お金を使いすぎる
特に躁状態には注意
「お金を使いすぎる」背景の中で、特に躁うつ病の「躁状態」は、金額や影響等から注意が必要です。
ADHDでも「衝動」や「依存」を由来として、お金を使いすぎる場合があり、対策が必要です。
また、うつ病・適応障害の「自己治療」で買い物依存などになる事あり、早期の対策が求められます。
もくじ
- (1)はじめに:お金を使いすぎる
- (2)「お金を使いすぎる」背景
- (3)「躁うつ病」でお金を使いすぎる時
- (4)ADHDで「お金を使い過ぎる」
- (5)買い物依存で「お金を使い過ぎる」
- (6)うつ病・適応障害で「お金を使いすぎる」
- (7)まとめ
(1)はじめに:お金を使いすぎる
心療内科・精神科の症状。今回は「お金を使いすぎる」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
「お金を使い過ぎる」とのご相談を受けることは少なくありません。
この中で「躁うつ病」の躁状態での「浪費」が精神医学的には有名ですが、他の理由もいくつかあります。
今回は、この「お金を使いすぎる」について見ていきます。
(2)「お金を使いすぎる」背景
「お金を使いすぎる」ことには、どんな背景があるでしょうか。代表例4つ見ていきます。
①躁うつ病
躁状態を伴うものが主です。
②ADHD
衝動に伴う浪費です。
③買い物依存
いわゆる依存に伴っての浪費です。
④うつ病・適応障害
つらさの自己治療としての浪費が出ることがあります。
(3)「躁うつ病」でお金を使いすぎる時
まさに「躁状態での浪費」に一番注意が必要です。
<躁うつ病とは>
躁うつ病は、落ち込み「うつ」とその逆の「躁」を周期的に繰り返す脳の不調です。
脳の不調が想定され、気分安定薬を治療で主に使います。
特に躁の時の浪費に注意が必要になります。
<躁状態と浪費>
躁の時は活動の増加と並び、金銭消費も大きくなることがあります。
うつや中間の状態に戻った時に、その浪費を後悔して落ち込むことが多いです。
時に数百-数千万円と巨額になる事もあり、生活等への影響は時に甚大です。
<躁状態の浪費の例>
まずは高いものを買ってしまうというところ。
あとは、人によっては投資やギャンブルをする場合があります。
もう一つが、周りの人への「高額な贈り物」の反復です。
<躁の浪費の背景>
まずは様々な欲求が躁状態に伴って増加することがあります。
もう一つが自信が過剰になり、一種の過信から浪費につながることがあります。
あとは自己制御の困難。消費への「衝動」を抑えにくく、浪費につながります。
<軽躁でも浪費には注意>
軽躁でも、額などは軽くなりますが、浪費自体は残ります。
そして、トラブル等は減る一方で、慢性的な浪費が続くことがあり得ます。
そして、躁の時よりは抑えにくいものの、治療なしでは抑えにくいのが現実です。
<うつでも浪費には注意>
うつだと基本消費は減りますが、つらさへの自己治療での浪費が時に生じます。
躁うつ病の場合、うつの状態はしばしば長期化するため、ここは注意が必要です。
そして「自己治療」ではアルコールなど他の依存を合併することもあります。
<躁うつ病の浪費の対策>
まずは「躁うつ病の治療をしっかりする」気分の波を抑えることが第1です。
もし躁なら、誘惑や刺激をなるべく減らし「頭を休ませる」ことが大事です。
それが難しい場合、いわゆる「限度額設定」などの「枠組み設定」を検討します。
(4)ADHDで「お金を使い過ぎる」
衝動性を背景にしての浪費のリスクがあります。
<ADHDとは>
ADHDは、不注意・多動・衝動性などが特徴の、生来の発達障害です。
幼少期での発見が多いですが、成人後に不適応などで分かることもあります。
その中で、衝動性を背景に「お金の使いすぎ」になるリスクがあります。
<リスク①衝動>
欲しいという「衝動」から浪費に繋がることがあります。
趣味などへのある種の「過集中」が時に影響します。
理屈で分かっていても、その場の「欲求や衝動」が上回ることが少なくありません。
<リスク②依存>
ADHDは衝動から依存に陥りやすいリスクがあります。
買い物・ギャンブル等金銭を要することに依存すると、浪費に繋がります。
浪費以外にも、影響の強い「アルコール等の依存」を時に合併のため注意を要します。
<ADHDの浪費の対策>
診断後なら、ADHD治療薬が衝動とその結果の浪費に有効な場合があります。
あとは「衝動に対して一歩引く」練習。これは衝動一般の他浪費にも効果を見込みます。
それでも難しければ、先程同様「限度額の設定」など、枠組みの設定を検討します。
(5)買い物依存で「お金を使い過ぎる」
この「買い物依存」で慢性的な浪費につながることがあります。
<買い物依存(症)>
「買い物依存」は、依存の中で買い物に対する一種の依存になってきます。
分かっていてもやめられずに「慢性的な浪費」に繋がってきます。
ネットショップ普及後、歯止めが効きにくいケースが問題視されています。
<買い物依存症の買い物のきっかけ>
いくつか人によって背景があります。
まずは、うつや適応障害などの「自己治療」で始める方がいます。
あとはたまった「ストレスの発散」の一つという場合があります。
人により、純粋な「興味」や欲しい「衝動」がスタートの場合もあります。
最近では、いわゆる「承認欲求」で始まることもあります。
<依存になるまで>
はじめは、前述のような目的があっての買い物で始まります。
しかし買い物をした時、ある種の高揚感があります。
すると次第に「買う」行為自体への依存が目立ち、結果慢性化・習慣化していきます。
そして「やめたくてもやめられない」状態に至ります。
<買い物依存の対策>
もし背景にうつ病などがあれば、その背景の疾患の治療が最優先です。
その上で、買い物以外の「代替方法」模索、「枠組み作り」、「衝動対策」をします。
依存症へのグループ療法等の専門治療は、現状日本ではかなり限定的です。
(なお、当法人でも買い物依存への専門治療は行っていません)
(6)うつ病・適応障害で「お金を使いすぎる」
つらさの自己治療としての「浪費」に注意が必要です。
<うつ病・適応障害とは>
うつ病・適応障害は落ち込み(うつ状態)が続く不調です。
うつ病なら「脳の不調」、適応障害なら「ストレス反応」ですが、症状等共通点も多いです。
この中で、つらさへの「自己治療」として、浪費の危険性があります。
<うつと浪費>
本来「うつ」ですと、金銭消費自体は減る傾向があります。
ただしつらさへの「自己治療」で時に浪費が発生し、結果慢性化する事もあります。
なお「自己治療」では他の「依存」も出やすいことが指摘、注意が必要です。
<例:うつでの買い物依存>
うつが続いて「つらさ」からまず買い物をします。
すると、購入時に、一種のつらさの逆の高揚感を体験します。
結果、それを忘れられずに買い物を繰り返し、次第に頻度も増え高額化してきます。
そして慢性化・習慣化し、「やめたくてもやめられない」状態に至ります。
このうつ病での「自己治療」では、他の依存症にも注意が必要です。
<「別の依存」の例>
①アルコール依存
アルコールでも初めはつらさの自己治療からだんだん依存になることがあります。
②過食
一種の「食への依存」食事での発散と高揚感からの依存に注意が必要です。
③ギャンブル依存
ギャンブルでの高揚感からの依存。これは買い物同様、浪費にもつながります。
<うつでの浪費への対策>
まずはこの「うつ」自体への標準的な治療が大事です。
そして「自己治療」はストレス発散の一つなので、他の発散方法での「代替」を模索します。
それでも難しい場合は先程同様、限度額を設定するなど、枠組みでカバーを図ります。
(7)まとめ
今回は、心療内科・精神科の症状「お金を使いすぎる」について見てきました。
「お金を使い過ぎる」時、まず一番注意が必要なのは「躁状態」を伴う浪費です。
これは特に生活等への影響が大きいため、気付いたら早目の治療と対策が大事です。
ADHDでは、衝動と依存の双方から浪費につながるおそれがあります。
対策は、診断後は薬を使い、「衝動に対する一歩引く」練習を並行します。
そして、「うつ」への「自己治療」で買い物依存等に至ることがあります。
この場合は、まずはもとの疾患の標準的治療をしつつ代替方法を模索します。
それでも厳しい場合は「依存症治療」を模索することになろうかと思われます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)