若い人の物忘れ

うつ病・ADHDを第一に考える

若い人の物忘れで「若年性アルツハイマー」は注意が必要ですが、頻度自体はまれです。

 

まず注意が必要なのが、うつ病の集中困難による物忘れ。落ち込み等と連動して生じてきます。

 

生来なら「ADHDの不注意」由来を、ストレス後なら「解離性健忘」由来を念頭に置きます。

 

動画:若い人の物忘れ

もくじ

 
  1. (1)はじめに:若年の物忘れ
  2. (2)若年性アルツハイマーとその可能性
  3. (3)主な物忘れの原因
  4. (4)まとめ
  5.  

(1)はじめに:若年の物忘れ

心療内科、精神科の症状。今回は「若年の方の物忘れ」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

物忘れと言いますと、高齢の方の認知症がよくイメージされると思います。

一方で、若年の方でも「物忘れがある」「忘れてしまう」というご相談を受けることは少なくありません。

その中で、最近はいわゆる「若年性アルツハイマーでしょうか?」というご質問を聞くことが多くなってきました。

実際にそうなのでしょうか。

今回は「若年の方の物忘れ」について見ていきたいと思います。

(2)若年性アルツハイマーとその可能性

まず、1つ目「若年性アルツハイマー」というところについて見ていきます。

最近増えた質問で「若年性アルツハイマーでしょうか?」というものがあります。

少しここを見ていきます。

<アルツハイマー型認知症>

アルツハイマー型認知症は高齢者の認知症の主な原因になります。

「脳」の特に海馬の部分・記憶をつかさどる海馬の部分の神経細胞が徐々に減っていきます。

それにより物忘れやさまざまな生活の障害が徐々に進んでいくタイプの病気になります。

<若年性アルツハイマー>

若年性アルツハイマーは18歳から64歳までで発症するアルツハイマー型認知症になります。

基本的に年齢が上がるほど有病率が上がってくる。ただ、中には20代から30代の方も中にはいます。

治療法に関しては、高齢者の方と基本的には同様とされますが、症状の進行の早さが指摘されています。

<早期発見は大事だが…>

これは早期発見は確かに大事です。ただ、一方でなる方の比率というのは、多くないところがあります。

2017年から19年度の「日本医療研究開発機構の臨床研究開発事業の若年性認知症の調査」の調査によりますと、18歳から64歳の方においての若年性アルツハイマーの率としては10万人あたり約50人(0.05%)と言われます。

特に年代ごとに上がっていくことがありまして、参考としては40から44歳ですと、大体10万人あたりで8人(0.008%)です。30代までだともっと少ないということです。

なお、参考としてはうつ病の方の12カ月有病率(1年以内にうつ病になるという方の率)としては約2.2%です。比率としては(45才以下であれば)200分の1以下というところがあります。

比率というところを考えていきますと、まず第1には他の原因を考えるというところが現実的かと思います。

(3)主な物忘れの原因

細かくはいろいろな原因が確かにありますが、主な原因としてここでは3つ挙げていきます。

1つ目は、まず「うつ病」、2つ目が「ADHD」、3つ目がいわゆる「解離性健忘」になります。

①うつ病の物忘れ

<うつ病と物忘れの関係>

このうつ病では「集中困難」集中力が落ちるということを背景として、合併する形で「物忘れ」いわゆる記憶障害が出ることが多くあります。

他のうつ症状と連動する形で物忘れが出現して悪化もします。

これは、治療によって他のうつ症状と同様に改善を見込むものになります。ただ、この物忘れに関しては、ちょっと時間がかかる・時間差でよくなることも臨床的にはあります。

<うつ病の物忘れを考えるとき>

まず1つ目としては、他のうつの症状、落ち込みなどと連動する物忘れだと可能性が高くなってきます。

2つ目は、幼少期などは物忘れは目立たないと、子供の方からの特性じゃないというところがもう一つです。

あと、物忘れの性質としては「新しく覚えるということが特に苦手」前のことを忘れることより、新しいことを覚えるのが苦手という特徴は強いと言われます。

②ADHDでの物忘れ

<ADHDと物忘れ>

これはADHDの症状「不注意」「集中困難」などに由来する「物忘れ」になります。

これに関しては、幼少期・子供の頃から持続し、他の症状・多動や衝動と比べると大人になっても残りやすい特徴があります。

そして、ストレスがかかった時は、カバーが効かずこの物忘れが増えやすい面があります。

<ADHDの物忘れを考える時>

まず1つ目としては、幼少期・子供の頃から持続するタイプの物忘れ。

あとは多動であったり片付けが苦手など、他のADHD症状と合併した物忘れである場合。3つ目としては(ストレス下は例外ですが)基本的には悪化傾向が目立たない場合。

③解離性健忘での物忘れ

<解離性健忘とは>

解離性健忘は、強いストレスへの反応「解離性障害」の一つになります。

強いストレスがあった時、その関連のことの記憶を忘れてしまうものです。

人によっては、一過性で戻ることもありますが、持続するという方もおり、両方ありえます。

<解離性健忘での物忘れを考える時>

まず1つ目としては強いストレスの出来事があった後での物忘れというところ。

そして強いストレスと関連したことに特化して忘れるという場合。

あとは他の解離性障害の症状(離人感など)と合併する形での物忘れがあります。

④その他の原因

今話した以外にもさまざまな原因はあります。色々例はありますが、その中で例を3つぐらい見ていきます。

まずは「甲状腺の機能の異常」低下症・亢進症両方あります。甲状腺の不調からちょっと記憶力が落ちてしまうことがあります。

後は、軽度のてんかん、いわゆる強い発作までいかなくても、軽い意識もうろうの状態になったことで、記憶力が落ちてしまうということはあり得ると思います。

3つ目としては、体調不良であったり、内科疾患、特に意識の軽く混濁と言いますか。意識が少し乱れるようなものだと、こういう物忘れにつながりやすいところがあります。

こういった様々な可能性を踏まえ病歴や症状などを見るところが、若い方の「物忘れ」を見ていくスタートになってきます。

(4)まとめ

今回は、心療内科・精神科の症状「物忘れ(若年の方の物忘れ)」について見てきました。若年の方は、物忘れでは確かに「若年性アルツハイマー」は注意は必要ですが、特に45歳以下では頻度はかなり稀のため、まずは他の原因を考えていきます。

うつ病の症状の一つとして物忘れがあることが多いです。他の症状と連動して起こり、逆に治療によって徐々に改善します。

そのほか、生まれながらであればADHDの可能性、特定のストレスの後であれば「解離性健忘」の可能性などを考えていきます。ただ、原因はさまざまあるため、病歴などから総合的に鑑別をしていくことが大事です。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)