の例を見ていきますと、「何か夢の中にいるようだ」という方もいますし、「自分で自分を外から見ている感覚だ」という方もいます。何か「物事に現実感を感じられない」との方もいます。

こういうふうに聞くと、「前にそうなったことがあります」というふうにおっしゃる方もいらっしゃいます。

確かに一回だけ出る方は結構多いということがあります。

この「離人感」について少し見ていきますと、この「一過性(一回だけ出る等)」の方は実際20%から論文によっては50%、かなり多くの方が体験するとされます。

多くは、ストレスや疲労などが重なったときに体験されることが多い。

そして、一過性であれば介入は必ずしも要しません。

(3)「離人感」と「離人症」

今度は、「離人感」と「離人症」というところを見ていきます。

「この「離人感」と「離人症」、似た言葉なので同じですよね」というご質問を受けます。

これは似ているんですけど、全く同じではないという話をします。

<離人症(正式には「離人感・現実感消失症」)の定義>

離人症は、「離人感」が反復したり、持続したりして、社会生活に強く影響するものと定義されます。

<「離人感(一過性)」と、「離人症」の違い>

まず離人感は「一過性」時間がたって改善します。一方、「離人症」は「持続」続いたり、「反復」繰り返したりします。

なる方の率としては、「離人感(一過性)」は20%以上、一方、離人症に関しては約2%です。

そして、影響としては「離人感(一過性)」であれば、そんなに生活への影響は少ないけれども、離人症の影響は強い。

そのため、一過性であれば対策はそんなに要らないけれども、離人症の場合はしっかりした対策が必要になります。

<離人感(一過性)の背景>

大きく言うと「強めのストレス反応」というところがあります。

ストレス時「落ち込み」など様々な反応がでる中で、「離人感」も反応の一つとしてあります。

これはストレスや疲れなどが溜まったときに出やすいです。

なのである意味「強いストレスがかかっているサイン」とも取れます。

<「離人症」の背景>

これはいわゆる「解離性障害」、ストレスによって強い反応が出るものの一つです。

背景として「ストレスに強く反応しやすい」という状態を示唆します。

いわゆる以前のストレス体験(トラウマ的なもの)が背景の事もありますが、他の要素が絡んでいることもあります。「ストレスへの対処が苦手」または「ストレスへの反応が敏感」だと出やすいとされます。

<離人症が起こりやすい背景>

まず、いわゆる「知的障害」や「境界知能」の方ですと、ストレスを言語化(して)処理することが苦手で離人症が出る事を臨床上経験します。

また、発達障害(ASD・ADHD)の方でも、同様に「ストレスに敏感な面」および「ストレスの言語化などが苦手」を背景に離人症が出やすいことが指摘されます。

もう一つは「パーソナリティ障害」。これはストレスへの敏感さが背景と想定されます。

(4)もし離人感が出たら

続いて「もし離人感が出たら」というところで見ていきます。

ここで大事なのが「離人感の多くは一過性の離人感」という点です。

<まずはストレスのサインとして>

なので一回出た時、まずは「ストレスのサインではないか」と考えていきます。

ストレスや疲労が強いと起こりやすい。また、もしうつや不安障害の治療中の場合、不調の時に出やすい面があります。

なので、ストレスを減らす対応をしながら、もしうつ病等の治療中であれば、その薬の調整などをして対応します。

一方で、反復・持続であれば、離人症を想定する必要があります。

<離人症を想定したらどうするか>

まず1つ目としては他の解離症状はないか、いわゆる健忘(忘れてしまうという症状)等がないかを見ていきます。

あとは「背景に何があるか」昔の経験・発達面・知的機能の面が絡む方もいます。あとは甲状腺などの「体の原因」が隠れていないかも適宜見ていきます。

3つ目としては、「社会生活の影響はどれぐらいあるか」。もし影響が強ければそれだけ強い対応が必要です。

<離人症の場合の対策>

現実的な話として、離人症では(うつ病→抗うつ薬のような)治療薬はありません。

ただ、「ストレスの強い反応」が背景ですので、まずは今の生活を「なるべく安心できる」ストレスが少ない状態に持っていくのが標準的な対策です。

そして、うつ病、パニック障害などが背景にある方は比較的多く、その場合、抗うつ薬などの治療が結果として、2次的に「解離・離人症」の改善にも役立ちます。

そしてこの中での「過去のストレスの扱い」は、基本的には慎重に考える必要あります。

中途半端な形で扱ってしまうと、逆に精神不安定になるリスクがあります。そのため基本的には「今の状態を安定させる」などの対策を優先します。

その中でどうしてもということであれば、「専門家による専門的な枠組み」が必須です。(当法人も含め、一般の心療内科・精神科では対応困難です)

(5)まとめ

今回は心療内科・精神科の症状「離人感」について見てきました。

この「離人感」は「自分が自分でない感覚」、強いストレス時などに多くの方が一過的には経験することがあります。

一方で繰り返したり続く時は、解離性障害の一つ「離人症」を想定します。これは、「ストレスへの敏感さ」、もしくは「対処の苦手さ」が背景のことが多いです。

もし離人感が出た時、現実的には多くは一過性のストレス反応のため、まずはストレスの対策を取って、一過性で終わるかを見ていきます。

その上で反復・持続がある場合は、「離人症」を想定し、解離性障害に準じて対策を取っていくということになろうかと思います。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)